集落営農とは? 農業経営や地域の課題を解決する「組織化」のメリット
農業の一部あるいは全部を集落単位で実施する「集落営農」。この記事では、集落営農のメリットや注意すべきポイント、集落営農を始める方法や利用できる制度について解説します。また、集落営農型の法人化の成功事例も紹介します。
- 公開日:
- 更新日:
記事をお気に入り登録する
集落営農とは?
めいおじさん / PIXTA(ピクスタ)
集落営農とは、農業生産の一部あるいは全部を集落単位で実施する組織のことです。農業経営を組織化することで効率化を図り、後継者問題の解決をめざすことができます。
2023年(令和5年)2月1日時点で集落営農の数は1万4,204あり、2022年と比べると1.1%減少しています。
2023年2月1日現在の集落営農数
法人 | 非法人 | 合計 | 法人比率 | |
---|---|---|---|---|
全国 | 5,748 | 8,456 | 14,204 | 40% |
東北 | 1,101 | 2,119 | 3,220 | 34% |
北陸 | 1,302 | 980 | 2,282 | 57% |
九州 | 820 | 1,385 | 2,205 | 37% |
中国 | 932 | 1,114 | 2,046 | 46% |
近畿 | 650 | 1,268 | 1,918 | 34% |
関東・東山 | 380 | 640 | 1,020 | 37% |
東海 | 309 | 425 | 734 | 42% |
四国 | 219 | 358 | 577 | 38% |
北海道 | 35 | 160 | 195 | 18% |
沖縄 | - | 7 | 7 | 0% |
出典:農林水産省「集落営農実態調査」よりminorasu編集部作成
地域別に見ると東北が最も多く、3,220です。以下北陸、九州、中国、近畿と続きます。
集落営農は合理的に農作業や農業経営を進めていくための方法です。共同利用型と作業受託型、協業経営型の3つがあり、それぞれ機械や施設を利用するしくみ、作業を共同で行うスタイルなどが異なります。
共同利用型は、参加する農家で機械や施設を共有するスタイルです。それぞれの農家がスケジュールを合わせ、利用するタイミングが重ならないようにします。
作業受託型は、中核となる農家や構成員でもある管理者が機械や施設を使った作業を受託するスタイルです。基幹となる作業は中核となる農家や管理者に任せ、それ以外の作業についてはほかの農家が補完的に行います。
協業経営型は、それぞれの農家がスキルに応じた作業を行うスタイルです。例えば力を必要とする作業は若い構成員の担当、経験を必要とする作業は高齢の構成員の担当というように割り振ります。
どのスタイルが合うかは、集落営農に属する農家の構成員やそれぞれの農家の希望、農作物の種類などによっても異なるでしょう。組織を構成する前に各構成員が率直に話し合い、最も適したスタイルを選ぶ必要があります。
集落営農で農業経営を組織化するメリット
IYO / PIXTA(ピクスタ)
高齢化や後継者不足、農業機械が高額であることなど、日本の農業はさまざまな問題を抱えています。それらの問題が集落営農によって解決できるかもしれません。集落営農の実施によって得られる主なメリットを紹介します。
作業の役割分担や農機の共同利用により、経営を効率化できる
農家単位で各作業を行うよりも、作業ごとに担当者を決めることで効率的に農業を進めていけることがあります。
集落営農を実施することで、構成員の能力や体力に応じて適切に役割を分担することができ、高齢で力仕事が難しい農家を若者がサポートしたり、経験の浅い農家の剪定や選別作業を経験豊富な農家が担当したりすることができるでしょう。
また、生産設備や農業機械を共同利用できることも集落営農のメリットです。導入や整備にかかるコストの低減によってより効率的な農業経営が実現し、所得の向上を図ることができるでしょう。
さらに集落営農を組織化することで、品目の横断的な経営安定対策の対象となります。小規模農家でも集落営農に参加すれば支援を受けることができ、より経営の安定化と効率化を実現できるでしょう。
担い手を確保し、地域農業の維持・発展につながる
高齢化によって経営規模を縮小している農家も少なくありません。
しかし集落営農を実現すれば、後継者が見つからず「耕作放棄地」になってしまった農地も耕作地に変えることができるでしょう。
また、耕作放棄地が減ることで地域の農業が発展し、集落機能の維持や向上につなげることもできます。
▼以下の記事では、スマート農業の導入により集落営農の効率化に成功した取り組みを紹介しています
農家が集落営農を始める方法と、活用できる支援制度
mits / PIXTA(ピクスタ)
2軒以上の農家が集まれば、集落営農を始めることができます。具体的な手順は以下のとおりです。
- 複数の農家が集まり、集落営農の立ち上げについて話し合う
- 市町村の役場や地域農業再生協議会に相談する
- 集落で集落営農の必要性について話し合う
- 代表者や規約を決める
- 組織あるいは代表者名義の口座を開設する
- 共同販売経理を実施する
組織化にあたっては国の「集落営農活性化プロジェクト促進事業」や「強い農業づくり総合支援交付金」「経営所得安定対策」などの支援措置を受けることができるため、使える制度を農林水産省のサイトで調べてみましょう。
また、法人化することで「農業者戸別所得補償制度」や「規模拡大加算交付金」なども適用されます。交付金の獲得や税制上の優遇措置の適用をめざすのであれば、法人化も検討してみましょう。
集落営農は法人化すべき? 利点と注意点を考える
KY / PIXTA(ピクスタ)
集落営農の数は1万4,204ですが、そのうち法人化している組織は5,748で全体の約40%です。
集落営農の数は減少傾向にありますが、法人化している組織の数は年々増加しており、全体に占める割合も増加しています。メリットと注意点から、集落営農を法人化すべきかどうかを見ていきましょう。
出典:農林水産省「集落営農実態調査」よりminorasu編集部作成
組織は農事組合法人、もしくは株式会社として法人化できる
集落営農は農事組合法人、もしくは株式会社として法人化することができます。農事組合法人とは農業経営に特化した法人で、農業に関して共同利用する施設を設置します。
留意すべき点としては、農家や集落営農に関係する法人以外は構成員になることができないことです。そのほかにも、株式会社と比べて以下のような違いがあります。
農事組合法人 | 株式会社 | |
---|---|---|
事業内容 | 農業経営、農業に関して共同利用する施設の設置 | 特に問われない |
構成員の資格 | 農家や集落営農に関する法人 | 特に問われない |
構成員の数 | 3人以上 | 1人以上 |
資本金 | 構成員1人1口以上 | 1円以上 |
役員の配置基準 | 理事1人以上 | 取締役1人以上 |
役員の任期 | 定款で3年以内に定める | 2年。ただし定款で10年以内に定めることもできる |
議決権 | 1人1議決権 | 出資額に応じて議決権を保有する。ただし株主総会によって1人1議決権に定めることもできる |
労賃の設定方法 | 確定給与、あるいは法人余剰金を従事した仕事量によって配分する従事分量配当 | 確定給与 |
決算公告義務 | なし | あり |
出典:農林水産省「農業法人について」所収「農業経営の法人化のすすめ【集落営農版】」
「集落営農の経営発展に向けて」よりminorasu編集部作成
経営上メリットの多い、集落営農の法人化
集落営農を法人化することで、経営上のさまざまなメリットを得られます。例えば、集落営農で保有する資産は法人のものとして独立するため、経営体としてのさらなる安定が図れるでしょう。
法人化すると、農業経営基盤強化準備金制度やそのほかの制度資金など、利用できる制度が多くなります。また、農業生産法人となる要件を満たせば農用地の権利主体になれ、「取引の信用力が向上して融資を受けやすくなる」「取引先が増える」などのメリットを得ることも可能です。
デメリットは? 集落営農を法人化する際の注意点
集落営農の法人化を考えるにあたっては、以下の点に留意しましょう。
- 法人を設立する際に費用がかかる
- 赤字でも地方税の均等割負担が発生する
- 消費税の課税事業者になる可能性がある
なお、地方税の均等割は出資金の額などによって決まるため、利益が発生していないときでも納付しなくてはなりません。必要なコストを上回るメリットが享受できると見込まれる場合に法人化をめざすようにしましょう。
▼法人化のメリット・デメリットについては以下の記事でも紹介しています
経営改善! 参考になる集落営農の取り組み事例
Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)
実際に集落営農に取り組んだことで経営改善を実現したケースも少なくありません。岐阜県大野町と岡山県真庭市の事例から、どのように経営改善を実現したのかを見ていきましょう。
集落内の農作業を集約!大型機械の導入により作業効率を向上させた事例
岐阜県大野町にある36戸の組合員数からなる「川合農事組合法人」は、74.4haの耕地を運営するため2006年に法人化した集落営農組織です。
高齢化や兼業化によって停滞した農業を活性化させることを目的として、従来の麦作付組合をベースに近隣の農家も参加して法人化しました。
集落営農を実施したあとは、集落内の麦と水稲の特定農作業を完全に受託し、生産から販売までのワンストップ化を実現しています。収穫した米はJAや組合員、米問屋に卸し、安定的な収入につなげています。農薬や化学肥料を極力使わない栽培体系を組み、安心・安全というブランディングも図っています。
受託面積の増加に応じて大型機械を導入していき、作業効率の向上と労働時間の削減によるコスト低減も実現しています。
集落営農で、作業の省力化と地域の農地維持を実現している事例
岡山県真庭市にある63戸の組合員数からなる「農事組合法人やこうげ」は、それまで大豆生産を行う任意の組織として活動していましたが、2007年に法人化した集落営農組織です。
水稲1.6ha、大豆5.7ha、WCS用稲1.1haの自社耕地の営農と、ほかの農家の耕起や田植え、防除、収穫などの作業を受託して収益化しています。
いくつかの部門に分かれて運営していることも、農事組合法人やこうげの特徴です。例えば水田部門では、地主が管理業務を行い、農事組合法人やこうげは作業の受託のみを行うスタイルをとっています。
地域の農地維持を目的とする部門では、高齢化によって継続できなくなった農地の利用権を取得し、自社運営の耕地増大も実現してきました。
また、農業の担い手を育てる活動を推進している点も特徴です。例えばトラクターの運転資格を取得するための講習会の開催や、省力化をめざした技術導入などに積極的に取り組んでいます。
huyusoubi / PIXTA(ピクスタ)
集落営農により、日本の農業が直面している高齢化や担い手不足、休耕地の増大などの問題を解決することが可能です。
また、法人として組織することで各交付金制度などが適用されたり、安定した収入を得やすくなったりといったメリットも期待できます。ぜひ地域で集落営農、また法人としての集落営農について話し合ってみましょう。
記事をお気に入り登録する
minorasuをご覧いただきありがとうございます。
簡単なアンケートにご協力ください。(全1問)
あなたの農業に対しての関わり方を教えてください。
ご回答ありがとうございました。
お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。
林泉
医学部修士、看護学博士。医療や看護、介護を広く研究・執筆している。医療領域とは切っても切れないお金の問題に関心を持ち、ファイナンシャルプランナー2級とAFPを取得。