【肥料の計算方法】 施肥量の求め方&農家向け無料アプリ3選
肥料は、作物の生育を左右する重要な要素です。適切な施肥は作物の品質・収量アップにつながりますが、過剰な施肥は逆効果になることもあります。過不足なく施用するには、土壌環境や作物の生育状況から必要な成分量を計算し、施肥設計を立てることが重要です。
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目次
適切な施肥設計で重要なのが、正しい肥料計算です。計算が正しくなければ、施肥量に過不足が生じ、期待される効果が得られません。本記事では、適切な施肥量の計算方法と施肥設計時の注意点を解説します。また、肥料計算で使える無料ツールを紹介します。
基準は窒素! 10a当たり肥料の量を求める計算式
Vitalii M / PIXTA(ピクスタ)
全国の都道府県では、主要な作物ごとに施肥基準が提示されます。それを1つの目安としながら、自身の農地の土壌診断に基づいて施肥をすることが重要です。そこで、まずは土壌診断からどのように必要な施肥量を導き出すかについて解説します。
施肥基準や土壌診断結果では、施肥の目安として「窒素(N)」「リン酸(P)」「カリウム(K)」の成分量が示されています。このうち、注目すべきは窒素量です。窒素量を基準として、面積当たりの施肥量を計算します。
施肥量は購入した肥料の窒素含有量によって変わります。施用する際には、「施肥基準」や土壌診断結果に書かれた「目安施肥量」における窒素の値と、肥料成分表示にある「窒素含有割合」を基本の計算式に当てはめて施肥量を割り出します。
窒素をもとにした施肥量を求める基本の計算式は、次の通りです。
「施肥基準(目安施肥量)÷窒素含有割合=施肥量(kg/10a)」
この計算式に基づき、肥料種類別の計算方法を解説します。
複合肥料を用いる場合の計算方法
複合肥料の施用量について、上記の計算式に具体的な数値を当てはめて計算してみましょう。
袋の成分表示に「10-12-8」と記載されている化成肥料を用いて、窒素成分で8kgを施用したい場合の施肥量の計算式は次の通りです。
8kg÷10%=80kg
窒素成分で8kgを施用したいため、基準値を8kgとします。次に、窒素含有割合です。成分表示の「10」「12」「8」という数字はそれぞれ、窒素、リン酸、カリウムの配合比率(%)を意味します。つまり、この複合肥料に含まれている成分の比率は、「窒素10%:リン酸12%:カリウム8%」であるため、窒素含有割合は10%です。
よって、この複合肥料を用いて窒素成分を8kg施用したい場合の施肥量は80kgと算出されます。なお、計算式の単位はkg/10a、つまり10a当たりに必要な施肥量なので、ほ場の面積に合わせ必要な総量を計算します。
例えば、ほ場が1.5ha(=150a)の場合の施肥量の計算式は次の通りです。
80kg/10a×(150a÷10a)=1,200kg
また、この複合肥料を80kg施肥すると、リン酸成分は80kg×12%=9.6kg、カリウム成分は80kg×8%=6.4kgを同時に施用することになります。窒素を基準にして、ほかの成分の施肥量が適切になるような肥料を選びましょう。
単肥を用いる場合の計算方法
1成分のみを施肥したい場合は、単肥を利用します。単肥を用いる場合の施用量も、具体的な例を挙げて計算してみます。
窒素含有率が20.5%の硫酸アンモニウムを用いて、窒素10kgを施用したい場合の施肥量の計算式は次の通りです。
10kg÷20.5%=約49kg
窒素成分で10kgを施用したいため、基準値を10kgとします。次に、窒素含有割合です。窒素肥料の単肥としてよく知られる「硫酸アンモニウム」は窒素含有率が約20~21%)なので、平均値を取って20.5%としています。
よって、この単肥を用いる場合の施肥量は、約49kgと算出されます。
なお、リン酸肥料としては「過リン酸石灰」(リン酸含有率約17~18.5%)、カリウム肥料としては「硫酸カリ」(カリウム含有量約50%)などがよく知られています。窒素以外のの肥料も窒素肥料と同様、含有率をもとに必要な成分量に対する肥料の量を求めます。
【5ステップ】ほ場・作物に合った施肥量計算のやり方
トラクターによるほ場への肥料散布
田舎の写真屋/PIXTA(ピクスタ)
適切な施肥量は、次の5つのステップで求められます。
- STEP1. 作物ごとの施肥基準量を確認
- STEP2. 土壌診断で窒素量を確認
- STEP3. ほ場面積に応じた肥料の必要量を計算
- STEP4. 堆肥施用分を調整
- STEP5. 石灰資材などでpH値を調整
それぞれのステップについて、項目に分けて解説します。
STEP1. 作物ごとの施肥基準量を確認
同じ作物でも施肥量の目安は、品種、地域、土壌などによって異なります。そのため都道府県別に、主要な作物について適切な施肥量を示す「施肥基準」が提示されています。
この「施肥基準」には、作物ごとに施肥の適正量や時期の基準を示すだけでなく、肥料の基本的な知識、効率的な施肥の技術などの情報が記載されています。まずは、自治体の農政部やJAに確認してみましょう。農林水産省のホームページでも都道府県別の施肥基準を紹介しています。
農林水産省「都道府県施肥基準等」
STEP2. 土壌診断で窒素量を確認
施肥設計は、土壌の化学性・物理性が良好なほ場において、目標とする品質・収量を得ることを前提として、標準的な施肥量を提示するものです。自身のほ場に適する施肥量を求めるには、この施肥基準を目安に、土壌の種類、地力などの条件を加味する必要があります。
そこで土壌診断を行い、ほ場の土壌の化学性・物理性などについて正確に知ることが重要です。特に、施肥基準や土壌診断結果で重要となる窒素量をしっかり把握しましょう。
また、施肥基準と併せて、土壌中に窒素、リン酸、カリウムのいずれかの要素が過剰になった場合の「減肥基準」も提示されます。土壌診断の結果、いずれかの成分が過剰となっている場合は、減肥基準に基づいて施肥管理をしましょう。
ここでは、窒素の減肥基準に基づく施肥量を表で示します。土壌診断の結果、窒素が過剰とされた際の減肥対策の目安となります。
窒素の減肥基準
作付け前硝酸態窒素 (mg/土壌100g) | 施肥量 (10aあたり) |
---|---|
10以下 | 慣行施肥量 |
11~15 | 5kg減肥 |
16~20 | 10kg減肥 |
21~25 | 15kg減肥 |
26~30 | 20kg減肥 |
31~35 | 25kg減肥 |
36~ | 無施肥 |
出典:農林水産省「都道府県施肥基準等」所収「青森県 健康な土づくり技術マニュアル」内「2 各作物の土づくり [3] 畑作・野菜【露地】 3 施肥基準」
STEP3. ほ場面積に応じた肥料の施肥量を計算
STEP1と2で得たデータを、前述の計算式「目標施肥量÷窒素含有割合=施肥量(kg/10a)」に当てはめ、10a当たりの施肥量を求めます。
出典:JAマインズ「広報誌「まいんず」のご紹介」所収「まいんず」Vol.104(2018年1月発行)」内「施肥量の計算をしてみましょう! !」
求められた10a当たり施肥量に、施肥をするほ場の面積をかけて、必要な肥料の総量を算出します。
STEP4. 堆肥施用分を調整
地力向上のために、稲わらや家畜糞堆肥を施用しているほ場も多いでしょう。稲わら堆肥はそれほど影響ありませんが、鶏糞、牛糞、豚糞などの家畜糞堆肥は肥料成分が多く、それらを施用した土壌に必要量の化学肥料をそのまま施用すると、過剰施肥となる恐れがあります。
そのため、STEP3で算出した施肥量から、家畜糞堆肥分の窒素量を調整する計算が必要です。家畜糞堆肥の施用量は、以下の計算式で求められます。
出典:各種資料よりminorasu編集部作成
千葉県「千葉県堆肥利用促進ネットワーク|堆肥施用量の算出法」
JA全農「土壌診断について」所収「堆肥成分と施肥」
福島県「会津農林事務所 喜多方農業普及所 > 農業技術情報」所収「堆肥の上手な使い方」
「代替率」とは、必要な窒素施用量のうち、家畜糞堆肥の中にある窒素によって、どの程度置き換えるかの割合を示す指数です。
また「窒素肥効率」とは、家畜糞堆肥に含まれる窒素の肥料的効果を表す指数です。化学肥料窒素による肥効を100とした場合の割合を示す数値になっています。
最終的には、この計算式で求めた家畜糞堆肥を施用したあとに、堆肥で代替した分の窒素施用量を減らすことで、過剰施肥を防止できます。
▼家畜糞堆肥やその施用量については、以下の記事も参照してください。
STEP5. 石灰資材などでpH値を調整
窒素量と同様にpH値も、土壌診断に基づき適正に保つ調整が必要です。土壌が酸性に傾いている場合は石灰資材などを散布し、炭酸カルシウムを補給して調整します。
土壌診断結果をもとにした炭酸カルシウムの適切な施用量は、「アレニウス表」を用いると簡易的に求められます。
出典:農林水産省「青森県|健康な土づくり技術マニュアル」所収「[2] 土壌診断の方法と活用」
この表はほ場の土壌をpH6.5に矯正する場合の炭酸カルシウムの施用量を示しています。
アレニウス表は簡易的なもので精度が低いため、これを参考にカルシウムを施用した際は、施用後7~10日程度立ってから再度pHを測定し、効果を確認しましょう。
実際にアレニウス表に基づいて、pH値を調整するための炭酸カルシウムの適切な施用量を計算してみましょう。
例えば、土壌診断結果が以下の通りであったとします。
土性=植壌土、腐植含有=含む、pH=5.2
そして、改善目標を層厚20cm、目標pH=6.0として、資材に炭酸カルシウム(仮比重=1.0)を使用する場合について考えてみましょう。
出典:農林水産省「青森県|健康な土づくり技術マニュアル」所収「[2] 土壌診断の方法と活用」
アレニウス表を使った資材施用量の計算例
minorasu編集部作成
アレニウス表を見ると、診断結果のpH5.2の炭酸カルシウム所要量は439(kg/10a)、目標であるpH6.0では169(kg/10a)なので、439から169を引いた270(kg/10a)が、この場合の炭酸カルシウム施用量となります。
さらに、この表で基準にしている耕土の深さは10cmなので、矯正目標である耕土20cmではこの倍となり、仮比重1.0をかけた540 (kg/10a)が算出されます。まとめると、以下のような計算式になります。
(439-169)×20cm/10cm×1.0=540 (kg/10a)
一方、土壌のpH値がアルカリ性に傾いている場合は、硫黄粉などを混和する方法もありますが、酸性への矯正は簡単なことではありません。pH値は上げすぎないように注意しましょう。
▼土壌のpH値の調整については、以下の記事も参照してください。
施肥設計を省力化!無料で使える農家向け肥料計算アプリ・ツール3選
nisi/PIXTA(ピクスタ)
ここで紹介した計算方法を自動化した、農家向けのアプリやソフト、Webツールが多く開発されています。そのうち、無料で使えるツールを3つピックアップして紹介します。
400種類以上の肥料や堆肥を計算できる「できすぎ君2024」(Excel)
「できすぎ君」は、山口県農林総合技術センターが作成、提供する土壌診断・施肥計算ソフトウェアです。
Excelを利用するので、操作もしやすく簡単です。簡単版を使えば、1)土壌分析結果の入力、2)診断基準値の読込み、3)肥料セットの選択という3ステップだけで、必要な施肥量が計算できます。
「できすぎ君」は、1998年頃に山口県農業試験場で農家説明用として作られ、現場の声を反映しながら改良を重ね、2011年にフリーソフトとして公開されました。その後も、多くの指導者や農家に使いやすいようにと、さらなる改良を続けています。
大変頼りになるソフトではありますが、説明書をよく読んでから利用するようにしましょう。
「できすぎ君」ダウンロードページ:山口県「土壌診断・施肥計算ソフト」
DL不要! Web上で簡単に施肥設計が可能な「施肥なび」
「施肥なび」は、地方独立行政法人 青森県産業技術センター農林総合研究所が管理・運営する施肥設計支援システムです。
ダウンロードの必要はなく、Web上で誰でも操作でき、会員登録するとさらに便利な機能が使えるようになります。
ただし、あくまでも青森県内の農家への指導用なので、地名選択では青森県内の地名のみで、作物も県内で生産されるものに限られます。それでも、非常に細かくわかりやすい処方箋が提供されるので、参考までに見てみるとよいでしょう。
サービスページ:地方独立行政法人 青森県産業技術センター「施肥なび」
施肥設計の参考に「緩効性肥料の窒素溶出量計算アプリ」
施肥設計の参考として、施肥を考えるうえで重要な緩効性肥料の窒素溶出量が計算できる、農研機構提供のアプリについて紹介します。「緩効性肥料の窒素溶出量計算アプリ」は、農研機構のサイト上にあり、Webブラウザから誰でも簡単に使えます。
まずは、アプリのフォームで調べたい地点を地図から入力します。その後、肥料に関する情報を入力しますが、対象となる肥料は「ポリオレフィン系樹脂の被覆尿素肥料」に限られます。
「肥料の銘柄と施肥量」(5銘柄まで)、「施肥日(計算開始日)」、「収穫日(計算終了日)」の項目を入力し、「計算」ボタンを押すと自動で窒素溶出量が計算されます。
ただし、窒素溶出はさまざまな要因に影響を受けるため、計算値は必ずしも実際と一致するとは限りません。あくまでも目安と考えましょう。
サービスページ:農研機構「日本土壌インベントリー|緩効性肥料の窒素溶出量計算アプリ」
”可変施肥”でさらに効果的な施肥を実現!
画像提供:BASFジャパン株式会社
施肥設計を十分に行い適切に施肥しても、実際のほ場には地力ムラがあるため、作物の生育にバラツキが生じて収量減や品質低下が起こります。そこで開発された施肥方法が、ほ場内の地力・成育ムラを正確に把握し、必要な場所に必要な量をピンポイントで施肥をして生育を均一化する「可変施肥」です。
可変施肥を行うことで、品質・収量の安定化が可能になります。また、過剰施肥を減らせるため、倒伏防止、環境負荷の低減、肥料コストの削減効果もあります。結果として、農家の収益アップにつながることが期待できます。
実際に、可変施肥で作物の生育を均一化することで、食味スコアが6点もアップした水稲農家がいます。
▼食味スコアがアップした遂行農家については、以下の記事もご覧ください。
可変施肥は省力的かつ高い効果が見込めることから、現在では可変施肥ができる農機やシステム、アプリが多様なメーカーから開発されています。
▼可変施肥の手軽なやり方については、以下の記事をご覧ください。
▼スマート農機を活用した可変施肥については、以下の記事をご覧ください。
作物の安定的な生産には、施肥計算に基づく適切な施肥設計が欠かせません。アプリなども活用して正確な施肥設計を心がけ、品質向上と収量アップをめざしましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。