肥料散布(施肥)の効率的なやり方と施肥量の計算方法について
作物の生育に欠かせない肥料は、育てる作物の種類やほ場の広さ、土壌などによって多様な散布方法があります。この記事では、施肥方法による効果の違いや注意点、施肥を効率的に進める農機の活用方法、また施肥量の具体的な計算方法について詳しく解説します。
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作物が生育するためには、その作物に適した土壌を作るための適正な肥料散布(施肥)が重要です。
とはいえ、施肥は播種前から作物の生育中を通して何度も行う必要があり、身体的・経済的負担は軽くありません。そのため、効率的な施肥方法が生み出され、肥料散布をサポートする数々の農機が開発されています。
多様な施肥方法と効果、それらに適した農機の紹介、そして施肥量の具体的な計算方法について、詳しく解説します。
肥料散布(施肥)のやり方は大きく分けて2つ
施肥の方法には大きく分けて「全面施肥」と「局所施肥」の2つがあります。作物の種類やほ場や土壌の状況に応じて適した方法を用います。それぞれの施肥の特長や手順について、簡単に説明します。
全面施肥
きこり / PIXTA(ピクスタ)
全面施肥は「全面全層施肥」ともいい、ほ場全体へ均一に肥料を散布し耕起する方法です。耕起に併せて行い、播種または定植の前に肥料を散布します。
広く散布し土に混ぜ込むため、ほ場全体にまんべんなく施肥の効果が行きわたり、痩せている土壌で栽培を始める際に有効です。ただし、大量の肥料が必要なためコストがかかります。
この手法は、小松菜やほうれん草などの葉菜類を畑の全面にわたって栽培する場合に適しています。一方、根が伸びる範囲の狭い作物を畝に沿って栽培する場合には、肥料の利用率が低くなるため向きません。
局所施肥
kinpachi / PIXTA(ピクスタ)
全面施肥に対し、作物の根が伸びる場所の近くへ局所的に施肥する方法です。必要な部分だけに効率的に施肥するため、作物の収量に影響することなく肥料の散布量を3割程度削減することができるとされています。ほ場全体が痩せた土壌ではなく、ある程度養分の行きわたっている場合に向いている施肥方法です。
局所施肥には、畝の作物に近い部分へすじ(条)状に施肥し、肥料の利用効率を高める「条施肥」や、播種前に溝を掘ってその中へ緩効性肥料を施すことにより長期間肥料の効果を得る「溝施肥」、生育初期に必要な肥料を施した表層と、根が伸びてきた後期に必要な肥料を施した下層とに分けて施肥を行う「2段施肥」など、さまざまな方法があります。
肥料には速効性・緩効性など効果の時期や、顆粒状・粉状・ペレット状・ペースト状など、さまざまな形状があるため、施肥方法に適した肥料を選びましょう。特に、肥効調整型肥料とその特徴を生かした局所施肥の方法を組み合わせることで、より高い効果が得られます。
また、局所施肥に適応した農機も多数あり、それを活用することで畝立てと施肥作業を同時に行うこともできます。メリットの多い局所施肥ですが、速効性の化学肥料を施した場合には濃度障害、有機質肥料を施した場合には還元障害やガス害が発生しやすくなる点に注意が必要です。
施肥を効率化する肥料散布機の種類とそれぞれのメリット
岬太一 / PIXTA(ピクスタ)
施肥を適正に行うためには、労力と技術が必要です。そのため、施肥を効率的・効果的に行うことのできる肥料散布機が各メーカーで多数開発されています。ほ場の広さや作業者の経験に合わせ、適した農機を活用しましょう。
トラクター装着式肥料散布機
手持ちのトラクターの前部または後部へ装着してほ場を走るだけで肥料散布が容易にできる農機で、広いほ場に向いています。
全面散布を効率的に行える散布機としては、粒状・砂状の肥料散布に適した「ブロードキャスタ」や、粉状の石灰等も散布できる「ライムソワー」などがあります。
ブロードキャスタは、円盤を回転させる方式(スピンナー式)と、振動する方式機械(フリッカー式)があります。高い位置から散布するため湿度の影響を受けにくく、有効散布幅は化成肥料で5~8m、石灰など比重の軽いものは3~4mです。幅が広いので少ない走行で済みますが、均一な散布には散布幅に対して10~50%の重複散布が必要です。
ライムソワーは、全幅落下式なので有効散布幅も機器の幅とほとんど同じです。施肥ムラが少なく、ほぼ均一な施肥が可能です。肥料の繰り出し口が低い位置にあるので、湿度の高いときに作業を行うと肥料が湿気を吸収して凝固してしまうため注意しましょう。
局所施肥用の散布機も、トラクター装着式の製品が数多く開発されています。畝立てと施肥を一工程で行える「畝立同時施肥作業機」、作溝から播種、施肥までを同時に行える「施肥播種機」など、作溝や畝立て、播種、マルチ張りなどの作業と同時に施肥できるものが多種あるので、作業内容やタイミングに適した農機を活用しましょう。
動力散布機(背負い式・自走式)
人が背負って撒くことで手撒きと同様に無駄なく散布できる背負い式と、畝の間を手押し感覚で走行させる自走式があります。ある程度作物が育った状態でも肥料を散布できるので追肥に向いています。
エンジン式背負動力散布機であれば、ホースを使ってより遠くまで肥料を散布することができ、狭い畝の間からの散布や水稲栽培なら畦畔から水田への散布に便利です。
自走式はほとんど力がいらないので体への負担が少なく、背負い式よりも広範囲の散布に適しています。粒状の肥料だけでなく、乾燥堆肥や米ぬかの散布に対応している機種もあります。
人力散布機(背負い式・手押し式)
動力散布機と比較して軽量なので女性でも扱いやすく、価格も安いのが特長です。手撒きのような手軽さで、より丁寧で効率的な肥料散布ができます。散布効率はトラクター装着式や動力式に劣るため、狭いほ場での使用に向いています。条撒き可能な手押し式の肥料散布機は、手撒きと組み合わせることで局所施肥にも活用できます。
適切な施肥量の計算方法と目安
エジ / PIXTA(ピクスタ)
実際に施肥を行う際には、適切な施肥量の計算が必須です。ここでは作物の肥料必要量をすべて施肥で賄うことを前提に、施肥量の計算方法と目安について解説します。実際は定期的な土壌診断により土壌に元々含まれる肥料分を把握し、その結果も考慮して計算する必要があるので注意が必要です。
肥料の袋には、肥料の三要素であるチッソ・リン酸・カリの配分が数値で書かれています。肥料の必要量を計算するには、このうちチッソを基準とし、「肥料の使用量×含まれているチッソ成分の割合」が作物の必要チッソ量とイコールになるよう施肥するのが一般的です。
たとえば、作物の必要チッソ量を10㎡当たり150g、肥料に含まれるチッソ成分を10%と仮定した場合、肥料1kgに含まれるチッソ成分=1kg×10%=0.1kg(100g)、必要チッソ量は150gなので、150÷100=1.5、肥料1kg×1.5=1.5kg、つまり10㎡当たり1.5kgの肥料が必要という計算になります。
必要チッソ量を基準として計算しますが、同時に施肥されるリン酸やカリが不足したり過剰になったりしないよう、配分のバランスに注意が必要です。実際の施肥にあたっては、肥料ごとにメーカーが推奨する施肥量も参考にしましょう。
また、土壌のpH調整を行いたい場合、pHを1あげるためには炭酸カルシウムや苦土石灰を1㎡当たり100gを散布する、と考えると計算しやすいでしょう。ただし、土壌によって異なるため、あくまで目安とします。
なお、土壌と石灰資材がなじみにくくなるため、1回の施肥量は最大でも1㎡当たり300gを超えない範囲で散布することが大切です。
出典:甲賀農業協同組合「農のこと」
施肥は、作物の生育にとって必要な量を正しく計算し、最適な方法で行いましょう。散布をサポートする農業用機械を活用することで、無駄を省き効率よく作業できます。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。