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農業法人の設立費用はどのくらい? 必要な手続きと法人化の注意点
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  • 農業経営

農業法人の設立費用はどのくらい? 必要な手続きと法人化の注意点

日本の農業界では、経営規模拡大と効率化をめざした法人化の動きが活発になっています。将来的に農業法人の設立を考えている方も多いでしょう。この記事では設立にかかる費用や手続き、法人化のメリット・デメリットについて解説します。

「農業法人を設立したい」と考えておられても、その組織形態や、設立手続き・費用については、まだ知らないという方も多いのではないでしょうか。

この記事では、法人化を考えている農家の方、新規就農する際に法人化を検討している方へ向けて、農業法人の設立にかかわる基礎知識と、法人化するメリット・デメリットを紹介します。

農業法人とは?

玉ねぎの出荷作業

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農林水産省が2016年に公表した資料によると、2006年からの10年間で、農業法人の数は約8,700から18,900と2倍以上も増加しています。全農地面積に占める法人の利用面積も、2006年の2.5%から2016年は7.2%と大幅に拡大しています。

出典:農林水産省経営局経営政策課

農業法人とは、どのような組織なのでしょうか?


基本的に農業法人は一般企業と同様の法人格を持つ組織で、学校法人や医療法人のように、法律で規制される法人組織とは異なります。

農業法人は組織形態によって、「会社法人」と「農事組合法人」の2つに分類されます。その2つの概要を説明しましょう。

会社法人とは?

ほかの業種の一般企業と同じく、いわゆる会社として農業経営をするのが会社法人です。いくつかの会社形態がありますが、通常は株式会社として経営することが最も多いでしょう。この会社法人にも2つの種類があります。

1つは「農地所有適格法人」で、自社で農地を所有して農業を経営する法人です。この場合は満たすべき要件が決まっていて、法人登記以外にも、市町村の農業委員会から適格であるという許可を得なければなりません。

もう1つは、そのほかの農業法人に分類されるケースで、畜産や花き栽培の一部のように、ほ場などの農地を利用しないで農業を経営する法人です。農地を借りて農業を行う場合もこの法人に分類されます。

農事組合法人とは?

一方の農事組合法人は、農業を自営する個人や農業に従事する個人が、農業協同組合法にもとづいて設立するのが農事組合法人です。


会社法人との大きな違いは、行うことができる事業が農業に限られていること、出資者・構成員ともに農業者に限定されていることです。

設立の手続きの一部は、会社法人を設立する場合より手続きがやや簡略化されており、農家に認められた簡便な法人化の方法ともいえるでしょう。

組織形態は、農業施設などの設置を共同で行う1号法人と農業経営を行う2号法人とに分けられます。「農地所有適格法人」になることができるのは、農業経営を行う2号法人のみです。

農業法人設立のためにかかる費用はどのくらい?

農業用の収支内訳書

artswai / PIXTA(ピクスタ)

ここからは、前述の「会社法人」と「農事組合法人」のうち、会社法人を設立する場合の費用と手続きについて解説します。

会社法人としての農業法人設立にかかる費用は、一般的な法人設立費用と変わりません。主に公証役場と法務局での手続きが必要になり、それぞれ別々に費用がかかります。

手続きにかかる費用

法人設立には定款を作成し、それを公証役場に提出して認証してもらう必要があります。ここでかかる費用は定款認証手数料50,000円と、印紙代40,000円に謄本交付料2,000円で、合計92,000円です。

電子認証を利用すると、印紙代の40,000円はかかりません。とはいえ、一般個人が電子認証手続きをすることは現実的ではないため、専門の代行業者に依頼することになり、別途手数料がかかります。

次に法務局で登記申請を行いますが、その際登録免許税として「資本金×1,000分の7」が必要になります。資本金が150,000円に満たない場合は、最低金額の150,000円を納付しなければなりません。

これらの費用をまとめると、農業法人の設立には、公証役場と法務局に納付する法定費用を合わせて、少なくとも242,000円かかることになります。


出典: 開業融資申請が専門の元銀行員行政書士が資金調達をサポート

設立手続きの代行を依頼した場合の費用目安

農業法人の定款と、さまざまな申請書類も作成して、法人設立の手続きすべてを個人で行うことは、不可能とはいえないまでも相当に難しいといえます。こうした手続き全般は、司法書士事務所または行政書士事務所に依頼することができます。

ただし、司法書士事務所や行政書士事務所に代行を依頼すると、法定費用のほかに代行手数料(事務所報酬)が必要になります。

手数料の金額は各事務所の規定によるので、一律に決まった金額として紹介することはできませんが、農地所有適格法人として株式会社を設立し農地取得を行う場合で、100,000~200,000円程度が目安です。

そのほか謄本や証明書の取得、交通費などは実費となります。詳しくは直接事務所に問い合わせて、見積もりを依頼するとよいでしょう。


出典:金田司法書士行政書士事務所

法人化手続きの主な流れ

会社設立関連書類

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ここで会社法人として農業法人を設立する場合の流れを確認しておきましょう。

定款の作成
最初に準備段階として、商号や役員構成などの重要な要件をまとめ、その法人にとっての法律にあたる定款を作成します。


定款認証
定款が完成したら、公証役場で認証を受けます。この時に費用として92,000円が必要です。認証を受けることは、その法人が法的に認められたということです。定款認証が完了した時点で、資本金を銀行などに預け入れます。


法務局への登記申請
次に定款と各種申請書を準備して、法務局に登記申請を行います。この時に登録免許税として最低15万円の費用がかかります(注)。登記が完了したところで、法人として仕事を始める準備が整います。
(注)登録免許税は資本金の金額×1000分の7で、これが15万円に満たない場合は、15万円となります。

法人登記後の各種手続き
法人設立後も、各種機関に届出を行う必要があります。

まず税務署、都道府県、市町村には設立の届出をしなければなりません。従業員を雇用する場合には、労働基準監督署、ハローワーク、年金事務所にも届出が必要です。

このように法人設立にはさまざまな手続きがあり、必要書類の作成の負担も小さくはありません。個人ですべての手続きを行うことも可能ですが、専門知識を持つ代行業者に依頼することをおすすめします。

出典: 開業融資申請が専門の元銀行員行政書士が資金調達をサポート

知っておきたい、法人化によるメリットとデメリット

野菜の収穫

Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

これまで紹介してきたように、農業法人の設立には多くの手続きが必要で時間もかかります。それでも法人化するべきなのか、法人化のメリットとデメリットという2つの観点から多角的に分析してみましょう。

メリット-1. 経営管理能力の向上や経営の発展が望める

農家としての家計と、法人としての経営が完全に分離されるため、経営管理がしやすくなり、また、経営管理を行うことで経営者としての意識も高まります。

従業員の福利厚生と労働環境の整備が進み、経営の多角化や事業規模の拡大も可能になります。同時に人材育成の機会も広がるでしょう。

メリット-2. 対外信用力の向上&融資限度額の拡大

財務諸表の作成と決算が義務化されるため、経営状況の把握が容易になり、対外的には取引先や金融機関への信用度が高まります。結果として、融資を受ける際の限度額が引き上げられる場合があります。

一例をあげると、農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)の貸付限度額は、個人では原則3億円なのに対して、法人では10億円まで拡大されます。

メリット-3 税制上の優遇措置がある

事業主を含む役員報酬を給与所得にできるので、給与所得控除の適用による税制上の優遇の対象となります。

また、法人税法の対象になるため、欠損金や剰余金の扱いが個人よりも有利になる場合があります。一例をあげると、欠損金の繰越控除は、青色申告する個人事業主の場合は3年間なのに対して、法人の場合は10年間まで延長されます。

デメリット-1 必要経費の増加

一方で、法人化すると個人で農業を営むよりも運営管理に必要な経費が増加する可能性もあります。これは従業員の社会保険や福利厚生費に加え、経理や決算などにかかる費用が増えるためです。

デメリット-2 規模が小さいと税負担が増えることも

法人としての規模が小さく所得が少ないと、個人事業主よりも税負担が大きくなる場合があります。法人の場合、所得が少なくても、最低限の地方税は納付の義務があるからです。

デメリット-3 簡単には解散・廃止できない

事業をやめる場合も、個人ほど簡単ではありません。法人の解散・廃止にあたっては、すべての財産を清算しなければならず、通常は専門的な代行業者に依頼することになります。

これから農業経営を拡大したい人や、新規就農で新しい形の農業を目指す人にとって、法人化は魅力的な選択肢になるでしょう。

しかし、農業法人の設立には多くの手続きと時間を要します。また、設立後の経営管理や費用についても、経営規模とのバランスを考慮して検討することが必要でしょう。

農業法人設立を考える際は、法人化のメリットとデメリットをあわせて検討することをおすすめします。

大澤秀城

大澤秀城

福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。

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