麦・大豆の播種作業を省力化! 規模拡大を後押しする最新播種機6選
播種作業は効率化も大切ですが、発芽・生育率を上げることも重要です。麦・大豆の播種に適した播種機は多数開発されています。効率化を優先して発芽率が悪くならないように土壌や気候、種の特性に合わせ、最適な播種機を選びましょう。
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農地の集約・大規模化に伴い、各作業の効率化・省力化が進められています。特に大規模栽培に適した大豆や麦は、機械化による効率性が収量を大きく左右します。この記事では麦・大豆の播種作業に絞って、より効率化が実現できる播種機を紹介します。
麦や大豆の栽培に適した播種機の選び方
Bits and Splits - stock.adobe.com
近年の農地集約化推進に伴って、麦類や大豆の播種作業も機械化が進み、作業を大幅に省力化できる播種機が各メーカーから販売されています。農地の規模が大きいほど、機械化による省力化に高い効果が期待できます。
播種と一言でいっても、土壌の質によって耕起や畝立ての要不要、適した耕深なども異なります。また、種の性質によっても覆土の要不要、適した深さや株間、鎮圧するかしないかなどの違いがあります。
播種機の導入に当たっては、まず作型やほ場の環境、播種方法に対応しているかどうかを確認することが重要です。
そのうえで、「耕起や施肥など複数の作業を同時に行える」「輪作することが多い水稲・麦・大豆すべてに対応できる」などの省力化・低コスト化機能を加味して選ぶとよいでしょう。
麦・大豆の主な播種方法とその特徴
nobmin /PIXTA(ピクスタ)
まずは、麦・大豆栽培で行われている主な播種方法をまとめます。そのうえで、それぞれの方法に適した播種機を紹介します。
耕うん同時畝立て播種
「耕うん同時畝立て播種」は、大豆、麦ともに水田転換畑のような排水性があまりよくないほ場での播種に向いています。地下水位が高く排水が悪いほ場でも、畝上に播種すれば湿害を防いで、収量・品質の向上も期待できます。
耕起、畝立てと播種をそれぞれ行うのは多大な労力と時間がかかります。それらを一度に行えるのが、耕うん同時畝立て播種です。
作業は、逆転ロータリの爪の配列を変更し、耕起や整地作業をしていないほ場でも、高さ10~15cm程度の畝を立てながら耕うんと播種を同時に行います。爪の配列によって、1台で平高畝と単条畝のどちらも成型することができます。
播種機には通常、同時施肥機構が付いているため施肥も一工程で済ませることが可能で、播種に必要な作業を大幅に省力化できます。
また、砕土性に優れるホルダー型アップカットロータリによる耕うんのため、重粘な土質の土壌や、降雨直後のほ場環境でも作業でき、砕土率が高い点も特徴です。
作業機幅170cmの5条用、220cmの8条用など、耕うん幅の異なるロータリが市販されており、全国各地で普及が拡大しています。
不耕起播種
ふうび / PIXTA(ピクスタ)
近年、耕起を省略する不耕起栽培技術の開発が進み、それに伴い「不耕起播種」も広まっています。不耕起栽培は中耕や培土も含め一切耕起をせずに栽培する技術で、水田輪作による水稲・大豆・麦類の栽培で高い省力効果が得られます。
この方法が適用できるのは関東・東海・中国地域で、耕うんによって表面にクラスト(土膜)ができるカオリン系の土壌に向いています。
また、堆肥のすき込みなどを行わないため、前作で十分に施肥をし、土壌構造がある程度発達したほ場でないと十分な効果が期待できません。なお、この栽培方法の主目的は省力化であり、収量は慣行栽培よりもやや劣る点には注意が必要です。
不耕起播種機には、駆動ディスクでクラストを割いてY字型の播種溝を作り播種する「汎用型不耕起播種機」、ロータリに播種用の幅の狭い爪を付けて播種溝を作る「乾田不耕起直播機」、播種溝用、施肥用、根伸張亀裂用の3種の特殊な爪で播種をする「トリプルカット不耕起播種機」など、各地域でその土地に合った播種方法が考案されています。
不耕起播種の主なメリットは2点あります。耕起をしないので土壌が固く地耐力に優れ、降雨後も早期かつ容易に播種が可能なため、播種適期のうちに作業を行える点、そして、麦の収穫期と大豆の播種期、麦の播種期と大豆の収穫期など、作業が競合する時期に労働時間をかなり軽減できる点です。
注意点は、降雨には強いものの湿害を防ぐためには明渠(めいきょ)・暗渠(あんきょ)を整備し排水に心がけること、そして、耕起の目的である雑草や病害虫の防除効果はなくなるため、別途対策が必要なことなどがあります。
雑草対策としては、麦類は農薬による防除が現実的です。大豆の場合は、排水対策をしっかり行ったうえで、通常60cmの条間を30cmにして密植する「狭畦栽培」を併用することで、葉を茂らせて雑草を抑制する「不耕起狭畦栽培技術」を適用する場合もあります。
また、前作が水稲や麦類の場合には、収穫時にコンバインでワラを細かく裁断し、ほ場全体にムラなく撒くことで、雑草の抑制や種の覆土代わりとして役立ちます。
散播(全面全層播き/表層散播)
「散播」は主に麦類、ソバ、水稲向けの播種方法で、「全面全層播き」と「表層散播」があります。大豆のような大粒種子は、散播時に土壌表面ではじかれてむき出しになったり、播種深度にムラが出たりするため、この方法は向きません。
水稲や麦類は条播きが一般的ですが、収量増のため播種量を増やしたいと思っても、機械的・物理的に条数を増やすには限界があります。そこで、散播によって播種量を増やすのが有効です。
全面全層播きは、まず動力散粒機などで種子と肥料を均一に散布し、その後、ロータリやハローを使って5cm程度に浅く耕起撹拌することで、種子の混和・覆土・鎮圧を一工程で行う省力的な播種方法です。
ドリル播きよりも播種の深度にムラが出て出芽・生育率が劣り、根張りが浅く倒伏などのリスクも高まるため、やや多めの10a当たり10~12kgの播種量を見込むとよいでしょう。
表層散播は、土壌条件が過湿で耕起できない場合に散播する方法です。全面全層播きよりもさらに根張りが浅くなり、倒伏や凍上害が出やすいので、やむを得ない場合に限られます。
「耕うん同時畝立て播種」が可能な播種機
川村恵司 /PIXTA(ピクスタ)
各地で考案された播種方法には、それぞれ適した播種機が必要です。そこで、播種方法ごとにおすすめの農機を紹介します。まずは、耕うん同時畝立て播種ができる播種機を紹介します。
ニプロ アッパーローターBUR2210H
松山株式会社のブランドであるニプロの「アッパーローターBUR2210H」は、農研機構中央農業総合研究センター北陸研究センターの研究成果を活用し開発した製品です。砕土性に優れ、作物の生育に最適な、表層部は細かく下層部はそれよりも粗い二層構造を作ります。
播種機に取り付け、爪の配列を変えることで、水田転換畑での大豆や麦類の耕うん同時畝立て播種が可能です。畝立てにより、地下水位よりも高い位置に播種できるので、湿害から大豆や麦の発芽・生育を守ります。
なお、「BUR2210H」では、3畝畝立耕、普通耕、平高畝耕の3種ができます。価格は非公表です。
松山株式会社「ニプロ アッパーローター BUR10シリーズ」
「不耕起播種」に対応した播種機
ふうび /PIXTA(ピクスタ)
次に、不耕起播種ができる播種機を2つ、耕起、不耕起両方に対応する機種を1つ紹介します。
アグリテクノサーチ 不耕起対応高速播種機NTP-2/NTP-4
アグリテクノサーチ株式会社が大規模ほ場での作業効率向上のために、農研機構との共同研究成果を活用して開発したのが、高速汎用播種機&施肥播種機シリーズ「クリーンシーダNTP」です。
水田をフル活用し、乾田直播で使える優れた機能を備えています。NTP-2は2条用、NTP-4は4条用で、このほかに6条用と8条用があります。NTP-2、NTP-4は大豆、ソルガム、デントコーンが適応種子で、NTP-6、NTP-8はこれらに加えて水稲や麦、ソバ、牧草に適応します。
最高時速8kmの高速作業でありながら、「種子分離」と「放出」のダブル播種プレートを採用し、欠株の少ない、高精度の高速点播を実現します。覆土装置はスイッチ1つで切り替えられ、不耕起ほ場で作業する際には簡単にOFFにできます。
不耕起ほ場で作業した場合の作業能率実測値は、NTP-2で1時間当たり64a、NTP-4で130aです。価格は非公表です。
アグリテクノサーチグループ Youtube公式チャンネル「トラクタ用 不耕起対応 高速汎用播種機【NTP-6AFP/NTP-8AFP】」
ヤンマー ジョンディアグレンドリルJD-1590
ヤンマーホールディングス株式会社が開発した播種機が「ジョンディアグレンドリルJD-1590」です。
確実に溝の底に種子を落下させる「シードブーツ」、13~89mmの深さに13段階の調整が可能な「ゲージホイル」、播種後の覆土を適度に鎮圧し、保水性も高めることができる「ラバープレスホイル」、4段階に調整でき、鋳物製で不耕起でもしっかり土をかぶせることができる「覆土輪」を備え、適度な鎮圧で均一な発芽を促進します。
「アクティブダウンプレッシャーシステム」という機能により、ほ場条件に関わらず、油圧で設置圧を調整できるのが特徴です。そのため、約75kgから204kgまでの接地圧を設定でき、耕起・不耕起どちらのほ場にも対応できます。
種子の繰り出しローラーは溝幅が広く、麦やソバだけではなく大豆のような大粒種子も適応します。価格は非公表です。
ヤンマーホールディングス株式会社「ジョンディアグレンドリルJD-1590」
ニプロ 汎用高速播種機NSX800
松山株式会社のブランド「ニプロ」の汎用高速播種機「MAX800」は条件がよければ時速10kmでの高速播種が可能です。モーター駆動の繰り出し部分により、高速でありながら精度の高い播種を実現します。播種と同時に施肥も可能です。
種子は米、麦、大豆に適応し、ホッパーの容量は肥料300L、種子90L、播種だけをするなら370Lと大容量で、大規模なほ場の作業も効率的にこなせます。
溝切はアッパー回転のコルターで、条間は30cmの固定、溝の深さは12cmの深さから、1~2cmの乾田直播にも対応しています。ほ場条件によりますが、不耕起播種も可能です。価格は非公表です。
松山株式会社 Youtube公式チャンネル「ニプロ汎用高速播種機NSX800シリーズ」
「散播」が行える播種機
麦や米の散播を一工程で行える播種機を紹介します。
佐藤商会 電動施肥播種機
先述の通り、散播の全面全層播きは、はじめに種子や肥料をまんべんなく撒いて、その後ロータリやハローを用いて撹拌するという2つの工程を要します。深度にムラが出やすく、出芽率や生育率が悪くなるという問題があります。
この工程を1度で済ますことのできる播種機が、株式会社佐藤商会が農研機構の研究をもとに開発した「電動施肥播種機」です。
散粒器によって播かれた種子は、そのあとでロータリから砕土され飛散する土に覆われます。このとき、散粒器を約45°に傾けることによって種子の落下方向を分散させ、まんべんなく均等な全面播きを実現します。
また、ロータリの爪を替えることで、平畝、高畝を選べます。電動施肥播種機による散播は、耕起をしないので降雨直後でも作業が可能なことや、水稲、麦類とも収量に問題ないことが確認されています。
ただし、慣行栽培と比較して倒伏のリスクが上がるので、耐倒伏性のある品種を選ぶなどの対策が必要です。価格は非公表です。
株式会社佐藤商会 Youtube公式チャンネル「ばら撒き電動施肥播種機」
耕うん・播種・施肥を同時に作業できる「一発耕起播種機」にも注目
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
最後に、実用化したばかりの一発耕起播種機を紹介します。
クボタ 一発耕起播種機トリプルエコロジー
株式会社クボタの一発耕起播種機「トリプルエコロジー」は、大規模なほ場で水稲・麦・大豆の輪作を行う農家の生産コスト削減や作業の省力化を実現するために開発された播種機です。麦や大豆の播種だけでなく、水稲の乾田直播にも対応できます。
耕起、砕土、播種、施肥の4つの工程を一度で行うことができ、実証ではこれに除草剤を加え、5つの工程を行った例もあります。工程を一度で済ますことにより、作業負担や時間が短縮され、燃料にかかるコストも削減できます。
さらに、この1台があれば、米、麦、大豆の播種すべてに使えるので、何台も大型農機を準備する必要がありません。
トリプルエコロジーはKTBM2200E-A、KTBM2200E-B、KTBM2200E-C、KTBM2200E-Dの4機種あり、いずれも耕幅2200mm、耕深80mm(最大120mm)です。
末尾のA~Dは提供ブランドでA、Bが松山株式会社、C、Dがアグリテクノ矢崎株式会社です。対応トラクターはAのみ異なりますが、B、C、Dは共通です。
製品の価格は、Aがロータリ装着方法0L~4Lで3,286,800~3,385,800円、Bが同じく2,757,700~2,856,700円、Cが同じく2,834,700円~2,933,700円、Dが同じく2,414,500~2,513,500円です。
なお、すべて新品の価格です。購入費を抑えたい場合は時間を置いて中古品を探してもよいでしょう。
株式会社クボタ Youtube公式チャンネル(TheKubotaChannel)「【クボタソリューションレポート】機械の汎用利用~麦収穫・乾田直播播種・鎮圧~」
麦・大豆・水稲を輪作する農家にとって、収穫と播種が重なる時期は目の回るような忙しさでしょう。そんな農家の悩みを解決すべく、各農機メーカーから収量や品質は守りつつ、作業量や時間、コストを削減できる播種機が開発されています。
それぞれ適応する地域やほ場の条件が異なるので、自分のほ場に合った一台を見つけ、播種作業に導入してみてはいかがでしょうか。
佐賀県 眞木様
■栽培作物
米・小麦・大麦・大豆
▷限られた人員で作物を育てているため、作業を効率化したい
▷高齢化により、共同の管理機を運転できる人が少なくなっている
▷地域で管理している農地以外に、自身の農地管理やさまざまな役職の兼務で多用なため、作業の効率化を図りたかった
▷ザルビオの各種マップを作業員と共有することで、作業計画が立てやすくなった
▷ザルビオの作業記録を出力することで、農協提出用の書類作成時間が90%削減
▷地力の弱い場所に肥料を撒けるようになったため、収量が増加
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。