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【カブ農家のリアル】年収目安や栽培のコツは? 産地に学ぶ成功ノウハウ

【カブ農家のリアル】年収目安や栽培のコツは? 産地に学ぶ成功ノウハウ
出典 : NOV / PIXTA(ピクスタ)

カブは土壌を選ばないといわれ、全国各地で栽培されています。地域によっては、露地栽培やハウス・トンネル栽培を組み合わせ、一年中生産できます。農業への新規参入や水田転作の作物としても、カブ栽培は比較的取り組みやすい作物です。

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カブ栽培に取り組み収益を上げるには、基本的な栽培方法だけでなく、目標とする経営指標を把握しておくことが重要です。そこで本記事では、カブ農家の年収の目安や栽培のコツを、データや事例を交えながら解説します。

カブ栽培の特徴

カブ ハウス栽培

annchan / PIXTA(ピクスタ)

カブは冷涼な気候を好む作物で、一般的には秋播きが生育に適しています。しかし、トンネル栽培、ハウス栽培も取り入れた作型の開発が進み、春播き、夏播き、秋播き、冬播きの4つの作型が確立しています。

そのため、生産地の気候にもよりますが、気温が高い7〜9月以外はコンスタントに収穫・出荷が可能です。また、夏場は病害や高温の影響で品質が低下する傾向にありますが、品種や生育環境を工夫し、周年栽培している地域もあります。

ただし、品種や気温によっては播種から収穫までの期間が30〜50日程度と短いため、気象の影響を受けやすいという難しさもあります。

カブの代表的な産地

カブは北海道から九州まで、多くの地域で栽培されています。

千葉県や埼玉県ではほぼ一年中出荷されており、そのほかの地域でも、気温が高い4〜10月は青森や北海道などの冷涼地から出荷され、気温が低い10〜3月は京都や福岡などの温暖地から出荷されています。

栽培されている主な種類

カブは古くから日本各地で栽培されており、産地によってさまざまな特徴を持つ種類があります。一般的には、大きさを基準に「大カブ」「中カブ」「小カブ」と呼んだり、色で分けて「赤カブ」「白カブ」「青カブ」と呼んだりします。

現在、市場流通の主流となっているのが使い勝手のよい「金町小かぶ」です。そのほか、小カブの「玉里」「白涼」や、京都で栽培されている大カブの「京千舞」、西日本で多く栽培されている中カブの「天王寺カブ」などがあります。

10a当たり収量と、カブ農家の年収目安

カブ 収穫 露地

papa / PIXTA(ピクスタ)

農林水産省「令和3(2021)年産 作物統計調査」によると、カブの10a当たりの全国平均収量は2,700kgです。また、東京都中央卸売市場の統計によれば、令和3(2021)年のカブ1kg当たりの平均価格は128円です。

これらのことから、カブ栽培10a当たりで得られる粗収益の目安はおよそ35万円と算出できます。ほ場の規模を40a、所得率を50%と仮定※した場合、粗収益は約138万円、所得の目安は約69万円と計算できます。
※参考:千葉県「農業経営基盤強化の促進に関する基本方針の変更について(令和5年6月)」所収「第3新たに農業経営を営もうとする青年等が目標とすべき農業経営の基本的指標」

経営指標は、産地や品種で値が変化します。自身のほ場環境に近い経営指標を知りたい場合は、都道府県や市町村の経営指標などを参考にしてください。

出典:
農林水産省「作物統計調査|作況調査(野菜)|確報|令和3年産野菜生産出荷統計」
東京都中央卸売市場 「品目別取扱実績(かぶ)」

作型や栽培方法は? カブ農家の経営事例

カブ農家はどのように経営を成り立たせているのでしょうか。作型や栽培方法などを2つの事例から紹介します。

カブ専作で50年! 年間230日出荷する農家の事例(千葉県柏市)

まず、カブ生産量日本一を誇る千葉県柏市で、50年以上カブを作り続けているカブ専作農家の事例を紹介します。木村氏は家族4人と繁忙期のみのパート2人で、露地やハウスを含む250aの規模でカブを栽培しています。

毎年3作の小カブを作付けし、8月を除く週5日、年間では220〜230日出荷しています。ただし、連作障害を抑えるために、ローテーションで緑肥作物も栽培するそうです。

栽培品種は、「白涼」や「夏の雪」など4〜5種類を季節や場所によって使い分けています。カブ栽培では根こぶ病が問題となることがあり、抵抗性を有する品種の検討にも力を入れていました。

木村氏は、カブ農家が高収入を目指す上では「出荷量×価格」を基本に置くこと、そして、出荷量と価格の兼ね合いが重要と考えています。

そして、出荷量は農家の努力で、価格は主に市場で決まります。

出荷量は、自然の影響も大きく、当然、不作の時期はあります。それでも、品種選定、土づくり、防除を徹底し、また、複数の作型を組み合わせることで、リスクを減らすことができます。

価格は、カブは大きさでS~2L※までの階級に分けられますが、基本的に2Lが最も高く、Sは最も安くなります。さらにSは出荷調整の作業量が増え、時間もかかります。したがって、単に収量を増やすだけでなく、2L割合を高くできるかが農業所得を増やすポイントになります。
※出荷規格はカブの種類や地域により異なります

こうした考えのもと、木村氏は、高い農業所得率を維持しながら営農を続けてこられました。

現在では、栽培したカブの販路を開拓するため、近隣農家と協力して会社を設立し、直売所「かしわで」の経営にも取り組んでいます。「かしわで」の発展を目指しつつ、毎日、ほ場を見回り、カブのことを考えているそうです。

出典:
一般社団法人全国農業改良普及支援協会、株式会社クボタ「カブ作りひとすじに50年 直売所開設にも参画、生涯現役を日々実行」
一般社団法人農山漁村文化協会「一般社団法人農山漁村文化協会|野菜|カブ」所収「周年栽培(白鷹,白涼など)○播種方法の緻密な使い分けによる均一発芽○土中の水の動きをよんで土ならし○栽培時期によって施肥量を細かくコントロール 千葉県柏市 木村多喜雄」

気候を生かして夏場に出荷!年収2,000万円を実現した事例(青森県野辺地町)

気候を生かして夏場に出荷!年収2,000万円を実現した事例(青森県野辺地町)

出典:株式会社PR TIMES(JA全農の産直通販JAタウン ニュースリリース 2022年6月11日)

カブの生産量全国3位の青森県では、東北の地域ブランドの「野辺地葉つきこかぶ」を栽培する野辺地町(のへじまち)のカブ農家が大きな成果を上げています。

野辺地町は「やませ」という東北地方特有の冷たい風が吹くため、夏でも冷涼な気候です。その特徴を活かして、1982年頃から多少の悪天候にも強く、野辺地町の気候に合った小カブを「野辺地葉つきこかぶ」と名付けて栽培し、特産品としました。

2017年には42戸の農家で年間約8億の売上を計上しています。これを単純に戸数で割れば、農家1戸当たりの平均年収は約2,000万円ということになります。

カブは、関東や関西での消費が多く、しかも夏場は一定の需要がありながら主要生産地の出荷生産量は減少します。野辺地町はそこに着目し、夏場にカブを生産・出荷したことで、高収益を実現しました。

野辺地の小カブは、播種から収穫までおよそ35〜50日かかり、6〜10月の収穫に向けて3月から播種の準備を始めます。収穫後は、翌年に向けて畑や農機具などのメンテナンスを行い、12〜2月の冬期は畑を休めます。

収穫期のピークとなる8〜10月の約3ヵ月は、過密なスケジュールが続きます。深夜0時に起床し、1時から働き始め、食事や昼寝を取りながら17時頃に作業を終えるまで、約14時間も働きます。

短期集中の過酷な労働は必要ですが、高収入を得られることもあり、カブ農家はやりがいを感じているようです。

また、「野辺地葉つきこかぶ」を将来に伝える後継者を増やすため、JAと町役場などが協力しながら、独立就農をめざす移住者に約4,500坪の畑を貸し出すなど、就農支援を推し進めています。

野辺地町もほかの多くの地域と同様に、人口減少と後継者不足という課題を抱えていますが、地域で協力し合って生産を支えています。

出典:株式会社ココロマチ ココロココ「かぶの概念が変わる?地域を支え、地域が支える野辺地葉つきこかぶ」

カブ農家が良品率を上げるための栽培のコツ

カブ農家が高収益を上げるためには、品質の向上が重要です。カブは裂根(亀裂)やス入りなどによって品質が低下しやすいため、対策を講じる必要があります。

カブの裂根(亀裂)やス入りを防ぐ栽培管理

カブの裂根

カブの裂根
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

カブ栽培でよく発生するトラブルが、裂根やス入りです。裂根は、急激な土壌水分の変動や、収穫の遅れによって引き起こされる生理障害の1つです。これを防ぐには、初期の乾燥や肥料切れを起こさないよう肥培管理を徹底し、生育後期に急激に肥大させないような水分管理が有効です。カブでよく見られる生理障害には、「裂根」のほか、二股にわかれる岐根、高pHで起きる生育不良などがあります。

一方、ス入りとは、カブの内部の組織が白い海綿状になることです。ス入りの原因は収穫遅れです。収穫が遅れると、地下部(球)の栄養要求量に対して地上部からの栄養供給量が不足し、地下部組織の細胞死が発生することでスが入ります。これを防ぐためには、適期に収穫する必要があります。

カブの品質低下を招く病害虫と注意すべき生理障害

カブ キスジノミハムシ幼虫による食害

カブ キスジノミハムシ幼虫による食害
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

カブ栽培で注意すべき病害としては、「根こぶ病」「根腐病」「カブ黒点輪腐症」などがあります。それぞれの病害に耐性のある品種を選んだり、播種を遅らせたりすることで被害を軽減できます。

また、害虫では、「キスジノミハムシ」に注意が必要です。キスジノミハムシは、テフルトリン粒剤などの農薬で防除します。

近年、生理障害で問題になっているのが、「コカブ横縞症」や「カブ内部黒変症」です。小カブ横縞症を防ぐには、高地温化や高pH、乾燥の防止などが有効です。カブ内部黒変症は、カリ成分の不足を解消することで被害を低減できます。

作型に応じた品種選び

カブの収量や品質を高めるためには、作型ごとに、気候や環境に応じた栽培の工夫をする必要があります。

カブの生育に最も適している秋播きは幅広い品種から選択できますが、冬播き、春播き、夏播きの場合は、肥大の早さ、発生しやすい病害虫を考慮して品種を選定します。

低温期を経過する冬播きや春播きには、抽だいが遅く肥大の早い品種が適しています。例を挙げると、「CR白涼」「白鷹」などがあります。

一方、カブの生育が劣る夏播きには「CR白根」や、根こぶ病耐病性品種である「碧寿」「ゆりかもめ」などが効果的です。秋〜春には葉の病害が目立つため、根こぶ病に加えて白さび病にも耐性を持つ「雪牡丹」「万寿」などが適しています。

収穫後 調整したカブ

annchan / PIXTA(ピクスタ)

カブは需要の動向を的確に読んで収穫時期をずらすことで、より高い収益を上げられます。季節に応じた作型が確立されており、作型に適した品種も多いため、ほ場の環境に適した品種を見つけられるかもしれません。

地域で協力して新たな特産品として取り組んだり、販路を広げ売り方を工夫したりすることも、収益を上げるための大切なポイントです。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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