「沖縄で農業」ってどう? 県の特徴・課題と、活用できる補助制度

沖縄県は、日本で唯一の亜熱帯海洋性気候の地域です。本記事では、沖縄県の農業の特徴や代表的な作物、農業の活性化に対する取り組み、沖縄県農業の課題などについて解説します。新規就農の際に活用できる沖縄県独自の支援事業も紹介します。
- 公開日:
記事をお気に入り登録する
目次
日本で唯一! 県全体が亜熱帯地域に属する、沖縄農業の特徴

TM Photo album/ PIXTA(ピクスタ)
沖縄県の総土地面積は約2,282平方kmと全都道府県の中で4番目に小さく、東西約1,000km、南北約400kmにおよび、大小約160の島で構成されています。
北緯24度から28度に位置し、県全域が日本で唯一の亜熱帯海洋性気候に属していることから、年間の平均気温は約23℃、最も寒い2月でも気温は16℃ほどで、1年を通して暖かいことが特徴です。
出典:
内閣府沖縄総合事務局「沖縄農林水産業の概要」所収「沖縄の農林水産業の現状と課題(令和6年(2024年)10月)」
農林水産省「都道府県の農林水産業の概要(令和6年(2024年)版)」所収「沖縄県の農林水産業の概要」
外務省「沖縄の地理 / 交通、気候と生物相、人口」
台風や日照り、長雨の対策が重要
沖縄県は、広大な海に囲まれており、亜熱帯地域の温暖な気候という地理的優位性を有する地域です。
その一方で、夏から秋にかけて台風が常襲するなど、農業においては厳しい側面もあります。台風から作物を守るために、沖縄県では昔から防風林や石垣の設置といった対策が行なわれています。
また、台風のほかに日照りや長雨も農業に影響を及ぼすため、近年は日照りに備えた農業用ダムの設置や、水まき用のスプリンクラーの取り付けなどの対策をしています。
本土とは異なり畑作が9割以上
沖縄県の農業は、気象条件や地理的条件を背景に、本土とは異なる特徴を持っています。そのため、地域や島ごとの土壌、自然環境を生かした農業が盛んに行われています。
2023年の沖縄県の耕地種類別面積の割合を見てみると、耕地全体におけるほ場の割合は98.1%です。このことから、沖縄県では、本土とは異なり稲作より畑作が中心に行われていることがわかります。
出典:内閣府沖縄総合事務局「沖縄農林水産業の概要」所収「沖縄の農林水産業の現状と課題(令和6年(2024年)10月)」
基幹的農場従事者の年齢は本土よりも若い傾向
近年は少子高齢化が進んでおり、日本の農業においても大きな課題となっています。沖縄県も同様で、基幹的農業従事者は減少傾向で推移しており、高齢化も進んでいます。
しかし、2023年の沖縄の基幹的農業従事者の平均年齢は66.8歳で全国平均の68.7歳より若くなっています。70歳以上の高齢者の占める割合も45.8%であり、全国平均の58.7%と比較しても少ない傾向です。
そのため、沖縄県の基幹的農業従事者は、全国的な観点では若いといえます。
出典:内閣府沖縄総合事務局「沖縄農林水産業の概要」所収「沖縄の農林水産業の現状と課題(令和6年(2024年)10月)」
地下ダムなどの整備により、作物の安定生産が実現
長年、沖縄県は地理的条件による水不足に悩まされてきました。しかし、1974年に宮古島に世界初の地下ダムを建設して以降、かんがい排水施設やほ場の整備に取り組んでいます。
国営、県営のかんがい事業によって本島南部・中部、伊是名島、伊江島、久米島に合計8基の農業用地下ダムが整備されました。
地下ダムの整備によって安定的かつ計画的な水の利用が可能になり、沖縄県の基幹作物であるさとうきびの生産安定が実現したほか、マンゴーやイチゴなどの高収益作物への転換も進んでいます。
出典:農林水産省「都道府県の農林水産業の概要(令和5年(2023年)版)」所収「沖縄県の農林水産業の概要」
沖縄県の代表的な農作物とその生産量は?

Anesthesia / PIXTA(ピクスタ)
沖縄県の代表的な農作物としては、以下が挙げられます。
作物 | 生産量 | 作付面積 | 全都道府県の収穫量順位 |
---|---|---|---|
さとうきび | 664,400t | 16,700ha | 1位 |
にがうり(ゴーヤー) | 5,910t | 218ha | 1位 |
パイナップル | 6,750t | 311ha | 1位 |
マンゴー | 2,201.7t | 275.2ha | 1位 |
シークヮーサー | 3,878.7t | 421.8ha | 1位 |
きく | 202,700t | 61,800ha | 2位 |
※上記の表の各数値は2023年産のものですが、にがうりは2022年産、マンゴーとシークヮーサーは2021年産のものです。
出典:
農林水産省「令和5年(2023年)産さとうきびの収穫面積及び収穫量」
農林水産省「地域特産野菜生産状況調査」所収「調査結果データ〔e-Stat〕令和4年(2022年)産」
農林水産省「令和5年(2023年)産パインアップルの収穫面積、収穫量及び出荷量(沖縄県)」
参考:
農林水産省「特産果樹生産動態等調査」所収「調査結果データ〔e-Stat〕令和3年(2021年)産」
農林水産省「作況調査(花き)」所収「調査結果データ〔e-Stat〕令和5年(2023年)産」
上記で挙げた作物は、沖縄の特徴的な気候を生かして栽培されています。収穫量が全国で第1位のものも多く、パイナップルとシークヮーサーは全国のほぼ100%を占めています。
さとうきびとマンゴーは全国の過半数、ゴーヤーは約4割を占めており、農産物に独自性があることがわかります。
温暖な気候の亜熱帯地域に属する沖縄県は、夏期にはマンゴーなどの熱帯果樹を出荷しています。一方で、本土において国内産が端境期となる冬春期にいんげんやトマト、かぼちゃなどを県外に出荷しているのが特徴です。
特にかぼちゃは、2月〜4月の間はニュージーランド産の輸入品が主となるため、国内産はほぼ沖縄県産で占められており、高値で取引Pされています。
また、コーヒーノキやバニラ、紅茶のような、国内生産が少なく大半を輸入に頼っている作物の生産も行われています。
中でもコーヒーノキは、北緯25度線と南緯25度線の間の「コーヒーベルト」と呼ばれる地帯を中心に栽培されている作物です。沖縄県の一部は、このコーヒーベルト内に含まれているため、久米島などの離島を筆頭に県内各地で生産が行われています。
このように、沖縄県では亜熱帯の温暖な気候条件を生かして希少な作物を栽培し、国産の野菜の安定供給にも貢献しています。
出典:農林水産省「都道府県の農林水産業の概要(令和5年(2023年)版)」所収「沖縄県の農林水産業の概要」
農業の活性化へ向けた、沖縄独自の取り組みも盛ん

ペイレスイメージズ 2 / PIXTA(ピクスタ)
沖縄県は農家の平均年齢が比較的若い傾向にあり、自治体ぐるみで地域農業を活性化するための取り組みを行っています。ここからは、農業の活性化へ向けた沖縄県での近年の代表的な取り組みを紹介します。
1. 泡盛原料用米のブランド化で水田農業を活性化
前述のとおり、沖縄県の農業は本土とは異なり、畑作が中心です。稲作より畑作が中心となった背景としては、夏秋期に襲来する台風や冬期の北東からの強い季節風などの気象条件が挙げられます。
また、河川がほとんどなく雨水に頼る必要があるため、水不足になりやすく塩害が多いという地理的影響もあります。
しかし、近年の沖縄県では水田農業の活性化に向けた取り組みも行われています。その1つが「琉球泡盛テロワールプロジェクト」です。
琉球泡盛は沖縄県の象徴的な文化であり、泡盛の海外輸出も進められています。そのため、泡盛のさらなるブランド価値の向上と魅力のPRが求められていました。しかし、泡盛の原料となる長粒種米は、主にタイからの輸入米を使用しているのが現状です。
そこで重要となるのが、地域に根ざした原料調達を意味する「テロワール」の実現です。「琉球泡盛テロワールプロジェクト」では、泡盛の原料となる長粒種米を沖縄県内で生産し、泡盛原料用米のブランド化を図るとともに、水田農業の活性化にも取り組んでいます。
2. 地域経済の振興へ向けた「農泊」の推進
農泊とは、農山漁村に宿泊し、滞在中に豊かな地域資源を活用した食事や体験などを楽しむ「農山漁村滞在型旅行」のことです。沖縄県の農泊地域は、主に12の地域に大別されています。
その中でも、今帰仁村では香港や台湾をターゲットに、農業体験などの新たなプログラムの開発や英語対応可能なインストラクター養成などに取り組んでいます。
また、名護市や宮古島市では、地域の食資源を観光メニューとし、地元食材を使った体験プログラムを開発しています。
糸満市では、地元の野菜ソムリエと連携し、糸満ブランド確立のための「農」と「食」の体験プログラム構築に取り組むなど、地域ごとの特色を打ち出した農泊を推進しています。
沖縄県の農家民宿の年間販売額は全国13位と上位であり、農業を通じて地域全体の活性化をめざす取り組みが盛んに行われています。
出典:農林水産省「6次産業化総合調査」所収「調査結果データ〔e-Stat〕 令和4年(2022年)度」
3. スマート産地モデルでの実証によるスマート農業技術の確立
南大東村のさとうきび栽培では、かねてより先進的な機械化一貫体系が確立されてきました。一方で、高齢化などに伴い熟練オペレーターが減少し、新たな生産システムの構築が喫緊の課題となっています。
そこで沖縄県では、琉球大学を中心に「南大東さとうきびスマート産地コンソーシアム」を設立し、南大東村のさとうきび栽培において「ウフスマ(UFSMA)・プロジェクト」をスタートしました。
「ウフスマ(UFSMA)・プロジェクト」では、自動操縦などのスマート農業を導入し、未熟練者や女性、高齢者でも熟練オペレーラーの代替となれるような環境をめざしています。
また、遠隔潅水システムなどを活用した機械化体系の確立や、ビックデータ・AI解析の活用などを行い、スマート産地モデルの実証に取り組んでいます。
出典:内閣府沖縄総合事務局「沖縄農林水産業の概要」所収「沖縄の農林水産業の現状と課題(令和6年(2024年)10月)」
一方で懸念も? 沖縄県農業が抱える3つの課題

ハーリー / PIXTA(ピクスタ)
沖縄県では、農業の活性化に向けた独自の取り組みが行なわれています。その一方で、沖縄県で農業を始める際には、地域ならではの課題を理解しておくことも重要です。ここからは、農家として経営計画を立てるうえで重要となる3つの課題を紹介します。
1. 農地集積率の低さ
沖縄県の農業の課題として、農地集積率の低さが挙げられます。農林水産省「農地中間管理機構の実績等に関する資料(令和5年度(2023年)版)」によると、沖縄県の2023年3月末の担い手への集積面積は9,359haで集積率は26.0%です。
全国の集積率は60.4%であり、他府県と比較しても沖縄県では農地の集積・集約が進んでいないことがわかります。
解決へ向けた対策として、ほかの自治体と同様に農地中間管理機構による農地の集積・集約化へ向けた取り組みが行われているものの、なかなか集積・集約が進んでいないのが現状です。
これには、沖縄県は島しょ部が多く、過疎地域ほど農業に対する依存度が高いことが影響しています。
また、農地が点在しているため連担が難しく、農地の集積・集約による大規模化や生産力の向上、コストダウンが、他府県と比べると困難という側面もあります。
出典:農林水産省「令和5年(2023年)度の農地中間管理機構の実績等の公表について」所収「農地中間管理機構の実績等に関する資料(令和5年(2023年)度)」
2. 台風など自然災害の影響
沖縄県は台風の常襲地帯という地域柄、毎年生じる作物や農業施設などへの被害も課題として挙げられます。例えば、突風による施設の倒壊や果実の散乱、潮害による枯れ上がり、作物の生育遅れや品質低下がその例です。
台風や干ばつなどの厳しい条件下でも農業の生産性を向上するべく、沖縄県では地下ダムなどのかんがい排水施設やほ場の整備、防風林の整備などに取り組んでいます。しかし、台風に強い品種の選定や施設の補強など、農家にも事前の対策が求められるのが現状です。
参考:沖縄県「農作物等台風対策マニュアル」所収「農作物等台風対策マニュアル 前半・後半」
3. 出荷制限につながる害虫対策
沖縄県には、かつて野菜・果実などに大きな被害をもたらす「ミカンコミバエ」および「ウリミバエ」という害虫が生息しており、作物の県外への出荷が大きく制限されていました。
根絶に向けた県の粘り強い取り組みによって、昭和61年(1986年)にミカンコミバエが、平成5年(1993年)にはウリミバエが根絶され、作物の県外への移動規制が解除された歴史があります。
しかし、沖縄県はミカンコミバエとウリミバエの発生国に地理的に近く、風による飛来が現在でも確認されています。そのため、県全域で街路樹への誘殺板の取り付けや、侵入警戒調査などの対策が行われているのです。
特に、すももなどの温帯果樹類やグァバなどの熱帯果実類、トマトなどのナス科果菜類といったミカンコミバエ種群が寄生しやすい作物を栽培する際は、飛来状況を注視し、継続的な防除対策を徹底してください。
出典:
内閣府沖縄総合事務局「沖縄農林水産業の概要」所収「沖縄の農林水産業の現状と課題(令和6年(2024年)10月)」
沖縄県「病害虫・農薬肥料」所収「ミカンコミバエの侵入防止にご協力をお願いします」
沖縄で農家になるなら! 活用したい支援制度・補助金の例

buritora / PIXTA(ピクスタ)
沖縄県は、農地集積率などの課題を抱えつつも、地域農業の活性化へ向けて積極的な取り組みを続けています。沖縄県で農家をめざすのであれば、国が行っている支援事業と併せて、以下のような県独自の支援制度も活用するのがおすすめです。
沖縄県青年農業者等育成センター事業
沖縄県では「沖縄県青年農業者等育成センター事業」として、沖縄県で新規就農を考えている方に向けた相談窓口を設置しており、以下の活動を実施しています。
- 個別就農相談への対応
- 年に2回の新規就農相談会や就農セミナーの開催
- 農業法人への就職など、就業希望者への対応
- 研修先の紹介 など
出典:公益財団法人沖縄県農業振興公社「沖縄県青年農業者等育成センター事業」
沖縄県農業経営者サポート事業
「沖縄県農業経営者サポート事業」では、沖縄県で農業を始めたいと考えている方を対象に、就農相談から経営発展に向けた支援まで幅広く対応する窓口を設置しています。
さらに「沖縄県農業経営者サポート事業」では、新規就農者の確保活動や雇用就農の推進も行っています。
出典:公益財団法人沖縄県農業振興公社「沖縄県農業経営者サポート事業」
農業後継者育成確保事業
沖縄県には、農家をめざすための研修費用を助成してもらえる「農業後継者育成確保事業」という独自制度があります。「農業後継者育成確保事業」では、沖縄県の農業担い手の確保および育成に関わる施策を行っています。
中でも「新規就農研修事業」は、新規就農希望者に向けた支援事業です。農業改良普及センター所長等が推薦する50歳未満の新規就農希望者が対象となります。
対象者が指導農業士などのもとで研修を受ける場合に、1ヵ月以上12ヵ月以内の期間で月額5万円以内の助成金を支給しています。
ただし、新規就農研修事業の支援を受ける場合は、新規就農希望者を対象とした国や県が実施するほかの研修事業での給付・助成を同時期に受けることはできません。
出典:公益財団法人沖縄県農業振興公社「農業後継者育成確保事業」
新規畑人(はるさー)資金支援事業
「新規畑人(はるさー)資金支援事業」とは、次世代の農業者をめざす方に向けた沖縄県独自の資金支援事業制度です。対象者は、就農予定時に49歳以下の研修期間中の研修生で、以下の4つの主な要件を満たす必要があります。
- 研修終了後は、独立・自営就農、雇用就農、親元就農すること(親元就農者は、就農後5年以内に経営継承するまたは独立・自営就農すること)
- 前年の世帯(親子および配偶者の範囲)所得が原則600万円以下の方
- 就農に関するポータルサイトに研修計画などを登録している研修機関などでおおむね1年以上、かつおおむね年間1,200時間以上研修を受けること
- すでに農業次世代人材投資事業(準備型)の交付を受けている方は除外
そのほかにも、常勤の雇用契約を締結していない、生活費の確保を目的とした国のほかの事業による給付を受けていないなどの要件もあります。
対象者は、最長2年間、月に12.5万円(年間150万円)の資金支援を受けられます。新規畑人(はるさー)資金支援事業を受けるためには、就農相談窓口に就農相談を行ったうえで、申請書を作成・提出し、個人面接行い審査に通過する必要があります。
出典:公益財団法人沖縄県農業振興公社「新規畑人資金支援事業」
沖縄県では、日本で唯一の亜熱帯海洋性気候を生かした農業が盛んです。少子高齢化は進んでいるものの、沖縄県の農家の平均年齢は比較的若く、農業を活性化する取り組みや独自の支援も積極的に行われています。
沖縄県で新規就農を検討している方は、支援制度や補助金の活用も検討してください。
記事をお気に入り登録する
minorasuをご覧いただきありがとうございます。
簡単なアンケートにご協力ください。(全1問)
あなたの農業に対しての関わり方を教えてください。
※法人農家の従業員は専業/兼業農家の項目をお選びください。
ご回答ありがとうございました。
お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。

minorasu編集部
minorasuは、「農業経営をより効果的に実践したい」「これまでなかなか踏み込めなかった農業経営にまつわるノウハウを学びたい」といった、農家の皆さまのお悩みに応えるためのメディアです。それぞれの課題を乗り越えるのに役立つよう、生産効率、資金計画、加工・流通など様々な角度から情報をお届けします。