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【大豆】畝間の除草作業を省力化! 単収向上も目指せる「密植栽培」のススメ

【大豆】畝間の除草作業を省力化! 単収向上も目指せる「密植栽培」のススメ
出典 : 川村恵司/PIXTA(ピクスタ)

密植栽培とは、畝間を狭くすることで生育初期に大豆の葉で畝間を覆い、雑草の生育を防ぐ方法です。これにより、生育初期の除草のため必要とされていた中耕が不要になります。この記事では、具体的な密植栽培のやり方や注意点について詳しく解説します。

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大豆栽培では、収量に大きく影響する畝間の雑草対策が不可欠です。従来、農薬や中耕を組み合わせる方法が主流とされてきましたが、中耕にかかる時間や労力は大豆栽培農家の大きな負担となっています。そこで今、作業負担を大幅に軽減する「密植栽培」が推進されています。

大豆栽培において作業負担が大きい雑草対策

大豆の中耕・除草

川村恵司/PIXTA(ピクスタ)

大豆の安定生産では、播種から生育初期における雑草の防除が重要です。そのため、従来では「播種直後の土壌処理剤の施用」と「生育期の中耕・培土」によって雑草対策を行うことが推進されてきました。

しかし、中耕は培土と同時に行われることが多く、高い作業精度が求められるうえに、雨天の多い梅雨の時期に重なることも相まって、規模の大小にかかわらず多大な時間や労力を要します。

農林水産省の農業経営統計調査(2019年調査)の結果を見ると、10a当たりの作業別直接労働時間の平均は「耕起整地」が0.87時間、「播種」が0.57時間、「収穫」が0.73時間なのに比べ、「中耕除草」は2.37時間となっており、労働時間の4割近くを占めています。

栽培面積別にみても、どの区分でも中耕除草の割合が高く、3ha~5ha未満の区分では、1ha未満と同様4時間以上かかっています。

大豆作の直接労働時間 栽培規模別

出典:「農業経営統計調査 農産物生産費統計」確報「令和元年産農産物生産費(個別経営)」より minorasu編集部作成

この結果を見ても、大豆の栽培工程のうち、中耕除草に要する作業負担が農家にとって非常に大きいことがうかがえます。

また、中耕の主な目的は除草ですが、培土と同時に行うことで除草以外にも倒伏防止や通気性・排水性の改善、根や根粒菌の発育促進など多くの効果があるとされています。ところが、ほ場の条件によっては、これらの効果がほとんど得られない場合があることもわかってきました。

湿度が高く通気性の悪いほ場であれば中耕・培土は効果的なものの、もともと通気性・排水性の高い乾燥した条件のほ場では、除草以外の効果はほとんど期待できません。

つまり除草の必要がなくなれば、乾燥条件にあるほ場では中耕・培土を省略しても、それほど大きな影響はないといえます。

畝間の除草を省力化する「密植栽培」とは?

一面にひろがる生育初期の大豆

川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)

生育初期の除草作業を省力化する「密植栽培」技術について、まずはその概要や導入に適したほ場の条件などを詳しく解説します。

畝間を狭める密植栽培により、大豆の中耕除草作業を省略できる

作業負担の大きい中耕作業を省略するには、その主な目的である除草をほかの方法で補う必要があります。農薬ももちろん除草には有効ですが、すべての除草を農薬で行うと、ほ場が広いほどコストがかかります。

また、イネ科雑草や広葉雑草など雑草の種類や、一年生・多年生など生態の違いによって効果が異なるため、農薬だけによる除草は困難です。

そこで、国や多くの自治体が推進しているのが、大豆の密植栽培です。密植栽培は、耕起しないほ場に直接溝を切って播種する「不耕起播種」と併せて行うことが多く、「不耕起・密植栽培」や「不耕起・密条播栽培」などとも呼ばれます。

この技術では、大豆を密植栽培することにより、生育の初期段階から大豆の茎葉が畝間や株間を素早く覆うため、雑草抑制の大きな効果が期待できます。

慣行栽培では大豆が十分に生育し、葉が畝間を覆うまでに時間がかかることから、先に生えてくる雑草を防除する中耕が必要になりますが、密植栽培では中耕の出番がなくなるわけです。

さらに、不耕起播種を組み合わせることによって、中耕をしなくても倒伏防止の効果を得られたり、播種の適期実施や作業効率化がしやすくなったりするなど、結果として省力化と単収の向上が期待できます。

中耕作業に負担を感じたり、効果に疑問を感じたりしている大豆農家の方は、ぜひ導入を検討してみてはいかがでしょうか。

不耕起播種+密植栽培の導入が特に効果的なケース

麦の収穫期と大豆の播種期は重なる

Pro_KYOTO / PIXTA(ピクスタ)

不耕起播種と密植栽培の技術導入に適した大豆栽培の条件として、麦と大豆の二毛作を行っている農家であることが挙げられます。

麦の収穫期と大豆の播種期は重なるうえ、梅雨時期に当たるため作業ができない日も多くあります。そのため、従来の方法では大豆の播種適期を逃し、減収につながるケースも見られます。

その点、不耕起播種では播種前の耕うんをしないので、降雨によって播種を延期する必要がなく、麦の収穫で忙しい時期の作業競合も避けられます。大豆のみを栽培している場合でも、梅雨時期の降雨が多く、播種作業が遅れがちな地域では、播種適期を逃すリスクを軽減できます。

また、中耕・培土を行うと畝と畝間との凹凸が大きくなり、コンバインによる収穫時に収穫ロスや汚損粒が発生しやすくなる恐れがあります。その点、不耕起播種は中耕・培土を行わないことからコンバイン収穫に適しています。

導入に際しては、ほ場の整備や不耕起播種専用の播種機購入といったコストもかかります。そのため、効率的な栽培によって大幅に増収し、導入初期のコストが回収できる大規模経営に向いています。

裏を返せば、効率化によってコストを回収できない小規模な大豆栽培には向いていません。

加えて、中耕・培土を必要としない乾燥した土壌条件のほ場に向いていますが、地下水や排水路の水位が高く、湿害が起きやすいほ場には適しません。

【手順解説】 大豆における“不耕起狭畦密植栽培”のやり方

不耕起播種と密植栽培を合わせた技術は「不耕起狭畦密植栽培」とも呼ばれています。ここでは、その具体的な手順に沿って詳しいやり方を解説します。

1. 弾丸暗渠など、ほ場の排水対策を実施

額縁明渠

田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)

不耕起狭畦密植栽培を実施するには、透水性のよいほ場が適しています。そのため、土壌条件にかかわらず、弾丸暗渠(だんがんあんきょ)や額縁明渠(がくぶちめいきょ)の整備など排水対策は必須です。特に水田転換畑の場合は、確実に排水対策を講じましょう。

この技術は、中耕・培土を必要としない比較的乾燥した土壌条件に向くとはいえ、排水対策を講じなくてよいわけではありません。十分な排水対策をせずに栽培した結果、湿害にあったり、雑草が繁茂したりして栽培放棄せざるを得なくなる例もあるので、事前の排水対策はしっかりと行いましょう。

すでに暗渠や明渠、排水溝などを設置している場合でも、麦収穫の際に排水溝が崩れたり、土壌表面が締まったりしている場合があります。播種前に排水設備の状態を確認し、排水溝の修繕や暗渠の追加を適宜行いましょう。

2. 本圃準備:土壌改良資材による土作りや茎葉処理型の除草剤による雑草防除

堆肥散布機

masy / PIXTA(ピクスタ)

播種時に耕起しないため、土作りはあらかじめ済ませておく必要があります。麦との輪作を行っている場合は麦作の耕起時など、前作の施肥をするタイミングで、大豆作までを含めた十分な土壌改良資材や堆肥を施用しておくとよいでしょう。

また、耕起による除草ができないため、播種前の既存雑草には非選択性茎葉処理剤を散布しておくことも大切です。非選択性にすることで、多種類の雑草を防除できます。

3. 播種:不耕起播種に対応した播種機を用いる

密植栽培では、畝幅は30cmが基本です。密植栽培で増収が見込める栽植密度は、地域や播種時期によって異なります。例えば、播種が7月以降の場合は、晩播10a当たり20,000~25,000本程度とされています。

目安として、島根県における播種機別播種量基準によると、播種期が6月下旬までであれば栽植密度10a当たり12,000~15,000本、播種量は4.5~5.6kg。7月上~中旬であれば15,000~20,000本、播種量は5.6~7.5kgが適当とされています。

播種が8月まで遅れた場合は、主茎が短くなりがちでコンバイン収穫が困難となるため、10a当たり25,000本以上にして茎を伸ばします。ただし、その場合は倒伏しやすくなるため注意しましょう。

出典:島根県「水稲・麦・大豆指導指針(令和3年度)」 所収「大豆栽培技術」

▼麦・大豆の播種機についてはこちらの記事もご覧ください。

4. 播種時に土壌処理型除草剤を散布、その後も状況に応じて除草剤を使用

不耕起狭畦密植栽培には、大豆の生育初期の雑草を防除する効果が期待できます。それでもヒエ類やタデ類など、大豆の草丈を超える大型雑草やイネ科の雑草が繁殖することはあります。

それを防ぐために、播種時には長期にわたって効果の出る土壌処理型の除草剤を使用します。生育期にも雑草が目立ってきた場合は、必要に応じて茎葉処理剤を使用して防除します。

ただし、イネ科雑草用であれば機械による散布が可能ですが、非選択性茎葉処理剤を使用する際には、大豆にかからないように注意しなければいけません。機械での散布が難しい場合は、多少の手間がかかったとしても、手作業で丁寧に散布しましょう。

5. コンバインによる収穫

大豆 コンバイン収穫

川村恵司/PIXTA(ピクスタ)

不耕起狭畦密植栽培では耕起や培土をしないため、地表面が平らで固くなります。また、大豆の最下着莢位置も高くなり、倒伏も少ないためコンバイン収穫が効率よく行えます。

培土による汚粒の発生や収穫ロスといった収量減の要因を防げるため、結果として収量増加につながります。また、作業者の精神的負担軽減も大きなメリットです。

▼大豆の不耕起狭畦密植栽培の詳細については以下資料をご確認ください。

農林水産省「大豆のホームページ」「大豆300A技術」の項所収「3.関東地域 不耕起狭畦密植栽培技術」

より効果を高めるには? 密植栽培実施時のポイント

最後に、不耕起狭畦密植栽培の効果をより高めるために注意すべきポイントをご紹介します。以下の2点を押さえ、効果的な密植栽培を実現しましょう。

開花期以降の病害虫防除時は、できるだけ同一ルートを走行する

大豆 ブームスプレーヤによる防除作業

川村恵司/PIXTA(ピクスタ)

密植栽培では、開花期以降は葉で覆われて畝間が見えなくなります。そのため、病害虫防除などの際に乗用管理機で乗り入れると、踏みつけや巻き込みによって大豆に損傷を与えることが避けられません。

しかし、大規模栽培であればブームスプレーヤを使って散布するため、作業機の幅に対して一度の散布幅が広くなります。ほ場全体で見れば、散布時の機器による損傷が収量へ及ぼす影響は少なくなります。

つまり、作業中のロスや収穫ロスを合わせても、不耕起狭畦密植栽培のほうが全体の収量増加を十分に期待できるといえます。

さらに、播種時や生育初期の畝間がよく見える時期に、作業機の走行路を設定しておき、その後の作業時に同じ走行路をたどれば、作業中の損傷を最小限に抑えられます。

地下水位制御システムとの組み合わせでさらなる安定生産が可能に

「地下水位制御システム(FOEAS:フォアス)」とは、農研機構と株式会社パディが共同開発した、水田の地下水位を制御するシステムのことです。

水田に設置された暗渠管を排水だけでなく灌漑にも利用することで、地下水位を一定に保ち、湿害や干ばつ害を防いで作物の安定的な栽培を支援します。

ほ場の排水性が重要となる不耕起狭畦密植栽培では、湿害回避の効果もあるフォアスとの相性は非常によいとされています。

実際の研究成果を見ると、フォアスを採用したほ場において、耕起して広幅播種した場合、耕起して狭畦播種した場合、不耕起で狭畦播種した場合をそれぞれ比較したところ、不耕起狭畦播種の収量が最も多いという結果になりました。

出典:農林水産省 農林水産技術会議「フォアス圃場における大豆不耕起狭畦密植栽培の高位安定生産と病害抑制効果」

フォアスをすでに導入しているほ場や、今後導入を検討しているほ場であれば、不耕起狭畦密植栽培を行うことで、さらなる増収が期待できるでしょう。

▼フォアスについてはこちらの記事もご覧ください。

密植栽培は不耕起播種と合わせて行うことで、播種の際の耕うんや中耕作業を省略できます。さらにコンバイン収穫の作業も効率化できることから、大豆栽培における作業負担の大幅軽減も可能です。

播種時期に合わせて適切な密度に調整することで、慣行栽培より収量増が期待できるメリットもあります。

ただし、中耕・培土の効果である除草や排水の改善が得られないため、対策を別途講じなければいけません。

また、作業機によるロスも軽減するよう注意が必要です。密植栽培を導入する場合は、あらかじめ適切な除草・排水対策などを行い、大幅な省力化と収量アップを実現しましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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