新規会員登録
BASF We create chemistry

大豆の収量を上げるには?単収目安と“高収益”実現へ向けた栽培手法

大豆の収量を上げるには?単収目安と“高収益”実現へ向けた栽培手法
出典 : kai/PIXTA(ピクスタ)

大豆生産においては、国や自治体によるさまざまな助成や技術開発が行われています。しかし、大豆は気候や環境の変化などの影響を受けやすく、収量や価格が安定しません。本記事では、大豆生産農家が受けられる助成を紹介するとともに、収量増加のコツについて解説します。

  • 公開日:

記事をお気に入り登録する

収穫期の大豆

Yoshi/PIXTA(ピクスタ)

大豆は国内需要が高く、自給力向上を図るための戦略作物として、国も生産を推進しています。交付金や経営のセーフティネット対策も充実しており、手厚い支援を受けられます。大豆生産農家には、これらを有効に活用しながら収量を安定的に増やすことが求められています。

大豆の10a当たり収量は? 期待できる収入の目安

すでに大豆を生産している農家も、これから作付けを検討している農家も、目安となる収量や収入を把握しておくことが大切です。そこでまずは、2020年産の大豆の作況調査から農林水産省がまとめた調査結果を見てみましょう。

大豆の作付面積(ha)の推移

出典:農林水産省「作物統計調査|作物統計作況調査(水陸稲、麦類、豆類、かんしょ、飼料作物、工芸農作物)」掲載「調査結果|長期累年」よりminorasu編集部作成

大豆の10a当たり収量の推移

出典:農林水産省「作物統計調査|作物統計作況調査(水陸稲、麦類、豆類、かんしょ、飼料作物、工芸農作物)」掲載「調査結果|長期累年」よりminorasu編集部作成

大豆の収穫量(万t)の推移

出典:農林水産省「作物統計調査|作物統計作況調査(水陸稲、麦類、豆類、かんしょ、飼料作物、工芸農作物)」掲載「調査結果|長期累年」よりminorasu編集部作成

調査結果によれば、全国の作付面積は14万1,700haで前年から1%(1,800ha)減少したものの、10a当たりの収量は154kgで前年比2%(2kg)上がり、全国の収穫量は21.9tで前年比1%(1,100t)アップとなっています。

作付面積が減少したにもかかわらず収穫量が増えた要因は、小規模の生産農家が減少した一方で、農地の集約化が進み、効率的で生産性の高い大規模経営農家が増えたことによります。

公益財団法人日本特産農産物協会が公表している「令和2年産大豆入札取引結果 総括表」によると、普通大豆の60kg当たりの平均落札価格は、全国平均で11,491円です。これらの結果から10a当たりの収入を算出すると、約29,568円となります。

令和2年産収穫後大豆の平均落札価格

出典:公益財団法人日本特産農産物協会「令和2年産大豆入札取引の結果」所収「令和2年産大豆収穫後入札取引結果 総括表」よりminorasu編集部作成

これは全国平均を基準とした数値で、あくまでも目安です。落札価格は品種や生産地域によって大きく差があります。

例えば、山形県産の中粒「エンレイ」の普通大豆平均落札価格は12,830円で、最も低価格な青森県産の小粒「おおすず」の6,950円と比べて2倍近くになります。

令和2年産収穫後大豆 品種別 平均落札価格

出典:公益財団法人日本特産農産物協会「令和2年産大豆入札取引の結果」所収「令和2年産大豆収穫後入札取引結果 総括表」よりminorasu編集部作成

また、同じ青森県産のおおすずでも、大粒では11,952円と高額です。

青森県産おおすずの価格差 大粒・中粒・小粒

出典:公益財団法人日本特産農産物協会「令和2年産大豆入札取引の結果」所収「令和2年産大豆収穫後入札取引結果 総括表」よりminorasu編集部作成

自身の地域と照らし合わせ、どの品種の大豆がどれくらいの価格で落札されているか、上記の総括表で確認してみましょう。品種選びの際の参考にもなります。

大豆は国の戦略作物。交付金も受けられる

大豆ほ場の農薬散布

川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)

大豆は麦やそば、なたね、加工用米などと並んで「戦略作物」と呼ばれ、自給力向上のために積極的な増産が推進されている作物です。

戦略作物に対し、経営所得安定対策として「諸外国との生産条件の格差から生ずる不利を補正する交付金(ゲタ対策)」と、「農業者の拠出を前提とした農業経営のセーフティネット対策(ナラシ対策)」の2つが実施されています。

ここでは、大豆農家が受けられる国からの交付金について、具体的に紹介します。

水稲と大豆の輪作を支援する「水田活用交付金」

水稲と大豆の輪作

ふるさと探訪倶楽部 / PIXTA(ピクスタ)

この交付金の対象者は、水田を活用して販売目的で大豆を生産する農家や集落営農で、交付単価は10a当たり35,000円です。交付対象の水田は、畦畔などの湛水設備や用水路などを有している必要があり、この要件を満たしていなければ対象となりません。

なお、2022年度(令和4年度)から2026年度(令和8年度)までの5年間に水稲の作付けを一度も行わない農地は、2027年度(令和9年度)以降、交付対象外になる方針で進められているため、注意が必要です。大豆との輪作であれば継続して交付されます。

これは、水稲栽培から畑作作物への転作を推進してきた従来の方針には反するものですが、区画を毎年変えながら地域ぐるみで転作をローテーションさせる「ブロックローテーション」を促すための方針と考えられます。

※詳細は、農林水産省の「経営所得安定対策」のページ 所収のパンフレット「経営所得安定対策等の概要(令和4年度版)」の16~20ページ「4 水田活用の直接支払交付金」をご確認ください。

国内産大豆のハンデを埋める 「畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策)」

大豆の中耕除草

川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)

日本での大豆栽培は、天候の影響を受けやすいリスクを抱えながらも、中耕など丁寧な作業を重ねて行われます。しかし、安価な外国からの輸入品に対抗するために、生産費に対して販売価格が低くなることも少なくありません。

そのような、外国との生産条件に格差があるため不利となっている作物を生産・販売する農家に対して、「標準的な生産費」と「標準的な販売価格」の差額分に相当する交付金を直接支給するのが、「畑作物の直接支払交付金」です。

交付対象者は認定農業者・集落営農・認定新規就農者とされており、経営規模や田畑の環境による要件はありません。ただし、集落営農については「組織の規約を作成していること」と、「大豆販売にあたっては共同の経理を実施していること」という2つの要件を満たす必要があります。

交付金の支払い方法は、生産量と品質に応じて交付される「数量払」を基本に、その年の作付面積に応じて交付される「面積払」を先払いとします。面積払を受けた場合は、数量払の交付の際にその分が控除されます。

数量払の単価は、対象作物の品質区分に応じて決められた算定式によってあらかじめ算出されます。なお、大豆の場合は黒大豆を除き、普通大豆1等~3等と特定加工用大豆の合格の4種に区分されます。

2022年度における交付単価は、普通大豆1等が10,830円、2等が10,140円、3等が9,460円、特定加工大豆合格が8,780円となっています。

面積払は「営農を継続するために必要最低限の経費が賄える水準」と定義され、交付対象者は当年産対象作物の作付けをし、数量払の交付申請を行った農家とされています。2022年度における交付単価は10a当たり20,000円です。

※詳細は、農林水産省の「経営所得安定対策」のページ 所収のパンフレット「経営所得安定対策等の概要(令和4年度版)」の8~10ページ「2 畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策)」をご確認ください。

大豆の収量はどう増やす? 高収益を叶える3つのポイント

大豆の収量を増やすには、どのような方法が有効なのでしょうか。ここでは、栽培手順の中で特に注意すべき3つのポイントを解説します。

1. 地力を向上する土作り

大豆の根粒

kelly marken / PIXTA(ピクスタ)

大豆は子実に多くのタンパク質や脂肪を含み、子実が十分に肥大し収量を増やすには、窒素をはじめとする多くの養分を必要とします。

大豆は根粒菌によって窒素固定を行いますが、その窒素固定能力は豆類の中でも特に高く、条件がよければ10a当たり30kg以上もの窒素を大豆に供給できるとされてます。

とはいえ、根粒菌があるから土壌中の窒素は不要というわけではありません。大豆は基本的に、まず土壌中の窒素成分を根から優先的に吸収し、不足分を根粒菌の窒素固定で補うためです。

また、大豆が着莢するには窒素だけでなく、カルシウムやマグネシウムなどの養分も多く吸収します。大豆は地力を消耗させる作物であり、安定的な収量増加を実現するためには堆肥や緑肥を十分にすき込み、地力を改善させる必要があります。

有機物を十分にすき込んだ土壌は、膨軟で(ふかふかとして)通気性・排水性に富むため、根の生長が促進され、土壌中の養水分の吸収も向上します。

さらに、根粒菌は窒素固定に酸素を必要とするため、通気性の改善によって根粒の窒素固定も高まります。こうして、地力の向上は安定多収につながるのです。

特に水田輪換畑においては、もともと湿度の高い土壌が多いうえに、畑地化することで土壌中の微生物が活発化し有機物を分解するため、地力低下とともに保水力や通気性といった土壌物理性の悪化などが懸念されます。

土壌診断も行いながら、必要な施肥をすることで地力の維持に努めましょう。

多収のための土作りには、土壌pHの調整も重要です。大豆の生育には、通常の畑地よりも高い土壌pH6.0〜6.5が適しており、酸性土壌では減収してしまいます。石灰質資材などを施用し、土壌診断の結果を適正値に矯正しましょう。

2. 湿害を回避する排水対策

水田転作畑の大豆ほ場 排水溝

田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)

湿害も、大豆の収量を大きく減少させる要因の1つです。播種時期が梅雨と重なるため、播種後に何日も雨が続き発芽不良や生育不良となったり、水はけが悪いために根腐れを起こしたりして、収量や品質が低下することが少なくありません。

湿害を回避するには、あらかじめほ場に排水設備を設置する必要があります。大豆のみを栽培している場合は前年秋か遅くとも4月までに、麦の後作として栽培している場合は麦の播種前か、麦の収穫後すぐに排水を行うとよいでしょう。

具体的には、播種前に用水路から排水路までをつなげる額縁排水溝や明渠(めいきょ)、弾丸暗渠(あんきょ)を整備します。

すでに排水設備が設置済みであっても、前作の作業中に溝が埋まったり踏み固められたりしている場合もあるので、必ず溝をさらう、暗渠を増やすなどの改善を行いましょう。

ほ場全体に本暗渠を設置したうえ、毎年1回弾丸暗渠を1m間隔の高密度で実施し排水性を高めている事例もあります。

排水設備を整えたうえで高畝栽培を行えば、ほ場表面の排水性も確保でき、湿害のリスクを抑えられます。

また、あえて耕起や中耕・培土を行わず、土壌表面を固く平らに保つことで表面排水を進め、降雨直後でも播種を可能にしつつ大幅な作業の省力化を図る「不耕起播種」の栽培技術も、近年注目されています。

▼大豆の不耕起播種についてはこちらの記事もご覧ください。

3. 栽培予定地に合った品種選定

大豆の病害虫防除作業

川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)

栽培地域の気候や環境に適した大豆の品種を選ぶことも、収量を左右する大きな要因です。品種選定にあたって重視すべきポイントとしては、主に以下の5点が挙げられます。

1)栽培地域の気候や作付け体系に適しているか
2)栽培地域の奨励品種に選定されているか
3)栽培地域に多発する病害虫への抵抗性を有しているか
4)大規模栽培のほ場においては、機械化に適した品種か
5)栽培予定地の気候と栽培歴に適した早晩性か

▼大豆の基本的な栽培暦について知りたい方は、こちらの記事を覧ください。

特に早晩性については、栽培地域の気候特性や発生しやすい病害虫、作付け体系などを考慮して品種を選びましょう。

例えば、「秋に台風や長雨が多く倒伏被害が発生しやすい地域では、その時期に熟期が重ならない品種を選ぶ」「梅雨明けに害虫の被害が多発する地域であれば、その時期に、被害が深刻化しやすい莢伸長期が重ならないような品種を選ぶ」といった具合です。

また、大豆の生産量1位を誇る北海道では、栽培時期が遅いと収穫前に早霜・積雪の被害を受ける恐れがあるため、9月中旬〜下旬に収穫できる品種を選ぶとよいでしょう。

基本的には地域の奨励品種に選定されている品種を選べば間違いありませんが、実需者のニーズに応じたり差別化を図ったりする目的で特殊な品種を導入する場合は、ここで挙げたポイントに注目することをおすすめします。

大豆のコンバイン収穫

川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)

大豆は気候や環境の影響を受けやすく、収量が不安定なため、栽培に取り組んでもすぐには収量が増えない場合もあるかもしれません。

それでも、交付金など国や地域のサポートを最大限に活用しながら、排水設備の完備や土作り、品種選定などを行って、安定的な収量増をめざすことは可能です。この記事で解説した内容を踏まえ、ぜひ大豆栽培の高収益化に役立ててください。

記事をお気に入り登録する

minorasuをご覧いただきありがとうございます。

簡単なアンケートにご協力ください。(全1問)

あなたの農業に対しての関わり方を教えてください。

※法人農家の従業員は専業/兼業農家の項目をお選びください。

ご回答ありがとうございました。

よろしければ追加のアンケートにもご協力ください。(全6問)

農地の所有地はどこですか?

栽培作物はどれに該当しますか? ※販売収入がもっとも多い作物を選択ください。

作付面積をお選びください。

今後、農業経営をどのようにしたいとお考えですか?

いま、課題と感じていることは何ですか?

日本農業の持続可能性についてどう思いますか?(環境への配慮、担い手不足、収益性など)

ご回答ありがとうございました。

お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。

大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

おすすめ