養液栽培のメリット・デメリットとは?導入費用の目安もご紹介
養液栽培は、農作業の負担軽減や商品としての新たな付加価値をプラスできるなど、優れた点の多い栽培方法ですが、設備投資やランニングコストのアップなど、導入するには注意すべきポイントもいくつかあります。ここでは養液栽培の特徴と導入方法を中心に解説します。
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トマト栽培などに代表される養液栽培は、土耕栽培に比べて作業負担が少なく、作物の管理がしやすいなどの多くのメリットがあります。そのため養液栽培への切り替えを検討する農家も増えていますが、導入には費用面など事前に検討すべき点がいくつかあります。
本記事では養液栽培を始める際に確認したいポイントを紹介します。
養液栽培とは?
多くの場合、作物は土壌に定植して栽培しますが、土壌ではなく肥料を水に溶かした培養液中で作物を育てる栽培方法が養液栽培です。
主な養液栽培としては培養液の中で根が育つ「水耕栽培」と、土の代わりにさまざまな培地を使った「固形培地耕栽培」、そして培養液を霧状にして根に散布する「噴霧耕栽培」があります。
水耕栽培と噴霧耕栽培では、収穫期間が短いレタス・みつば・葉ネギなどの葉菜類の栽培が多く、固形培地耕栽培では主にトマト・イチゴ・きゅうりなどの果菜類が栽培されます。
土耕栽培・養液土耕栽培との違い
従来のように土を使った栽培方法には、土耕栽培と養液土耕栽培がありますが、これらの方法と違って、養液栽培はそのほとんどの工程が人工的に管理されます。
養液栽培ではビニールハウスや野菜工場などの整備された環境下で、自動化されたシステムを使い、定期的に水分と肥料分を作物に補給します。そのためセンサーやタイマーを組み合わせれば、完全に自動化したシステムを構築することもできます。
土耕栽培と比較すると、施設や設備への投資額が大きくなりますが、作業負担を大幅に軽減することが可能です。
養液栽培のメリット
養液栽培では肥料を水に溶かした培養液を、直接作物の根から吸収させます。必要な水分と養分が常に供給されるため、土耕栽培に比べると作物の生長速度が速く、収穫までの期間を大幅に短縮できるというメリットがあります。
同時に、自然環境に左右されず安定的な収量が見込め、作物の品質を一定に保てるという強みもあります。異物混入の危険性もほとんどないので、品質にこだわるホテルやレストランなどに、高付加価値の商品として継続的に納入することも可能です。
土耕栽培では、土壌を介した病害や害虫、連作障害を回避する対策を取る必要がありますが、養液栽培にはこれらのリスクが非常に小さくなります。農薬の使用量を抑えることも可能です。
何より養液栽培では、土壌消毒・耕起・施肥・除草などの重労働から解放され、作業を効率化できるという大きなメリットもあります。
一度システムを整備すれば、シーズンごとに繰り返し安定的な栽培を再現できるため、作業のマニュアル化がしやすく、企業型農業として経営の安定化を図れます。そのため、大規模経営へのシフトもしやすくなります。
養液栽培のデメリット
メリットの多い養液栽培ですが、一貫したシステムが必要なため、施設や設備の導入費用が大きいというデメリットがあります。また、栄養分のすべてを人工的な肥料でまかなうので、肥料コストの負担増も考慮しなければなりません。
しかし、費用面に関しては大規模化すればスケールメリットが生じるため、面積あたりの投資費用や作業コストを下げることが十分に可能です。
これから養液栽培を導入する農家にとっては、新たに栽培システムの管理方法と、養液栽培のノウハウを学び直す必要があります。この点はデメリットとも捉えられますが、一度栽培方法を確立すれば、その知識や技術を容易に後継者に継承できるため、メリットに変えることもできるでしょう。
養液栽培の導入方法&導入費用の目安
YNS/PIXTA(ピクスタ)
養液栽培に必要な設備は、ハウス以外では、定植のベースになる栽培ベッドや培地、培養液タンクと給液ポンプ、給排水管などの培養液循環システム、さらに各種センサーやタイマーなどがあります。
システムを導入する場合は、これらの設備を個別に購入して組み合わせるよりも、必要な設備一式をセットで購入するのがおすすめです。
費用についての例を挙げると、北海道での養液栽培では、全体的な設置コストはハウス面積が650㎡の場合で、1㎡あたり15,000円程度、ハウス面積が325㎡の場合で、1㎡あたり20,000円程度と見積もられています。大規模化した方がコスト削減できることが分かります。
出典:北海道農政部生産復興局農産振興課「養液栽培パッケージモデル 小中規模タイプ(葉茎菜類)」
実際に養液栽培を導入する場合は、ハウス全体の建設費や給排気設備費、電気工事費と配管工事費などもかかるため、コストを抑えるには既設のハウスを利用できないかといったことも検討してみましょう。また、コストだけではなく、管理のしやすさも重要な選定ポイントです。
養液栽培の収益モデル
bankrx/PIXTA(ピクスタ)
ここで、北海道での事例をもとに、具体的な養液栽培の収益試算モデルを紹介しましょう。栽培品目はグリーンリーフレタスで、栽培面積は10a(1,000㎡)です。
栽培期間は3~11月の間で、モデル上での販売総額は約1,220万円。減価償却費や人件費を含めた経費が約1,010万円となり、およそ210万円の所得が得られることになります。
30~50a規模で500~800万円の所得確保を目指せば、充分経営的にも成り立つ試算です。ただしモデルではグリーンリーフレタスの単価を、1kgあたり1,000円と見積もっていますが、実際の市場価格は200~400円程度です。
現実的には高付加価値商品として販売単価を上げるか、他の作物との複合型経営で効率化を図る必要があるでしょう。
出典:北海道農政部生産復興局農産振興課資料北海道農政部生産復興局農産振興課「養液栽培パッケージモデル 小中規模タイプ(葉茎菜類)」
養液栽培における注意点
Fast$Slow/PIXTA(ピクスタ)
最後に養液栽培の導入を検討する際に、特に注意したいポイントを2つ挙げておきます。
高温性水媒伝染病害への対策
養液栽培でも病害や害虫と完全に無縁というわけではありません。例えばトマトの場合高温性ピシウム菌のように、高温性水媒伝染病害で根腐れを起こしてしまうことがあります。
このような病害を防ぐためには、常に栽培環境を一定に保つと同時に、培養液や苗に病原菌が混入しないような対策を講じる必要があります。特に培養液の温度を25℃未満に維持することが重要で、もしも病害が疑われる時には、金属銀剤を投入するなどの防除を行わなければなりません。
経営状況を考慮し、販売計画をしっかり立てる
養液栽培を始めるには、今までの栽培方法から180度転換したシステム作りが必要です。導入費用が大きいことを考慮して、まずは現在の経営状況を客観的に判断し、実現可能な経営計画を立てた上で導入を検討しましょう。養液栽培が持つメリットを最大限に生かせる環境がなければ、経営が成り立たない危険性もあります。
安全・安心な農産物に対するニーズは、今後さらに高まることが予測されます。養液栽培のメリットは数多く、農家にとって大きなチャンスとなる可能性を秘めています。まずは経営の現状を分析し、しっかりとした経営計画をもとに導入を検討してみてください。
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大澤秀城
福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。