【子実とうもろこし】農家の作付けメリットは? 転作・輪作の実情
近年、輸入飼料の不足や価格高騰によって、国産の飼料用とうもろこしの需要が高まっています。中でも反収が高く、ほぼすべての畜種に適用できる子実とうもろこしは、輸入飼料に代わる飼料として特に注目されており、水田転作作物として作付けする農家が増加しています。
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国際情勢の影響で輸入穀物が減少する中、子実とうもろこしは重要な戦略作物として生産を推進されています。そこで本記事では、子実とうもろこしの栽培暦や反収目安、導入メリット、注意点など、導入を検討する際に役立つ情報をまとめて解説します。
安定供給可能な飼料としての国産子実とうもろこしへの期待
kikisorasido/ PIXTA(ピクスタ)
飼料用とうもろこしの一種である子実とうもろこしの供給は輸入品に頼っており、国内ではほぼ生産されてきませんでした。しかし、昨今の国内外の情勢を受けて国産子実とうもろこしへの期待が高まっています。
作物としての子実とうもろこしの特徴を解説した上で、国内生産への期待が高まっている理由について解説します。
飼料作物としての子実とうもろこしの特徴
出典:農林水産省「畜産>飼料」所収「飼料をめぐる情勢(令和6年(2024年)3月・畜産局飼料課)」よりminorasu編集部作成
飼料用とうもろこしの大部分は「デントコーン」と呼ばれる種類です。どのように使うかで「WCS」「イアコーンサイレージ」「子実とうもろこし」に大きく分かれます。
「WCS」(ホールクロップサイレージ)は、完熟前の青刈りとうもろこしを茎や葉も含めた全体をサイレージ化(注)した飼料です。
※注:サイレージ:青刈りした飼料作物をサイロなどに詰めて密封し発酵させること。近年は、牧場の風景として良く知られるタワー型サイドはあまり使われておらず、斜面を利用したバンカーサイロ、飼料をラッピング密封するロールベールサイレージなどが主流です。
「イアコーンサイレージ」(ECS)は、完熟させた雌穂(イア)の子実・芯・外皮と一部茎葉をサイレージした飼料です。
「子実とうもろこし」は、完熟させたとうもろこしの子実だけを収穫します。
TDN含量(Total Digestible Nutrients=可消化養分総量)は、子実とうもろこし>イアコーンサイレージ>WCSの順に高く、子実とうもろこしとイアコーンサイレージは「濃厚飼料」に分類されます。
また、WCSは、乳牛向けの飼料であるのに対して、子実とうもろこしは、全畜種に向く飼料なので、より高い需要が見込めます。
国内外の状況を受けた国内生産への期待
前項で、子実とうもろこしは濃厚飼料に分類されることを述べました。では、濃厚飼料とはなんでしょうか?
粗飼料と濃厚飼料
出典:農林水産省「畜産>飼料」所収「家畜飼料の種類について」、「濃厚飼料をめぐる情勢(令和6年(2024年)4月)」、酪農学園大学「酪農ジャーナル電子版【酪農PLUS+】|酪農情報BOX |今さら聞けない基礎知識|飼料の種類」よりminorasu編集部作成
飼料は大きく「粗飼料」と「濃厚飼料」に分かれます。
粗飼料は、牧草や乾草、とうもろこしなどの青刈り作物のサイレージを指します。畜産農家の自給が主になっています。繊維質が多く含まれ、家畜の健康を保つ役割を持ちます。特に牛の場合、第一胃の消化機能を正常に保つために必須の飼料です。
一方の濃厚飼料は、とうもろこし、麦類などの穀類や油粕などの原料を加工した配合飼料や混合飼料などを指します。食物残さを利用したエコフィードも濃厚飼料に当たります。繊維質が少なく、高エネルギー・高たんぱくなのが特徴です。
この両方を、家畜の種類や生育ステージに応じた割合で与えます。
濃厚飼料の低い自給率
出典:農林水産省「畜産>飼料」所収「飼料をめぐる情勢(令和6年(2024年)4月)」、「濃厚飼料をめぐる情勢(令和6年(2024年)4月)」よりminorasu編集部作成
飼料の供給量全体をTDNベースで見ると、2割が粗飼料、8割が濃厚飼料になっています。畜産農家が自給することが多い粗飼料の自給率は78%ですが、濃厚飼料は輸入が大半で、その自給率(TDNベース)は13%に過ぎません。
政府は2030年までに、粗飼料の自給率を100%に、濃厚飼料の自給率を15%に上げることを目標にしています。
なぜ子実とうもろこしか?
なぜ子実とうもろこしの増産が注目されているかというと、配合飼料・混合飼料の原料の5割弱をとうもろこしが占め、そのとうもろこしのほとんどを輸入に頼っているからです。
配・混合飼料の原料使用量(2022年度・速報)
使用量 | 割合 | |
---|---|---|
とうもろこし | 1,126万t | 45.9% |
米 | 198万t | 8.1% |
その他の穀類 | 198万t | 8.1% |
大豆油かす | 198万t | 8.1% |
その他の油かす | 136万t | 5.5% |
糟糠類 | 198万t | 8.1% |
動物性飼料 | 198万t | 8.1% |
その他 | 198万t | 8.1% |
合計 | 2,452万t | 100% |
出典:農林水産省「畜産|飼料|過去の調査結果」内「飼料月報(概要)」所収 「令和4年(2022年)度4月~3月」よりminorasu編集部作成
食料需給表によると、子実とうもろこし(穀物としてのとうもろこし)の国内需要(国内消費仕向け量)は、直近数年、約1,500万tで推移しており、うち飼料向けが約1,100万~1,200万tで8割弱を占めています。
子実とうもろこしの国内生産量はごく僅かで、ほぼ全量を輸入に頼っているのが現状です。農林水産省畜産局飼料課の調べでは2022年が9,652t、2023年が12,861tとなっていていますが、食料需給表ではゼロが計上されています。
出典:農林水産省
「食料需給表」内「令和4年度(2022年)食料需給表|品目別累年表|とうもろこし」
「畜産|飼料」所収「濃厚飼料をめぐる情勢(令和6年(2024年)4月)」
輸入に頼る現状では、国際情勢や為替相場の影響によってとうもろこし価格が変動し、それに連動する形で、配合飼料の価格に影響を与えます。
実際に、ウクライナ情勢や為替相場の影響でとうもろこしの国際価格が上昇したことにより、国内の配合飼料価格も上昇し、2024年1月現在まで高止まりが続いている状況です。
このような現状を踏まえ、持続的に畜産物を安定生産するためにも、とうもろこしを始めとする国産飼料の生産拡大が求められています。
また、子実とうもろこしは、水田を高度利用するための戦略作物の1つとして注目されています。田の有効活用と食糧安全保障・食料自給率向上を両立する方法として、子実とうもろこし栽培の普及・拡大が期待されている状況です。
子実とうもろこしの強み・導入メリット4選
刈取り期を迎えたデントコーン
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
子実とうもろこしの栽培における強みや、輪作体系に組み込むメリットは、主に次の4つです。
- 栽培作業に要する時間が短い
- 国内での高い需要が見込める
- 既存の農機を使用できるので初期投資を抑えられる
- 輪作作物の収量アップが見込める
以下、それぞれについて解説します。
1.栽培の手間がかからず作業時間が少ない
子実とうもろこし栽培の特徴の1つには、米麦大豆と比べて投下労働時間が少なく、雑草防除の手間がかからないことがあります。
出典:以下資料よりminorasu編集部作成
水稲・大豆・小麦:農林水産省「農業経営統計調査|令和4年(2022年)産農産物生産費(個別経営体)」記載の直接労働時間
飼料用米:水稲の直接労働時間×80%。乾田直播栽培を想定、労働時間を2割程度削減できると仮定
子実とうもろこし:農林水産省「 畜産 > 飼料 > 飼料増産シンポジウム」(平成29年(2017年)4月13日)所収「水田における子実とうもろこし生産」に記載の実証実験によるもの。全国平均ではないことに留意。
子実とうもろこしの10a当たり労働時間を、水稲、大豆、小麦と比較すると、水稲の約20分の1、大豆の約5分の1、小麦の約4分の1と大幅に少ないことがわかります。
※子実とうもろこしの労働時間は、数例の調査によるもので全国平均ではありません。気候やほ場の条件によって変わることにご留意ください。
その理由として、耕起・整地から播種・鎮圧、防除、収穫・調整まで機械化体系が確立されていること、除草剤散布の回数は1~2回と大豆や小麦より少なくてすみ、栽培管理が楽なことが挙げられます。
子実とうもろこしの労働時間が少ないという特徴は、規模拡大を進めるうえで有利に働くことが期待できます。
2.国内で高い需要が期待できる
前述した通り、とうもろこしの飼料向け供給量は、1,100万~1,200万tで推移しており、高い需要があるのにも関わらず、国内生産はごく僅かです。
畜産農家は、昨今の国際とうもろこし価格の上昇とこれに連動した配合飼料価格の上昇で経営に大きな影響を受けています。国際価格の影響を受けにくい国産原料の配合飼料の安定供給は大きなメリットといえます。
また、国産の農産物は安全性や品質への信頼が高いので、国産子実とうもろこしを安定供給できれば、高い需要が見込まれます。
品質についても、タンパク質含量・デンプン含量などにおいて、国産子実とうもろこしは輸入子実とうもろこしと遜色ないというデータがあります。
参考資料:農林水産省「 畜産 > 飼料 > 飼料増産シンポジウム」(平成29年(2017年)4月13日)所収「水田における子実とうもろこし生産」内「国産子実とうもろこしのクォリティは?」
とうもろこしの消費量から見ると、まだ1%未満ではあるものの作付面積・生産量とも増えています。
農林水産省「畜産>飼料」所収「家畜飼料の種類について」、「濃厚飼料をめぐる情勢(令和6年(2024年)4月)」
3.農機の転用で初期投資を抑えて栽培を開始できる
子実とうもろこし栽培では、栽培前のほ場管理から収穫までほとんどの工程で機械が使われるため、これらの農業用機械を新たに購入するために、莫大な初期投資が必要です。
しかし、子実とうもろこしの機械化体系で使われる農機は、水稲・大豆・麦と兼用できるものもあります。
転作・輪作で子実とうもろこし栽培を始める場合には、既に所有している農機にアタッチメントを取り付けるなどして兼用できないか、よく検討してください。新たに購入する農機を最小限にすることで初期投資額を抑えられます。
4.輪作作物の収量増が期待できる
子実とうもろこしを、水稲・小麦・大豆などの輪作に加えることで3つのメリットが期待できます。
最初のメリットは「連作障害の回避」です。連作障害が発生しやすい小麦や大豆の輪作に子実とうもろこしを加えることで、病害・雑草の発生抑制ができるので輪作作物(小麦・大豆など)の収量向上が期待できます。
2つ目のメリットは「ほ場の排水性の改善」です。とうもろこしの根は土壌深く伸びて張るため、ほ場の排水性向上に有効な作物だと考えられています。
3つ目のメリットは「土壌環境の改善」です。子実とうもろこしの収穫後に茎葉をすき込むことで、団粒構造の促進などがされるため土壌環境の改善効果が期待できるのです。
子実とうもろこし生産の4つの課題
水稲や大豆との輪作を行う農家にとってはメリットが大きいものの、子実とうもろこしの導入に当たっては解決すべき課題もあります。
中でも特に重要な「収益面での難しさ」「補助金の条件と栽培面の矛盾」「販売先の確保」「機械・設備購入費の負担」の4点について、詳細を解説します。
1.補助金利用しないと経済性が成り立たない
子実とうもろこしの損益を見てみましょう。現状、収穫物の売り上げだけでは、利益を出すことは難しいといえます。北海道と岩手県の事例をもとに10a当たりの収益性をまとめたものが下記図になります。
出典:農林水産省「飼料増産シンポジウム~国産濃厚飼料の可能性を探る~」所収「水田における子実とうもろこし生産」
岩手県紫波町「【農政課】調査・研究」所収「産業政策監調査研究報告第20号「子実用トウモロコシ産地化の課題と対応方向」」よりminorasu編集部作成
子実とうもろこしの売り上げだけを収入と考えた場合、北海道・岩手県のいずれも事例も損益はマイナスです。一方、10a当たり35,000円の「水田活用の直接支払交付金」を収入に加えると北海道・岩手県のいずれも損益がプラスになっています。
このように「水田活用の直接支払交付金」のような、交付金や補助金を加味しないと利益を上げられない点は、国産の子実とうもろこしが抱える大きな課題の1つです。
2.補助金の条件が栽培を困難にする
水田の心土破砕
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
子実とうもろこし栽培で利益を上げるには、現状では「水田活用の直接支払交付金」を受けることが欠かせません。
同交付金は令和5年度(2023年度)以降ルールが変更されたため、子実とうもろこしの栽培で交付金の対象となるには、少なくとも5年に一度、水田に水を張ることが必要です。つまり、5年に一度以上は水稲を栽培する輪作体系が求められます。
一方で、輪作体形に水稲を加えることにより土壌の排水が悪くなり、子実とうもろこしの栽培において湿害の発生が懸念されます。湿害を避けるためには、水を張ったあとの作付けに際して、十分な排水対策が欠かせません。
具体的には、プラウやサブソイラによる心土破砕や、モールドレーナーによる弾丸暗きょの設置が必要になります。また、周囲の水田からの浸水を防ぐための畦畔の嵩上げや強化、排水を促すための傾斜均平なども有効な対策です。
▼子実とうもろこし栽培での排水対策については、農研機構のマニュアルをご参照ください。
農研機構「子実用トウモロコシ 生産・利活用の手引き 第 1版」
3.販売ルートを確立しなければならない
shige hattori / PIXTA(ピクスタ)
子実とうもろこしには高い需要があり、国内での生産量増大が期待されているものの、現状では全農家が容易に利用できるような販路は確立されていません。したがって、農家が自力で販売先を確保する必要があります。
しかし、輸入とうもろこしを主原料とする配合飼料の畜産農家への供給システムが確立している中で、1軒の農家で販路開拓するのは難しいのが現状でしょう。
北海道の子実コーン組合のように、組織として複数の販路を持ったり、都府県での取り組みのように畜産農家との連携による供給量の拡大を計ったりするなど、地域ぐるみでの取り組みが求められます。
事例参考資料:
酪農学園大学「酪農ジャーナル電子版【酪農PLUS+】|酪農情報BOX |特集|北海道における子実用トウモロコシ生産の現状と今後の展望」
農林水産省 近畿農政局「 近畿農政局 農業生産| 近畿農政局 畜産|近畿耕畜連携イニシアチブ|「水田飼料作シンポジウム」を開催しました」所収「水田飼料作の現状と今後の可能性について(農研機構 東北農業研究センター 緩傾斜畑作研究領域 生産力増強グループ グループ長 宮路 広武 氏)
公益社団法人畜産技術協会「月刊畜産技術 (808号/2022年9月)」所収「水田を活用した子実トウモロコシ生産の現状」
4.農業機械・設備の購入が必要な場合がある
E&W / PIXTA(ピクスタ)
輪作などにより新たに子実とうもろこしを生産する場合、農家によっては新たに農機を購入しなければならず、その際には大きな費用がかかります。
既に麦類・大豆などの畑作を導入している場合は、アタッチメントを取り付けることでシーダーや普通型コンバインを子実とうもろこしに兼用できます。
しかし、移植水稲用の農機しか持っていない場合は、シーダーや普通型コンバインを新たに購入することになります。
子実とうもろこしには、収穫後のとうもろこしを乾燥・貯蔵する設備・施設も必要で、新規整備にはかなりの資金が要ります。
自社あるいは地域に、水稲や大豆の乾燥調製施設や設備がすでにあれば、それらを子実とうもろこしにも利用できます。ただし、食用作物と兼用については、コンタミ(異品種混入)を懸念する声もあるので時期をずらすなどの調整が必要です。
子実とうもろこし コンバインの脱穀部
E&W / PIXTA(ピクスタ)
子実とうもろこしは国内外の状況や高い需要を背景に、日本国内での生産拡大が期待されています。収穫までの栽培にかかる時間が極端に少ないことや、水稲・麦・大豆などと輪作することで他の作物へのよい影響が確認されていることなどがメリットです。
ただし、収益面の難しさ・販路の確保・乾燥調製・貯蔵設備の整備などの課題もあるため、畜産農家も含めて地域一丸となった解決に向けた取り組みが求められます。
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