大豆の収量を上げるには? 単収目安と、増収へ向けた栽培技術
大豆の10a当たり収量の推移と期待できる収入の目安、収量アップに向けた栽培のポイントを最新データに基づいて説明します。さらに、単収増加が期待できる大豆新品種や、高収益実現のために活用したい交付金制度を紹介します。
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大豆栽培の収益性改善には、収量と販売単価の両方を見直すことが重要です。この記事では、大豆の単収目安をはじめ、収量を上げるための栽培技術や品種選び、さらに収入を増やすために活用したい交付金制度を紹介します。
大豆の10a当たり収量と、農家の収入目安
Yoshi/PIXTA(ピクスタ)
大豆の単収推移
出典:農林水産省「作物統計調査 / 作況調査(水陸稲、麦類、大豆、そば、かんしょ、飼料作物、工芸農作物)」掲載「調査結果|長期累年」などよりminorasu編集部作成
大豆の10a当たり収量は、2023年(令和5年)産では169kgでした。この数値は前年の160kgを6%上回るものであり、北海道および九州において、生育期間の天候がおおむね良好に推移したことが要因です。
また、過去10年の推移を見ると、大豆の10a当たりの収量は144~176kgの間を推移しています。
作付面積と収穫量
出典:農林水産省「作物統計調査 / 作況調査(水陸稲、麦類、大豆、そば、かんしょ、飼料作物、工芸農作物)」掲載「調査結果|長期累年」などよりminorasu編集部作成
出典:農林水産省「作物統計調査 / 作況調査(水陸稲、麦類、大豆、そば、かんしょ、飼料作物、工芸農作物)」掲載「調査結果|長期累年」などよりminorasu編集部作成
2023年(令和5年)産大豆の全国の作付面積は154,700haで、前年から3,100ha(2%)増加しました。同年の全国での大豆収穫量は260,800tであり、前年から18,000t(7%)増加しました。
作付面積は2021年から2023年まで3年連続で前年よりも増加しており、国の政策により、水稲などから大豆への転作が進んだことが要因と考えられます。
落札価格と収入の目安
出典:公益財団法人日本特産農産物協会「令和4年(2022年)産大豆入札取引の結果」所収「令和4年(2022年)産大豆収穫後入札取引結果 総括表」よりminorasu編集部作成
公益財団法人日本特産農産物協会が公表している「令和4年(2022年)産大豆入札取引結果 総括表」によると、普通大豆の60kg当たりの平均落札価格は、全国平均で9,638円です。
平均落札価格と2023年(令和5年)の10a当たり収量の169kgから算出した10a当たりの収入は約27,147円になります。
ただし、この数値は全国平均を基準としたあくまでも目安であり、落札価格は品種・生産地域・粒の大きさなどによって異なります。
例えば、2022年(令和4年)産大豆で最も平均落札価格が高かった「佐賀県産-大粒-フクユタカ」の60kg当たりの平均落札価格は13,865円であり、最も低かった「長野県産-小粒-ナカセンナリ」の7,320円の約1.9倍です。
高収益実現のためには、高単価品種かつ大粒の大豆を収穫することが重要です。
大豆の収量アップを叶える4つのポイント
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
大豆の収量は「株数×株当たり節数×節当たり莢数×莢あたり粒数×一粒重」で決まります。増収のためには各要素の向上をめざすことが大切です。そのためには、特に次の4つのポイントを意識して栽培管理をしてください。
1.地力を向上する土作り
kelly marken / PIXTA(ピクスタ)
大豆は子実に多くのタンパク質や脂肪を含み、子実が十分に肥大し収量を増やすには、窒素をはじめとする多くの養分を必要とします。
大豆は根粒菌によって窒素固定を行いますが、その窒素固定能力は豆類の中でも特に高く、条件がよければ10a当たり30kg以上もの窒素を大豆に供給できるとされてます。
とはいえ、根粒菌があるから土壌中の窒素は不要というわけではありません。大豆は基本的に、まず土壌中の窒素成分を根から優先的に吸収し、不足分を根粒菌の窒素固定で補うためです。
また、大豆が着莢するには窒素だけでなく、カルシウムやマグネシウムなどの養分も多く吸収します。大豆は地力を消耗させる作物であり、安定的な収量増加を実現するためには堆肥や緑肥を十分にすき込み、地力を改善させる必要があります。
有機物を十分にすき込んだ土壌は、膨軟で(ふかふかとして)通気性・排水性に富むため、根の生長が促進され、土壌中の養水分の吸収も向上します。
さらに、根粒菌は窒素固定に酸素を必要とするため、通気性の改善によって根粒の窒素固定も高まります。こうして、地力の向上は安定多収につながるのです。
特に水田輪換畑においては、もともと湿度の高い土壌が多いうえに、畑地化することで土壌中の微生物が活発化し有機物を分解するため、地力低下とともに保水力や通気性といった土壌物理性の悪化などが懸念されます。
土壌診断も行いながら、必要な施肥をすることで地力の維持に努めましょう。
多収のための土作りには、土壌pHの調整も重要です。大豆の生育には、通常の畑地よりも高い土壌pH6.0〜6.5が適しており、酸性土壌では減収してしまいます。石灰質資材などを施用し、土壌診断の結果を適正値に矯正してください。
2.湿害を回避する排水対策
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
湿害も、大豆の収量を大きく減少させる要因の1つです。播種時期が梅雨と重なるため、播種後に何日も雨が続き発芽不良や生育不良となったり、水はけが悪いと根腐れを起こしたりして、収量や品質が低下することが少なくありません。
湿害を回避するには、あらかじめほ場に排水設備を設置する必要があります。大豆のみを栽培している場合は前年秋か遅くとも4月までに、麦の後作として栽培している場合は麦の播種前か、麦の収穫後に排水対策を行ってください。
具体的には、播種前に用水路から排水路までをつなげる額縁排水溝や明渠(めいきょ)、弾丸暗渠(あんきょ)を整備します。
すでに排水設備が設置済みであっても、前作の作業中に溝が埋まったり踏み固められたりしている場合もあるので、必ず溝をさらう、暗渠を増やすなどの改善を行いましょう。
ほ場全体に本暗渠を設置したうえ、毎年1回、弾丸暗渠を1m間隔の高密度で実施し排水性を高めている事例もあります。
排水設備を整えたうえで高畝栽培を行えば、ほ場表面の排水性も確保でき、湿害のリスクを抑えられます。
また、あえて耕起や中耕・培土を行わず、土壌表面を固く平らに保つことで表面排水を進め、降雨直後でも播種を可能にしつつ大幅な作業の省力化を図る「不耕起播種」の栽培技術も、近年注目されています。
▼大豆の不耕起播種については、こちらの記事もご覧ください。
3.栽培予定地に合った品種選定
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
栽培地域の気候や環境に適した大豆の品種を選ぶことも、収量を左右する大きな要因です。品種選定に当たって重視すべきポイントとしては、主に以下の5点が挙げられます。
- 栽培地域の気候や作付け体系に適しているか
- 栽培地域の奨励品種に選定されているか
- 栽培地域に多発する病害虫への抵抗性を有しているか
- 大規模栽培のほ場においては、機械化に適した品種か
- 栽培予定地の気候と栽培歴に適した早晩性か
▼大豆の基本的な栽培暦について知りたい方は、こちらの記事を覧ください。
特に早晩性については、栽培地域の気候特性や発生しやすい病害虫、作付け体系などを考慮して品種を選ぶことが大切です。
例えば、「秋に台風や長雨が多く倒伏被害が発生しやすい地域では、その時期に熟期が重ならない品種を選ぶ」「梅雨明けに害虫の被害が多発する地域であれば、その時期に、被害が深刻化しやすい莢伸長期が重ならないような品種を選ぶ」といった具合です。
また、大豆の生産量1位を誇る北海道では、栽培時期が遅いと収穫前に早霜・積雪の被害を受ける恐れがあるため、9月中旬〜下旬に収穫できる品種を選びます。
基本的には地域の奨励品種に選定されている品種を選べば間違いありませんが、実需者のニーズに応じたり差別化を図ったりする目的で特殊な品種を導入する場合は、ここで挙げたポイントに注目することをおすすめします。
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
4.効率化や品質向上につながる防除適期の見極め
大豆栽培には、ほ場の排水対策、播種予措、雑草防除、中耕培土、病害虫防除と、収穫を迎えるまでにさまざまな工程があります。このうち、収量アップや収穫する大豆の品質向上につながる作業でありながら、大豆農家の大きな負担になっているのが雑草防除です。
雑草防除を効率化するには、防除適期を見極めることが重要です。そのためには、栽培管理システムの導入がおすすめです。
例えば、BASF社が提供する「xarvio®(ザルビオ)フィールドマネージャー」の「雑草管理プログラム」では、ほ場の状況や気象状況などに合わせて雑草の発生状況を予測可能です。さらに、ザルビオは防除作業のタイミングをアラートで通知してくれるので、作業遅れを防ぎ雑草被害を最小限に抑えることが可能です。
▼ザルビオを活用した雑草防除については、以下の記事でも紹介しています。
これから作付けするなら? 収量アップが期待できる大豆新品種
かぜのたみ / PIXTA(ピクスタ)
大豆大豆の収量をアップするためには、多収が期待できる品種を選定することも重要です。近年は品種改良により多収品種が多く開発されており、中でも以下に紹介する新品種に注目が集まっています。
そらひびき、そらたかく
「そらひびき」と「そらたかく」は、共に2024年1月に品種登録出願された、多収で豆腐加工適性を持つ大豆品種です。収量性が高い米国品種と加工適性が高い日本品種の交配により育成されました。
「そらひびき」の栽培適地は東北南部~北陸地域、「そらたかく」の栽培適地は東海~九州地域となっています。
それぞれの栽培適地で行われた栽培試験において、「そらひびき」は既存品種よりも21%増の多収性を示し、「そらたかく」は既存品種よりも54%増の多収を示しました。
同じく多収かつ豆腐加工適性が高い新品種「そらみずき(品種登録出願:2023年4月)」と「そらみのり(同:2023年4月)」も含め、これらの品種が流通することにより大豆の安定生産と供給量の増加が期待されています。
出典:
農研機構「(研究成果)収量が高く豆腐に利用できるダイズ新品種「そらひびき」、「そらたかく」」
農研機構「(研究成果)収量が高く豆腐に利用できるダイズ新品種「そらみずき」、「そらみのり」」
フクユタカA1号
「フクユタカA1号」は、2018年10月に品種登録出典された大豆品種です。「フクユタカA1号」は、関東南部から九州地域の主力品種である「フクユタカ」の特性を残しつつ、難裂莢性が導入されています。これにより、ほ場でのコンバイン収穫における収穫ロスが減少し、「フクユタカ」に比べて収量が最大40%向上したという結果が報告されています。
「フクユタカA1号」の成熟期や粒大などの生育・品質特性は「フクユタカ」と同等なので、栽培方法も「フクユタカ」に順ずることが可能です。
また、豆腐や納豆などの加工試験においては「フクユタカ」と同等の加工適性があることが明らかになっています。
出典:
農研機構『「フクユタカ」に難裂莢性を導入した大豆新品種「フクユタカA1号」』
ふくよかまる
「ふくよかまる(登録品種名:ちくしB5号)」は、福岡県が育成し2021年8月に品種登録された大豆品種です。
播種時期の長雨による播種の遅れや、梅雨が明けたあとの乾燥などによって福岡県内での大豆生産量は年々減少傾向にありました。こうした問題を解決すべく福岡県が育成したのが「ふくよかまる」です。
「ふくよかまる」は、「粒が大きい」「”へそ”が白く、用途の幅が広い」「豆腐や豆乳への加工適性に優れる」などの特徴を持っています。
2022年度(令和4年度)から一般栽培が開始されており、現在の主力品種である「フクユタカ」から「ふくよかまる」への切り替えが図られています。
大豆は国の戦略作物。交付金も活用を
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
国の戦略作物として増産が推進されている大豆は、交付金制度も充実しています。大豆栽培における収益向上をめざすなら、多収化と合わせて交付金も活用することが重要です。
2024年(令和6年)現在の主な交付金の2種類である「水田活用交付金」と 「畑作物の直接支払交付金」を紹介します。
水稲と大豆の輪作を支援する「水田活用交付金」
ふるさと探訪倶楽部 / PIXTA(ピクスタ)
水田を活用して販売目的で大豆を生産する農家や集落営農を対象としており、10a当たり35,000円が交付されます。交付対象の水田は、畦畔などの湛水設備や用水路などを有しているなどの要件を満たすことが必要です。
なお、2027年(令和9年)以降は、5年水張りルールが適応されるので、より綿密な栽培計画が求められます。
▼水田活用の直接支払い交付金について、詳細は以下の記事をご覧ください。
国内産大豆のハンデを埋める 「畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策)」
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
認定農業者・集落営農・認定新規就農者を対象に、「標準的な生産費」と「標準的な販売価格」の差額分に相当する交付金を直接支給するのが、「畑作物の直接支払交付金」です。
大豆のほかには、麦・てん菜・そばなども対象となっており、交付単価は作物によって異なります。なお、大豆の中でも「黒大豆」や「種子用に生産する大豆」は交付対象外です。
大豆の交付金は、事業者の区分や大豆の種類と等級によって、全部で下記の8種類に分かれます。
出典:農林水産省「経営所得安定対策」所収「令和6年(2024年)度 経営所得安定等の概要(パンフレット)」よりminorasu編集部作成
sammy_55 / PIXTA(ピクスタ)
大豆の10a当たりの収量は過去10年間は144~176kgで推移しており、2023年(令和5年)は169kgでした。この収量と大豆入札結果から算出した10a当たりの収入は約27,000円になります。
大豆生産量を増加させるためには、土作り・排水対策・適切な防除などの栽培技術に加え、近年リリースされた新品種を含め栽培地に適した品種選びも重要です。
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沢城アツシ
フリーランスのWebメディア編集者・ライターとして活動中。大学では農学を専攻し、大手・ベンチャー企業で研究職として15年勤務した経験を生かした、農業を中心とする科学系全般の記事執筆が得意です。その他にも、飲食店経営・不動産投資・金融サービスなどのWebメディアから企業のプレスリリースまで幅広い分野の執筆を手掛けています。