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【丹波篠山 耕しや】伝統の黒大豆の作り手がめざすスマート農業と家族経営の最適ポートフォリオ

【丹波篠山 耕しや】伝統の黒大豆の作り手がめざすスマート農業と家族経営の最適ポートフォリオ
出典 : minorasu編集部撮影

全国的に有名な“丹波篠山ブランドの地で、黒大豆と水稲の栽培を行う阪東さん。会社員から転身して16年目、自分の営農スタイルを確立し、家族営農で収益を上げる最適点を追求してきました。一方、通常の大豆より効率化しにくい黒大豆の栽培管理や防除をデジタルで解決していこうとしています。その道程を伺いました。

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耕しや 代表 阪東 佑貴(ばんどう ゆうき)さん プロフィール

耕しや 代表 阪東佑貴さん

耕しや 代表 阪東佑貴さん
出典:minorasu編集部撮影

兵庫県丹波篠山市在住。江戸時代から続く農家で、祖父の代からは兼業農家でした。阪東さんも20代の頃は宝塚市で造園業の職にあり、繁忙期に手伝っている程度でしたが、16年前、30歳のときに実家に戻って父とともに二人三脚で専業農家へと転身します。

当初は1ha程度だったほ場も、現在は黒豆2ha、水稲6.5haまで拡充。ネット販売では、お米のほか、冬の農閑期に仕込む黒豆を使った自家製味噌などが高い人気を呼んでいます。

「耕しや」の農業スタイルここにあり!

丹波篠山の気候風土と向き合いながら、父親との二人三脚で、家族営農ならではの目が行き届く農業にこだわり、イタリア米など新しい品種や黒豆味噌の製造・販売など、農業の新しい需要拡大にも積極的に挑む阪東さん。就農からの16年の歩みを聞きました。

代々続く農家父子の二人三脚「農業が好きだから」兼業から専業へ

兵庫県丹波篠山は、古来より京都への交通の要所として栄えた歴史ある古都。昼夜の寒暖差が大きい盆地特有の気候と清らかな水に恵まれて、農業が盛んな地でもあります。肥沃な土壌で育まれた黒大豆、小豆、栗など特産品の美味しさと質のよさは全国的に有名です。

阪東家はこの地で代々農業を営んできましたが、先々代からは兼業農家でした。祖父は、夏は農業、冬は杜氏の二足のわらじを履き、父上は公務員をしながらの兼業農家でした。阪東さんは20代で造園業の職に就き、農業の繁忙期を手伝っていたそうです。

━━━就農した経緯を教えてください。

16年前に50代の父から「早期退職をして農業に専念しようと思う」と打ち明けられました。実はその頃、不景気のあおりで造園業の仕事も大変な時期だったこともあり、「俺も一緒に農業をやりたい」とお願いしました。

私は小さい頃から農業が大好きでした。大きな機械を動かして、繁忙期は親戚みんなが集まってワイワイにぎやかで楽しかった思い出があります。

とはいえ、私の農業経験はお手伝い程度。父は兼業農家をそのまま続けることにして、父の定年までの5年間、私が農業に専念して経験を積むことにしました。

イタリア米に黒豆味噌も! 丹波篠山の風土とブランドをベースに切り拓く新しい農業

周りの先輩の応援もあり、阪東さんは農業経営者として成長を続け、11年前から父上と二人三脚の家族営農が始まりました。当初は1haだったほ場も、近所の高齢農家からの譲り受けなどで8.5haにまで拡大。さらに冬の閑散期に何かできないかと、黒豆を使った自家製味噌の販売を始めます。

耕しやが育てたコシヒカリを使った米麹を多めに配合して2年間熟成。阪東家のおばあちゃん秘伝の自家製味噌は、甘い味わい。

耕しやが育てたコシヒカリを使った米麹を多めに配合して2年間熟成。阪東家のおばあちゃん秘伝の自家製味噌は、甘い味わい。
画像提供:耕しや 公式Facebook

━━━黒豆味噌は自社で製造しているんですね。

この辺りは寒さが厳しく、冬の露地栽培はできません。丹波篠山の農家は各家庭で自家製味噌を作る風習があります。我が家は祖父が杜氏だったこともあり、祖母が麹にこだわった味噌づくりには長けていましたし、サイズや見た目で出荷できない黒豆を活かせるかなと。

作ってみたら、黒豆の味噌って甘みとコクの深みがすごい。8年前から販売を始めたら、丹波篠山のブランドバリューもあり、自社のHPやネット販売の食べチョクで大きな反響をいただいています。

━━━イタリア米や黒枝豆の販路拡大にも取り組んでおられますね。

今まで通り「黒枝豆と黒豆、コシヒカリ」だけでなく、経営の柱をつくっていかなければと考えています。

イタリア米は特にリゾットに適した「カルナローリ」を栽培していて、イタリアンのシェフにも協力してもらって普及しているところです。

黒枝豆は若手の仲間とともに会社を立ち上げ、販路拡大に取り組んでいます。

リゾットにすると美味しいイタリア米「カルナローリ」

リゾットにすると美味しいイタリア米「カルナローリ」
画像提供:耕しや ホームページ

収益の柱は2haの黒大豆。めざすは家族経営の最適ポートフォリオ

━━━今後も周りの農地を引き受けて経営規模を拡大していくのでしょうか?

これ以上ほ場を増やすことは難しい。現在の規模が家族経営の限界点かなと考えています。

━━━それは、経営的にはどのような判断でしょうか?

現在、栽培しているのは黒大豆(黒枝豆・乾燥黒豆)が2ha、コシヒカリ(水稲)6.5haです。しかし売上高は、黒豆と水稲はほぼ同じです。面積でいうと2割強の黒大豆が売上の5割を稼いでいることになります。

単純にいうと、黒豆を増やせば売上高が増えることになりますが、そう簡単なことではありません。

黒豆の栽培は手がかかるので、父とふたりの家族営農では2haが限界だと思っています。これ以上増やしたら、手が回らず捨てづくりになる可能性さえあります。

家族営農で品質を維持し、安定した利益を出すことを考えたら、身の丈に合った栽培面積が2haなのです。

【耕しやの四季】水稲と大豆の作業が連なる春夏が秋の実りに!

━━━阪東さんの1年間の栽培暦を教えてください。

3月下旬~4月下旬が水稲の育苗期間で、5月上旬~中旬に田植えをします。「コシヒカリ」、もち米の「満月もち」、イタリア米の「カルナローリ」などを時期を分散して植えます。

阪東家の田には、多紀アルプスから流れ出たミネラルたっぷりの山水を直接引き入れている

阪東家の田には、多紀アルプスから流れ出たミネラルたっぷりの山水を直接引き入れている
画像提供:耕しや 公式Facebook

田植えに並行して黒豆のほ場作りを行います。5月から畝の埋め立てをして、6月上旬〜中旬に播種をします。播種機で畝に直接播くのが約7割で、セルトレイ育苗が約3割です。

播種してから1週間以内に雑草防除をして、6月中旬~下旬に直播で発芽していないところに、セルトレイの苗を補植します。

黒大豆の播種(左)・黒大豆のセルトレイ育苗(右)

黒大豆の播種(左)・黒大豆のセルトレイ育苗(右)
画像提供:耕しや 公式Facebook

7〜8月は水稲の水管理と黒大豆の中耕除草、9月は稲刈りです。そして10月に、最も忙しい黒枝豆(黒豆)の収穫期を迎えます。

丹波篠山の黒豆は名産です。特に黒枝豆は美味で知られ、10月の収穫時期には観光客約72万人が丹波篠山に押し寄せます。

阪東家もこのときばかりは家族やアルバイトなど10人以上で対応に追われ、とても忙しくなります。

黒枝豆の出荷風景

黒枝豆の出荷風景
画像提供:耕しや 公式Facebook

黒枝豆の収穫・販売が終わったら、黒大豆を収穫して、お正月用に製粒したり、自家製の味噌の仕込みをしたり、というのが1年の流れです。

12月の黒大豆の脱粒作業

12月の黒大豆の脱粒作業
画像提供:耕しや 公式Facebook

黒大豆の最大の敵は真夏の雑草

一連の農作業で最も大変なのが大豆の「難防除雑草」です。難防除雑草は、適期防除を逃すと蔓延しやすく、残草の防除に多くの時間と手間がかかります

大豆農家なら誰もが頭を抱える問題であり、阪東さんが「黒豆栽培は手がかかる」と言うゆえんです。

▼大豆の雑草防除についてはこちらの記事もご覧ください。

背負い動噴で残草を処理する夏の日々

━━━阪東さんも、難防除雑草の防除には相当苦労されていたとのことですが、具体的にどのように大変だったのか教えてください。

防除暦や営農指導などのいう通りに土壌処理剤を撒いて、そのあと茎葉処理剤を撒きます。すると、散布直後は雑草はヘタり「弱っている、ちゃんと効いてる」と安心するんですが、久しぶりに見回るといつのまにか回復してしげしげとなっている。

7~8月の真夏の炎天下、中耕除草のために父と二人で背負い式の動力噴霧器で撒きますが、ほ場が粘土質なので歩きにくく1日3反が限界です。

体力的にも辛いけれど、黒豆にはかからないようにギリギリに攻めながらの噴霧なので気力も使う。炎天下に毎日作業すれば倒れかねないので、2週間かけて防除します。

しかし、難防除雑草は蔓延するとかなり手ごわく、苦労しても防除効果は思ったほど上がりません

収穫時期まで大豆を傷つけないよう手作業で草刈りを続けますが、ほ場が広いとなかなか追いつかず、雑草が黒豆と同じ高さにまで成長することもありました。結果、草をかき分けて豆を探して収穫することになっていました。

適期に除草剤を使いなさいというけれど・・・情報が多すぎて混乱する日々

ざっくりとした防除暦の通りにやっても、納得できるような結果ではありませんでした。

そこで、「防除暦が昨今の気候変動には対応していないのが原因ではないか。薬剤の選定や、防除時期が合ってないのではないか。」 と思い、ベテランの先輩方に相談しました。

ところが、農業は自分のスタイルを貫く人が多いので、聞く人聞く人みんな微妙に違う。Aさんは「長年、アレ使っているけど、いいよ」と言う。けれどBさんは「去年、アレ使ったけどダメだった」と言います。我流の情報が集まった結果、何が正しいのか判断ができず、新たな作付けを迎えるという悪循環に陥りました

父を真夏の防除に出したくない!と悩んでいた時に出会った「雑草管理プログラム」

真夏の土寄せ作業

真夏の土寄せ作業
画像提供:耕しやホームページ

中耕除草のあとも手作業で雑草を刈りますが、父上と二人なのでなかなか難しいそうです。

阪東さんが雑草対策を早急に解決したいと思った理由は、農作業の効率化もありましたが、70歳を超えた父上のためでもありました。「高齢の父上を真夏の炎天下で防除作業をさせたくない。」と思っていたそうです。

そこで出会ったのがザルビオの雑草管理プログラムでした。おかげで昨年、防除作業は阪東さん1人で短期間で済ませることができたそうです。

我流で寄せ集めでパンク状態の知識をすっきりリセット

就農16年目ですが、未熟さを感じることが多々あります。特に防除に関しては気候変動もあって、過去の経験が逆に邪魔しているというか、失敗の起因になっていると感じることさえありました。

寄せ集めの情報で混乱した頭の中を一度リセットして、自分のやり方を客観的に誰かに正してほしいと思うようになりました。

それで、2023年1月、地域の研修会に参加して「ザルビオ」の雑草管理プログラムを知りました。

雑草管理プログラムに播種や植え付けの日時を入力すれば、ザルビオが気温なども含めて計算して「この日に防除」と、日にち指定でタスクが届くという。データも信用できそうだし、ちょっと使ってみようと思いました。

ザルビオが指示した防除の適期は、経験値なら「今じゃない」時期だった

━━━ザルビオからの中耕除草時期のアラートが意外に早くて驚いたそうですね。

土寄せの前に「雑草茎葉処理剤の散布の適期です」と、ザルビオからタスクが届きました。

ほ場はほぼ更地状態です。「茎葉処理」=「雑草の葉や茎に散布する」という認識だったので、「葉どころか芽もほとんど出ていないのに撒いて意味あるの?今じゃないでしょ。」と苦笑いです。

撒いて効果がなかったら薬剤が無駄になるのに……と、疑心暗鬼になりながらも、とりあえず防除作業をしました。

ところが結果は大正解。雑草は思ったほど生えてきませんでした。土寄せ前が、難防除雑草の防除適期だったのです。防除に関する「思い込み」「思い違い」を、まざまざと思い知らされました。

真夏の防除作業は4分の1に! 父を真夏のほ場に出さずに済んだ

黒大豆の雑草防除作業。ブームに吊り下げノズルを装着している。

黒大豆の雑草防除作業。ブームに吊り下げノズルを装着している。
写真提供:阪東 佑貴 様

昨年まで、中耕除草は背負い動噴で父上と二人で1日3反、2週間かけて作業していましたが、昨年は雑草が少ないこともあり管理機での防除ができたそうです。

ブームスプレーヤに吊り下げノズルを装着しての防除だったので、1日6反も余裕のペースです。防除作業を一人でできたので、作業工数は実質4分の1に効率化できました

何より2023年の記録的な猛暑の中、父を炎天下で作業させることなく、私も背負いの歩き作業ではなく機械に乗ってできることは大きかったです。

いつも中耕除草をする際には雑草に「負けた」感がありましたが、2023年はまったくなかったです。

適期防除で工数を1/4まで削減!ザルビオの機能を詳しく見る

残草のないほ場で、効率よくサクサク収穫

━━━黒大豆の収穫は機械ですか?

黒枝豆は機械で収穫できません。幹が約3cmと通常の枝豆(白大豆)よりも太く、「草」というより「木」のイメージに近い。なので手作業で枝切ハサミで1株1株刈り取っていきます。

例年9~10月の黒枝豆の収穫時期は、防除しきれなかった難防除雑草が黒豆と同じ背丈になっています。雑草をかき分けながら、太い幹を一つひとつ刈り取るのは本当に重労働です。

10月、家族総出で黒枝豆の収穫が始まる。この太さの黒枝豆を1本1本、ハサミで裁断し収穫する

10月、家族総出で黒枝豆の収穫が始まる。この太さの黒枝豆を1本1本、ハサミで裁断し収穫する
画像提供:耕しや 公式Facebook

それが昨年は雑草に邪魔されることなく、サクサクと収穫でき、作業時間を1~2割減らすことができました

丹波篠山にとって、そして農業経営者にとって、持続可能な農業経営とは

早春のほ場に立つ阪東さん

早春のほ場に立つ阪東さん
出典:minorasu編集部撮影

━━━「丹波篠山」というブランドバリューもあり、若手の就農者が多い丹波篠山市ですが、後継者問題はどうでしょうか?

ほ場は親にまかせて、子供は都会で働くという農家が多いです。

「丹波篠山」ブランドに魅せられて、市役所には新規就農の問い合わせが毎年5~10件はあるそうですが、彼らは志が高い分、経営の現実、営農の現実とのギャップに驚くようです。

この集落には23農家ありますが、10年後は3農家くらいになるんじゃないかと思います。

━━━阪東さんのところにも農地を引き受けてほしいという要望がきそうですね。

私のところにもほ場を引き受けてほしいと相談がくることが予想されますが、手がかかる黒豆のほ場をこれ以上増やすことは難しい。それなら水稲となりますが、大型農機を買い足したり、育苗ハウスを建てたり、それなりの初期投資が必要になります。

私としては、大きな投資をして大規模化するより、家族営農でしっかり利益を出し続けられる最適点を見定めた経営をしていくことが、地域農業を守るという観点でも重要だと考えています

━━━これからの「丹波篠山」の農業についてお願いします。

丹波篠山は農家同士の仲がいい。皆で「こんな制度があるらしい」という情報交換も頻繁です。これはすごくよいことだと思っています。

でも、今はまだ、西のやり方、東のやり方、真ん中のやり方と、我流での農業スタイルが根強い部分もあります。

今後は想像を絶するような気候変動も考えられますし、「ここは〇〇家のほ場」「あっちは〇〇家のほ場」という考えをやめて、畦をとって統合して作業効率を上げるなど、地域で一丸となって農業を盛り上げなくてはと感じています。

ザルビオのようなAIシステムを大いに利用してこれまでの「思い込み」を修正し、農作業を効率的に、客観的に判断していくことが大切だと感じています

丹波篠山の「耕しや」を経営する阪東佑貴さんは、水稲や黒大豆を栽培しながら、6次産業化や販路拡大に積極的に取り組んでいます。また、黒大豆栽培の効率化にも注力し、ザルビオの雑草管理プログラムを活用することで、雑草防除の工数を4分の1まで削減しました。

阪東さんは、地域農業を守るためには、利益を出し続けられる営農規模を見定めることが重要だと考えています。気候変動が著しい状況下ですが、地域との連携を深めつつ、データによる客観的な判断取り入れることで、未来の農業を見据えた経営を実現しています。

データによる客観的な判断。農作業を効率化ザルビオで新しい農業を始める

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※法人農家の従業員は専業/兼業農家の項目をお選びください。

ご回答ありがとうございました。

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川口美彩子

川口美彩子

紙媒体の頃から観光情報誌の取材・執筆・編集を長く経験し、現在はwebライターとして、働く母 の視点をいかして子育てを中心に毎月10本以上を執筆する。農業関連のほかにも、受験、金融、腕時計など のグッズ関連、ペット関連まで、執筆分野は多岐にわたる。

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