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農業法人とは? 農家が法人化するメリット・デメリットと失敗しやすい例

農業法人とは? 農家が法人化するメリット・デメリットと失敗しやすい例
出典 : kelly marken – adobe.stock.com

農業法人の設立には、どんぶり勘定からの脱却や信用力の向上など多くのメリットがあります。しかし、デメリットを押さえておかなければ、経済的な損失を被ることもあります。本記事では、農家が法人化する際に注意したいポイントや、よくある失敗例とその対策などを解説します。

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これからの農業では、効率化と合理化が求められます。収益向上や規模拡大をめざしている方の中には、農業法人の設立を検討中の方もいるかもしれません。しかし、農業法人を設立するメリットやデメリットを把握せずに法人化して失敗した事例もあります。農業法人について理解したうえで法人化を判断することが大切です。

農業法人とは? 農家との違いは”事業形態”

農業法人とは、農業を営む法人の総称です。法人には、株式会社や合同会社などの営利法人のほか、一般社団法人やNPO法人などの非営利法人があります。

農業の目的が地域活性化や資源維持などの場合は、非営利法人として法人化することもあります。しかし、多くの場合は利益を得る目的で農業を営むため、株式会社や合同会社などの営利法人として法人化します。

農業法人と農家の違い

農業法人と農家は事業形態が異なります。農業法人は法人として、農家は個人事業主として農業を営みます。

農業法人になるには、定款の作成や設立の登記申請など、多くの手続きが必要です。一方、農家になるには、税務署に開業届を、地方自治体に事業開始等届出書を提出するだけで手続きが完了します。

農業法人の種類と特徴

農業法人の法人形態は、「農事組合法人」と「会社法人」の2つに大別できます。

どちらの形態でも、農地法に定める一定の要件を満たした法人は「農地適格法人」として、農地の所有や売買を行えます。ここでは、会社法人と農事組合法人の概要や、農地所有適格法人の条件を解説します。

農事組合法人とは

販売目的の法人経営体数

出典:農林水産省「農業者のみなさまへ 農業経営の法人化のすすめ」パンフレットよりminorasu編集部作成

農事組合法人とは、「農業協同組合法」に基づき設立される組織をいいます。農業協同組合法は、農業の生産力増進や、農業法人や農家の社会的地位向上を目的としています。このような性質から、営利を追及する企業というより、協同組合に近い組織です。

後述の会社法人とは違い、事業内容は農業に伴う事業のみで、構成員は理事を含めて農業関係者に限られます。また、認定農業者または農業の実践的な能力を持つ人が理事の過半数を占める必要があるため、新規就農者だけでは設立できません。

農事組合法人には2つの形態があり、1つは農業用施設の利用や農作業を共同で行う「1号法人」、もう1つは農業経営を行う「2号法人」です。

1号法人では、個人で導入することが難しい農機や水利施設などを共同で利用したり、農作業を共同化したりできますが、農業の経営はできません。

大型田植機の共同利用

大型田植機の共同利用
Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

一方、2号法人は、「農業に関連する事業」として、農畜産物の加工や販売などを行えます。例えば、自社生産の果実でジャムを製造したり、共同で設置した製茶工場で独自ブランド茶を生産したりすることができます。

ただし、自身が生産していない農畜産物の加工や販売はできません。事業を多角化する場合には、農事組合法人で実施できる事業か否かを確認する必要があります。

製茶工場。農事組合法人 2号法人は「農業に関連する事業」として、農産物の加工・販売などができる。

製茶工場。農事組合法人 2号法人は「農業に関連する事業」として、農産物の加工・販売などができる。
Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

▼農事組合法人を設立するメリットについて、詳細は以下の記事をご覧ください。

会社法人とは

販売目的の法人経営体数

出典:農林水産省「農業者のみなさまへ 農業経営の法人化のすすめ」パンフレットよりminorasu編集部作成

会社法人とは、「会社法」に基づく営利組織で、「株式会社」「合同会社」「合資会社」「合名会社」の4つの形態があります。農業に関連しない事業を展開できるため、6次産業化に適した会社形態です。

例えば、レストラン経営や有料セミナーの開催などといった、農産物の加工・販売にとどまらない事業展開が可能です。

そのため会社法人は、農業者(1次産業)が、農畜産物の生産だけでなく、製造・加工(2次産業)やサービス業・販売(3次産業)にも取り組めることから、生産物の価値をさらに高め、農業所得の向上をめざすことができます。

農家レストラン

農家レストラン
Alla Sim / PIXTA(ピクスタ)

【参考】農地を売買できるのは「農地所有適格法人」だけ

会社法人・農事組合法人のいずれにおいても、農地の所有や売買を行うには、いくつかの要件を満たし「農地所有適格法人」として認められなければなりません。

主な要件には、非公開の株式会社か持分会社、あるいは農事組合法人(2号法人)であることや、売上高の半分以上が農業によるものであることなどがあります。ほかにも細かな要件があるため、設立の際は各都道府県に設けられている日本農業法人協会の窓口に相談してください。

販売目的の法人経営体数

出典:農林水産省「農業者のみなさまへ 農業経営の法人化のすすめ」パンフレットよりminorasu編集部作成

何が変わる? 個人農家が法人化する主なメリット

農業法人になると、以下のようなメリットがあります。

  • 税金の負担が軽くなる可能性がある
  • 各制度の融資や補助金が受けやすくなる
  • 経営管理能力や対外信用力の向上が期待できる
  • 人手不足の解消につながる

なお、ここで紹介する各メリットは、農林水産省が以下のサイトやパンフレットでも解説しています。

農林水産省「法人経営のメリット」

農林水産省 「農業法人について」所収「農業経営の法人化のすすめ(パンフレット)」

税金の負担が軽くなる可能性がある

日本の農業を支える大家族

IYO / PIXTA(ピクスタ)

法人化すると、事業所得では利用できない給与所得控除を活用できたり、欠損金を繰越控除できる期間が長くなったりします。活用次第では、節税につながることがあります。

例えば、法人化したあとも、引き続き家族による経営が中心となる場合もあるでしょう。その際に家族を役員に定めれば、支払った役員報酬を損金に算入できます。加えて、支払った報酬は給与所得になるため、給与所得控除を受けられます。
ただし、法人の利益が0円以下であっても、最低7万円の法人住民税の納税義務が発生する点には注意が必要です。

法人化による税制面でのメリットについては、前出の農林水産省のサイトやパンフレットに詳しく記載されています。

融資や補助金の限度額が上がる

最新鋭の農業機械 自動操舵コンバイン

最新鋭の農業機械 自動操舵コンバイン
ライダー写真家はじめ / PIXTA(ピクスタ)

法人化すると信用力が向上し、融資や補助金の限度額が高くなる傾向にあります。例えば、農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)の限度額は、個人の3億円に対して法人は10億円に設定されています。

このほか、経営体育成強化資金や農業近代化資金、農業改良資金の限度額も、法人のほうが高く設定されています。法人化したほうが大きな金額を借りられる傾向にあるため、農地の拡大や事業の多角化をするには、法人が有利といえそうです。

参考:
株式会社日本政策金融公庫「農林水産事業」
農林中央金庫 運営「JAバンク」内「農業近代化資金」

経営管理能力や対外信用力の向上が期待できる

法人の設立にはお金がかかるうえ、登記により所在地や役員の氏名が公開されています。このようなリスクを負っていることから、法人という形態を取るだけで、対外信用力が向上する可能性があります。

信用が高くなれば、融資の審査やさまざまな契約で相手に安心感をもたらすことができます。企業によっては、取引相手に法人を希望する場合もあるので、法人化していれば個人農家よりも円滑に契約を結ぶことが期待できます。

また、個人事業主は事業資金と生活費の境界があいまいになりやすいことがありますが、法人化すると事業資金が生活費が別になるため、経営状況を把握しやすくなります。

事業の状況を理解しやすくなると効果的な施策を講じられるようになるので、経営管理能力の向上につながるというメリットがあります。

人手不足の解消につながる

従業員として新規就農した若者

Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

法人化すると、正社員への福利厚生が手厚くなったり社会的な信用度が上がるため、求職者にとって魅力的な環境になります。これにより、人手不足の解消が期待できます。

法人側からすると、法人形態の維持や福利厚生の充実は経済的な負担になります。しかし、少子高齢化や農業全体の人手不足が問題になる中で、人手の確保は重要な課題です。

社会的な立場の高い法人として採用活動を行うことで、自社に合った優秀な人材が見つけやすくなるかもしれません。

注意点は? 農業法人の設立で生じうる注意点

法人化には多くのメリットがありますが、注意すべきポイントもいくつかあります。法人化に当たり特に注意が必要な点を3つ紹介します。

社会保険料の負担が増える

社会保険 健康保険証・年金手帳

ホシセイ / PIXTA(ピクスタ) aki / PIXTA(ピクスタ)

会社法人または確定給与支払制を採択した農事組合法人は、労災保険の加入と雇用保険の適用が義務付けられるため、従業員数に応じて社会保険の負担が大きくなります。

また法人は、健康保険と厚生年金保険への加入が義務付けられており、法人は半分以上を負担しなければなりません。

設立や維持にコストがかかり、所得によっては税金額も上がる

定款

makaron* / PIXTA(ピクスタ)

法人は、設立と維持のコストがかかります。法人設立時には、定款認証の手数料や登録免許税などがかかり、株式会社の場合は合計で20万円程度のコストがかかります。

また、利益がない場合でも最低7万円の法人住民税を支払わなければならず、ランニングコストもかかります。

加えて、所得が少ないうちに法人化してしまうと、支払う税金額が高くなることもあります。さらに、法人の経理は複雑で作業負担がかかるので、これらを税理士や会計士に依頼する場合は報酬を支払わなければなりません。

法人化すると、必要な手続きや費用が増えるので、損失を被らないためには、会計事務所をはじめとする法人化の専門家にあらかじめ相談することをおすすめします。

一度設立すると簡単に解散できない

法人経営をやめて解散するには、清算や債権取立てなどの手続きをしなければならず、手続きには最低でも2ヵ月半以上の期間がかかります。解散には、清算や財産換価などの専門的な業務が伴うため、代行業者に依頼することもあります。

個人事業主のように、廃業届の提出だけで事業をたためない点には注意が必要です。発起人の年齢や後継者の有無によっては、無理に法人化しないほうがよい場合もあります。

農業の法人化を成功させるには? よくある失敗例とその対策

最後に、農家が法人化を成功させるために知っておきたい、よくある失敗例とその対策を紹介します。失敗の原因を事前に把握し、経営の参考にしてください。

事務手続きの人的&金銭的コストの負担が大きい

事務所でのデスクワーク

sasaki106 / PIXTA(ピクスタ)

法人は、個人事業主よりも高度な手続きや経理が求められるため、事務作業が増える傾向にあります。従来よりも事務作業が増えれば、農作業に充てられる時間が少なくなり、法人化がかえって経営に悪影響を及ぼすこともあります。

特に経理に関わる業務は複雑かつ工数が多いため、税理士や会計士に依頼するのも一つの手です。実際、令和3事務年度(2021年) 国税庁実績評価書の「参考指標 2:税理士関与割合(所得税・相続税・法人税)」によると、法人税の申告の約9割に税理士が関与しています。

当然、委託料や顧問料はかかりますが、工夫次第では料金を抑えられます。例えば、会計ソフトを利用して帳簿作業を自身が行えば、記帳代行にかかる費用を削減できます。

本業である農業を疎かにしないためにも、いつ誰が事務作業をするかを、法人化する前に考えておくとよいでしょう。

期待していた節税効果が得られない

節税 法人化

たっきー / PIXTA(ピクスタ)

法人化のメリットの1つに税負担の軽減が挙げられますが、全ての農家が節税効果を得られるわけではありません。所得が高い場合は節税できる可能性が高くなりますが、所得が低い場合はかえって税負担が大きくなることもあります。

損益分岐を見誤ると「税負担を軽くしようと法人化したのに、思ったほどの効果が得られない」という事態に陥ってしまいます。

また先述の通り、法人は利益が0円以下の場合でも、7万円の法人住民税を納めなければなりません。すなわち、法人化による節税額が7万円未満の場合は、法人化で損失を被ることになります。

一般的には課税所得が400万円を超えている農家は、法人化によって節税できる可能性が高いといわれています。しかし、置かれている状況によって損益分岐点は異なるため、ご自身の決算書を用いて、手元に残る金額が法人化によって増えるか減るかを確かめてみてください。

そもそも法人化すべきかどうかがわからない

そもそも法人化すべきかどうかを深く考えず、自分にとってのメリット・デメリットを精査できていないまま、見切り発車で進めて失敗する場合もあります。成功例やメリットだけでなく、失敗例やデメリットとも向き合ったうえで法人化の可否を判断してください。

不安に思うことやわからないことがあれば、農林水産省が推進している「農業経営・就農支援センター」に問い合わせてみてください。同センターは全ての都道府県に設置されており、農業経営の改善や法人化などの相談を受け付けています。

農林水産省「農業経営等に関する相談」

ほかにも、農業法人の設立や経営に関する相談を受ける窓口はいくつかあります。法人化でお悩みの方は、農業経営の専門機関に相談してみてはいかがでしょうか。

公益社団法人日本農業法人協会「農業法人設立・経営相談窓口」
公益社団法人日本農業法人協会「農業経営・法人化についてお悩みの方へ(相談窓口について)」
農林水産省「農業法人について」(法人化に関する各種パンフレットあり)


農業で法人化すれば、信用力の向上や税負担の軽減など、さまざまなメリットを受けられます。また、補助金や融資を受けやすくなるため、事業展開や規模拡大でも有利に動けるでしょう。

しかし、経営状況や規模によってはかえって税負担が増えたり、煩雑な事務作業に追われて経営が成り立たなくなったりすることもあります。相談窓口も活用しながら、十分に試算をしたうえで法人化を行ってください。

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※法人農家の従業員は専業/兼業農家の項目をお選びください。

ご回答ありがとうございました。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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