収量15%アップ事例も! 肥料散布(施肥)の効率的なやり方と施肥量の計算方法

作物の生育に欠かせない肥料は、栽培する作物の種類やほ場の広さ、土壌などによって多様な散布方法があります。この記事では、施肥方法による効果の違いや注意点、施肥を効率的に進める農機の活用方法、また施肥量の具体的な計算方法について詳しく解説します。
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目次
作物が生育するためには、その作物に適した土壌を造るための適正な肥料散布(施肥)が重要です。
とはいえ、施肥は播種前から作物の生育中を通して何度も行う必要があり、身体的・経済的負担は軽くありません。そのため、効率的な施肥方法が生み出され、肥料散布をサポートする数々の農機が開発されています。
多様な施肥方法と効果、それらに適した農機の紹介、そして施肥量の具体的な計算方法について、詳しく解説します。
肥料散布(施肥)のやり方は大きく分けて2つ
施肥の方法には大きく分けて「全面施肥」と「局所施肥」の2つがあります。作物の種類やほ場や土壌の状況に応じて適した方法を用います。それぞれの施肥の特長や手順について、簡単に説明します。
全面施肥

きこり / PIXTA(ピクスタ)
全面施肥は「全面全層施肥」ともいい、ほ場全体へ均一に肥料を散布し耕起する方法です。耕起に併せて行い、播種または定植の前に肥料を散布します。
広く散布し土に混ぜ込むため、ほ場全体にまんべんなく施肥の効果が行きわたり、痩せている土壌で栽培を始める際に有効です。ただし、大量の肥料が必要なためコストがかかります。
この手法は、小松菜やほうれん草などの葉菜類をほ場の全面にわたって栽培する場合に適しています。一方、根が伸びる範囲の狭い作物を畝に沿って栽培する場合には、肥料の利用率が低くなるため向きません。
局所施肥

kinpachi / PIXTA(ピクスタ)
全面施肥に対し、作物の根が伸びる場所の近くへ局所的に施肥する方法です。必要な部分だけに効率的に施肥するため、作物の収量に影響することなく肥料の散布量を3割程度削減することができるとされています。ほ場全体が痩せた土壌ではなく、ある程度養分の行きわたっている場合に向いている施肥方法です。
局所施肥には、畝の作物に近い部分へすじ(条)状に施肥し、肥料の利用効率を高める「条施肥」や、播種前に溝を掘ってその中へ緩効性肥料を施すことにより長期間肥料の効果を得る「溝施肥」、生育初期に必要な肥料を施した表層と、根が伸びてきた後期に必要な肥料を施した下層とに分けて施肥を行う「2段施肥」など、さまざまな方法があります。
肥料には速効性・緩効性など効果の時期や、顆粒状・粉状・ペレット状・ペースト状など、さまざまな形状があるため、施肥方法に適した肥料を選びましょう。特に、肥効調整型肥料とその特徴を生かした局所施肥の方法を組み合わせることで、より高い効果が得られます。
また、局所施肥に適応した農機も多数あり、それを活用することで畝立てと施肥作業を同時に行うこともできます。メリットの多い局所施肥ですが、速効性の化学肥料を施した場合には濃度障害、有機質肥料を施した場合には還元障害やガス害が発生しやすくなる点に注意が必要です。
施肥を効率化する肥料散布機の種類とそれぞれのメリット

岬太一 / PIXTA(ピクスタ)
施肥を適正に行うためには、労力と技術が必要です。そのため、施肥を効率的・効果的に行うことのできる肥料散布機が各メーカーで多数開発されています。ほ場の広さや作業者の経験に合わせ、適した農機を活用しましょう。
トラクター装着式肥料散布機
手持ちのトラクターの前部または後部へ装着してほ場を走るだけで肥料散布が容易にできる農機で、広いほ場に向いています。
全面散布を効率的に行える散布機としては、粒状・砂状の肥料散布に適した「ブロードキャスタ」や、粉状の石灰なども散布できる「ライムソワー」などがあります。
ブロードキャスタは、円盤を回転させる方式(スピンナー式)と、振動する方式機械(フリッカー式)があります。高い位置から散布するため湿度の影響を受けにくく、有効散布幅は化成肥料で5~8m、石灰など比重の軽いものは3~4mです。幅が広いので少ない走行で済みますが、均一な散布には散布幅に対して10~50%の重複散布が必要です。
ライムソワーは、全幅落下式なので有効散布幅も機器の幅とほとんど同じです。施肥ムラが少なく、ほぼ均一な施肥が可能です。肥料の繰り出し口が低い位置にあるので、湿度の高い時に作業を行うと肥料が湿気を吸収して凝固してしまうため注意しましょう。
局所施肥用の散布機も、トラクター装着式の製品が数多く開発されています。畝立てと施肥を一工程で行える「畝立同時施肥作業機」、作溝から播種、施肥までを同時に行える「施肥播種機」など、作溝や畝立て、播種、マルチ張りなどの作業と同時に施肥できるものが多種あるので、作業内容やタイミングに適した農機を活用しましょう。
動力散布機(背負い式・自走式)
人が背負って撒くことで手撒きと同様に無駄なく散布できる背負い式と、畝の間を手押し感覚で走行させる自走式があります。ある程度作物が育った状態でも肥料を散布できるので追肥に向いています。
エンジン式背負動力散布機であれば、ホースを使ってより遠くまで肥料を散布することができ、狭い畝の間からの散布や水稲栽培なら畦畔から水田への散布に便利です。
自走式はほとんど力がいらないので体への負担が少なく、背負い式よりも広範囲の散布に適しています。粒状の肥料だけでなく、乾燥堆肥や米ぬかの散布に対応している機種もあります。
人力散布機(背負い式・手押し式)
動力散布機と比較して軽量なので女性でも扱いやすく、価格も安いのが特長です。手撒きのような手軽さで、より丁寧で効率的な肥料散布ができます。散布効率はトラクター装着式や動力式に劣るため、狭いほ場での使用に向いています。条撒き可能な手押し式の肥料散布機は、手撒きと組み合わせることで局所施肥にも活用できます。
適切な施肥量の計算方法と目安

エジ / PIXTA(ピクスタ)
実際に施肥を行う際には、適切な施肥量の計算が必須です。ここでは作物の肥料必要量をすべて施肥で賄うことを前提に、施肥量の計算方法と目安について解説します。実際は定期的な土壌診断により土壌に元々含まれる肥料分を把握し、その結果も考慮して計算する必要があるので注意が必要です。
肥料の袋には、肥料の三要素であるチッソ・リン酸・カリの配分が数値で書かれています。肥料の必要量を計算するには、このうちチッソを基準とし、「肥料の使用量×含まれているチッソ成分の割合」が作物の必要チッソ量とイコールになるよう施肥するのが一般的です。
必要な肥料の量は、作物や地域、土質によって異なります。施肥量の目安は、各都道府県の指導指針や指導要領が参考になります。
参考:厚生労働省「都道府県施肥基準等」
たとえば、作物の必要チッソ量を10平方m当たり150g、肥料に含まれるチッソ成分を10%と仮定した場合、肥料1kgに含まれるチッソ成分=1kg×10%=0.1kg(100g)、必要チッソ量は150gなので、150÷100=1.5、肥料1kg×1.5=1.5kg、つまり10平方m当たり1.5kgの肥料が必要という計算になります。
必要チッソ量を基準として計算しますが、同時に施肥されるリン酸やカリが不足したり過剰になったりしないよう、配分のバランスに注意が必要です。実際の施肥にあたっては、肥料ごとにメーカーが推奨する施肥量も参考にしましょう。
また、土壌のpH調整を行いたい場合、pHを1あげるためには炭酸カルシウムや苦土石灰を1平方m当たり100gを散布する、と考えると計算しやすいでしょう。ただし、土壌によって異なるため、あくまで目安とします。
なお、土壌と石灰資材がなじみにくくなるため、1回の施肥量は最大でも1平方m当たり300gを超えない範囲で散布することが大切です。
出典:甲賀農業協同組合「農のこと」
肥料の必要量は場所によって異なる
ここまで、標準的な施肥量の計算方法を紹介しましたが、実際はほ場の地力によって適切な施肥量は変わります。また、施肥の効果を高めるためには、ほ場内の地力の高低を踏まえて、肥料の散布量を柔軟に変える必要があります。
しかしながら、ほ場単位の地力は把握できても、ほ場内の地力の高低までは把握しきれていない方が多いのではないでしょうか。地力にムラがあったまま施肥を行うと、施肥量が多い場所は食味低下や倒伏、逆に低い場所は生育不良を招いてしまいます。
そこで有効なのが、栽培管理支援システムです。栽培管理支援システムを活用すれば、地力の高低に合わせた施肥量を自動で計算することが可能です。
肥料散布の効果UP! 栽培管理支援システムの機能
ここでは、ドイツの大手化学メーカーBASFの「xarvio®(ザルビオ)フィールドマネージャー」を例に挙げ、施肥量の計算に役立つ主な機能を紹介します。
地力マップ:緻密な基肥の設計が実現
ザルビオの地力マップは、AIが過去15年分の衛星画像データを解析し、ほ場の地力を測定します。

ザルビオの地力マップは、地力の高低が一目でわかる
画像提供:BASFジャパン株式会社
ほ場内の地力が色分けされているため、地力の高い場所は施肥量を減らし、地力の低い場所は施肥量を増やすことで、生育ムラを解消する基肥設計が可能になります。
地力マップの作成には、特別な準備は不要です。ザルビオのシステム上でほ場を選択し、分析ボタンを押すだけで地力マップが表示されるため、クラウドアプリの操作に慣れていなくても簡単に利用できます。
可変施肥マップ:地力と生育状況を反映して施肥量を自動で計算
可変施肥は、地力の高低に応じて肥料の散布量を変えながら施肥する作業です。可変施肥で地力を均一化すれば生育ムラが解消でき、肥料コストを削減しつつ収量アップや品質向上につなげられます。
ザルビオでは、地力と生育状況を基にした可変施肥マップが作成できます。10a当たりの施肥量を入力するだけで、肥料の散布量を5段階に分けた可変施肥マップが完成します。

ザルビオの可変施肥マップの使用量を入力する画面
画像提供:BASFジャパン株式会社

ザルビオの可変施肥マップは、10a当たりの散布量を入力するだけで可変施肥マップが完成する
画像提供:BASFジャパン株式会社
作成した可変施肥マップは、スマート農業に対応している一側条施肥機やブロードキャスター、ドローンなどと連携可能です。完成した可変施肥マップをUSBメモリにダウンロードして農機に読み込ませるだけで、可変施肥が効率良く行えます。
収量15%アップ・肥料コスト25%減! 可変施肥で肥料散布の効果を高めた事例

画像提供:BASFジャパン株式会社
ここでは、実際にザルビオの地力マップを活用した事例を紹介します。
宮崎県で水稲とかんしょを栽培する児玉さんは、ザルビオを活用することで収量アップとコスト削減を実現しています。
児玉さんは、SNSの広告でザルビオの存在を知りました。「作物を管理する」というワードに引っ掛かり、試しにザルビオを導入してみたそうです。
「当時、地力に強い関心を持っていました。ザルビオで本当に地力が分かるならばすごいなと思ったものの、『なんでこれで地力が分かるんだ?』と半信半疑でした。」
しかし、まだ田植え前の水も入れていない時期、児玉さんは地力マップの精度の高さに驚きます。
「地力マップで地力が特に高いと表示された場所は、雑草の生え方が周りよりも明らかに旺盛でした。それを見た瞬間、ザルビオの期待が一気に高まりましたね。」

地力マップで「地力が高い」と表示された場所は、雑草の生え方が旺盛だった
画像提供:BASFジャパン株式会社
地力マップに手応えを感じた児玉さんは、施肥の設計からザルビオを活用し始めました。
「地力マップに基づいて、地力が低い場所には肥料を多めに散布し、地力が高い場所の散布は控えると、前年よりも肥料が数俵余ったんです。結果的に、肥料コストは25%も削減できました。」
さらに、地力の高い場所に雑草が生えることがわかっていたため、ピンポイントで除草を行うことで、除草剤のコストも50%削減できました。
その結果、児玉さんは前年よりも収量を15%アップさせることに成功しています。

児玉さんはザルビオを活用して肥料コストを25%削減し、除草剤コストを50%削減し、収量を15%アップさせた
出典:xarvio「導入事例」よりminorasu編集部作成
最適な施肥量は、1枚のほ場の中でも異なります。児玉さんのように、ザルビオのような栽培管理支援システムを活用して地力に応じた施肥をすることで、収量アップとコスト削減の両立を実現してみてください。
施肥を適切に行うには、作物の生育にとって必要な量を正しく計算する必要があります。散布をサポートする農業用機械を活用すれば、無駄が省けて作業を効率良く行えます。
また、地力に応じた可変施肥をすることで、肥料コストを削減しつつ収量アップが図れます。本記事で紹介したザルビオなら、10a当たりの施肥量を入力するだけで可変施肥マップを作成することが可能です。
まずは一度、最先端の栽培管理支援システムをお試しください。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。