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家族経営協定とは? 農家が締結するメリットと、制度の活用事例

家族経営協定とは? 農家が締結するメリットと、制度の活用事例
出典 : プラナ / PIXTA(ピクスタ)・Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

家族経営協定とは、農業経営に関わる家族の構成員が十分に話し合い、それぞれがやりがいを得られる役割分担や就業環境を決めていくことです。家族経営協定によってどのようなメリットが得られるのか、また、何に注意して協定を締結すべきなのかについて見ていきましょう。

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農業に従事する家族で話し合い、家族経営協定を締結することで曖昧になりがちな役割分担や報酬などを明確にすることができます。そのほかにもどのようなメリットがあるのか、また何に注意をすることでより良い協定を締結できるのかをまとめました。ぜひ参考にしてください。

家族経営の農家 キャベツの収穫・出荷

DREAMNIKON / PIXTA(ピクスタ)

家族経営協定とは?

家族経営協定とは、農業経営に関わる家族の構成員が話し合って締結する協定のことです。日本では家族単位で農業に取り組むことが一般的ですが、家族だからこそ役割分担や報酬に関する話し合いがおろそかになり、労働条件なども曖昧になっていることが少なくありません。

2021年3月31日時点で家族経営協定を締結している農家は5万8,799戸で、前年よりも0.7%増加しました。

2020年度中の新規の締結農家は1,519戸でしたが、前年からの純増数は363戸と乖離があります。これは、死亡や廃業する場合、逆に経営規模の拡大に伴って法人化する場合には解消されるためです。

主業農家数(注)に対する割合でみると、約4分の1は家族経営協定を締結していることになります。

(注)主業農家:農家所得の50%以上が農業所得で、1年間に60日以上自営農業に従 事している65歳未満の世帯員がいる農家

家族経営協定 締結農家数の推移

注:2009年・2010年は調査が行われなかった。2012年は東日本大震災の影響により、宮城県・福島県の一部自治体について2011年のデータを使用。

出典:農林水産省「家族経営協定に関する実態調査 令和3年調査結果」「農林業センサス」「農業構造動態調査」よりminorasu編集部作成

農家が得られるメリットと、知っておきたい注意点

農家 家族1人1人がやりがいを持って取り組めるように

プラナ / PIXTA(ピクスタ)・Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

家族経営協定を締結することで、家族一人ひとりがやりがいを持って農業に取り組めるようになります。また、曖昧になりがちな報酬や労働時間を決めることで、ストレス軽減や健康増進も期待できるでしょう。

家族がやりがいをもって農業に取り組める環境を整備することは、後継者の就農や結婚、後継者への経営移といったライフステージの変化に対する準備にもなります。

そのほかにも次のメリットがあります。

・認定農業者制度や農業者年金で有利になる
・今後法人化を検討する際にも協定内容が生かせる

それぞれについて詳しく解説します。

認定農業者制度や農業者年金で有利になる

家族それぞれの経営参画や収益分配などの事項を盛り込み、家族経営協定を締結した上で実行している場合、認定農業者制度や農業者年金などの制度を利用する際にメリットがあります。

例えば、麦や大豆などの栽培でコスト割れを起こしたときに補填を受ける「畑作物の直接支払交付金制度」や、収入減少の際に適用される「米・畑作物の収入減少影響緩和対策交付金制度」、超低金利で農業経営に必要な資金を借りる「農業経営基盤強化資金」などは、認定農業者が利用できる制度です。家族経営協定を締結していると認定農業者として共同申請できることがあり、各種制度を利用できるようになるでしょう。

また、認定農業者などと家族経営協定を締結して経営に参加している配偶者や後継者は、農業者年金の基本となる保険料の一定割合を助成されます。家族経営協定を締結することには、経済的なメリットも多いといえるでしょう。

青色申告をしている認定農業者等と家族経営協定を締結し、経営に参画している配偶者や後継者に対しては、基本となる保険料(20,000円)のうち一定割合の国庫助成が行われます。

※認定農業者制度についてはこちらの記事をご覧ください。

今後法人化を検討する際にも協定内容が生かせる

家族内で協定を定めるときは、報酬や休日などの労働条件や家族の福利厚生につながる就業環境、将来に向けた農業経営の展望などについて細かく決めます。農業経営を法人化するときには、就業環境や労働条件、経営計画などについて定める必要があるので、家族経営協定で定めた内容をそのまま活かすことができるでしょう。

報酬を明確にする際に家計と農業経営の分離を行うといった経理上の作業も、法人化の際に役立ちます。将来的に法人化を検討している家庭では、まずは家族経営協定を定めて農業経営を組織的に行う土台を作っておくと、スムーズに法人化を実現できるでしょう。

また、家族だからといって作業や報酬を曖昧にしない習慣をつけておくこと、そして家族それぞれが農作業を「報酬の対価として行う仕事」だと認識することでも、農業経営法人化への移行がスムーズに進むようになります。

※法人化に当たって注意すべきポイントなどについてはこちらの記事をご覧ください。

せっかくの協定が無意味に?! 現状からの乖離には注意を

理想を追求しすぎると、家族経営協定が現状と乖離した意味のない協定になってしまうことがあります。家族だけで話し合うと客観視しづらいので、第三者に相談することも検討しましょう。また、協定内容が現実に即していない部分もあるので、定期的に話し合いの場を設けて内容を見直すことも大切です。

家族経営協定の締結手順

家族経営協定には家族のストレスを減らすだけではなく、経済的にもメリットがあります。実際にどのような手順で締結するのか、何を盛り込むとより良い協定が完成するのかについて見ていきましょう。

家族経営協定の締結に必要な3ステップ

家族会議で経営協定を話し合う

えのすけ / PIXTA(ピクスタ)

家族経営協定は、以下の3つのステップで作成します。家族構成員のすべての意見が反映されるように、全員で話し合うことが大切です。また、協定書を作成する際には農業委員会や農業普及指導センターなど第三者指導機関の意見を取り入れ、調印の際にも立ち会ってもらうようにしましょう。

1.農業経営の現状と課題を家族で話し合う
2.課題を解決するための対策を考える
3.対策を反映した協定を作成する

家族経営協定を締結した後1年に1回は見直し、より良い協定になるように調整します。

※具体的な締結例などはこちらをご覧ください。
公益社団法人 日本農業法人協会「「さあはじめよう!\イキイキ家族の/『家族経営協定』スタートブック」

家族経営協定に盛り込むべき事項の例

実際の家族経営協定で盛り込まれることが多い事項を紹介します。より良い協定を作成するためにも、適切な事項を盛り込んでいきましょう。

・農業経営の目的
・繁忙期や閑散期などに分けた労働時間と休日体制
・給料、収益配分
・家事や育児、経理の分担
・家計と経営の管理方法と支払方法
・農業後継者の指名、相続について

家族経営協定の主な取決め内容

農林水産省「家族経営協定に関する実態調査 令和3年調査結果」よりminorasu編集部作成

参考にしたい!家族経営協定を経営改善につなげた農家の事例

鳥取県境港市の渡邉農園は、70代夫婦と40代の子の3人で農業経営を行っています。後継者である子がUターンしたことをきっかけに、鳥取県の就農促進支援交付金を受給する要件のひとつであった家族経営協定を締結しました。主な内容は以下のとおりです。

・役割分担をあえて固定せず、毎朝家族でミーティングを行い、それぞれの技量や状況に応じて決定
・毎月同日に同額の給料を支払う
・経営方針は協議の上で決定する

締結によって昔ながらの感覚による農業ではなく、数値に基づいた経営把握ができるようになりました。またミーティングを行うことで、後継者の農業知識や技術の向上にもつながっています。さらに給料と休日が明確になったことで、家族全員が仕事とプライベートにメリハリが生まれ、生活の充実度も高まりました。

出典:農林水産省「家族経営協定」のページ所収「家族経営協定締結事例(令和2年3月 31 日現在) 10ページ」

家族経営協定を締結することで、仕事とプライベートのメリハリが生まれる

タカス / PIXTA(ピクスタ)

家族経営協定を締結することで、より満足度の高い農業が実現できるようになっています。いままで曖昧にされてきた給料や役割分担、家事の分担などを明確にでき、特定の構成員に我慢を強いない経営が実現できているケースも少なくありません。締結によって適用される支援制度などが増えるのも魅力です。ぜひ前向きに家族経営協定について考えていきましょう。

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林泉

林泉

医学部修士、看護学博士。医療や看護、介護を広く研究・執筆している。医療領域とは切っても切れないお金の問題に関心を持ち、ファイナンシャルプランナー2級とAFPを取得。

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