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バイオ炭で収益アップ!ブランド構築やJ-クレジット活用などのメリットを紹介

バイオ炭で収益アップ!ブランド構築やJ-クレジット活用などのメリットを紹介
出典 : 66BIRTH / PIXTA(ピクスタ)

バイオ炭を農業に活用することで、土壌改良や作物収量の向上に寄与するだけでなく、温室効果ガス削減の貢献が期待できます。さらに、J-クレジット制度の活用により、収益の向上や地域ブランド化も可能です。本記事では、バイオ炭の特性や導入メリット、J-クレジットの具体的な活用事例を解説します。

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古くから日本の農業で土作りに活用されてきた木炭や竹炭、鶏ふん炭などのうち、一定の条件で作られた炭を「バイオ炭」と呼び、温室効果ガスの削減に有効であることが認められました。それを受け、地球温暖化防止対策としてバイオ炭の農地施用が推進されています。

バイオ炭(Biochar)とは?

木炭 竹炭 もみ殻くん炭

セーラム / PIXTA(ピクスタ)・MORI.M / PIXTA(ピクスタ)・ マーボー / PIXTA(ピクスタ)

バイオ炭とは、簡単にいうと「バイオマスから作られた炭」のことです。バイオマスとは、木や竹、もみ殻、家畜の排せつ物など、生物由来の有機物のことを指します。

自分で作ることも可能で、立命館大学カーボンマイナスプロジェクトが竹を使ったバイオ炭の作り方を紹介しています。

出典:立命館大学カーボンマイナスプロジェクト「竹を使ったバイオ炭」

バイオ炭は土壌に撒くことで土壌改良に効果を発し、作物の生長促進・収量アップにつながります。それに加えて、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を土壌に閉じ込めるため、二酸化炭素排出削減の効果があるといわれます。

土壌中のバイオ炭の効用

出典:日本LCA学会「日本LCA学会誌 18巻1号」所収「バイオ炭の農業利用と脱炭素~国内外の動向と今後の展望(農研機構 岸本(莫)文紅)」よりminorasu編集部作成

このことは、地球温暖化について研究を進める政府間機構「国連気候変動に関する政府間パネル(ICPP)」によって認められています。

これだけを聞くと、農業で土作りに使われてきた木炭や竹炭、もみ殻くん炭、鶏ふん炭などはすべてバイオ炭に該当することになりますが、国が推進する地球温暖化防止対策に向けた「J-クレジット制度」の対象となるバイオ炭は、実際には厳格な条件があり区別されます。

前提として「2019年IPCC改良ガイドライン」にあるバイオ炭の定義を満たす必要があります。その定義とは、「燃焼しない水準に管理された酸素濃度のもと、350℃超の温度でバイオマスを加熱して作られる固形物」とされています。

この定義に加え、日本ではJ-クレジット制度の対象となるバイオ炭の原料について、以下の条件を設定しています。

・木竹由来の「白炭」「黒炭」「竹炭」「粉炭」「オガ炭」の5種および、家畜ふん尿由来、草本由来、もみ殻・稲わら由来、木の実由来、製紙汚泥・下水汚泥由来であること
・国内産の原料であること
・未利用の間伐材など、ほかに利用用途がない原料であること
・原料に塗料、接着剤などが含まれていないこと

出典:農林水産省「基本政策|環境政策|気候変動|バイオ炭説明会」所収「バイオ炭の農地施用を対象とした方法論について(P8~9)」

これらの条件を満たしたバイオ炭は、国内の二酸化炭素排出量を削減できるとして、J-クレジットの認定対象となります。なお、J-クレジット制度の詳細については後述します。

バイオ炭が注目される背景

廃棄物系バイオマス 未利用バイオマス 資源作物バイオマス

ポキポキぽっきー / PIXTA(ピクスタ)

古くから土作りに活用されてきた木炭やもみ殻くん炭などがバイオ炭として注目されている背景には、日本が先進国として取り組むべき地球温暖化防止対策があります。

前述のとおり、バイオ炭を土壌に撒くことは二酸化炭素の排出削減が期待でき、世界的にも認められている取り組みです。日本では2020年9月、J-クレジット制度において、バイオ炭を農地に施用することによる炭素貯留量がクレジットとして認証されることになりました。

また、担い手不足・高齢化や気候変動の影響、食料や生産資源の輸入依存など、農業が抱える課題を解決するために、地域ぐるみで持続可能な環境保全型農業の構築が求められていることも背景の1つです。

バイオ炭の施用は地力を向上させ、持続可能な農業の構築に役立つだけでなく、同じ地域の林地残材や畜産排せつ物など「未利用バイオマス」をバイオ炭の原料とすることで、地域全体の活性化や環境の改善に貢献できます。

バイオ炭を活用するメリット

ここでは、バイオ炭を土作りに活用する主なメリットについて解説します。

土壌改良材

土作り 地力

dorry/ PIXTA(ピクスタ)

バイオ炭の土壌改良剤としてのメリットは、主に排水性・透水性の改善と、pH矯正です。バイオ炭はpH8~10程度とアルカリ性が強いため、酸性土壌のpH改善に効果が期待できます。

ただし、pHが過剰にアルカリ性に偏ると、かえって作物に悪影響を及ぼすため、適切なpHを保つよう施用量には注意が必要です。また、原料には木やもみ殻、鶏ふんなどさまざまなものがあり、それぞれ特徴が異なるので、土壌の質や養分に合わせて選ぶとよいでしょう。

出典:農林水産省「環境保全型農業関連情報|地球温暖化対策|バイオ炭の施用量上限の目安について」

地球温暖化対策

シナネンホールディングス株式会社は、バイオ炭のJクレジット購入企業となっている

出典:株式会社PR TIMES(シナネンホールディングス株式会社 プレスリリース 2022年8月31日)
シナネンホールディングス株式会社は、バイオ炭のJクレジット購入企業となっている

バイオ炭の原料となる木や竹などの植物は、成長過程で二酸化炭素を吸収し、多くの炭素を含みます。しかし、伐採したり枯れたりしたあとそのままにしておくと、微生物により分解され、再び二酸化炭素として大気中に放出されてしまいます。

その点、炭化させてバイオ炭にすれば、炭素は炭の中に固定されます。それを土壌に混和することで、炭素を土壌に閉じ込め、大気中への放出を削減できます。これを土壌への「炭素貯留」といい、温室効果ガスの削減に有効な手段であることが認められています。

また、バイオ炭の土壌への施用は二酸化炭素を土壌に閉じ込め、地球温暖化防止に役立つ「地球にやさしい」取り組みとして、イメージの向上にもつながります。

バイオ炭の問題点

バイオ炭の農地への施用は、2020年にJ-クレジットとして認証されましたが、その後の普及率が低く、なかなか広まらないことが課題です。実際にどれくらいの農地でバイオ炭が施用されているか、という統計情報は残念ながらありません。

ただ、経済産業省中部経済産業局がホームページ上のコラムで、環境省の調査による2018年のデータをもとに、バイオ炭施用量を試算しています。それによると、バイオ炭を施用している農地面積は 250haと算出され、日本全土の農地面積のわずか0.006%ほどとのことです。

出典:
経済産業省中部経済産業局「中部Jクレコラム」所収「第35回 バイオ炭とは~農業分野での脱炭素~」

環境省「温室効果ガス排出・吸収量等の算定と報告」2019年度(令和元年度)の項所収「森林等の吸収源分科会|LULUCF 分野における排出・吸収量の算定方法について」

もう1つの課題としては、過剰にバイオ炭を施用した場合、土壌のpHが上がりすぎてしまい、かえって作物の生育に悪影響を生じさせる可能性があることです。これについては、農林水産省がバイオ炭の使用の目安を参考として示しています。

バイオ炭活用による収益化の可能性

バイオ炭を活用することで、収益のアップにつながる2つの方法があります。

J-クレジットの活用

J-クレジット制度の概要図

J-クレジット制度ホームページ「資料・データ集」所収「J-クレジット制度 説明資料」よりminorasu編集部作成

そもそも、本記事でも何度か触れている「J-クレジット」とは地球温暖化防止対策の一環で、二酸化炭素など温室効果ガスの排出削減量・吸収量を数値化して売買する、排出権取引のしくみを取り入れた日本の制度です。

二酸化炭素などの排出削減量・吸収量を「クレジット」として、国が認証します。

二酸化炭素を減らしたり吸収させたりした中小企業・農林業者・地方自治体などは「J-クレジット創出者」として、J-クレジットを購入する大企業・中小企業・地方自治体などは「J-クレジット購入者」として、それぞれにメリットがあります。

創出者のメリットには、省エネ設備導入や再生可能エネルギーの活用によるランニングコストの低減、クレジットの売却益、地球温暖化対策への取り組みのPRやそれによるイメージアップ、組織内の意識改革などが挙げられます。

一方、購入者メリットとしては、環境貢献に対するPR効果、新たなビジネス機会の獲得、差別化・ブランディングなどがあります。

ただし、J-クレジットの認証を受けるには、農地の地目や土壌分類、バイオ炭の精煉度や固定炭素比率などの条件を満たしていることが必要です。バイオ炭の原料の供給元から条件を満たすことを文書で確認するため、事前に準備しておきましょう。

また、どれくらいクレジットが得られるかについては、バイオ炭の炭素貯留量から、決められた算定式により算定されます。

出典:
J-クレジット制度ホームページ「運営委員会配布資料|第21回」所収「第21回J-クレジット制度運営委員会資料」

農林水産省「基本政策|環境政策|気候変動|バイオ炭説明会」所収「バイオ炭の農地施用を対象とした方法論について(P8~9)」

エコブランドとして活用

バイオ炭の施用により二酸化炭素削減に貢献していること自体を付加価値として、バイオ炭を施用した農地で育てられた農作物をブランド化し、利益を上げる方法もあります。農作物だけでなく、地域の企業も巻き込んで統一ブランドを立ち上げ、活動をアピールしてもよいでしょう。

実際に京都府の亀岡市では、J-クレジットの認証が始まる10年以上前の2008年から、市と地元農家、地域の小学校や高校、龍谷大学、立命館大学、京都先端科学大学と協働で「亀岡カーボンマイナスプロジェクト」に取り組んできました。

このプロジェクトは、問題となっていた放置竹林を地域で協力して整備し、それによって出た竹や稲作のもみ殻などの有機物で炭を作り、それを撒いた田畑で栽培した作物を「クルベジ(登録商標)」というブランド名で販売していました。

クルベジ(登録商標)の認証を受けた農産物は、ロゴの入ったシールを貼って販売できるため、ほかの農産物と差別化したり社会貢献をPRしたりでき、イメージアップにつながっています。

さらに、シールに企業の広告を入れることも可能です。広告入りのシールは1枚につき20円で企業に販売し、そのうち10円は農家に、10円は事務局に支払われます。

こうして京都で成功したプロジェクトは、プログラム化されて全国展開を開始しました。どの市町村でも、プロジェクトの指定する認定機関の認証を受ければ、「クルベジ(登録商標)」の商標使用が許可され、同じマークのシールを使用できます。

このプロジェクトは2022年1月に、J-クレジット制度で初めてプロジェクト登録案件として認証されました。

出典:
龍谷大学 政策実践・探究演習「亀岡プロジェクト」クルベジ®を使ったスウィーツを企画・販売【政策学部】

亀岡クルベジファーマーズ「亀岡カーボンマイナスプロジェクトとは」

バイオ炭利用の今後

カーボンクレジットのイメージ

YEVHENIIA - stock.adobe.com

バイオ炭の利用を広めるには、J-クレジットの利用を推進することが欠かせません。しかし、J-クレジット申請手続きは煩雑で、個々の農家にとっては大きな負担になります。したがって、こうした手続きの簡略化が検討とされています。

日本クルベジ協会が主催する「炭貯クラブ」では、J-クレジット認定を希望する複数の事業提案者をまとめて申請し、モニタリングによる認可やクレジット販売などの煩雑な手続きを行う「プログラム型申請」を行っています。こうしたサービスを利用することも有効です。

一般社団法人日本クルベジ協会「炭貯クラブ(プログラム参加方法等)」

また、木や竹、もみ殻などだけでなく、これまでリサイクルが困難であった農業用プラについても、同様に炭化することで廃棄時に発生する二酸化炭素を削減し、炭化素材として再利用する取組みも始まっています。

廃棄物として処理していた農業用プラを地域の中で再利用したり、無害化したりすることで、循環型経済「サーキュラーエコノミー」の構築にも活かせるでしょう。

環境省「令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書|状況|第1部|第2章|第2節 循環経済への移行」内「事例:廃棄物処理を軸とした地域循環共生圏(富山環境整備)」

一方で、バイオ炭の施用による問題点も明らかになっています。例えば、土中のバイオ炭が農薬を吸着するため、効果が低下してしまうことがあると指摘されています。

こうした問題への対策を立てたり、環境別に細やかな施用の目安を提示したりするなど、農業の現場に即したガイドラインの策定が待ち望まれます。

放置竹林もバイオマス資源

清十郎 / PIXTA(ピクスタ)

バイオ炭は、J-クレジットに認定され活用が推進されているにもかかわらず、取り組みが広がらないことが課題となっています。バイオ炭を施用することのメリットも多いので、まだ施用したことのない方は活用を検討してみましょう。

その際は、放置竹林を活用した亀岡市の事例のように、地域における安価で持続可能なバイオ炭の生産確保や、農家と地域住民や企業・大学などが一体となった組織作りが求められます。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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