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「経営所得安定対策(ゲタ・ナラシ)」の概要と加入申請の方法を簡単に解説

「経営所得安定対策(ゲタ・ナラシ)」の概要と加入申請の方法を簡単に解説
出典 : artswai /PIXTA(ピクスタ)

「経営所得安定対策」で交付や支援を受けるには、対象者や対象農産物の基準を満たす必要があります。本記事では、対策ごとの概要や対象となる条件などについて解説します。特にゲタ対策では、2023年度から交付単価が2種類に分かれるので注意が必要です。

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農家は安全な食料を生産するという重要な役割を担っているにもかかわらず、その収入は天候や需給バランス、世界情勢などさまざまな要因によって安定しません。それを補い、安定的な農業経営に資するために、国はゲタ対策・ナラシ対策などを含む「経営所得安定対策」を実施しています。

経営所得安定対策とは? わかりやすく解説!

経営所得安定対策 ゲタ対策、ナラシ対策の概念図

出典:農林水産省「経営所得安定対策」所収「令和4年版経営所得安定対策等の概要」よりminorasu編集部作成

「経営所得安定対策」とは、農業における経営所得の安定性を確保することを目的に、農林水産省が実施するさまざまな対策です。

農業を取り巻く環境や需給バランスは目まぐるしく変わっているため、経営所得安定対策も状況に合わせて見直しが重ねられています。2022年12月現在、経営所得安定対策には以下の5つの対策があります。

(1)畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策)
(2)米・畑作物の収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)
(3)水田活用の直接支払交付金
(4)新市場開拓に向けた水田リノベーション事業
(5)麦・大豆収益性・生産性向上プロジェクト

出典:農林水産省「経営所得安定対策」所収「令和4(2022)年度 経営所得安定対策等の概要 ~農業者の皆様へ~」

これらの対策によって、日本の主食である米や、外国産との価格差により国産が不利となりやすい麦・大豆・てん菜などの戦略作物について、需要に応じた生産を促進します。

各対策の交付金や支援を受けるには、対象としての条件を満たし、交付申請書や営農計画書などを農政局に提出する必要があります。

経営所得安定対策の内容

水田活用 大豆 転作

yoshi /PIXTA(ピクスタ)

ここでは、先に挙げた5つの経営所得安定対策について、具体的な内容をご紹介します。また、2023年度から変更されるゲタ対策の交付単価の内容についても解説します。

※この章の出典は以下に基づいて記述しています。
農林水産省「経営所得安定対策」所収「令和4(2022)年度 経営所得安定対策等の概要 ~農業者の皆様へ~」
「畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策)」
「米・畑作物の収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策) 」

(1)畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策)

海外よりも生産条件が不利な畑作物は、外国産に押されて生産費割れをすることがあります。それを補うため、対象となる作物の生産・販売を行う農家に対して交付金を給付する制度が、「畑作物の直接支払交付金」です。

農作物の販売収入にゲタをはかせて生産費割れを防ぐという意味から、「ゲタ対策」と呼ばれています。

交付金は、その年の作付面積に応じて先払いされる「面積払」と、生産量と品質区分に応じて算出される「数量払」を合わせて給付されます。

面積払の単価は10a当たり20,000円(そばは13,000円)で、数量払の交付単価は品質区分によって変わり、3年ごとに見直されます。

畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策)の対象者

ゲタ対策の交付対象者は、「認定農業者」「認定新規就農者」「集落営農」とされており、いずれも規模による要件はありません。

認定農業者ではない農家がゲタ対策への加入を希望する場合は、翌年産に向けて「農業経営改善計画」を作成して国や市町村などの認定庁に申請し、認定農業者になる必要があります。

また、新規就農者の場合は、「青年等就農計画」を作成して市町村に申請し、認定新規就農者になってから加入申請をします。

集落営農として加入する場合は、「組織の規約を作成すること」「対象作物について共同販売経理を実施していること」という2つの要件を満たす必要があります。

組織の規約を作成するとともに、集落営農の口座を設けて対象の農作物を組織名義で出荷し、販売代金は共同販売として経理処理をする体制を整えておいてください。

畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策)の対象農産物

ゲタ対策の対象作物は、麦・大豆・てん菜・でん粉原料用ジャガイモ(馬鈴薯)・そば・なたねです。麦には小麦・二条大麦・六条大麦・はだか麦が含まれ、ビール用麦などは対象外です。また、黒大豆や種子用の作物も対象外です。

てん菜・でん粉原料用ジャガイモ(馬鈴薯)については、北海道産という要件があります。

(2)米・畑作物の収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)

米および畑作物を合わせた農業収入全体の減少による影響を緩和するための制度が、「米・畑作物の収入減少影響緩和交付金」です。農家の拠出を前提としたセーフティネットで、保険的な性質を持っています。

価格や収量が変動しやすく一定しない農業収入に対し、農家が積み立てた拠出金を備えておき、収入が大きく落ち込んだ場合に補てんすることで変動をならします。このため「ナラシ対策」と呼ばれます。

具体的なしくみは、対象農作物の「当年産収⼊額」が「標準的収⼊額」を下回った場合に、その差額の9割を補てんするというものです。補てんの財源は、農家の積立金と国が1:3の割合で担います。積立金の残額は翌年に繰り越されます。

補てん金は農業共済への加入を前提として減額調整されるため、ナラシ対策加入の際は農業共済にもセットで加入することが望まれます。

なお、経営所得安定対策のナラシ対策と類似の制度として、農業共済組合による「収入保険」の制度もあり、「ナラシ対策と農業共済」か「収入保険」のどちらか一方に加入できます。

▼「ナラシ対策と農業共済」と「収入保険」のどちらに加入すべきかについては、こちらの記事もご参考にしてください。

収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)の対象者

ナラシ対策の交付対象者は「認定農業者」「認定新規就農者」「集落営農」とされており、ゲタ対策の対象者と同様に規模要件はありません。また、各々の申請・加入についてもゲタ対策と同様です。

ただし、ナラシ対策では「その年の収入保険に加入していないこと」という条件が付されます。

収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)の対象農産物

ナラシ対策の対象農産物は、米・麦・大豆・てん菜・でん粉原料用ジャガイモ(馬鈴薯)など、ゲタ対策の交付対象数量となった作物です。

補てん対象となる米については、「農業者が事前に集出荷業者(JA等)と出荷契約を結んだもの等」とされているため、加入申請の際には「出荷・販売契約数量等報告書」の提出が必要です。

(3)水田活用の直接支払交付金

水田を活用し、食料自給率や自給力の向上が課題となっている麦や大豆、飼料用米、米粉用米などを転作作物として生産する農家を支援する制度が「水田活用の直接支払交付金」です。米余りを解消すると同時に、麦や大豆などの対象作物の自給率を上げることを目的としています。

この交付金には、以下の5つの支援が含まれます。

・戦略作物助成:水田を活用して対象作物を生産した農家に対し、作物ごとに設定された交付金を作付面積に応じて交付します。

・産地交付金:「水田収益力強化ビジョン」に基づいた、魅力的な産地づくりをめざす取り組みに対し、その地域を支援します。

なお、「水田収益力強化ビジョン」とは、高収益作物を導入することなどで収益力を強化したり、畑地化を含む水田の有効利用など、産地としての課題、対応などを明確にしたものです。

・水田農業高収益化推進助成:都道府県ごとの「水田農業高収益化推進計画」に基づいて、水田に高収益作物を導入し定着させる取り組みを支援する制度です。

・都道府県連携型助成:水田転換作物を生産する農家を都道府県が独自に支援する場合、国が追加的に支援します。

・水田リノベーション助成:新市場開拓用米などの低コスト生産に取り組む農家を、産地や実需者と連携して支援します。

水田活用の直接支払交付金の交付対象者は、販売を目的として、交付対象水田で対象作物を生産する販売農家や集落営農です。

▼水田活用の直接支払交付金については、こちらの記事もご参考にしてください。

(4)新市場開拓に向けた水田リノベーション事業

従来の水田農業から、海外への輸出や加工用作物など、新たな需要を開拓できる作物を生産する農業へとリノベーションする取り組みを支援するのが「新市場開拓に向けた水田リノベーション事業」です。

この事業には、「実需者ニーズに応えるための低コスト生産等の取組支援」と「需要の創出・拡大のための機械・施設の整備支援」の2つの支援があります。

実需者ニーズに応えるための低コスト生産等の取組支援では、新市場開拓米、麦、大豆など対象作物の生産に取り組むと助成が受けられます。

(5)麦・大豆収益性・生産性向上プロジェクト

「麦・大豆収益性・生産性向上プロジェクト」とは、団地化の推進や営農技術の導入、農業機械などの導入といった生産性を向上させる取り組みを支援する制度です。麦や大豆の産地が作成した「麦・大豆産地生産性向上計画」に基づいて行われます。

水田活用の直接支払交付金の交付対象水田で、小麦・大麦・はだか麦・大豆などを生産する農業者の組織する団体や、地域農業再生協議会などを対象に支援します。水田麦・大豆産地生産性向上事業として、営農技術などの導入ならびに機械・施設の導入の助成を行っています。

このほか、麦・大豆の保管施設整備事業、麦の供給を円滑にするための事業など、市場の需要に応える安定供給体制を整備します。

要注意! 令和5(2023)年度からのゲタ対策交付単価の変更点

ゲタ対策の交付金については、2023年産の畑作物から、交付単価が「免税事業者向け単価」と「課税事業者向け単価」の2種類に分かれるため要注意です。

免税事業者向け単価のほうが消費税負担分の金額が含まれる分だけ高額です。ただし、交付申請には2年前の確定申告書などを提出し、収入・売上が1,000万円以下であることを確認する必要があります。

確定申告をしていなかったり、2年前の確定申告書類を紛失していたりするなど、免税事業者向け単価の適用要件を満たしていることが確認できない場合は、課税事業者向け単価が適用されます。具体的な単価については、以下の出典を参照してください。

出典:農林水産省「経営所得安定対策」所収「令和5年産~7年産 畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策)の交付単価 」

経営所得安定対策の加入申請と交付までの流れ

小麦の新市場開拓 需要

yamoto kaoru / PIXTA(ピクスタ)

最後に、経営所得安定対策の交付手続きの流れを簡単に解説します。

まず、いずれの対策であっても、申請する年の6月30日までに「交付申請書」「営農計画書」を提出します。提出先は市町村、JAなど最寄りの地域農業再生協議会、または国の地方農政局や県域拠点などです。

交付申請書の作成に当たっては、重要事項を記載した「経営所得安定対策等交付金の交付申請に関する誓約事項」や「個人情報の取扱い」をよく確認してください。各対策の交付対象者であることを確認できる書類などの添付が必要になるため、事前に準備することが重要です。

申請が受理されれば、支援ごとに組まれたスケジュールに沿って、交付金が給付されます。交付を受けるためには、当年産の出荷・販売伝票の写しなど、対象作物ごとの出荷・販売状況がわかる書類と、農産物検査の結果がわかる書類が必要なので、それぞれ準備しておいてください。

経営所得安定対策は、農家の努力にかかわらず環境条件など外的要因により収入が安定しにくい農業経営を、安定的に継続させるために重要な制度です。収入を安定させるための交付金だけでなく、新たな作物や事業への取り組みを支援する制度もあります。

補助金を頼るのではなく、経営基盤をしっかりと固め、さらなる収益の向上をめざすための活用をぜひ考えてみてください。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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