「デジ活」中山間地域の支援内容と活用法を解説
「デジ活」中山間地域は、デジタル技術を活用して地域の課題を解決し、農業の活性化と地域振興を図る取り組みです。特にスマート農業やICTによる効率化、生活支援といった施策がサポート対象です。本記事では、取り組みの詳細を解説します。
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「デジ活」中山間地域とは、農業などの「仕事づくり」を軸に、デジタル技術と地域資源とを活用して活性化に取り組む中山間地域のことです。本記事では、この「デジ活」中山間地域を支援する制度について、概要や農業分野での活用状況など、最新の情報をお伝えします。
「デジ活」中山間地域とは?
「デジ活」中山間地域の登録地域の1つ、滋賀県甲賀市鮎河地区
nakaphoto / PIXTA(ピクスタ)
2022年12月、国が目標に掲げる「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」をめざして、「デジタル田園都市国家構想総合戦略」が閣議決定されました。
これは、人口減少・高齢化など地方が抱える課題の解決や地方創生のために、AIやICTといったデジタル技術などを活用し、地方を活性化するための戦略です。
この構想の実現に向けて、デジタル技術の活用を通じた以下5つの取り組み方針が掲げられています。
- 地方に仕事をつくる
- 人の流れをつくる
- 結婚・出産・子育てしやすい地域づくりを進める
- 魅力的な地域をつくる
- 地域の特色を活かして分野横断的に地方を支援する
出典:内閣官房「デジタル田園都市国家構想実現会議|閣議決定等|デジタル田園都市国家構想基本方針(令和4年6月7日閣議決定)|概要」所収「デジタル田園都市国家構想基本方針(令和4年6月7日閣議決定)」
こうした方針を、よりイメージしやすくして取り組みを促すために、国は取り組みの参考となる6つの「地域ビジョン」を提示しています。その1つが『「デジ活」中山間地域』です。
地域ビジョンを実現するため、地域活性化に取り組んでいる、あるいはこれから取り組もうとする中山間地域が「デジ活」中山間地域に登録すると、国からの支援を受けられます。
農林水産省をはじめとして内閣官房、内閣府、総務省、文部科学省、厚生労働省、国土交通省、経済産業省、環境省からなる関係府省連携チームが多角的に取り組みをサポートします。
国はこのような取り組みを通して、2027年度までに150地域以上の「デジ活」中山間地の登録をめざしています。
デジタル技術の活用により、課題解決へ向け取り組む地域
「デジ活」中山間地域の登録地域の1つ、新潟県出雲崎町
nabeshi / PIXTA(ピクスタ)
農林水産省の資料によれば、「デジ活」中山間地域とは、以下のような取り組みを積み重ね、地域づくりをめざす地域のことをいいます。
- 農林漁業を中山間地域の基幹産業と位置付け、その「仕事づくり」を地域活性化の主軸として、デジタル技術を活用しながら課題解決などに取り組んでいる
- 併せて、中山間地域特有の交通・物流、地域資源やデジタル技術を活用した解決に取り組んでいる
なお、農業における「仕事づくり」の取り組みには、スマート農業の導入による農業の活性化なども該当します。
このような地域であれば、関係府省が実施している関連事業への申請と併せて「デジ活」中山間地域に登録できます。関連事業への申請では、以下の4府省が行う8つの事業の中から、その地域の活動に適したものを選択します。
内閣府
- デジタル田園都市国家構想交付金
(地方創生推進タイプ:小さな拠点)
総務省
- 過疎地域等集落ネットワーク圏形成支援事業
農林水産省
- 農村型地域運営組織モデル形成支援
- 元気な地域創出モデル支援
- デジタル林業戦略拠点構築推進事業
- デジタル水産業戦略拠点整備推進事業
国土交通省
- 無人航空機等を活用したラストワンマイル配送実証事業
- 地域公共交通確保維持改善事業費補助金(自動運転実証調査事業)
なお、これらの事業はすべて、その地域で活動している「小さな拠点」や「農村型地域運営組織(農村RMO)」などを対象としています。
対象となる組織への支援を市町村や地域協議会などが事業申請と併せて登録申請したのち、農林水産省によるチェックリストの確認を経て登録され、支援が開始します。
出典:農林水産省「農村振興|「デジ活」中山間地域について」所収 「「デジ活」中山間地域について」
増え続ける耕作放棄地対策として支援を実施
「デジ活」中山間地域の登録地域の1つ、島根県浜田市。同市は取り組みに耕作放棄地発生防止も挙げている。
nabeshi / PIXTA(ピクスタ)
「デジ活」中山間地域が登録・支援される背景には、日本の総土地面積のおよそ7割を占める中山間地域の深刻な状況があります。
中山間地域で営まれている農業は、全国の耕地面積・総農家数それぞれのおよそ4割を占め、食料生産の場としてだけでなく、治水機能や土砂崩れ防止機能、土の流出を防ぐ機能などの多面的機能を備え、重要な役割を果たしています。
一方、中山間地域は、農業の生産条件的に不利とされ、農地の集約化・大規模化が難しく、機械化や効率化も思うように進まず、耕作放棄地が増加し続けているケースも少なくありません。
また、都市部に先駆けて高齢化や人口減少が進行しており、生活面でも、それに伴う課題を多く抱えています。
そのような厳しい状況の中でも、複数の集落が連携したり、意欲ある農家が「農村型地域運営組織(農村RMO)」を立ち上げたりして、地域振興を図っている地域も多くあります。
この事業では、そのような地域を「デジ活」中山間地域として登録することで、地域が自ら行う課題解決や地域の活性化を、国を挙げて支援することを目的としています。
「デジ活」中山間地域への支援内容
「デジ活」中山間地域に登録されると具体的にどのようなサポートが受けられるのか、サポートを受けられる事業の例や、支援の流れについて解説します。
スマート農業の導入や、ICTを活用した鳥獣対策などをサポート
gyomepome / PIXTA(ピクスタ)・ POPO / PIXTA(ピクスタ)・ maricat / PIXTA(ピクスタ)
事業活用のイメージを1つ例示します。
農業を基幹産業とする地域の場合、まず軸となる「仕事づくり」の取り組みとしては、ドローン農薬散布やICTによる水管理システムなどスマート農業技術の導入、自動草刈機の導入、ICTを活用した鳥獣対策など、効率化・省力化や課題解決に向けた取り組みがあります。
そして、それを軸に、地域の人たちの生活面における課題を解決するため、デジタル技術を活用して次のような取り組みも行います。
- 交通・物流:公共交通の整備や効率的な物流の構築など
- 地域資源の活用:地域の保有する文化や景観などの付加価値向上や、観光資源としての活用など
- くらし:地域の人々の情報格差の是正や、高齢者への買い物支援など
上記のような取り組みに対し、関係府省の関連施策の中から適した事業や支援を受けられます。
参考:総務省「地方行政のデジタル化」所収「地域社会のデジタル化に係る参考事例集【第2.0版】」
必要な支援や、使える制度についてフォローが受けられる
「デジ活」中山間地域に登録されると、先述した「4府省が行う8つの事業」の関連施策や支援策の対象となり、『「デジ活」中山間地域 関係府省連絡会』による活動のフォローアップや施策紹介、申請相談などを受けられます。
関連する施策は一覧にして公表されます。
例えば、内閣府の「デジタル田園都市国家構想交付金」、総務省の「ローカル10,000プロジェクト」、農林水産省の「中山間地農業ルネッサンス推進事業」、厚生労働省の「遠隔医療設備整備事業」、国土交通省の「ドローンを活用した荷物等配送」などがあります。
出典:農林水産省「農村振興|「デジ活」中山間|「デジ活」中山間地域関連施策集」
活動のフォローアップでは、出先機関である都道府県拠点の職員などが登録された地域へ実際に訪れ、課題の洗い出しから解決策の検討・実施、効果検証まで、登録時だけでなく3~5年程度の複数年にわたり支援を行います。
また、民間事業者などの協力により、デジタル分野の専門家からのサポートを受けたり、民間事業者とマッチングしたり、セミナーなどの情報提供を受けたりすることも可能です。
「デジ活」中山間地域の対象と、第1回の登録状況
登録申請に当たっては要件を満たしていることが必要で、それを確認するチェックリストがあります。そのチェックリストから、登録要件について解説します。また、2023年度の第1回の登録状況を併せて紹介します。
“「デジ活」中山間地域”の登録要件
「デジ活」中山間地域の登録地域の1つ、三重県多気町。大台町、明和町、度会町と連携して「美村(びそん・VISON)」プロジェクトを推進。6次産業化×デジタル地域通貨など、デジタルを活かした地域活性化に取り組んでいる。
LuTiE78 / PIXTA(ピクスタ)
「デジ活」中山間地域の登録に当たっては、対象となる地域・取り組みに関する条件があります。共通チェックリストをもとに、その条件を解説します。
・デジタルを活用して、地域を活性化する取り組みであること
地域の活性化に当たっては、スマート農業の導入をはじめとして、ICT活用による地域情報網の構築や農産物の集出荷体制構築など、デジタル技術を活用した取り組みが必要です。
・事業内容に、基幹事業である農林水産分野の「仕事づくり」に関する取り組みが含まれていること
仕事づくりに関する取り組みとは、例えば、農産物の出荷・流通・販売等の効率性の向上、スマート農業の推進や農地管理マップの作成等による農用地保全など、中山間地域の課題解決や地域の活性化に結びつく取り組みを指します。
・事業実施地区に、中山間地域等を含むものであること
ここでいう中山間地域とは、農林統計上の中間農業地域と山間農業地域を合わせた地域だけではなく、水産統計上の漁業地区、特定農山村、振興山村、過疎のほか、半島、離島、沖縄、奄美群島、小笠原諸島、特別豪雪、指定棚田、旧急傾斜法の指定地を含みます。
・地方公共団体、地域団体、民間団体、専門家など、地域内外の多様な関係者が参加・連携する体制を構築している又は構築予定であること
1つの企業や農業経営体ではなく、「小さな拠点」や農村RMOなど集落を超えた組織が事業の対象となります。
出典:農林水産省「農村振興|「デジ活」中山間地域について|参考資料」所収 「「デジ活」中山間地域について」
第1回「デジ活」中山間地域の登録状況
2023年6月2日時点の登録状況(第1回分)は、北海道2地域、北陸2地域、関東甲信・静岡2地域、東海2地域、近畿4地域、中国・四国10地域の、15道府県22地域です。
登録地域の中には、三重県多気町のように、スマート農業技術の積極的な導入による減災・防災、害獣被害対策などをすでに行っている地域だけでなく、まだ具体的な施策は実施しておらず、これからデジタル技術の導入を進めていきたいと考えている地域も含まれています。
出典:農林水産省「農村振興|「デジ活」中山間地域について|参考資料」所収「2023年6月2日公表分 - 登録地域及び事業概要」
「デジ活」中山間地域の登録地域の1つ、島根県奥出雲町の水田
のりえもん / PIXTA(ピクスタ)
「デジ活」中山間地域とは、意欲ある農村RMOなどが農業の効率化や地域振興に向けてすでに実施している取り組みや、これから始めようとしている取り組みに対して、多くの府省が連携して支援する事業です。
「デジ活」中山間地域に登録することで受けられる事業の内容は、支援金だけでなく相談や技術支援など多岐にわたり、どの支援を受ければよいのかというところからアドバイスを受けられます。
該当する地域であれば積極的に活用し、有利な条件で地域振興の取り組みを進めましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。