高齢化が進み農機に乗れる人も少なくなった地域の集落営農。悩めるリーダーが実践、効率化等の取組みを紹介
集落営農のリーダーの1人として、オペレーションの効率化やGAP書類作成時間を短縮。さらに、地力ムラを踏まえた土づくりで収量アップを実現した農家がいます。佐賀県吉野ヶ里町で、米・麦・大豆を栽培する眞木さんに、業務効率化や収量アップの方法を伺いました。
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目次
眞木 優(まき まさる)さんプロフィール
代々農業を営む家系に生まれる。インフラ系の企業で会社員として働きながら、繁忙期は家の農業を手伝う。49歳のとき、父親が農業を続けられなくなったことをキッカケに退職して専業農家となる。
「医食”農”同源」を考えながら「持続可能な農業」を研鑽・実践する中で、ザルビオ、BLOF理論(Bio Logical Farming:生態系調和型農業理論)、そして、腐植技術(熊本ハイパーカーボン堆肥等)に出逢う。
特別栽培米は、2000年(平成12年)に開始…化学農薬や化学肥料を使わない栽培を継続している。一方、慣行栽培米は、2023年(令和5年)より、粒状化学肥料から堆肥に移行した。
集落営農では、班長兼オペレーターとして、地域農業の牽引役として活動している。
集落営農とは
2023年10月。モチ米のコンバイン刈取り。生育マップを基に効率的な刈取りを実施している
出典:眞木優さんnote「特別栽培米の眞木優」内「10/30(月/晴)【R5.モチ米刈取③…ザルビオ】」
集落営農は、営農組合員が協力しあって営農することで、それぞれの農家の経営と地域農業の維持発展を担う方法です。例えば、農機を使う作業や、経験が必要な作業は、作業ごとにできる人、得意な人が担当者となることで、地域全体で効率よく進めていけます。
一言で集落営農といっても、農機の共同利用、機械作業を受託するタイプ、スキルに応じた作業を分担しあう協業タイプなど、営農の形はさまざまです。
▼集落営農については以下の記事をご覧ください
眞木さんが農業を営む吉野ヶ里町には約530haの農地面積があり、農業者は約260名ほどで、平均年齢は68歳。一部では集落営農が行われています。
まずは眞木さんに、集落営農の現状を伺ってみました。
吉野ヶ里町の集落営農。課題は高齢化
━━━地域の農業規模や栽培作物について教えてください。
私が所属する地域の農業者は17名です。管理するほ場面積は約50haで、ほ場は110枚ほどあります。
また、私の地域では、米(モチ米)、小麦・大麦、大豆を中心に栽培しています。麦は米との二毛作です。大豆は地域としての戦略作物(※)という位置付けです。
(※)政府の経営所得安定対策のなどの支援対象の1つが集落営農。大豆は麦・米粉用米などと並ぶ戦略作物となっている。
大豆は、3年に1度、約50haある地域の農地を3つに区切って、地区ごとに3年に1度のローテーションを組んで栽培します。大豆を作ることで土壌に窒素が固定されますし、大豆を作った翌年には水田の天敵であるジャンボタニシが減少するので、戦略作物としてはちょうどいいと思っています。
※眞木さんは、ご自身のnoteで、大豆の窒素固定効果について、minorasuの記事を引用してくださっています。
━━━集落営農では、役割分担することで効率的に栽培管理していると聞いています。具体的にどのような作業や役割があるのでしょうか?
乗用管理機や大豆コンバイン作業などがあります。
例えば、乗用管理機では、運転手、作業の目印棒設置や安全確認をする者、水汲み係の3人1組で作業を行います。
━━━さまざまな役割があるのですね。眞木さんはどのような役割を担うのでしょうか?
私の場合は、班長兼オペレーターです。
農業機械の中には、高額なものや年間を通じ稼働率が少ないものがある為、乗用管理機や大豆コンバインなどの個人所有は、負担が大きいです。また、その農機を運転できる者は少ない為、当該のオペレーターが、地域の防除や刈取りを担っています。
10月末。麦の播種前に土壌改良資材を散布する
出典:眞木優さんnote「特別栽培米の眞木優」内「10/31(晴/月)【麦づくり…土壌改良材(ミネラルG)散布】」
━━━約50haもある地域のほ場を回るのは大変そうですね。オペレーター業務を行う上での課題はありますか?
高齢化による人手不足です。…特に、共同の乗用管理機を運転できる人は、私を含めて4名しかいません。
繁忙期は、自分の作業と重なり、大変です。特に、水稲、大豆の刈取りから、麦の播種時期は多忙を極めます。
稲を刈ったら、藁(わら)を均等に散らし、堆肥などを散布します。稲の後には大豆刈取りが始まり、麦の播種に向けてほ場の水捌けを良くする為、サブソイラで地面に割れ目を入れます。その後、トラクターで藁などを鋤き込んだ後、大麦、小麦の播種となります。
この時期はとても忙しいので、体力的にはちょっと限界が来ています。ただ、やっぱり地域で農地を守っていくことは大切なので、気合を入れて頑張ってます。
吉野ヶ里町には、2023年4月現在、約260名の農家がいるのですが、平均年齢は68歳です。JA吉野ヶ里支所さんの調査では、あと5年もしたら農家の数は130人に減るだろうと予測しています。
会社勤めの定年も延長し、農業の跡継ぎも少ない中、高齢者がほとんどでの農作業は、厳しい状態です。
吉野ヶ里町では、集落営農で協力して栽培管理を行う体制は築けているものの、高齢化による農業人口の減少が進み、人手不足の影響が顕著になってきているようです。
準備が大切。生育状況の見える化で作業計画の作成を効率化
━━━人手不足が深刻という状況ですが、解決策はあるのでしょうか?
前提として、私は「準備7割・実行3割」というのを心がけております。そして、事前に作業計画を立てることで、地域の防除や刈取が円滑に実施できています。
事前に作業計画を立てるには、地域のほ場ごとの生育状況を把握する必要がありますが、これには栽培管理支援システム「ザルビオ」を活用しています。
麦の雑草防除
麦の雑草防除では、播種の後に初期除草剤を散布するのですが、麦の生育状況を見て、芽が出る前に散布します。しかし、生育状況は、播種したタイミングやほ場条件によってもバラツキがでますので、ザルビオで生育ステージを確認します。
麦の生育ステージはBBCH(※)で識別され、数字や色で確認できます。したがって、ほ場内の麦の生育状況が一目でわかります。
(※)BBCH:作物の生育段階を00〜99の数字で示す国際的なコード
ザルビオで見るほ場ごとの小麦の生育状況
出典:眞木優さんnote「特別栽培米の眞木優」内「12/18(月/曇)【R5.地域の小麦・生育状況…ザルビオ】」
マップを見ると一目瞭然ですが、播種が早いほ場は濃い青色。薄い青色のほ場は遅く播種をしたところです。濃い青色のほ場は優先して作業を行う必要があるため、濃い青色から薄い青色の順番で作業計画を立てることができます。
さらに、マップを印刷し、符号なども添え、作業するほ場に印をつけてオペレーター同士で共有すれば、ほ場不案内な若手も含めて、効率的かつ間違いなく作業を進めることができます。
麦の刈取り
麦の刈取りの場合、高品質かつ多収で収穫するには、水分率や穂の外観から成熟具合を判断して刈取適期を見極めます。しかし、生育状況は播種の時期やほ場条件などによりバラツキがあるので、生育マップを活用しました。
ザルビオの生育マップ。ほ場内の生育状況を数値や色で識別
出典:眞木優さんnote「特別栽培米の眞木優」内「5/12(金/晴)【大麦…刈取順番検討、xarvio(ザルビオ)】」
生育マップでは、ほ場内の作物の生育状況が数値や色で細かく見れますが、私の場合は数値も参考にします。
麦の場合、生育状況を示す数値が小さいほどよく熟れていることになります。例えば、生育値の平均が0.86では熟れていますが、1.36ではまだ熟れていません。従って、0.86のほ場を優先して刈取り、1.36のほ場は最後に刈取りように計画を立てます。
ザルビオの生育マップ値を参考にしたほ場の刈取り順
出典:眞木優さんnote「特別栽培米の眞木優」内「5/12(金/晴)【大麦…刈取順番検討、xarvio(ザルビオ)】」
生育値を基にほ場の刈取り順を前もって準備することで、円滑に作業が進みますし、品質向上にも繋がります。
実際、コンバインで刈取りしていると、生育マップとの相関性が実感できます。事前に生育マップを確認する事で、作業速度調整の予見が出来ます。
…良く実っているゾーンは、スピードを控える事により、コンバインのトラブルも少なくなります。
人手不足の影響はありますが、生育ステージ予測や生育マップ機能を使うことで、防除や刈取適期の見極め、そして、事前に作業計画を立てることが可能となり、作業の円滑化や効率化につながっているようです。
ほ場ごとのタスクを記録してGAPの書類作成を効率化!
━━━作業計画の作成以外にも効率化している作業はあるのでしょうか?
GAP(Good Agricultural Practices)の書類作成時間を削減できています。
私の地域では、JAさんからGAPの提出が求められます。これは、佐賀県農業協同組合神埼地区の書類です。
以前は手書きだったGAPチェックシート
出典:眞木優さんnote「特別栽培米の眞木優」内「10/8(日/雨)【R5.米づくり栽培管理日誌(GAP)作成、ザルビオ】」
提出する書類作成には、施肥、防除、除草を行った際の、ほ場、作業日、商品名、肥料や農薬の使用量などを記入する必要があります。
従来は、ほ場1枚1枚で実施した作業を日記帳にメモして、書類作成の際は日記帳から該当箇所を探して書き写す作業をしていました。必要な情報のみを抜き出すのがとても大変で、1つのほ場で30分程度、それが12ほ場あるので合計で、所要時間は360分位でした。
しかし現在では、ザルビオで作業内容をほ場ごとに記録(入力・保存)しておき、エクスポート機能で出力した内容を書類に添付するだけで済みます。したがって、30分もあれば作成できます。
ザルビオでエクスポートしたGAP用のデータ
出典:眞木優さんnote「特別栽培米の眞木優」内「10/8(日/雨)【R5.米づくり栽培管理日誌(GAP)作成、ザルビオ】」
タスク管理をデジタル化することで、GAP書類(栽培管理日誌)の作成を効率化できるそう。しかも、書類作成の時間を90%も短縮できることには驚きです。
地力の底上げ。有機質資材とデータを用いた土づくりの実践
━━━眞木さんは、化学農薬や化学肥料を使わずに水稲を栽培されているそうですね。
まず私は、特別栽培米と慣行栽培米の2種類を栽培しています。そして、特別栽培米は、化学農薬・化学肥料を使わない栽培を平成12年から継続しております。
眞木優さん自宅周辺のほ場
出典:眞木優さんnote「特別栽培米の眞木優」内「1/21(日/晴・一時小雨)【虹🌈・降雨④日目…地域役員事務対応】」
では何を使っているかというと、農薬の代わりに植物活性液LE-10H(天然の腐植物質を抽出した植物活性液)、昭和酵素His(土壌微生物活性化資材)を用いた種子処理、苗踏みローラーやペパーミントなどを利用したり、肥料には、熊本ハイパーカーボン堆肥、鰹魚粉、昭和酵素S(複合活性酵素)などを使用しています。
また、慣行栽培米では、農薬の代わりに宝の水(フルボ酸含有水)、ミラクル活性液(キトサン等含有液)、食酢、焼酎、にがりを利用したり、堆肥には「宝の肥料」という佐賀市の「下水道由来の堆肥」を使います。
佐賀市は全国から見学者がいるほどの良質な堆肥を作っています。「宝の肥料」には、竹チップ、籾殻、廃白土、副生バイオマスが入っており、窒素分は3%程で安定しています。成分値は3ヶ月毎で公表されている為、とても信頼できる堆肥です。
━━━慣行栽培でも、下水道由来の堆肥を活用することで、特別栽培に近い方法で栽培されているのですね。なぜ、化学肥料や化学農薬をできるだけ使わないのでしょうか?
私は、土づくりを大切にしています。人間関係と一緒で、作物を育てるにも、団粒化(風通しの良い土)なども含め、シッカリとした土壌づくりが大切だと思っています。
化学的なものは持続力が弱かったりするものですから、有機的なものを入れて土壌をしっかり作っていくことが、持続的な農業を営む上では必要だと考えます。
━━━土づくりの大切さを考えた上で、天然由来の土壌改良資材などを選択されているのですね。ほかにも、土づくりのために実践していることはありますか?
例えば、落ち葉を使います。秋から冬にかけては落ち葉が溜まるので、それを500キロのフレコンバッグに集めて、ほ場に鋤き込みます。
あとは、藁や籾殻など、田んぼの残渣物も活用します。田んぼでは、18度以上になるとバチルス菌が働いて、藁などが発酵分解され肥料になります。そうすると翌年の施肥量軽減も図れます。
さらに、卵の殻をほ場に撒くこともあります。卵の殻の主成分は炭酸カルシウムなので、二酸化炭素の発生により土を柔らかくして団粒構造を作ることができます。
同時に、地力マップを活用します。ザルビオの地力マップ機能では、ほ場内の地力ムラが細かくわかるので、卵の殻などは地力の低い場所に撒いて、ほ場全体の地力アップにつなげています。
ザルビオの地力マップで見たほ場内の地力ムラ
出典:眞木優さんnote「特別栽培米の眞木優」内「6/28(水/雨)【ザルビオ…地力マップ】」
━━━田んぼの残渣物、落ち葉、卵の殻といった有機物、さらに地力マップを活用されているのですね。施肥設計はどのようにしていますか?
地力マップを活用して可変施肥に近い施肥を行っています。全ほ場の地力マップを頭に入れておき、まずは均等に肥料を撒きます。その後、地力が低い場所に追肥を施す方式です。
肥料散布はコンポキャスターで行いますが、地力が高い場所は施肥量を少なく、地力が低い場所には施肥量を多く調整します。
肥料(堆肥)散布に使うコンポキャスター
出典:眞木優さんnote「特別栽培米の眞木優」内「10/12(木/晴)【R5.麦施肥…スタート。元肥・秋藁処理】」
私の機械には、施肥の可変機能がありません。一度肥料を撒いてしまうと拾う事はできないので、少ない施肥量で撒き始めて、徐々に足すようにしています。
━━━可変施肥でほ場内の平均地力を高め、作物の生育を揃えているのですね。実際に効果は見えていますか?
やっぱり改善が見られておりまして、最も感じている効果は「収量アップ」です。正直、驚いています。ほ場毎の反収は確実に増えましたね。
それと、水稲収穫後の秋藁処理では、収穫した玄米の重量から取れる藁の量を割り出し、その量に合わせて、熊本ハイパーカーボン堆肥や宝の肥料などを撒いています。秋藁処理で、翌年の水稲栽培での施肥量を減らす事も出来ています。
自然の循環を活用した漉き込みと、そこに地力マップが加わることで、収量アップ、そして、「持続的な農業」の実践につながっているようです。
集落営農のさらなる効率化に向けて生育データを活用したい
集落営農でのオペレーション効率化やGAP書類作成時間の短縮、そして、土づくりによる収量アップを実現している眞木さん。今後、目指したい農業について伺いました。
データを活用して、地域全体の農業をさらに効率化したいですね。例えば、刈取計画を作成する際、現在は、私のアカウントに登録したほ場の生育データをもとに計画を立てています。
将来、地域の農家同士が連携して、それぞれのほ場の生育データを共有した上で刈取りができれば、オペレーションの効率化だけでなく、農家の収入アップにもつながると思っています。
そうして、「吉野ヶ里がそんなことをしているのか、うちの地域でもやってみようかな」と近隣にも広がっていけば、この地域一帯の農業がより良くなりそうだと感じています。
農業者の高齢化が進む中で、若い方に農業への関心を持ってもらうことは大切です。そのために、農作業の円滑化や効率化を進めて、安定した収入が確保できるようにしたいですね。
吉野ヶ里町の実りの秋
出典:眞木優さんnote「特別栽培米の眞木優」内「12/31(日/雨・曇)【R5.私の10大ニュース】」
今回は、佐賀県の吉野ヶ里町で農業を営む眞木さんに、オペレーションの効率化やGAP書類作成時間の短縮方法などを教えていただきました。
ほ場に出て作業することは大切ですが、事前準備はそれ以上に大事なこと、そして、準備にはザルビオによる「生育状況の見える化」が役立つこともわかりました。
また、作物の収量アップや品質向上においては、自然の循環を活用した土づくりと地力に応じた施肥設計が効果的であることを学びました。
個人としても、そして、集団としての農業でも、ザルビオなどのデータ活用技術は「持続可能な農業に一歩近づくための1つの原動力」になり得るのではないでしょうか。
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