【大阪府の農業】有名な農産物や特徴、課題は? 就農前の基礎知識

大阪府の農業の特徴や有名な農産物、課題やその解決に向けた取り組みを解説します。大阪府での新規就農の流れや活用できる支援制度についても紹介しますので、大阪府以外の都市型農業への参入を検討している方も参考にしてください。
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目次
地理的条件から見る、大阪府の農業の特徴

大阪府のブドウ園
dtgw60 / PIXTA(ピクスタ)
大阪府は、日本のほぼ中央に位置しています。関西圏域の中心都市である大阪市を有しており、消費地に地理的条件を活かした都市型農業が行われている地域です。
大阪府内の農地は、約3割が市街化区域内にあります。そのため、個々の経営面積は小さく、ビニールハウスやガラス室などを活用する施設園芸を行う農家が多いことが特徴です。
地形的な特徴を見ていくと、大阪府は北部の北摂山地、東部の生駒山地、南部の金剛・和泉山地といった山々に囲まれています。そのため、盆地状の地形を形成しており、外洋からの風の通りが悪いため雨が少なく、夏季は熱気がこもりやすい傾向にあります。
大阪府の気候は、温暖な瀬戸内式気候に属しており、年間降水量は比較的少なく、日照時間が長いことも特徴です
こうした特色を活かし、大阪府では野菜類と果樹の栽培を中心に、多彩な農業が営まれています。
生産量1位の品目も! 大阪府で有名な作物の例

軟弱野菜に分類される春菊
ayaco ai / PIXTA(ピクスタ)
大阪府は、北部地域、中部地域、泉州地域、南河内地域の4つの地域で構成されており、それぞれの地域で作物の栽培状況にも特徴があります。
ここからは、大阪府で生産量(収穫量)が多い代表的な作物や、地域に根差した伝統的な作物について紹介します。
大都市近郊の立地を活かす、軟弱野菜の生産が盛ん
大阪府では、春菊や小松菜などの軟弱野菜の栽培が盛んです。関西では「きくな」という呼び名で親しまれてる春菊は、全国1位の収穫量(2023年産)を誇り、主に泉州地域や中部地域で栽培されています。
また、小松菜は関東で栽培されていた野菜ですが、現在は大阪府全域でも栽培されています。もともと小松菜は冬野菜でしたが、冬場用の品種と夏場用の品種を使い分けることによって、現在では年間を通して収穫されるようになりました。
春菊や小松菜といった軟弱野菜は、収穫直後から品質低下が始まり、保存がきかない作物です。しかし、消費地に近い都市型農業が中心となる大阪府では、その地理的条件を活かし軟弱野菜の栽培に取り組んでいます。
大阪府で多く生産されている作物の2023年産の収穫量は、以下の表の通りです。
収穫量 | 作付面積 | 全都道府県における収穫量順位 | |
---|---|---|---|
春菊 | 3,180t | 184ha | 1位 |
小松菜 | 3,460t | 189ha | 9位 |
ふき | 759t | 11ha | 3位 |
ミツバ | 559t | 26ha | 7位 |
いちじく※ | 1,273.4t | 40.2ha | 3位 |
ブドウ | 3,520t | 386ha | 7位 |
※いちじくのみ2021年産のデータを掲載
出典:農林水産省 「令和5年(2023年)産指定野菜(秋冬野菜等)及び指定野菜に準ずる野菜の作付面積、収穫量及び出荷量」
農林水産省「令和5年(2023年)産日本なし、ぶどうの結果樹面積、収穫量及び出荷量」
農林水産省 「令和3年(2021年)産 特産果樹生産出荷実績調査 種類別栽培状況(都道府県) 2) かんきつ類以外の果樹【落葉果樹】」
春菊や小松菜以外にも、春野菜であるふきは、主に泉州地域で栽培されている特産品となっています。また、ミツバの栽培も盛んで、水耕栽培による周年出荷が行われています。
果樹では、いちじくやブドウが代表的な作物です。水田転換園での栽培が多いいちじくですが、この栽培方法に最初に取り組んだのが大阪府の農家であり、収穫量(2021年産)も全国3位となっています。
また、中部地域や南河内地域では、30種類を超える品種のブドウが栽培されており、直売所や観光農園での活動が盛んです。
独自の伝統野菜や、地域に根差した作物も多く栽培
大阪府では、地域特有の伝統野菜の栽培も見られます。例えば、泉州地域で栽培されている泉州水ナスや南河内地域で栽培されている大阪ナス(千両ナス)がその代表例です。特に泉州地域の特産品である「泉州水ナス」は、地域ブランド商標として登録されています。
そのほかにも、泉州地域では泉州キャベツと呼ばれる冬キャベツの生産も盛んです。ずっしりと重みがある「松波」が主流品種で、大阪の代表的な食べ物であるお好み焼きの材料としても用いられています。
また、泉州地域は日本玉ねぎ栽培の発祥地でもあります。泉州玉ねぎは、キャベツと共に水稲との輪作作物として広く栽培されています。
南河内地域では、温暖な気候を活かした施設園芸が行われています。
南河内地域が主産の大阪きゅうりは、ビニールハウスを利用した抑制栽培によって生産されおり、9~11月の秋に旬を迎えます。ほかにも、泉州地域や南河内地域を中心に栽培されている紅ずいきなどが、大阪府の特産品です。
このように大阪府では、独自の伝統野菜や地域に根差した作物が多く栽培されており、地域の特産として親しまれています。
課題や現状は? 大阪農業に関する近年のトピック

cba / PIXTA(ピクスタ)
大阪府では、消費地に近い立地を活かした都市型農業が盛んですが、その一方で農家の減少や高齢化などの課題も抱えています。
大阪府では、こうした課題に対して、以下のような取り組みを行っています。
- 「大阪産(もん)グローアッププラン」の策定
- 「大阪農業イノベーション推進事業」の実施
- 「農の匠」による活動の展開
1つずつ見ていきましょう。
1. 「大阪産(もん)グローアッププラン」の策定
大阪府の農業が抱える課題の1つは、作物生産力の低下です。その背景には、農家の減少や高齢化に伴う耕地利用率の低下、作付面積の減少、開発による優良農地の改廃などがあります。
実際に、2015年度から2020年度の間で、大阪府の農業経営体は約17%減少し、農業産出額は約9%減少しました。
また、近年は市場動向や消費動向にも変化が生じており、消費者や実需者の動向を把握し、マーケットインの発想で明確な販売戦略に基づいた生産拡大も求められています。
そこで、大阪府は2021年8月に「⼤阪産(もん)グローアッププラン」を策定しました。
「⼤阪産(もん)グローアッププラン」とは、以下の2つの「グロー」をキーワードに、大阪の農業生産を強化することを目的とした施策です。
- 多くの人が集まる大阪・関西万博に向けて、消費者の目線で大阪産(もん)の魅力を高め、ブランドを輝かせる(GLOW)
- 明確な販売戦略に基づいた取り組みにより、⼤阪産(もん)の産地を育て、⼤阪農業のさらなる成長につなげる(GROW UP)
具体的な施策内容としては、消費者目線・マーケットインの発想のもとに、イチゴ、枝豆、大阪ナス、春菊、ブドウの5つを重点品目として定め、販売戦略と明確な目標を設定し、生産体制の強化と生産技術の向上に取り組むことが挙げられます。
5つの重点品目は、以下の3点を選定基準としています。
- ⼤阪の強みを発揮し、需要拡⼤が⾒込める品目
- 収益性が⾼い品⽬
- 府内で栽培実績があり、⽣産者、⽣産者団体の意欲的な取り組みがある品⽬
出典:
大阪府所収「令和3年(2021年)8⽉ ⼤阪府環境農林⽔産部農政室 ⼤阪産(もん) グローアッププラン」
大阪府所収「⼤阪府新規就農者育成⽅針」
2. 「大阪農業イノベーション推進事業」の実施
大阪府は、2016年度より農業の成長産業化に向けて、JAグループ大阪と共同で「農の成長産業化推進事業」を実施してきました。
2021年度からは、ウィズコロナ・ポストコロナ社会において、さらなる農の成長産業化をめざす「大阪農業イノベーション推進事業」を新たに実施しています。
大阪農業イノベーション事業の概要
1.大阪農業の成長とレジリエンスの向上
・経営強化コンサルプロジェクト事業
中小企業診断士などの専門家を派遣し、農業者の経営力向上を支援
・大阪産(もん)スタートアカデミー運営事業
新規就農者のサポートと産地強化を目的に、研修地や研修対象品目を絞った地域密着型の農業研修を実施
2.リレーションシップ型の担い手育成
・大阪農業つなぐプロジェクト事業
農業者と農業者、農業者と多様な担い手をつなぎ、大阪農業を次世代につなぐ
3. スマート農業のさらなる取り組み強化
・経営強化チャレンジプロジェクト事業
若手農業者団体などを中心に、オリジナリティあふれるDIYスマート農業の実践を促進などを通して、農業者の新たなチャレンジを支援
4. 大阪農業にイノベーションを起こす新たな取り組み強化
・おおさかアグリイノベーショングランプリ
農業分野における新たなビジネスプランの構築に向けて、農業関連ビジネスに取り組もうとする農業者を始めとする個人・法人・グループによるプランを評価し、優秀者を表彰
※第4回の募集は2024年11月25日にて終了しています。
上記のうち、「大阪産(もん)スタートアカデミー」と「大阪農業つなぐプロジェクト事業」については、詳細を後述します。
3. 「農の匠」による活動の展開
1993年度に発足した「農の匠」は、優れた農業経営や積極的な青年農業者の育成、食育活動を行い、地域農業のリーダーとして活躍している農業者を大阪府知事が「農の匠」として認定する制度です。
2023年6月末時点で、94名が「農の匠」として認定されています。そのうち70歳までの農業者で構成される「農の匠」の会は、農業を身近に感じる活動や若い農業者などへの助言指導などの取り組みを展開しています。
具体的な活動は、職業体験の受け入れや地域食材を使った料理の紹介、新規就農者への栽培技術の伝授、農業大学校学生への技術指導、企業とのタイアップによる農業づくりなどです。
出典:大阪府「大阪府『農の匠』」
大阪府で農家になろう! 就農までの主な流れ

kotoru / PIXTA(ピクスタ)
大阪府での新規就農は、農地を借りて参入するのが一般的です。ただし、農地を借りる場合は、主に以下の要件を満たす必要があります。
- 農地のすべてを効率的に利用すること
- 必要な農作業に常時従事すること
- 周辺の農地利用に支障がないこと
上記を裏付けるために、新規就農の際には、研修を含む農業経験について問われます。
そこでまずは、大阪農業つなぐプロジェクト事業の農業体験や交流会などへ参加して知識を収集したうえで、自身の営農計画を立てる必要があります。
その計画をもとに、参入を希望する市町村農業委員会へ相談することで、就農前の農地探しや就農後に使える補助金などの支援が受けられることもあります。
大阪農業つなぐセンターの窓口では、メールや電話、対面(要予約)での相談が可能です。詳細は以下をご確認ください。
大阪府での新規就農時に活用できる、独自の支援制度

Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)
大阪府での新規就農時には、認定新規就農者制度に関連する青年等就農資金や就農準備資金・経営開始資金などの支援制度だけでなく、大阪府が独自に実施している農家に対する支援事業も活用できます。
本項では、大阪府独自の新規就農時に活用できる支援制度をピックアップして紹介します。
大阪産(もん)スタートアカデミー
前項で紹介した大阪農業イノベーション推進事業の1つである「大阪産(もん)スタートアカデミー」は、新規就農者の確保・育成を目的に展開されている品目特化型の研修プログラムです。
ベテラン農業者による現地ほ場での栽培指導や専門講師による座学研修などが受講でき、農業経営に必要な技術や知識を習得し、新規就農をめざせます。
そのほかにも、大阪府内の市が個別に開催している就農支援プログラムもあります。
出典:大阪府「大阪産(もん)スタートアカデミー」
大阪農業つなぐセンター
大阪府は「大阪農業イノベーション推進事業(大阪農業つなぐプロジェクト)」の取り組みの一環として、「大阪農業つなぐセンター」を設置しています。大阪農業つなぐセンターの具体的な取り組みとしては、以下の5つです。
- 新規就農の相談窓口の設置
- 農業体験・ボランティアの総合情報ページの作成
- 農業者とのマッチングにより副業、農業体験などの実施をサポート(アグリパートナー制度)
- ハートフルアグリ(農福連携)の推進
- 農業体験希望者と企業や農家のマッチング(農業マッチング制度)
農業体験や交流会、農業参入セミナーなども開催しており、新規就農者の相談窓口として活用できます。
出典:大阪府「大阪農業つなぐプロジェクト事業」
大阪府は、消費地に近い立地を活かし、都市型農業を行っている地域です。生産量上位の農産物も多く、大阪産(もん)の魅力の向上のために行政もさまざまな取り組みを行っています。
また、新規就農者に向けた独自の支援も充実しています。大阪府での新規就農を検討している方は、充実した支援制度を活用してみてはいかがでしょう。
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