牛糞堆肥で土作り! 使い方・量の目安と、収量を上げる施肥設計

牛糞堆肥は土壌改良に優れた有機肥料の1つです。本記事では、牛糞堆肥がもたらす土壌へのメリットや適切な使用方法、施肥設計の考え方を紹介します。牛糞堆肥を扱う際の注意点や、ほかの堆肥と異なる特徴についても解説します。
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牛糞堆肥とは? 特徴と土作りにおける役割

Mac/PIXTA(ピクスタ)
牛糞堆肥は、牛の排泄物を主成分とした有機肥料で、土壌改良と持続可能な農業に貢献します。牛の糞尿と敷料(もみ殻・おが屑・稲わらなど)を混ぜ込んで発酵させて作られます。
牛糞堆肥の特徴と土作りにおける役割は、以下の通りです。
- 有機物が豊富で主に土壌改善に用いられる
- 減肥により化成肥料の使用削減につながる
- 窒素含有率が低く肥効が緩やか
上記の効果を発揮するための施用量は、扱う作物の品種や土質によって異なるため、過度な施用には注意が必要です。
基肥としての牛糞堆肥がもたらす土壌改良効果
牛糞堆肥が土壌へもたらすメリットは、土壌の物理性・化学性・生物性の改善と向上です。
物理性の面では、牛糞堆肥を栄養分とする微生物の増殖で団粒構造が形成されて土がふかふかになり、通気性・保水性・排水性が向上します。
化学性の観点からは、牛糞堆肥が土壌に栄養分を補給するため土壌の保肥力が改善します。
生物性においては、土壌中の有用微生物が増殖し、多様化することで生態系の改善を図ることが可能です。これにより作物の病害リスクの低減が期待できます。
牛糞堆肥を基肥として活用することは、土壌環境を改善する有効な施策の1つといえるでしょう。
牛糞堆肥の使い方と、施用量の目安

冬場の堆肥散布の様子
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
牛糞堆肥は、土壌や作物ごとに適した使用方法と施用量を押さえることで、作物の健全な生育と収量向上につながります。ここでは、牛糞堆肥の具体的な使い方から施用量の目安などについてお伝えします。
牛糞堆肥の施用量、畑作の目安は「10a当たり1.5t」
牛糞堆肥の施用量は、黒ボク土の畑作では「10a当たり1.5t」を目安とします。一方、非黒ボク土の畑作では「10a当たり0.6t」が目安です。
ただし、これら基準値は茨城県農業総合センターによる研究データに基づく1年1作の場合の連用条件下での施用量であり、作物や地域によって異なる場合があります。
作物ごとの施用基準は、以下の表の通りです。
施用量の単位:t/10a
作物 | 黒ボク土 | 非黒ボク土 |
---|---|---|
水稲 | 0.3t | 0.3t |
畑作 | 1.5t | 0.6t |
野菜 | 1.5t | 1.5t |
果樹 | 1.0t | 1.0t |
出典:農林水産省所収「3 有機物の施用法」よりminorasu編集部作成
しかし、実際の施用量は土壌の性質や状態、栽培品種によって異なるため、ほ場ごとの施肥設計を考慮します。
牛糞堆肥の施肥設計と減肥基準
牛糞堆肥の減肥基準は、施用量と施肥設計を基に計算します。施用量を求めるには、ほ場の土壌診断結果をはじめ、使用する牛糞堆肥の分析結果や栽培する作物の種類などの要素を考慮した、施肥設計が必要です。
減肥基準は、牛糞堆肥の施用量と肥効率を基に計算します。肥効率とは、堆肥に含まれる養分のうち、作物が実際に吸収利用できる割合のことです。堆肥の種類や土壌条件によって肥効率は異なります。
減肥基準を求める際に使われる計算式は、次の2つです。
式1:堆肥等を施用した場合の減肥量(㎏/10a)=堆肥施用量(t/10a)×堆肥1t当たりの減肥量(㎏/t)
式2:施肥量(㎏/10a)=施肥基準(㎏/10a)−堆肥等を施用した場合の減肥量(㎏/10a)(-土壌残存養分量を勘案した減肥量(㎏/10a))
出典:全国農業協同組合連合会所収「堆肥散布を踏まえた施肥」
また、窒素成分は堆肥だけでは不足する場合があり、全体の50~70%を化学肥料で補うことが推奨されています。ただし、これは一般的な目安であり、作物の種類や生育段階、土壌中の窒素量によって、必要な窒素量は異なります。
牛糞堆肥の使い方と投入のタイミング
牛糞堆肥の効果を引き出すには、適切な使い方と投入のタイミングが大切です。
牛糞堆肥の使い方のステップは、以下の通りです。
- 土壌消毒して病害虫・病原菌を防除する
- 施肥設計に基づき牛糞堆肥を散布する
- 苦土石灰を散布する
牛糞堆肥は、土壌消毒後に施用します。これにより堆肥に含まれる有用な微生物を死滅させてしまうのを防ぎ、土壌の生物性を改善する効果があります。
石灰は、牛糞堆肥を施用したあとに散布します。これは石灰と堆肥が接触すると化学反応が起こり、堆肥中の窒素成分がガス化して失われるためです。
施肥のタイミングは作付けの2~3週間前が基本です。また、高温期前の施肥は土壌に害を与える可能性があるので、春夏作ではなく秋冬作に向けたタイミングで投入するとよいでしょう。
牛糞堆肥の撒き方に関する注意点

発酵した堆肥から湯気が出ている様子
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
土壌改善に有効な牛糞堆肥ですが、扱う際には次のような注意点があります。
牛糞堆肥の多量施用に注意
牛糞堆肥を多量に施用すると、土壌環境から作物にまで悪影響を及ぼします。そのため、施用は適量を守りましょう。肥料成分を考慮せず施用すると土壌中の栄養バランスが偏り、結果として作物の生育不良につながります。
多量施用は、土壌中の塩分濃度を上昇させ、作物の根の生育を阻害する可能性があります。また、過剰な窒素供給により、作物の徒長や病害虫への抵抗力低下を引き起こす恐れもあります。
牛糞堆肥に害虫がわくことも
牛糞堆肥に害虫がわく場合、それは未熟な堆肥である可能性があります。一次発酵、二次発酵していない未熟な堆肥は水分量が多く、強い臭気を放つため、ハエなどの害虫がよってわいたりします。
牛糞堆肥を購入する際は、臭気が少なくサラサラとした完熟堆肥を選びましょう。害虫の発生を防止でき、散布時の臭い問題も軽減できます。
牛糞・鶏糞の違いとは? 堆肥の種類と活用方法

Sunrising/PIXTA(ピクスタ)
牛糞堆肥は長期的な土壌改良向け、鶏糞堆肥は速効性重視の場合に適しています。
牛糞堆肥と鶏糞堆肥の違いは、有機質の成分・肥料成分の含有量が異なることです。そのことから土作りは、堆肥ごとの特性を押さえることが欠かせません。また、堆肥の種類は動物性と植物性に大きく分類されており、組み合わせて使うのも有効です。
ここでは牛糞以外の鶏糞堆肥、豚糞堆肥、稲わら堆肥、バーク堆肥の特徴と活用方法について解説します。
鶏糞堆肥
鶏糞堆肥は、牛糞堆肥に比べて窒素の含有率が高く、根や葉の生長においては化学肥料と同程度の肥料効果が見込めます。しかし、土壌中で分解されやすいことから、肥料効果は長続きしません。また、繊維質がほとんど含まれておらず、土壌改良効果は限定的です。
微生物の餌となる有機物質の投入や土壌改善を目的とする場合には、牛糞堆肥を使用することをおすすめします。牛糞堆肥は肥料成分が少ないため、この不足を鶏糞堆肥で補うのも1つの方法です。
▼鶏糞堆肥の具体的な使い方は、以下の記事で解説しています。
豚糞堆肥
豚糞堆肥は、牛糞と同じようにおが屑や稲わらなどを混ぜ、堆積発酵させて作ります。牛糞よりも窒素の含有量が高めで、繊維質もある程度含まれています。一般的に、ほかの畜種由来の堆肥に比べて銅や亜鉛が多く含まれています。牛糞と鶏糞の中間的存在です。
稲わら堆肥

東北の山親父/PIXTA(ピクスタ)
稲わら堆肥は、刈り取った稲わらに、米ぬかと水を加えて発酵させて作ります。ガスが発生するため、しっかりと完熟堆肥にしてから施用します。
ほかの植物性堆肥に比べて窒素分が少ないので、化学肥料(硫安や石灰窒素)を加えます。石灰窒素を使用する場合は必要ありません。石灰やリン酸といった成分が少ない堆肥です。
バーク堆肥
バーク堆肥は、広葉樹・針葉樹の樹皮に鶏糞などを加えて、3ヵ月〜1年かけて堆積発酵させて作ります。窒素やリン酸、カリは少ないものの、土壌改良効果に優れていて、良質でふかふかとした土が作れます。
材料となる樹皮には、広葉樹と針葉樹がありますが、広葉樹のほうが堆肥化しやすく、タンニンなどの有害物質が少ないとされています。
牛糞堆肥は土壌改良効果に優れ、基肥としても活用できる有機肥料です。施用量は、栽培する作物やほ場の土質などを考慮した施肥設計に基づいて決めてください。
減肥により化成肥料の購入コストを削減できることから、経営負担を改善する要素としても期待できるでしょう。
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大澤秀城
福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。