農事組合法人とは? 農業法人との違いやメリット、設立方法をやさしく解説
農事組合法人とは何かを解説し、混同されがちな農業法人や株式会社との違いについてもします。農事組合法人は比較的法人化しやすい一方、事業としてできることに制限があります。それぞれの特性・設立要件・運営方法、メリット・デメリットを知ることが、適した法人形態選びに役立ちます。
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農事組合法人とは?
農業経営の法人化を検討する目的は、集落営農の効率化や6次産業化への取り組みのためなどさまざまで、目的によって適する法人形態は異なります。この記事では農事組合法人について、特徴や向いている営農形態、法人化のメリット・デメリット、設立方法などを具体的に解説します。
「農業法人」の種類のひとつ
農業を営む法人を総称して「農業法人」と呼びます。農業法人の組織形態は、「会社法人」と「農事組合法人」に大別されます。農事組合法人は、農業協同組合法によって定められた法人形態です。
出典:農林水産省「農業者のみなさまへ 農業経営の法人化のすすめ」パンフレットよりminorasu編集部作成
農事組合法人の構成員は原則として農家に限られ、社員ではなく「組合員」と呼ばれます。「(株)」などの漢字による法人名称の略記はなく、「(ノウ)」や「(ノウ」と略記します。
農事組合法人は、農業生産において協同して作業することで、組合員共同の利益増進を目的としており、農協のような協同組合に近い特徴を持っています。農業法人の中でも農業経営に特化した法人形態なので、農事組合法人の事業内容は、農業に関連する事業に限定されています。
農事組合法人の具体的な事業内容は、農業にかかる共同利用施設の設置や農作業の共同化、農業経営と農畜産物の貯蔵・運搬・販売、自分たちで生産した農畜産物を用いた製造・加工業、農作業の受託などとなっています。
1号法人と2号法人がある
農事組合法人には1号法人と2号法人があり、行う事業が明確に分けられています。
農事組合法人の1号法人は、農業経営に必要な共同利用施設の設置・大型農機の導入・農作業の協業化などを行う場合に設立する法人です。農業経営を行わないので、農地法による農地所有適格法人にはなれず、農地を取得できません。
一方、2号法人は、農業経営と農畜産物の貯蔵・運搬・販売、自分たちで生産した農畜産物を用いた製造・加工業、農作業の受託などを行う法人で、法人として農地取得が可能です。
株式会社と何が違う?農業法人の種類と相違点
前述の通り、農業法人は大きく「農事組合法人」と「会社法人」の2種類に分かれます。さらに会社法人は、株式会社と持分会社(合同会社・合名会社・合資会社)の4つに分類されます。それぞれの法人形態を比較すると、組織の目的・設立要件・運営方法などに違いが見られます。
最大の違いは「根拠法と運営目的」
農事組合法人と会社法人では、根拠法が異なります。農事組合法人の根拠法が「農業協同組合法」であるのに対して、会社法人(株式会社・持ち分会社)の根拠法は「会社法」になります。
また、農事組合法人と会社法人では組織としての目的も異なります。農事組合法人が「農業生産の協業化」を目的としているのに対して、会社法人の目的は「利益の極大化」です。
ただし、農事組合法人の2号法人は、農業を通じた経済活動を行うので、実質的には営利追及団体の性格を持ちます。
さらに、法人設立時の登録免許税の金額も異なります。農事組合法人が「非課税」であるのに対して、会社法人では株式会社が「資本金の額の7/1000(15万円に満たない場合は15万円)、合同会社が「資本金の額の7/1000(6万円に満たない場合は6万円)」となります。
設立要件や運営方法も異なる
Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)
農事組合法人の設立時に必要となる構成員(=組合員)は、3名以上の農民でなければなりません。それに対して、株式会社と合同会社の構成員は、それぞれ株主と社員のことを指し、農民などに限定されず、1名以上いれば条件を満たすことが可能です。
法人運営における会社の基本方針の決定は、農事組合法人では、「1人1票制」による総会の議決によって決まります。一方、株式会社では「1株1議決権」による株主総会の議決によって、合同会社では「1人1議決権」による全員一致によって基本方針が決まります。
農地所有適格法人(農業生産法人)になれる点はどちらも同じ
農業法人の中でも、農地法第2条第3項の要件を満たし、農業経営のための農地を所有できる法人を「農地所有適格法人(農業生産法人)」といいます。
農地所有適格法人に必要な要件は、「法人形態要件」「事業要件」「構成員要件」「業務執行役員要件」の4種類があります。
農事組合法人(2号法人)と会社法人(株式会社・合同会社)はいずれも農地所有適格法人になれる法人形態要件を満たしているため、農地の取得・所有という点においての差異はありません。
なお、農業法人は借りた農地で農業を営むことも可能なので、必ずしも農地所有適格法人である必要はありません。
▼「農業法人」については、以下の記事も参考にしてください
どれを選ぶべき? 法人形態ごとのメリット・デメリット
出典:農林水産省「2020年農林業センサス|確報|第3巻 農林業経営体調査報告書―農林業経営体分類編-|組織形態別経営体数」よりminorasu編集部作成
農林水産省が2020年の農林業センサスを組み替えて集計しているデータによると、農業経営体数107万5,705経営体のうち、法人化している経営体は27,306経営体、そのうち農事組合法人は7,329経営体にとどまり、19,977経営体が会社法人です。
さらに、会社法人の内訳は、株式会社が18,942経営体と群を抜いて多く、合名会社が867経営体、合同・合資会社が168経営体となっています。
出典:以下資料よりminorasu編集部作成
農林水産省「担い手育成|農業法人について」所収「「農業経営の法人化のすすめ(個人版)」)、「農業経営法人化ガイドブックー「全体版」
国税庁「タックスアンサー(よくある税の質問) No.5759 法人税の税率」
法人として農業を営む際には、目的や事業計画に合わせてどの法人形態を採用するかを決めなければなりません。農事組合法人、株式会社、合同会社、それぞれの法人形態のメリット・デメリットを比較して、どの形態での法人化が適しているかを検討しましょう。
農事組合法人
メリット:税などコスト面の負担を軽減できる
農事組合法人は、会社法人に比べて税金面での大きなメリットがあります。まず、法人設立時の「登録免許税」では、株式会社や合同会社が資本金に応じた課税がかかること対して、農事組合法人は非課税です。
また、「事業税」についても株式会社・合同会社は所得に応じて所定の税率が課されるのに対して、農事組合法人は一部の業務を除き農地所有適格法人が行う農業は非課税です。
さらに、「法人課税」についても、一定の条件では農事組合法人の方が株式会社・合同会社よりも、税率が低くなっています。
コスト面以外のメリットを見ていくと、農事組合法人は設立後の状況に合わせて、株式会社または一般社団法人に変更することが可能です。なお、合同会社への直接変更は不可ですが、一度株式会社に変更した後に合同会社に変更することは可能です。
デメリット:農業以外の事業は行えない
農事組合法人の事業は「1.農業に係る共同利用施設の設置」「2.農業の経営」「3.1及び2に附帯する事業」に限られ、農業以外の事業は行えない点がデメリットです。
他産業も交えて事業展開したり、農業以外にも範囲を広げたりする計画がある場合は、その事業を別の法人格で行うなどの対応が必要になるかもしれません。
また、「1人1票制による総会の議決」によって、法人の意思決定がなされるので、意見が食い違った場合に物事の決定に時間を要したり、運営が滞ったりする可能性はあります。
さらに、決算公告義務がないため、法人の財政状況を第3者が確認できないなどの理由により、株式会社に比べると社会的信用度が劣る点も注意が必要です。
株式会社
メリット:実施できる事業に制限がない
株式会社の大きなメリットは、実施できる事業に制限がない点です。農業関係者以外も経営に参加できるので、幅広い人材を集めて事業展開できる可能性があります。
また、出資者と経営者は分離され、権限を持つ者が限られるため、機動性が高く農業以外の領域も含めて事業をスムーズに進めやすいといえます。
さらに、農事組合法人や合同会社と比べると、財政状況を公表していることなどから、農業法人の中で最も社会的信用度が高いという利点があります。
デメリット:設立費用が高く、準備は煩雑
法人設立時に必要な「登録免許税」だけを比較しても、株式会社は「資本金の額の7/1000(15万円に満たない場合は15万円)」の課税があり、ほかの法人形態より負担が大きいことが特徴です。
「事業税」「法人税」についても、ほかの法人形態の中で最も高くなる可能性があります。
また、設立時には定款の認証も必要で、3万~5万円程度の認証手数料がかかります。そのための準備が煩雑といったデメリットもあります。
さらに、株式会社の場合、設立後に合同会社に変更することは可能ですが、農事組合法人への変更は不可となります。法人設立時および設立後に法人形態の変更を検討する際には、この点にも注意しましょう。
合同会社
メリット:設立や運営にかかる費用が安い
合同会社の法人設立時に必要な「登録免許税」は「資本金の額の7/1000(6万円に満たない場合は6万円)」であり、資本金が少ない場合は株式会社よりも負担が小さくなります。
また、合同会社・株式会社のいずれも定款の作成は必要ですが、株式会社で必要な定款の認証が合同会社では不要なため、認証手続きに必要な手間と3万~5万円程度の認証手数料がかからない点もメリットです。
デメリット:社会的信用度は若干劣る
合同会社は農事組合法人と同様に、決算公告義務がないので法人の財政状況を第3者が確認することは難しく、株式会社に比べると社会的信用度が劣ります。
また、合同会社の場合、設立後に株式会社に変更することは可能ですが、農事組合法人への変更は不可となります。
▼農業法人の主な設立費用や手続きは、以下の記事で解説しています。
農事組合法人を設立する方法
makaron/PIXTA(ピクスタ)
農事組合法人の具体的な設立方法・手順は次のとおりです。
1.発起人を立てる
まず、発起人を集めます。発起人は3人以上で、組合員資格として、全員が農家である必要があります。
2.基本的な事項を検討する
発起人が揃ったら、全員で法人設立に必要な基本的事項を検討します。はじめに検討すべき事項は、定款案の作成です。事業の目的、業務内容、経営規模などのイメージを明確にし、1号法人にするか、2号法人にするかなども話し合って決めましょう。
3 .設立にかかる同意書を徴収
4.発起人会の開催
発起人会で定款を作成し、役員の選任、役員報酬限度額の設定など、法人化に必要な事項を決めましょう。
5.出資払込
出資組合の場合、組合員による出資を払込みます。
6.法人設立の登記を申請
1回目の振込があってから2週間以内に登記をします。
7.行政庁に届け出
設立の登記日から2週間以内に届け出ます。都道府県の区域内を地区とする場合は都道府県庁に、都道府県境を超えたり2つ以上の区域に地区が及んだりする場合は農林水産省に届け出ます。
なお、農業法人の設立に当たって、都道府県によっては「農業法人設立助成金」などの補助金が受けられる場合があるので、管轄の都道府県に問い合わせてみましょう。
経営規模の拡大に応じて、法人形態を変更する選択肢もある
niyan/PIXTA(ピクスタ)
これまでの説明した通り、農事組合法人と会社法人(特に株式会社)では、設立時の費用・準備をはじめ、法人としての成り立ちや展開できる事業範囲などに明確な違いがあります。
農事組合法人は設立しやすいものの行える事業には制限があり、経営の規模や事業の範囲を拡大したい場合に自由に行えません。しかし、所定の手続きを行うことにより、農事組合法人から株式会社への変更は可能です。
そのため、将来的に事業拡大を考えている場合には、まずは農事組合法人を設立し、その後の経営規模の拡大に応じて株式会社化を検討するという選択肢もあります。
▼実際に地域の農家が集まり、農事組合法人を設立し、経営拡大を進めている事例については、以下のインタビュー記事で詳しくお伝えしています。法人化に興味のある方は、ぜひご一読ください。
農業法人の一種である農事組合法人は、会社法人と比べると税制面の優遇などのメリットがある一方で、業務内容が農業関連に限定されるなどのデメリットもあります。事業計画・経営状況などに合わせて最適な法人形態を検討していきましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。