「強い農業づくりの支援」とは? スマート農機導入にも使える”総合支援交付金”活用例
農林水産省では「強い農業」の実現のため、農作物を生産する局面だけでなく、集出荷施設の整備など流通や販売まで見渡した、産地としての取り組みを支援しています。この記事ではそのための補助金である「強い農業づくり総合支援交付金」のあらましを紹介します。
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目次
令和5年度の「強い農業づくり総合支援交付金事業」パンフレットを見ると、産地としての収益力強化と持続的な発展、食品流通の合理化がポイントとして挙げられています。具体的に内容を見ていきましょう。
農林水産省が行う「強い農業づくりの支援」とは?
農林水産省が主導して推進している、強い農業づくりを支援するプロジェクトの内容について解説します。
農業のバリューチェインの川上から川下までを支援するプロジェクト
minorasu編集部作成
「強い農業づくりの支援」とは、日本の農業を成長産業と位置づけたうえで、農林水産省(国)が主導して、産地をまとまりとして生産・経営から流通・消費までの対策を総合的に整備していくプロジェクトです。
農業を、生産という観点だけで捉えず、集出荷、食品加工、流通・販売、消費まで「バリューチェイン」として捉え、産地を対象として支援するところが大きな特徴です。
中核事業は「強い農業づくり総合支援交付金」
「強い農業づくりの支援」の具体策が「強い農業づくり総合支援交付金」事業です。(令和3年度までは「強い農業・担い手づくり総合支援交付金」)
「強い農業づくり総合支援交付金」は、以下の4タイプに区分されています。農業法人や農家だけを対象とするのではなく、卸売市場や食品関連、流通関連、農業IT関連の企業が協働して経営を効率化し、農産物の付加価値を高める取り組みを支援していく内容になっています。
4つの支援タイプ | 事業内容 |
---|---|
産地基幹施設等支援タイプ | ・集出荷施設や加工貯蔵施設など、産地の基幹施設の整備・再編 ・みどり戦略や、スマート農業推進、戦略的な人材育成など重点政策に必要な施設の整備 |
卸売市場等支援タイプ | ・卸売市場の品質・衛生管理の強化 ・産地や消費地での共同配送のためのストックポイントなどの整備 |
生産事業モデル支援タイプ | ・農業法人、JA、食品加工や流通サービス企業など、地域の拠点事業者が連携して構築する安定的な生産・供給を実現する生産事業モデルを支援 |
農業支援サービス事業支援タイプ | ・ 産地ニーズに合わせた農業支援サービスを育成するために必要な農機導入を支援 |
出典:農林水産省「強い農業づくりの支援 2023年度 強い農業づくりの支援に係る関係通知について」所収「PR版(強い農業づくり総合支援交付金)」ほかパンフレット類よりminorasu編集部作成
強い農業づくり総合支援交付金| 産地基幹施設等支援タイプ
この章では、「産地基幹施設等支援タイプ」について紹介します。
強い農業づくり総合支援交付金(産地基幹施設等支援タイプ)は、都道府県が事業主体となり、秀品率の向上や、生産コストや労働時間の削減、契約取引や加工・業務用向け、海外向けの割合の増加といった、競争力の強化や合理化の促進に必要な施設の整備費用として活用できます。
令和5年度の重点施策として位置づけられている、スマート農業の導入やみどりの食料システム戦略・産地での戦略的な人材育成を推進するために必要な施設を整備する費用も支援対象です。
「成果目標」自体が要件となる交付金
この支援金は、対象となる施設や機械を決めてこれに補助金を交付するのではありません。「成果目標」に対してポイントが与えられ、そのポイントが高い順に交付される、いわば目標達成型の補助金です。
例えば、取り組み「産地競争⼒の強化及びスマート農業の推進」で「野菜類」の集出荷施設を導入する場合、以下の8つの目標から2つを選ぶことができ、その合計が審査対象のポイントとなります。
出典:農林水産省「強い農業づくりの支援 2023年度 強い農業づくりの支援に係る関係通知について」所収のパンフレット「強い農業づくり総合⽀援交付⾦ 産地基幹施設等⽀援タイプ」
成果目標ごとに、達成目標と今のレベルのそれぞれに、段階的なポイントが設定されており、その合計が獲得ポイントとなります。
出典:農林水産省「強い農業づくりの支援 2023年度 強い農業づくりの支援に係る関係通知について」所収のパンフレット「強い農業づくり総合⽀援交付⾦ 産地基幹施設等⽀援タイプ」
例えば、野菜類のメニューから、秀品率の向上を成果目標の1つとして選んだ場合、今の秀品率より10%プラスできれば、ポイントは6ポイント。さらに、今の販売価格がその地域の相場より18%高ければ、3ポイント。合計9ポイントと計算されます。
実際に対象となる取り組みは?
Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)・Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)・Ystudio / PIXTA(ピクスタ)・hamahiro / PIXTA(ピクスタ)
産地基幹施設等支援タイプの交付金を活用できる取り組み例を紹介します。
■産地の基幹施設の整備・再編
集出荷貯蔵施設や農産物の加工施設など、産地の生産者が共同利用する基幹施設の整備・再編に活用できます。施設の新設だけでなく、既存施設の改修・更新も補助金の交付対象です。
■スマート農業の推進
AI選果機や選別・パック詰めロボット、生育状態の遠隔監視装置といった、生産性の大幅な向上を実現するスマート農業設備が主な対象です。実証事業等で効果が検証されている技術が補助対象です。
■みどりの食料システム戦略の推進
生産・流通コストの低減や販路の新規開拓を実現するための、農産物処理加工施設・集出荷貯蔵施設や共同育苗施設などの整備に活用できます。温室効果ガス(GHG)の削減に寄与しながら、作物の品質・収量の拡大を目指すための取り組みも対象で、有機物処理・利用施設や耐候性ハウス、ヒートポンプなども補助対象です。
■産地における戦略的な人材育成の推進
農業の次世代の担い手には、「新しい栽培技術やスマート農業技術を存分に活かしてもらいたい」とどなたでも考えるのではないでしょうか。
この枠では、旧くなった施設を改修、または、撤去して、高度環境制御型のシステムを導入したり、低コスト耐候性ハウスを導入したりして、新規就農者を迎え入れることを支援しています。
※新規就農者数の増加につながる技術研修を実施した場合に産地基幹施設等支援タイプとは別枠で活用可能です。
要件は?
産地基幹施設等支援タイプは、総事業費が5,000万円以上の事業、かつ費用対効果分析による投資効率が1.0以上である事業が支援対象です。
実施主体は、地方自治体(都道府県・市町村)と農業者団体(農協、農地所有適格法人、農業者が組織する団体)となっていて、販売・加工等を含む農業に年間150日以上従事する人が5人以上いることが要件となっています。
出典 農林水産省「強い農業づくりの支援 2023年度 強い農業づくりの支援に係る関係通知について」所収のパンフレット「強い農業づくり総合⽀援交付⾦ 産地基幹施設等⽀援タイプ」主な採択要件
・受益農業従事者(農業の常時従事者(原則年間150日以上))が5名以上であること
・成果目標の基準を満たしていること
・面積要件等を満たしていること
・受益地の全て(受益地が広域に及ぶ場合は概ねとする)において、人・農地プランが策定されていること(産地食肉センター、食鳥処理施設、鶏卵処理施設及び家畜市場等は除く)
・目標年度までに受益者の一定割合が国際水準GAPの実施又はGAP取得チャレンジシステムの実施等に取り組むこと
・産地基幹施設を整備する場合にあっては、原則として、総事業費が5千万円以上であること
・費用対効果分析を実施していること
補助率は?
事業実施主体が受け取る交付額は、基本的に事業費の2分の1以内で、以下のような審査を経て交付されます。
- 事業を申請したい団体は、まず、成果目標を設定し「事業実施計画」を都道府県に提出します。
- 都道府県では、個々の事業の成果目標の妥当性を審査して、まとめます。これを「都道府県実施計画」として国へ提出します。
- 国は、各都道府県の成果目標の高さなどに基づいて、都道府県への交付額を決め、交付金を一括公布します。
- 交付された補助金は、都道府県の裁量によって、事業実施主体に割り振られます。(市町村を経由する場合もあります)
強い農業づくり総合支援交付金|生産事業モデル支援タイプ(国が直接支援)
強い農業づくり総合支援交付金のうち「生産事業モデル支援タイプ」は、農業バリューチェインの川上から川下まで、農業者だけでなく、農業関連のITサービスや食品加工、流通サービスなど企業もまきこんで、農業の生産事業モデルを創りだしていこうというもので、支援対象が幅広いのが特徴です。
農業用機械の導入や新しい栽培技術の導入・普及などに使える交付金
alps / PIXTA(ピクスタ)
生産事業モデル支援タイプの交付金を活用できる推進事業の例を紹介します。推進事業とは別に、農産物処理加工施設や集出荷貯蔵施設などの整備事業についても交付金を申請できます。
生産安定・効率化機能の具備・強化
生産・供給の安定化に効果的な生育予測システム・出荷予測システムの導入や農地・農作物に関するデータ分析等の取り組みに活用できます。農作業や農地・機械利用の効率化や担い手対策としての農業従事者に対する研修・指導、地域課題の解決に必要な費用も補助対象です。
供給調整機能の具備・強化
コールドチェーン構築に必要な予冷・貯蔵施設や、冷凍品・冷蔵品など保存性の高い形態に加工する施設の整備に活用できます。ストックポイントの活用や複数の産地と連携したリレー出荷といった広域流通体制の構築や、共同配送システムの実証実験に必要な費用も補助対象です。
実需者ニーズ対応機能の具備・強化
生産から流通までの信頼性を確保するためのGAP・トレーサビリティ手法の導入や、実需者・輸出先のニーズに合った新品種・新技術の導入に関連する実証実験の費用として活用できます。物流の効率化や品質管理に必要なシステム・資材の導入費用も補助対象です。
支援を受けられる対象
生産事業モデル支援タイプは、推進事業・整備事業ごとに定められた成果目標の基準を満たし、かつ費用対効果分析による投資効率が1.0以上の事業が支援対象です。自治体の指導・助言を受けて拠点事業者が作成した協働事業計画について地方農政局長の承認を受けた後、成果目標・事業内容を具体化した事業実施計画を国に提出します。さらに、事業内容・成果目標の妥当性について外部有識者の選定審査を経て補助金の交付申請を行います。
協働事業計画の主な承認基準は、以下のとおりです。
- 生産安定・効率化機能、供給調整機能や実需者ニーズ対応機能のすべてを満たし、かつ1つ以上の機能強化が見込まれる
- 生産活動の安定・効率化が図られている
- 関係する自治体と連携関係をもっている
- 事業によって得られる利益が一個人に帰属しない
補助率・補助額の上限
生産事業モデル支援タイプの補助率は、事業費の2分の1以内、補助額の国費上限額は推進事業の場合で1協働事業計画あたり5,000万円以内、整備事業の場合は20億円以内です。
推進事業では計画策定や効果検証に必要な費用の他、農業等機械等のレンタル・リース費用や技術立証用のほ場借り上げ費用が補助対象です。ただし、農業以外に転用可能な機械類の導入費用は補助対象外となるのでご注意ください。
参考にしたい! 強い農業づくりの支援をうまく活用した事例3選
強い農業づくり交付金を効果的に活用して、地域農業の活性化や競争力の強化につながった事例を紹介します。
耐候性ハウスや環境制御装置を整備!きゅうり産地の維持拡大を図った事例
しろまる / PIXTA(ピクスタ)
佐賀県みどり地区(嬉野市・鹿島市・港北町)の第八施設胡瓜部会では、低コスト耐候性ハウスや複合環境制御装置などを整備した結果、収量・販売額が約2割増加する成果が現れました。
2016年時点では多品目からの転換等できゅうり栽培を希望する農家が多い一方で、燃料費の高騰により作付面積は減少するという矛盾に直面し、きゅうりの生産の維持・拡大が課題でした。耐候性ハウスなどの整備に加え、地域独自の取り組みとして土壌分析・適正施肥の実践や栽培研修会の定期開催を重ねた結果、作付面積の増加につながりました。さらに作型の前倒し・分散化も可能となり、年間の収量も増加しています。
花き出荷施設拡大&低温貯蔵庫の整備!夏季の品質アップで競争力アップができた事例
奈良県平郡町など4団体で構成される奈良県農業協同組合花き集出荷場整備推進協議会では、花きの低温貯蔵庫や集出荷施設を整備した結果、秀品率が約16%向上しました。契約取引の割合も4年間で約2.5倍に拡大し、産地競争力の強化にも寄与しています。
平群町では夏秋期の関西市場における花き出荷量が全国一ですが、既存の集出荷施設の容量が生産量より少なく、収益が頭打ちになるのが経営上の課題でした。夏季の高温による品質低下も、減収の一因でした。集出荷場の容量拡大や需要のピークに向けた出荷体制の構築、コールドチェーン管理の一環として低温貯蔵庫の整備を進めた結果、秀品率が高まりました。小ギクの受け入れも可能になり、農家の高収益化にもつながっています。
需要が高まるカット野菜の加工施設を導入!経営安定化につながる事例
岡山県産野菜生産・利用拡大協議会では、倉敷青果荷受組合が主体となり農産物処理加工施設を新設した結果、野菜出荷量のほぼすべてが契約取引で占め、取引数量も増加しました。
カット野菜の需要拡大を受け、周年での安定供給体制とコールドチェーンを確立するために農産物処理加工施設を導入、施設内の冷蔵能力も高めて需給調整機能も強化しました。加工・業務用野菜の生産増加に関する説明会を実施するなど、生産者と実需家の連携のもとでサプライチェーンの構築にも取り組んだ結果、生産量が増加し農家の経営安定化にもつながりました。
強い農業づくり総合支援交付金は、地域の基幹設備の整備だけでなく農作物の安定的な生産・供給を実現する事業モデルの確立にも活用できます。事業者と産地が協働して農作物の付加価値の向上を目指せるのはもちろん、経営・流通の効率化を通じた農家の高収益化にも効果を発揮するのが特徴です。担い手対策や新しい品種・技術の開発にもつながります。
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舟根大
医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。