新規会員登録
BASF We create chemistry

農業所得の計算方法と確定申告のポイント:経費計上の具体例を解説

農業所得の計算方法と確定申告のポイント:経費計上の具体例を解説
出典 : artswai / PIXTA(ピクスタ)

農業所得の確定申告で、経費として計上できる支出を具体例とともに解説。正しい経費申告は税負担の軽減につながります。減価償却の考え方や注意点も説明し、無駄のない申告で賢く節税する方法を紹介します。農業経営に役立つ情報をぜひ参考にしてみてください。

  • 公開日:

記事をお気に入り登録する

農家が得た収入は、確定申告しなければなりません。新規就農者も事業者として農業所得を申告することになります。確定申告をしたことがない方も、一から理解できるように収入や経費の考え方、農業における収入と経費の例、納税負担軽減のポイントなどを詳しく解説します。

本記事は2020年12月時点、国税庁の「令和2年分の確定申告に関する手引き等」を基本に、一般社団法人全国農業経営専門会計人協会など農業財務の専門サイトの情報に基づいて執筆しております。詳細はお近くの税務署や公認会計士・税理士にご確認ください。

参考:国税庁「令和2年分の確定申告に関する手引き等」

農業所得の確定申告に必須!「収入」と「経費」の考え方

農業所得用の収支内訳書

artswai / PIXTA(ピクスタ)

確定申告では普段、意識せずに使っている「収入」や「所得」という言葉の意味がきちんと定められています。以下では、それぞれの用語の意味について解説します。

収入

収入は1年間に得た経済的な利益すべてを指し、単に金銭的な利益だけでなく、対価性のない無償の利益も含みます。例えば年金をもらっている場合も収入になります。

所得

所得は、収入から収入を得るために必要な経費を差し引いたあとの金額をいいます。確定申告で扱う所得には、給与所得や事業所得、不動産所得など全部で10種類の区分があります。

農業所得

上記の所得区分のうち、事業所得に分類されます。
計算方法はほかの所得と同様で、農業経営によって得られた総収入から、必要な経費を差し引いて計算します。

必要経費とは事業を運営するために必要な費用のことで、農業の場合なら農機具や肥料、種苗代などが相当します。農業所得を確定申告するには、農業所得の計算に必要な収入と経費を正しく把握することが重要です。

見逃し厳禁、農業経営における「収入」の例

みかんを仕分けする農家 家事消費分も農業所得

Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

農協や卸売業者などに作物を販売する以外にも、農業所得に当たるものがあります。例えば生産した野菜を自宅で消費したり、知り合いに分けたりするケースや、農家仲間の農作業を手伝って報酬を受け取ったりするケースが考えられます。

農業所得と知らずに収支内訳書に計上漏れがあると、あとから追徴課税されてしまうので要注意です。ここからは、注意すべき農家の所得について、詳しく解説します。

「家事消費分」や「小作料」も農業所得とみなされる

自分のほ場で生産した作物を家族で食べたり、人に分けたりする場合は、家事消費分として申告が必要です。金額は一般的な販売額の70%で計上します。形が悪くて出荷できない作物であっても、見切り品の価格で計算します。消費した量はおおよそで構いません。

ただし、出荷用ではなく家庭菜園で作られた野菜などは除きます。当然、家庭菜園で使った種苗代などの関連費用は経費になりません。

作物を自分で生産していなくても、農地を人に貸して小作料や野菜などの現物を受け取っている場合には、農業所得として申告が必要です。

無人販売所の収入や農作業を手伝った報酬も忘れず含めよう

無人販売所での売上は、計上を忘れることが多いので注意してください。
また農家同士の助け合いなどで農作業を手伝い、報酬をもらった場合は雑収入になり、農業所得として計上が必要です。雑収入にはほかにも出荷奨励金や交付金、共済金などがあります。

過少申告があった場合は追徴課税されるので注意!

「追徴課税」とは確定申告で納めた税金が、適正な納税額より少なかった場合に、追加で納めなければならない税金です。確定申告が適正でないと判断されれば、税務署の職員による税務調査が行われます。

調査によって収入を過少に申告していたことがわかれば、申告内容を修正し直す必要があり、本来納めるべき税金との差額分を徴収されます。過少申告は差額分に加え、ペナルティとして加算税が課され、納付が遅れると延滞税もかかるので注意が必要です。

例えば無人販売所の売上を計上し忘れた場合、売上金額の記録がないと税務調査で収入を多めに計算されます。追徴課税額も本来の税額より高くなるおそれがあるので、売上の記録・記帳をし、申告漏れがないようにしましょう。

農業所得として認められない(別の所得として計上すべき)収入も

ワイナリーのレストラン。レストランの売上は農業所得ではなく事業所得"

motchy / PIXTA(ピクスタ)

最近は農業の6次産業化がめざされ、自家栽培した作物の加工や販売などが行われています。作物の販売と加工事業に関わる収入は合算し、決算書に記載するようにします。

ただし、自家栽培した作物を使ったメニューを、自営のカフェなどで提供した売上は、事業所得(一般用)として、農業所得とは別に確定申告が必要です。また、作物の加工場や作業所を持ち、専従の従業員を雇っている場合は、製造業としての申告が必要です。

ほかにも農家の収入であっても、農業所得に当たらないものがいくつかあります。フルーツ狩りなどの体験農園や、農業経験ができる農泊経営、小売業などは事業所得(一般用)として申告します。

農協から受け取るJA出資配当金は、配当所得に当たります。農業法人の経営に関わり、役員報酬がある場合は給与所得として申告します。

どこまで計上できる?農業経営における「経費」の例

梨の収穫コンテナ。収穫コンテナなど出荷までにかかる支出も経費に計上できる

やたがらす / PIXTA(ピクスタ)

農業経営の経費には、作物を生産するための種苗や肥料、農薬、農機具などの費用があります。ビニールハウスの修繕費や農機のガソリン代、コンテナや運賃手数料など、出荷までにかかる支出も計上します。ほかに計上できる経費の例を解説しましょう。

自動車税・固定資産税などの租税公課

トラクターなどにかかる自動車税や、農地に課税される固定資産税などの租税公課も経費に計上できます。農地を取得するための不動産取得税や消費税、農協に支払う組合費なども経費に当たります。

ただし、計上できるのは農業に関わる税金のみです。住民税や所得税などの税金すべてが計上できるわけではありません。確定申告で税務調査が入り、追徴課税で課せられた加算税や延滞税なども経費計上できません。

農地の賃借料や、土地の維持にかかる費用

農地や施設を借りて作物を生産している場合、地代や賃借料は経費に当たります。農機のリース代も計上可能です。また農地や土地の維持にかかる費用も計上できます。

維持費用には土地改良費があります。土地改良費とは「土地改良区」という公共組合に支払う負担金のことです。土地改良区は土地改良法により、地区内でほ場の整備やため池、水利施設などの維持・管理を行います。

土地改良費には土地の取得などの永久資産取得費、土地の減価償却などの繰延資産取得費、毎年の維持管理費、水利費などがあります。永久資産取得費以外はすべて経費計上が可能です。

永久資産取得費も賦課金が10a当たり1万円未満であれば、全額を経費として計上できます。土地改良費を何年分かまとめて一括払いをしている場合は、毎年経費として計上する必要があります。

インターネットなどの通信費や作業用の衣料費、接待交際費なども経費計上できる

ネット通販やブログで発信するなど、農業の仕事で使用する通信費も経費計上できます。インターネット回線使用料やプロバイダ料金、ホームページのサーバ・ドメイン料、電話代、携帯・スマートフォン利用料などが含まれます。

ただし、プライベートでも使っているケースが多いので、そのときは事業割合で按分して計上します。割合がはっきりしない場合は50%計上でも構いません。

農作業用の衣服や長靴、手袋、帽子、地下足袋などの衣料費も、経費として計上できます。私服は含まれず、作業用衣服と兼用している場合は経費として認められません。

農家や組合の付き合いでの飲食代や接待ゴルフ、冠婚葬祭費などを支出した場合は、接待交際費で計上できます。付き合いによる支出も、プライベートとの明確な区別が必要です。

10万円以上の農機具などは「減価償却費」の対象に!

コンバインなど10万円以上の農機や設備は減価償却の対象になる

Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

10万円以上の農機や設備は減価償却費の計算をし、経費計上できる資産です。農機具の費用には含めません。長期間使用できる減価償却資産は、年々資産価値が減少するため、決められた耐用年数の期間にわたり、毎年減価償却する必要があります。

以前は償却限度額がありましたが、法律が改正され、1円になるまで償却が可能になりました。農機や装置は個別に耐用年数が決められていましたが、これも一律7年に変更されました。償却率は0.143です。

例えば500万円の農機を、4月から使用している場合の計算方法は次の通りです。その年は1年のうち9ヶ月間使用したため、1年目の減価償却費は500万円×0.143×9/12となります。

少しでも負担を減らすために!申告における納税負担軽減のポイント

納税負担を少しでも減らすポイントは、細かい必要経費を収支内訳書に漏れなく計上することと、見落としがちな所得控除を確認することの2つです。農業の研究会や講習会、セミナー参加費用、旅費、書籍や雑誌、新聞なども必要経費で計上できます。

自宅のスペースを仕事場に使っていれば、事務所費用として経費扱いが可能です。スペース割合によって、持ち家なら固定資産税や減価償却費、借家なら家賃が計上できます。電気・水道代も水道光熱費として、事業での使用分を計上可能です。

所得控除は農業に必要なトラクターなどの農機、パソコンやコピーなどの事務機器を新しく購入したときにも、税額控除が受けられます。具体的には使い始めた年に、取得価額の7%相当額が所得税額から控除されます。

また、両親に仕送りをし、医療費や社会保険料を支払っていれば、それぞれ控除を受けることが可能です。ほかに小規模企業の退職金制度である、小規模企業共済に加入し、1年分の掛け金を前納すると、最大84万円の「小規模企業共済等掛金控除」が受けられます。

農業の研究会などの参加費用は経費計上できる

buritora / PIXTA(ピクスタ)

農家として経営を成り立たせていくためには、全体的な収入と経費を把握し、正しい知識で納税負担を軽くすることが大切です。確定申告で毎年の収支計算を確認していれば、将来の農業経営にもプラスになります。

記事をお気に入り登録する

minorasuをご覧いただきありがとうございます。

簡単なアンケートにご協力ください。(全1問)

あなたの農業に対しての関わり方を教えてください。

※法人農家の従業員は専業/兼業農家の項目をお選びください。

ご回答ありがとうございました。

お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。

井上裕子

井上裕子

Webライターとして農業、ビジネス、法律、不動産から、グルメや旅行、ファッション、家電まで、丹念なリサーチをもとにあらゆるジャンルの原稿執筆を手掛ける。10年前から市民農園で野菜づくりを楽しみ、ささやかな農業を実践中。

おすすめ