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収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)とは? 収入保険との違いや試算例をわかりやすく解説!

収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)とは? 収入保険との違いや試算例をわかりやすく解説!
出典 : 川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)

収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)は、経営所得を安定させる対策の1つであり、収入が大きく減少した際に補填を受けられるものです。そこで本記事では、収入減少影響緩和交付金について、基本的な知識から試算例、収入保険との違いなどを詳しく紹介します。

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収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)は、米や麦、大豆などで収入が大きく減少した際に利用できる保険的制度であり、利用することで経営の安定化を図ることが可能です。まずは、「収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)」がどのようなものかを見ていきましょう。

米・畑作物の「収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)」とは?

ゲタ対策とナラシ対策

出典:農林水産省「経営所得安定対策」のページ所収のパンフレット「令和4年版経営所得安定対策等の概要」よりminorasu編集部作成

収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)とは、米と麦や大豆などの畑作物の販売収入が大きく減少した際に利用できる保険的制度です。

当年産の販売における収入額の合計が、標準的な収入額を下回った場合に、差額の9割を補填してもらえます。これによって、米の供給過剰による価格下落などのリスクに備えることができます。

補填の財源は、農家(積み立てたもの)と国(国費を財源とする交付金)が1対3の割合で負担し、残額は翌年度に繰り越されるため、掛け捨てとならない点がポイントです。ただし、収入保険との重複加入ができないことには注意しましょう。

収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)の対象者と対象農産物

※この項で説明している、収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)の対象者と対象農産物については、農林水産省「経営所得安定対策」のページに掲載されている資料に基づいています。年度によって変更されることがあるので、申請する際は必ず、農林水産省や地方自治体の最新情報を確認してください。

ナラシ対策の対象者

収入減少影響緩和交付金の対象となるのは、認定農業者、認定新規就農、市町村の判断を受けた集落営農の組織のいずれかに該当し、かつ、その年の収入保険に加入していない方です。規模による要件などはありません。

近年の米の価格下落などの影響を考えると、米農家としてはぜひ加入しておきたい制度といえるでしょう。

▼対象者の要件については、農林水産省「経営所得安定対策」のページ所収のパンフレット「令和4年版経営所得安定対策等の概要」6ページ・7ページをご確認ください。

▼認定新規就農者や集落営農についてはこちらの記事もご覧ください。

ナラシ対策の対象農産物

対象となる作物には、前述した米や麦、大豆のほか、てん菜やでん粉原料用のジャガイモ(馬鈴薯)、そばやなたねも含まれます。

ただし、麦芽の原料として使用される麦や黒大豆、種子用として栽培されるものは対象になりません。てん菜やでん粉原料用のジャガイモ(馬鈴薯)については、北海道で栽培され、交付の要件を満たすものが対象となります。

米の収穫・出荷

川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)

主食用の米については、令和3年度までは「翌年の3月31日までに出荷または販売したもの」が対象でしたが、令和4年度から、麦・大豆と同様に計画的に生産されたものが対象になります。

具体的には、農産物の検査において3等以上のもの、もしくは種子を除いて当該等級に相当するもので、かつ、以下のいずれかの要件を満たすものが対象になります。

JAなどの集出荷業者向けの場合は、6月末までに出荷契約または販売契約を結び、翌年の3月31日までに出荷・販売することとしたもの
実需者に直接販売する場合は、6月末までに前年の実績などをもとに販売計画を作成し、翌年の3月31日までに販売計画を結んで販売することとしたもの

▼ナラシ対策の対象となる米の要件については、農林水産省「経営所得安定対策」のページ所収のパンフレット「令和4年版経営所得安定対策等の概要」14ページ をご確認ください。

ナラシ対策の対象となる畑作物 麦・大豆・ジャガイモ(馬鈴薯)・てん菜(ビート)・そば・なたね

川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)

麦や大豆など、ナラシ対策の対象となる畑作物は、畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策)の数量払いの交付対象数量を満たしたものが対象となります。

▼ゲタ対策の数量払いについては、農林水産省「経営所得安定対策」のページ所収のパンフレット「令和4年版経営所得安定対策等の概要」8ページ・9ページをご確認ください。

収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)のしくみと計算方法

ここまでで大まかな内容について紹介しましたが、加入を検討している農家にとって重要なのは、実際にどの程度の積み立てが必要であり、どの程度の補填を受けられるのかということです。そこで次に、収入減少影響緩和交付金のしくみと計算方法、それをもとに試算例について詳しく紹介します。

基準となるのは、地域ごとに過去の実績から算定される標準的な単収

収入減少影響緩和交付金のしくみは、前述したように米や麦、大豆などの当年産における販売収入の合計(当年産収入額)が、地域ごとに過去の実績から算定された平均収入(標準的な収入額)を下回った場合に、差額の9割を補填するというものです。そのため、計算式としては以下のとおりになります。

補填額 =(標準的収入額-当年産収入額)×0.9

「収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)」のしくみ

出典:農林水産省「経営所得安定対策」のページ所収のパンフレット「令和4年版経営所得安定対策等の概要」よりminorasu編集部作成

標準的な収入額と当年産の収入額を求める計算式については、次に挙げる実際の試算例で紹介します。

収入減少影響緩和交付金は、農業共済への加入を前提に減額調整される場合がある(注)ため、農業共済とセットで加入するのが望ましいでしょう。

(注)地域の当年産の単収が平年の単収の9割を下回った場合は、農業共済制度が発動したとみなされ、ナラシ対策の補填額から農業共済制度の共済金相当額が控除されます。

収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)の積立額と補填額の試算例

収入減少影響緩和交付金には、10%の収入減少に対応するコースと、20%の収入減少に対応するコースが存在します。そこで一例として、米のみを栽培する農家Aさんが20%コースを選び、農業共済との相殺がなかった場合を挙げます。

加入時の積立金

加入時の積立金は以下の計算式で求められます。

積立額=積立基準収入額×4.5%
積立基準収入額=生産予定面積(ha)×地域における10a当たりの標準的収入額

「収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)」の加入時積立額の算定

出典:農林水産省「経営所得安定対策」のページ所収のパンフレット「令和4年版経営所得安定対策等の概要」よりminorasu編集部作成

Aさんの生産予定面積を6ha、地域における10a当たりの標準的収入額を12万5,000円とした場合、積立額は以下のように計算できます。

積立基準収入額
=6ha×10a当たり12万5,000円
=750万円

積立額
=750万円×4.5%
=33万7,500円

積立金の確定

加入時の積立額は予測に基づいて計算されるため、出荷が終わって生産実績の数量とその地域の単収が確定したあとに、当該農家の積立額を確定させ、加入時の積立額との差額が返納されます。

加入時の積立額は予測に基づいて計算されるため、出荷が終わって生産実績の数量とその地域の単収が確定したあとに、当該農家の積立額を確定させ、加入時の積立額との差額が返納されます。

積立金の確定額は、以下のように求められます。

積立額=標準的収入額×4.5%
標準的収入額=面積換算値(生産実績数量÷地域の当年産の単収)×地域における10a当たりの標準的収入額

「収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)」の積立額の確定と返納

出典:農林水産省「経営所得安定対策」のページ所収のパンフレット「令和4年版経営所得安定対策等の概要」よりminorasu編集部作成

Aさんの生産実績数量を2万5,000kg、地域の当該年産の単収を10a当たり500kgとすると、積立額と差額は以下のように確定できます。

標準的収入額
=面積換算値(2万5,000kg÷10a当たり500kg)×10a当たり12万5,000円
=5ha(500a)×10a当たり12.5万円
=625万円


積立額
=625万円×4.5%
=28万1,250円

加入時の積立額との差額
=33万7,500円-28万1,250円
=5万6,250円

従って、積立額の確定時には5万6,250円がAさんに返納されることとなります。

補填額の算定

補填額を算定するのに必要な当年産の収入額については、以下の計算式で求められます。

当年産収入額=面積換算値×当該農家の10a当たり当年産収入額

「収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)」の補填額の算定

出典:農林水産省「経営所得安定対策」のページ所収のパンフレット「令和4年版経営所得安定対策等の概要」よりminorasu編集部作成

Aさんの実際の10a当たり収入額を10万5,000円とすると、当年産の収入額と補填額は次のように計算できます。

当年産収入額
=面積換算値の5ha×10a当たり10万5,000円=525万円

補填額
=(標準的収入額-当年産収入額)×0.9
=(625万円-525万円)×0.9
=90万円

補填金としてAさんに支払われるのは90万円であり、そのうちAさんの積立金からの補填額は4分の1である22万5,000円となります。補填に充てられなかった積立金の残り56,250円は翌年産の積立金の一部に充当されます。

どちらに加入すべき? ナラシ対策と収入保険の違い

収入保険とナラシ対策の比較検討

ペロリ / PIXTA(ピクスタ)

収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)と類似するものとして収入保険があり、こちらも農家の収入減リスクに備えるものとして活用されています。そこで最後に、収入保険と収入減少影響緩和交付金とではどのように違うのか、またどちらに加入すべきなのかについて解説します。

収入保険とは?

収入保険は、農家ごとに設定されている標準収入の9割を実際の収入が下回った場合に、下回った額の9割を上限に補填する保険です。保険料の掛け金率は1%程度であり、農家ごとの平均収入に対して8割以上の収入が確保できます。

補填の方式としては、掛け捨ての保険方式(最大8割補償)と掛け捨てにならない積み立て方式(最大1割補償)とを組み合わせており、農家は保険料の負担などを考慮した上で、補償の限度額や支払い率を選択して加入できます。

収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)と収入保険の違い

収入減少影響緩和交付金収入保険
対象者認定農業者
認定新規就農者
認定をうけた集落営農
青色申告を行っている農業者(個人・法人)
対象農産物米と畑作物に限定(米・麦・でんぷん原料用馬鈴薯・てん菜・そば・なたね)

ただし、セットで加入する農業共済は加入する共済で対象が異なる(農作物=米と麦・畑作物・果樹・施設園芸・畜産)
すべての農産物
(肉用牛や鶏卵など畜産物以外)
収入減少の要因自然災害や価格低下による収入減少自然災害や価格低下のほか、経営努力によって避けられない事象による収入減少(けがや病気・取引先の倒産・盗難・為替変動など)
補填の範囲最大2割までの収入減少

ただし、セットで加入する農業共済は、10割の収量減少までが補塡の対象
10割までの収入減少
補填額の計算方法地域の統計データをもとに計算対象となる農家個々の収入データをもとに計算

出典:農林水産省「収入保険制度と既存の類似制度との比較のポイント」

対象者

対象者は、収入減少影響緩和交付金では認定農業者などですが、収入保険は青色申告を行っている農家(法人も含む)のみが対象となります。

対象農産物

対象となる農産物は、収入減少影響緩和交付金では米や麦、大豆などに限定されていますが、収入保険は肉用牛や鶏卵など畜産物以外の全品目が対象となります。

収入減少の要因

収入減少影響緩和交付金では自然災害による収量減少や価格低下による地域全体の収入減少が対象です。収入保険では自然災害や価格低下のほか、経営努力によって避けられない事象による収入減少も対象になります。

具体的には、けがや病気によって出荷できなかった、取引先が倒産した、運搬中に盗難や事故にあった、輸出している場合に為替変動で大きな損失がでた、などの場合も含まれます。

補填の範囲

補填の範囲に関しては、収入減少影響緩和交付金では、最大2割までの収入減少が対象となります。ただし、農業共済とセットでの加入が前提で、農業共済では10割の収量減少までが補塡の範囲です。

収入保険では、10割の収入減少までが補填の範囲であり、収入がゼロになったとしても81%まで回復させることが可能です。

補填額の計算方法

補填額の計算方法については、前述したように収入減少影響緩和交付金が、地域の統計データをもとに計算されるのに対し、収入保険制度では対象となる農家個々の収入データをもとに計算されるという違いがあります。

出典:農林水産省「収入保険制度と既存の類似制度との比較のポイント」

どちらに加入すべきかは、具体的なシミュレーションのうえ決めるのがおすすめ

もしも対象作物や対象者の項目でどちらも加入資格を満たしているのであれば、自身の作付面積や収入額などを考慮し、具体的なシミュレーションを実施するのがおすすめです。それぞれどの程度のメリットがあるのかを知った上で加入制度を検討するとよいでしょう。

全国農業共済組合連合会の公式サイトでは、収入減少影響緩和交付金と収入保険の比較ができるシミュレーションファイル(Excel)をダウンロードすることが可能です。どちらに加入すべきか迷っている方や、積立額や補填額の具体的な数値が知りたい人はぜひご活用ください。

▼ダウンロードページ
全国農業共済組合連合会設立準備委員会「収入保険と類似制度の比較シミュレーションの提供について」

▼収入保険制度についてはこちらの記事もご覧ください。

本記事では収入減少影響緩和交付金がどのような制度か、また実際に加入した場合にどの程度の積立金が必要となり、どの程度の補填を受けられるのか、試算例などをもとに詳しく紹介しました。

農業は自然を相手にした商売であり、天候によって収入が大きく減少することも少なくありません。そのため、積極的に制度を利用して、経営の安定化を図ることが大切です。また類似の制度もあるため、どちらの方がメリットが大きいのかをよく考えた上で加入しましょう。

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百田胡桃

百田胡桃

県立農業高校を卒業し、国立大学農学部で畜産系の学科に進学。研究していた内容は食品加工だが、在学中に農業全般に関する知識を学び、実際に作物を育て収穫した経験もある。その後食品系の会社に就職したが夫の転勤に伴いライターに転身。現在は農業に限らず、幅広いジャンルで執筆活動を行っている。

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