神奈川県農業の特徴と強み:都市近郊での生産戦略と主要作物
神奈川県の農業は、都市近郊の利点を活かし、多様な農畜産物を生産しています。特に三浦半島のキャベツや大根、足柄地域のキウイフルーツは全国有数の生産量を誇り、地産地消や都市農業の推進にも力を入れています。地域農業の新たな可能性をぜひご覧ください。
- 公開日:
記事をお気に入り登録する
Tony / PIXTA(ピクスタ)
神奈川県は農業関係者のなかでは三浦半島を中心に農業が盛んな地域として知られていますが、一般消費者にとっては東京都に近いことから都会的な街並みをイメージする人も多い県です。
そのため、これから神奈川県で就農を希望する人や農家を継いで間もない人のなかには、どのような農業が営まれているかよくわからないという人もいるのではないでしょうか。
この記事では神奈川県で行われている農業について詳しく解説していくので、参考にしてください。
神奈川県の農業の特徴
神奈川県の農業の特徴は、生鮮食料を生産する割合や土地の生産性が高いことなどが挙げられます。まずは、その詳細を詳しく見ていきましょう。
生鮮食料の比率が高い
sasaki106 / PIXTA(ピクスタ)
神奈川県の農業における大きな特徴として挙げられるのが、野菜や果実、牛乳といった生鮮食料の生産が盛んな点です。
2020年の耕地面積における畑の割合は80.4%で、全国平均の45.6%に比べておよそ1.76倍となっています。
出典:神奈川県「わたしたちのくらしと神奈川の農林水産業(令和3年度版)」所収「農業のすがた」よりminorasu編集部作成
また、2019年度の新規就農者(40歳未満)80人のうち、約53人が野菜経営であることからも、今後しばらくはこうした傾向が続くでしょう。
2019年度 40歳未満 新規就農者80人の部門内訳
部門 | 人数 | 構成比 |
---|---|---|
野菜 | 53人 | 66.3% |
花き | 11人 | 13.8% |
果樹 | 7人 | 8.8% |
畜産 | 7人 | 8.8% |
その他 | 2人 | 2.5% |
合計 | 80人 | 100.0% |
出典:神奈川県「わたしたちのくらしと神奈川の農林水産業(令和3年度版)」所収「農業のすがた」よりminorasu編集部作成
耕地面積のうち畑の割合が高いということは、相対的に米生産農家の比率が低いことを意味しています。これは大都市近郊であることから鮮度が重要視される野菜や果実、牛乳などの出荷が比較的容易でニーズが高い一方、日持ちがする米のニーズがそこまで高くないことが要因として挙げられます。
土地生産性が高い
出典:神奈川県「わたしたちのくらしと神奈川の農林水産業(令和3年度版)」所収「農業のすがた」よりminorasu編集部作成
神奈川県における耕地面積10a当たりの生産農業所得は13万3,000円であり、全国平均7万6,000円の1.75倍という高水準です。県全体の耕地面積は1万8,400haで都道府県ランキングでは45位と少ない部類に入りますが、高い土地生産性を実現しています。
高い土地生産性を実現できている理由として挙げられるのが、販売農家数の減少による農地集積です。
全国的に農家の高齢化による後継者不足が進んでいますが、その課題は神奈川県も変わりありません。しかし、神奈川県では農地を貸借するなどの対策を取って土地の有効活用を促進しており、農業の大規模化が進んでいます。
県全体で効率化に取り組んだ結果が、土地生産性の向上につながっているわけです。
都市農業・地産地消の推進
Akirin / PIXTA(ピクスタ)
神奈川県は市街化区域の農地も多く、田畑の都市かとともに農家数も減少しています。
市街化区域内における耕地面積は全体の10%にも及び、このままではそれらの農地も徐々に失われてしまうでしょう。
そうした状況を危惧した神奈川県は、産地の特性を活かした持続可能な都市農業をめざし、2005年10月に神奈川県都市農業推進条例を制定しました。
この条例は市街地周辺における農地の保全だけでなく、新鮮で安全な食糧の供給や地産地消の推進、多様な担い手の確保など、農業が関係する地域の課題を幅広くカバーする内容となっています。
市街地の農家だからこそ抱えるさまざまな課題解決をサポートしてくれるのは、これから神奈川県で農業を始める人にとっても大きなメリットになるはずです。
生産量ランキング全国上位の神奈川県の作物
ここからは神奈川県の農業の強みに関してより具体的なイメージをつかんでもらうために、神奈川県で栽培されている作物のうち生産量ランキングで全国上位のものを紹介します。
キャベツ
Tony / PIXTA(ピクスタ)
半島ならではの温暖な気候を活かして栽培される三浦半島産のキャベツは全国的にも知られており、生産量は全国第7位です。
神奈川県では主に11月下旬から3月中旬までの早春キャベツと、3月上旬から5月上旬まで出荷される春キャベツの2種類が栽培されています。特に早春キャベツは真冬の時期に生育するわりに柔らかくて甘いことが評判です。
これは、農家の土作りや農業試験場、管内JAによる品種の選抜などの取り組みの成果であり、三浦半島を中心として栽培されるキャベツは「横須賀キャベツ」としてブランド登録されています。
大根
nobu / PIXTA(ピクスタ)
神奈川県全の大根の生産量は全国第5位で、三浦半島を中心に栽培されている三浦大根は全国的に有名です。
三浦大根は在来の「高円坊系」に「練馬」を交配した品種で、近年栽培の中心となっている青首大根よりも大きくてずんぐりとした形が特徴です。
江戸時代から栽培されていたことが知られていますが、大正14年に東京市場への出荷を機に三浦大根と名付けられました。その後、1979年に台風による大きな被害を受けたことがきっかけで、収穫までの期間が短い青首大根に主役の座を取って代わられますが、現在でも根強い人気を博しています。
キウイフルーツ
マハロ / PIXTA(ピクスタ)
神奈川県のキウイフルーツの生産量は全国4位、関東地区ではトップです。特にヘイワードという品種を栽培する足柄産のキウイフルーツの需要は高く、県と生産者団体で構成する「かながわブランド」にも登録されました。
足柄地域でもともと盛んだったミカン栽培からの転作用作物として導入されましたが、現在ではキウイフルーツの産地としてよく知られています。
果実肥大促進剤の不使用にこだわって消費者へ安心・安全な作物を届ける工夫や、徹底した品質管理を行うことで高い人気を保ち続けています。
パンジー
tamu1500 / PIXTA(ピクスタ)
パンジーは県内全域で栽培されており、生産量は全国3位を誇る神奈川県を代表する園芸作物です。
耐寒性の高い植物であることから、神奈川県では晩秋から早春の時期に当たる10月下旬から3月下旬まで出荷されていますが、そのうちほとんどは12月までに流通しています。
従来はほ場に直接植えこんで育苗する地堀栽培が行われていましたが、現在では省力化の面からポット栽培が主流です。新品種を開発することが比較的容易な作物であり、近年では農家自らが育種したオリジナル品種群も増えています。毎年のように新品種が登場することから、それを楽しみにしている消費者も多いようです。
神奈川県の農業の課題と対策
神奈川県では都市近郊というメリットを活かした農業が行われており、全国でも生産量が上位にランクインする作物もいくつかあります。しかし、課題がまったくないわけではなく、他県と同様に農家の高齢化や担い手不足に悩んでいるのも事実です。そこで、最後にそうした課題に対して行っている取り組みを紹介します。
かながわなでしこfarmers
少子高齢化によって人口が減少していくこれからの日本では、生産力の維持に女性の活躍が欠かせません。それは農業でも同様で、女性の農業への参入を促すことが地域の担い手不足解決の1つの方法になります。
そこで、神奈川県における女性の新規就農者の手助けや経営参画の促進を目的に設立されたのが「かながわなでしこfarmers」です。
具体的な活動内容としては、農業未経験者や新規就農に興味を持っている方を対象にした就農バスツアーや体験研修などが挙げられます。
また、すでに就農している方に対しても、経営支援のための「かながわなでしこfarmers研修」や、女性農家により注目してもらえるように制定した「神奈川県女性農業者活躍表彰」を通じてサポートを続けています。
女性で新規就農を検討している方にとってはさまざまな面で非常に頼りになる団体といえます。
YouTube「かなチャンTV(神奈川県公式)」チャンネル「神奈川県は女性農業者を応援しています~かながわなでしこfarmers~」
かながわ農業サポーター制度
かながわ農業サポーター制度は、神奈川県が2007年から独自に始めた新規就農者を支援する制度です。農地の有効活用によって耕作放棄地の問題を解消することをめざして制定されました。
農業に興味を持ち、市民農園規模以上の耕作をしたいと考えている人を「かながわ農業サポーター」として認定し、認定された人は農地の貸し借りから収穫した作物の販売方法まで、神奈川県による手厚いサポートを受けられます。
申請や認定基準には細かい目標や条件が決まっているものの、その分本気度の高い支援が受けられる制度です。神奈川県で新規就農することをすでに決めている人は利用を検討してみるとよいでしょう。
神奈川県は大きな市街地をいくつも抱えながら、その近郊で農業が行われている全国的にも珍しい県で、生産量ランキングで上位にはいり全国的に有名な作物も複数持っています。
営農面では、大量消費である大都市に近いというメリットを活かし、生鮮食料品の生産をメインに土地生産性が高い農業が行われています。
農家の高齢化や担い手不足という全国共通の課題はあるものの、解決に向けたさまざまな支援が充実しています。これから神奈川県で新規就農を検討する人は県内農業の現状や支援制度などをチェックしたうえで、経営計画を立ててみてください。
記事をお気に入り登録する
minorasuをご覧いただきありがとうございます。
簡単なアンケートにご協力ください。(全1問)
あなたの農業に対しての関わり方を教えてください。
ご回答ありがとうございました。
お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。
中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。