大豆の栽培暦は? 収量を上げる、生育ステージ別・大豆栽培マニュアル
国産大豆の需要は高く、水稲の転作用の主要作物としても国や自治体によって生産量向上が図られています。しかし、天候などの影響を受けやすく、生産量が安定しないことが難点といえます。収量確保には、地域の気候に適した品種を適切な栽培暦に沿って栽培することが大切です。
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大豆の収量は気候の影響を強く受けますが、播種の遅れや多湿など、栽培環境によっても大きく左右されます。そこで、この記事では大豆の基本的な栽培暦を生育ステージごとに詳しく解説します。各地域の気候や品種に沿った、適切な栽培計画を立てるための参考としてご活用ください。
播種や収穫の時期はいつ? 大豆の栽培暦
大豆は日本各地で地域に適した品種が栽培され、それぞれ独自の栽培暦があります。また、品種の早晩性によっても播種や収穫の適期が異なります。
ここで解説する栽培暦は、主に温暖地における大豆の一般的な作型のものです。あくまで大豆栽培を検討する際の目安とし、実際の栽培に当たっては地域の農業センターなどで栽培マニュアルを確認しましょう。
温暖地(中間地)における、大豆の基本栽培スケジュール
Nagawa / PIXTA(ピクスタ)
大豆の栽培暦では、播種時期と収穫時期が重要です。特に水稲栽培も並行して行っている場合は、水稲の田植えや収穫と重ならないように作業時期を調整し、事前によく計画を練りましょう。
大豆の生産量としては北海道が圧倒的ですが、温暖地での転作対策による水田作も多くを占めています。そこで、まずは温暖地の栽培スケジュールを見てみましょう。概ね6月中旬~下旬に播種し、10~11月中旬に収穫する作型が一般的です。
ただし、同じ県内でも平坦地と高冷地によって適期は異なり、冷涼な地域では適期が少し早まります。例えば、静岡県で晩生品種「フクユタカ」を栽培する場合、平坦地では6月下旬~7月上旬、高冷地では6月中旬が播種適期とされています。
晩生系の大豆品種 フクユタカ
s.sakai / PIXTA(ピクスタ)
北海道などの寒地や福岡などの暖地では地域の情報も確認を!
北海道 6月 発芽したばかりの大豆
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
大豆の主要産地である北海道や宮城、秋田など寒冷な地域では、播種時期は温暖地よりも少し早い5月中旬~下旬で、遅くとも6月上旬までに終わらせます。
収穫時期は10~11月中旬で温暖地とほぼ同じですが、冷害や降雪害が心配される地域では、収穫適期に入ったら速やかに収穫しましょう。
静岡など東海や四国南部、そして佐賀や福岡など九州の暖地では、反対に播種時期は遅くなり、6月下旬~7月中旬が適期です。
特に平坦地では、6月中旬に早播きすると蔓化して倒伏しやすくなり、8月下旬に播種すると生育不足や収穫不能になってしまうため、適期を厳守することが重要です。
大豆は品種によって生態特性が大きく異なり、品種を選ぶことで播種時期をある程度調整できます。どうしても播種時期がずれる場合は、その時期に適した品種を選ぶとよいでしょう。また、晩播の場合は適期播の播種量よりも5割程度増やし、株間も狭くして植栽密度を高めます。
福岡県 10月 黄化した大豆
mico / PIXTA(ピクスタ)
【生育ステージ別】 収量アップをめざす! 大豆の栽培管理で押さえたいポイント
大豆の収量を上げるための栽培管理のポイントを、生育ステージ別に解説します。
なお、ここで紹介する農薬は、2022年5月現在、大豆に登録のあるものです。実際の使用に当たっては、必ず使用時点での登録を確認したうえで、ラベルをよく読み用法・用量を守って使用してください。
【ほ場の準備】 土作りと排水対策
kelly marken / PIXTA(ピクスタ)
大豆栽培のための土作りで重要なポイントは、3つあります。
1.pH値6.0~6.5に調整すること
2.窒素過多にしないこと
3.排水性を高めること
大豆は中性に近い土壌を好むので、土壌診断を行ったうえで適量の石灰質資材を施用し、pH値を調整しましょう。
また、大豆は主に根に付く根粒菌の窒素固定によって窒素を吸収します。この根粒菌の着生をよくするためには、窒素成分は多すぎても少なすぎてもよくありません。特に水田土壌はもともと肥沃で保肥力が高い場合が多いので、転換1年目は窒素過多にならないよう適切な施肥が重要です。
土壌の質によって施肥成分などの適正値は異なるため、各都道府県の農業センターなどが出している大豆栽培の手引きなどを参考に、それぞれのほ場の土壌診断に基づいた施肥を行いましょう。
転作を繰り返していると、次第に地力が低下し、収量が減ってしまいます。地力を高めるために、堆肥や発酵鶏ふんの適切な施用も欠かせません。
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
大豆栽培の準備を行う際には、排水性を高めることが重要なポイントになります。暖地の場合は播種時期が梅雨に重なって降雨が多いため、出芽や苗立ちを安定させるには、とにかく排水をよくすることが不可欠です。
水田作の場合は排水が悪い土壌の場合もあるので、事前に額縁排水溝や明きょ、暗きょを整備し、高畝栽培で排水対策を徹底します。額縁排水溝の設置などには国や自治体によって助成制度が設けられている場合もあるので、農業センターに問い合わせてみてください。
【播種前】 種子消毒で病害虫を防除
大豆にはモザイク病や紫斑粒病、茎疫病、苗立枯れ病などの種子伝染病害やタネバエ、フタスジヒメハムシなどの虫害があり、収量を大きく減らす要因となります。
これらの病害虫を防除するために、播種前に種子消毒を行うことも重要なポイントです。種子消毒は50℃で5~10分の温湯浸漬を行うか、「クルーザーMAXX」などの農薬による塗沫処理が有効です。
また、播種前にできる予防として、「ダイアジノン粒剤5」などを土壌混和するとタネバエ・ハムシ類の防除対策になります。
【播種後】 雑草防除と鳥害対策
kikisorasido / PIXTA(ピクスタ)
次に重要となるポイントは、生育初期の雑草防除です。
大豆の播種時期は気温が高いため、播種後すぐに雑草が発生しやすいうえに生育も早くなります。このため、雑草の多いほ場では播種前に除草しておきましょう。生育中は中耕除草や培土と合わせて除草剤を使用すると、除草効果が上がります。
除草剤は、雑草の種類によって効果が異なります。また、大豆の生育段階によっても適用が異なるため、地域や時期に合った農薬を選定しましょう。
例えば、「プロールプラス乳剤」や「エコトップP乳剤」は播種後すぐに使用でき、「バスタ液剤」は播種前または播種後出芽前に全面散布、本葉5葉期以降収穫28日前までに畦間・株間散布で一年生雑草の除草に使用できます。イネ科の雑草には「ワンサイドP乳剤」や「ポルトフロアブル」の散布が有効です。
また、播種後10~14日の間、本葉が展開するまでの期間はハトによる被害にも要注意です。
対策としては、防鳥網やテープで侵入を防ぐほか、ハトが大豆よりも好む小麦種子を代替餌としてほ場の近くに撒いたり、近隣の大豆畑と同時に播種し、できるだけ大豆の出芽を揃えることで一ヵ所に集まらないよう分散させたりします。
マネキンや目玉風船を設置したり、ハトが集まりやすい朝夕の時間に見回りをしたりしてハトを脅すのも効果があります。また、忌避剤の「キヒゲン」などを種子に粉衣させるのも有効です。
【生育期】 中耕・培土の実施
川村恵司 /PIXTA(ピクスタ)
生育期の中耕・培土も大豆栽培には欠かせない重要なポイントです。
中耕と培土を同時に行うことで、雑草を防除し、土壌の通気性改善により根粒菌の活動を促し、根が発達することと土を株元に寄せることによって倒伏防止効果が生まれます。地表排水を向上させる効果もあり、大豆の品質・収量アップに欠かせない作業です。
中耕・培土は播種後25~30日ほどで本葉が4~5枚、草丈が30cm程度になるまでの間に2回ほど行います。開花期以降は、伸びた根が絶たれてしまいかえって減収になるため行いません。
最終的に10cm程度、初生葉が隠れる程度までしっかりと土を盛り、高さを揃えると収穫時にコンバインによる作業効率が上がります。また、培土後は溝と排水溝が埋まらないように連結しておきましょう。
【開花期~子実肥大期】 追肥と畦間灌水の実施【開花期~子実肥大期】 追肥と畦間灌水の実施
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
開花期以降は、大豆の要水量が大きくなります。また、同時期に梅雨明けして温度が上がり干害の危険性が高まるため、この時期の「畦間灌水」も重要なポイントです。
この頃の大豆は花芽分化期や結莢期に当たり、水分が不足すると落花・落莢や不稔莢が発生したり子実が十分に肥大しなかったりして収量減につながります。
転換畑の畦立て栽培の場合は、用水路から明きょや排水溝に水を流す畦間灌水が適しています。目安として10日以上晴天が続く場合は1週間に1度程度、朝や夕方の涼しい時間に実施します。1回の灌水量は30mmくらいにしましょう。
ただし、上記はあくまでも目安です。実際に、土壌の乾き具合や大豆の萎れ具合をよく観察し、適時灌水を行ってください。畦間灌水が適さないほ場では、散水灌漑を行います。
また、開花期以降は窒素吸収量も増えるので、土壌の窒素養分が十分でない場合は、開花期に10a当たり4~5kgの窒素を株元に追肥することで収量アップにつながります。
【収穫期】 適期の収穫~乾燥
nobmin / PIXTA(ピクスタ)
収穫に当たっては、適期を正確に見極めることが重要なポイントです。
刈り取り適期の目安は、「葉が黄変して枯れ、枝が手でポキッと折れ、莢の色が変わって振るとカラカラと音がするようになった頃」と一般的にいわれます。豆に爪を立てると爪痕が残るくらいの堅さになっています。
収穫に使用する農機によって適する水分量は異なりますが、コンバイン収穫の場合は、枝水分50%以下、子実水分18%以下が適期といわれ、上記の目安のような状態になります。
この時期よりも早いと子実や枝の水分が多すぎ、潰れ粒などの損傷粒や汚粒やしわ粒が発生しやすく、品質低下につながります。
反対に収穫が遅すぎると、裂莢になって収量が減ったり、降雨に当たってカビが発生し品質が低下したりする場合があります。また、収穫時の割れ粒や傷粒が増えます。適期になったらできるだけ短期間に収穫を終えましょう。
収穫前には雑草や青立ち株を取り除いておくのもポイントです。汚粒の発生を防ぎ、作業効率がアップします。また、選別機を使って屑粒や被害粒の除去を徹底し、粒径の選別や汚粒のクリーニングも丁寧に行うこと、乾燥は時間をかけて慎重に行うことが品質アップのコツです。
愛知県 都築様
■栽培作物
米・小麦・大豆
▷記録の蓄積による作業効率化
▷タスクの管理
▷農作業の記録や情報伝達に不足を感じていた
▷記録の蓄積がないことで、作業や計画の効率化が図りにくかった
▷紙のマップで管理していた雑草防除などの作業効率が大幅にアップした
▷写真付きのメモを残せるので、ほ場で異変を後で振り返りやすくなった
▷タスク入力ができることでPDCAサイクルが回しやすくなった
nobmin / PIXTA(ピクスタ)
大豆栽培で特に注意したい病害虫と、防除時期の目安
大豆栽培において収量を保つために、特に注意すべき病害虫である「マメシンクイガ」「カメムシ類」と「紫斑病」について、特徴と防除方法を説明します。
開花7日後から「マメシンクイガ」や「カメムシ類」の防除農薬を散布
大豆のカメムシ類 被害粒
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
莢や実に被害をもたらす害虫を莢実害虫といい、収穫前の子実に大きな影響を与えるため防除が重要です。ここでは「マメシンクイガ」「カメムシ類」の防除について説明します。
「マメシンクイガ」は北海道や北東北などの寒冷地で注意すべき寒冷地系害虫です。成虫は8月中旬から9月上旬の間に発生し、莢伸長期の莢の上に産卵します。幼虫はふ化後に莢の中に入って子実を食害するため、被害粒は虫食いになり品質が著しく低下します。
「カメムシ類」は温暖地で注意が必要な暖地系害虫です。マメ科植物では、特にホソヘリカメムシとイチモンジカメムシが寄生しやすいため、発生に注意しましょう。
成虫、幼虫とも口針を莢に刺し込んで吸汁するため、莢の落下や扁平による収量低下、子実の変形、変色による品質低下につながります。
防除には農薬の散布が有効です。どちらの害虫にも共通して適用のある農薬は多数あり、「エルサン乳剤」や、残効性の高いピレスロイド系殺虫剤の「トレボン乳剤」の散布が効果的です。
(左)ホソヘリカメムシ成虫(体長16mm) (右)イチモンジカメムシ成虫(体長10mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
開花15日後には「紫斑病」の適用農薬を散布しよう
収量を安定的に確保するためには、「紫斑病」の被害を軽減することも重要です。紫斑病は糸状菌(カビ)を病原とする病害で、種子感染します。発芽と同時に子葉を侵し、子葉にできた病斑から周囲に感染を広げます。
感染すると、葉、茎、莢、子実に発生し、発生場所の表面に紫褐色の病斑を形成します。莢に発生すると、はじめは2mm程度の小斑点ですが、莢が黄化する頃に急速に病斑が拡大します。子実に現れた場合はへそを中心に紫色の病斑が発生し、悪化すると種子全体が紫色になります。
降雨が多い時期に発生しやすく、真夏の間は発生が止まりますが、9月頃に再び下位葉から発生し、子実に感染します。収穫が遅れると、それだけ子実への感染が広がるので、感染が見られるほ場では適期になったら速やかに収穫しましょう。特に、降雨で感染が広がるので要注意です。
防除には、抵抗性のある品種を選ぶほか、種子消毒をすること、連作を避けることが重要です。また、農薬による防除も有効で、特に「開花終期」と、それから15日後頃の「莢伸長後期」、その時期から15日後頃の「子実肥大中期」が重要な防除のタイミングです。
大豆に登録のある農薬には、「Zボルドー」や収穫前日まで使える「ベンレート水和剤」など多数あります。適切に使用して被害の拡大を防ぎましょう。
大豆 紫斑病の被害粒
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
大豆は需要が高く、生産拡大を求められているものの、収量が安定しないことから生産量が伸び悩んでいます。しかし、国や自治体による積極的な支援もあり、品種改良や栽培技術も目覚ましく進んでいます。
収量を上げるポイントを押さえて適切な栽培に取り組み、安定的な収量確保をめざしましょう。
▼大豆の自給率や需要についての記事もご覧ください。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。