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【みかん】マシン油の散布時期は?カイガラムシ類の防除方法

【みかん】マシン油の散布時期は?カイガラムシ類の防除方法
出典 : ねこすす / PIXTA(ピクスタ)

温州みかんなどの果樹栽培において、カイガラムシ類は難防除害虫の1つです。防除策としては、冬期および春期にマシン油乳剤を散布すると高い効果を発揮します。しかし、葉や果実に薬害が見られる場合もあるため、散布に当たっては注意が必要です。

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マシン油乳剤は、カイガラムシ類やハダニ類への防除に高い効果を発揮します。また、害虫が抵抗性を得にくい、天敵への影響が少ないなどの特長もあります。本記事では、マシン油乳剤の特長を活かす適切な防除方法について解説します。

マシン油乳剤は、柑橘類では「ヤノネカイガラムシ」や「ミカンハダニ」の防除対策として、営農情報で目にされることが多いのではないでしょうか。この記事では、マシン油乳剤の特徴と、効果を高める散布時期や散布のコツなどを紹介します。

マシン油乳剤とは?

マシン油乳剤は石油から精製された「炭化水素」を主原料とした農薬で、みかんなどの柑橘類を中心に、果樹や樹木のカイガラムシ類やハダニ類を防除する目的で使用されます。

マシン油乳剤の特徴【1】気門封鎖剤だからカイガラムシ類に効く

柑橘類 ヤノネカイガラムシの成虫(雌)

柑橘類 ヤノネカイガラムシの成虫(雌)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

マシン油乳剤は「油膜で虫の体を直接覆うことで虫の呼吸を妨げ、窒息させる」という、物理的な作用によって殺虫効果を示す「気門封鎖剤」の1つです。そのため、介殻(かいがら)やロウ物質が体を覆っていて薬剤が体内に到達しにくいカイガラムシ類の防除に向いています。

マシン油乳剤の特徴【2】害虫の薬剤抵抗性が発達しにくい

柑橘類 ミカンハダニの卵・幼虫・第1若虫・成虫

柑橘類 ミカンハダニの卵・幼虫・第1若虫・成虫
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

気門封鎖剤であるマシン油乳剤には、害虫の体内にはいって代謝され作用するタイプの農薬に比べて、害虫の薬剤抵抗性が発達しにくいというメリットもあります。

例えば、ミカンハダニは、1990年代に防除が非常に困難になった時期がありました。その要因は、よく効く農薬が複数あったものの同じ系統だったことで、ミカンハダニの抵抗性発達が早まったためだと考えられています。

その後、系統の異なる農薬が開発・登録され、ローテーション散布ができるようになりました。とはいえ、抵抗性の発達を少しでも遅らせるために、同じ系統の農薬を使う回数はできるだけ減らしておきたいところです。

マシン油乳剤であらかじめ寄生密度を下げておくことで、ローテーション散布の回数自体を減らすことができます。

マシン油乳剤の特徴【3】天敵生物に対する悪影響が少ない

マシン油乳剤は、天敵生物に対して悪影響が少ない点が大きなメリットです。ヤノネカイガラムシの天敵生物としては、1980年に「ヤノネキイロコバチ」と「ヤノネツヤコバチ」が導入され定着しています。

これらの利点に加えて、ほかの農薬と比べると価格が安いこともあり、世界的に広く使われています。

【みかんのカイガラムシ類防除】 マシン油乳剤の散布時期

カイガラムシ類の防除は、その生活史に沿って適期が決まってきます。ヤノネカイガラムシを例に説明します。

みかん ヤノネカイガラムシの防除暦

出典:下記資料よりminorasu編集部まとめ
三重県「病害虫防除所|病害虫についての資料|今月のトピックス」「平成22年度 第6号」所収「カンキツのヤノネカイガラムシについて」
愛知県「あいち病害虫情報 > 病害虫図鑑 ヤノネカイガラムシ(カンキツ)」
和歌山県「農林水産部 農林水産総務課 研究推進室|3_2_21成果情報」所収「果樹試験場」の項 所収「ウンシュウミカンのヤノネカイガラムシに対するマシン油乳剤の防除効果]
ブランドありだ果樹産地協議会「有田みかんデータベース|防除指針」所収「2022年 柑橘類防除基準表」
わかやま農業協同組合(JAわかやま)「令和6年産果樹病害虫防除暦・施肥例」

ヤノネカイガラムシの生活史と防除の関係

ヤノネカイガラムシは、年2~3回発生します。成虫で越冬し、5月始めに第1世代の幼虫が発生し始め、6月中旬頃に最盛期(2齢幼虫の最多寄生期)を迎えます。その後、蛹から成虫となり、7月から10月まで産卵します。

第2世代は同様の経過で、7月の中旬頃に初発・8月下旬頃が最盛期で、9月~10月にかけて産卵します。第3世代は9月中旬頃が初発・10月中旬頃が最盛期で、遅めの第2世代と第3世代の成虫が越冬します。

第2世代以降は、発生~産卵がだらだらと続き、防除適期を絞るのが難しくなります。そのため、冬期のマシン油乳剤散布で越冬成虫の密度を下げておき、第1世代が成熟する前、2齢幼虫の最盛期に農薬による防除を確実に行うことが大切です。

冬期または春期のマシン油乳剤散布

冬のマシン油乳剤散布は、12月から1月上旬頃までに行います。1月中旬以降の厳寒期は、散布後に冷え込むと落葉が多くなることがあります。剪定作業などの都合で1月上旬までに実施できなかった場所は、発芽前の3月上旬頃に散布します。

効果的な希釈倍率の例として、和歌山県の農林水産総合技術センター果樹試験場環境部の研究結果を参考にすると、ヤノネカイガラムシに高い効果を示しているのは以下の条件です。

  • 冬期:95%マシン油乳剤を30倍に希釈、または97%マシン油乳剤を60倍に希釈して散布
  • 春期:97%マシン油乳剤を60倍に希釈して散布

出典:和歌山県「農林水産部 農林水産総務課 研究推進室|成果情報|平成21年度 研究成果情報」所収「ウンシュウミカンのヤノネカイガラムシに対するマシン油乳剤の防除効果」

2齢幼虫の最多寄生期を狙った農薬散布

左:ヤノネカイガラムシ1齢幼虫(体長0.2mm) 右:ヤノネカイガラムシ雌2齢幼虫(体長1mm)

左:ヤノネカイガラムシ1齢幼虫(体長0.2mm)
右:ヤノネカイガラムシ雌2齢幼虫(体長1mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

5月初旬になって、第1世代の1齢幼虫の発生が認められたら、その35~40日前後の2齢幼虫の最盛期を狙って農薬を使います。必要に応じて、第2世代の幼虫初発から30~35日後に2回目の農薬散布を行います。

第1世代幼虫の初発時期を5月初旬頃としている資料が多いですが、地域や気温によって大きくずれることがあります。第1世代を確実に防除することが、その後の被害を抑えることにつながりますから、初発時期を見逃さないよう、園地をよく見回り、自治体やJAの病害虫予察情報に気をつけてください。

  • ヤノネカイガラムシ、または、カイガラムシ類に適用がある農薬の例
    • スルホキサフロル水和剤:トランスフォームフロアブル
    • ジノテフラン水溶剤:スタークル顆粒水溶剤
    • PAP乳剤:エルサン乳剤
    • ブプロフェジン水和剤:アプロード水和剤、または、アプロードフロアブル
    • ピリフルキナゾン水和剤:コルト顆粒水和剤

夏期のマシン油乳剤散布

多発園では、夏期のマシン油乳剤散布も有効です。果実肥大が本格的になる7月上旬までに行います。

前出の和歌山県の資料では、97%マシン油乳剤に優れた効果があるとしており、ほかに、ジノテフラン水溶剤(スタークル顆粒水和剤など)、アセタミプリド水溶剤(モスピラン水溶剤など)などの効果も高いとしています。

出典:和歌山県「農林水産部 農林水産総務課 研究推進室|成果情報|平成21年度 研究成果情報」所収「ウンシュウミカンのヤノネカイガラムシに対するマシン油乳剤の防除効果」

※この章で紹介している農薬は2024年1月30日現在の登録を確認しています。使用する際には、ラベルをよく読み、使用方法と使用量を守ってください。農薬の登録内容は、農薬登録情報で確認できます。

【みかんのカイガラムシ類防除】 マシン油乳剤の散布方法とコツ

園地の広さにもよりますが、動力噴霧機で長いノズルを使い、樹木全体に散布液が滴るくらいの量をムラなく散布します。樹冠の内部にある葉の裏にもマシン油乳剤が付着するよう丁寧に散布を行います。

まんべんなく散布されたかどうかを確認するには以下の点をチェックします。

  • 散布後、油特有のてかりが全体にムラなく見られるかどうか
  • すべての枝や葉の色が同じように濃くなっているかどうか(散布した部分の枝や葉は色が濃くなるため)

また、農薬散布に共通して言えることですが、降雨時やその前後は農薬の成分が流れてしまうため散布を避けます。

同じ時期にほかの農薬を散布する場合、散布間隔には注意が必要です。マシン油乳剤を散布すると油膜ができ、ほかの農薬が付着しにくくなり、効果が低下するおそれがあります。

例えば、カイガラムシ類の防除と適期が近い、かいよう病などの防除でボルドー液などの銅水和剤を使用するときは、マシン油乳剤との散布間隔を30日以上空けてください。

▼ヤノネカイガラムシの防除については、以下の記事もご覧ください。

薬害リスクも? マシン油乳剤散布の留意点

マシン油乳剤は、人体や天敵への影響が少ないなど多くの利点を持ちますが、薬害が出やすいことが難点として挙げられます。

現在は、高度精製マシン油乳剤が開発されたことで薬害が軽減され、ヤノネカイガラムシの多発園では夏期にも使用できるようになりました。しかし、薬害がまったく出ないというわけではありません。

夏期のマシン油散布は涼しい時間に

夏のマシン油乳剤散布を気温が高い時間帯に実施すると、葉や果実に油浸斑が発生したり、果実の着色不良や糖度低下などの症状が現れることがあります。気温が高い日中を避け、涼しい時間帯を選んで実施します。

ジチアノン水和剤を使うときは近接散布を避ける

マシン油乳剤の夏期散布を行うときは、そうか病や黒点病の防除に用いるジチアノン水和剤のデランフロアブルとの散布間隔を30日程度あけてください。果実に黒褐色の薬斑がでることがあります。

冬のマシン油乳剤散布はなるべく暖かい日に

カイガラムシ類の越冬成虫の密度を下げるには、冬期あるいは春期の散布が有効ですが、樹勢が低下した樹体に散布すると、葉の黄化や落葉が助長されます。また、樹勢が低下していなくても、厳寒期の散布は樹体へのダメージが大きく、落葉します。

常緑果樹である柑橘類は、冬場に葉が落ちてしまうと養分を蓄えられず、春の新芽の生長に影響します。冬場にマシン油乳剤を散布する場合は厳寒期を避け、できるだけ1月中旬より前の暖かい日を選んで散布します。

樹勢が弱くマシン油乳剤が使えないときは?

樹勢が低下している園地や、冬期の気温が低く着花が少ないことが懸念される年は、冬期のマシン油乳剤散布をしないという選択をすることが多いようです。これが春以降のカイガラムシ類の多発につながります。

そこで、熊本県の農業研究センターではマシン油乳剤に代わる越冬成虫の防除法を開発しています。

この研究では、3月中旬に「アプロード水和剤」を1,000倍に希釈し、展着剤「アビオン-E」を同じく1,000倍に希釈して加えて散布すると、マシン油乳剤を使わなくてもナシマルカイガラムシの発生数を抑えられる、と報告されています。

出典:熊本県農林水産部 熊本県農業情報サイト アグリくまもと「温州ミカンのナシマルカイガラムシはマシン油乳剤以外による越冬期防除が可能である」

樹勢を保つように管理し、冬期のマシン油乳剤散布を行うことが基本ではありますが、参考にしてください。

収穫期を迎えたみかん園地

nanohana / PIXTA(ピクスタ)

みかんなどの柑橘類の果樹に付くカイガラムシ類は、農薬が効きにくく、防除が難しい害虫です。しかし、マシン油乳剤であれば防除効果が高いことに加え、人体や天敵への影響が少ないという大きなメリットもあり、カイガラムシ類の防除に役立ちます。

ただし、使い方を間違えると薬害が発生しやすくなります。マシン油乳剤の特性をよく理解した上で散布時期に注意して使用することが大切です。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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