キャベツの菌核病対策!被害を最小限に抑えるポイントとは?
キャベツの重要病害の1つが「菌核病」です。ほ場全体に被害が広がれば収量は激減するため、感染予防と被害拡大を防ぐ即時対処が非常に重要です。この記事では、菌核病の予防方法と、発生した場合の対策について具体的に解説します。
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もともと乾燥した気候のヨーロッパが原産地であるキャベツは、高温多湿になりがちな日本の気候のもとでは細菌性の病害や、今回のテーマの「菌核病」のように、土壌に潜む糸状菌が発生源となる病害が多くみられます。
中でも伝染性の高い「菌核病」はその代表で、キャベツの重要病害として栽培農家を悩ませてきました。菌核病におかされたキャベツは出荷できず、ほ場全体に感染が拡大すれば収量は激減します。
この記事では菌核病の主な症状と、予防方法と発生した場合の対策を中心に解説します。
キャベツの病害「菌核病」とは
Tony/PIXTA(ピクスタ)
まずは菌核病の症状や原因など、基本情報を紹介します。
菌核病の主な症状
菌核病に感染すると、下葉の軸に近い部分に淡褐色もしくは灰褐色の病斑ができ、徐々に腐敗しはじめます。結球したあとに発病することが多く、やがて結球部の外側から白い綿毛状のカビが広がります。腐敗しても悪臭を放つことはありません。
症状が進むとキャベツの球全体が完全に腐敗して、表面にネズミのフンのような黒い塊(菌核)が多く発生します。
菌核病の発生原因と伝染方法
菌核病については、発生原因と伝染経路を知ることが、防除対策を検討するうえで役立ちます。
病原菌
菌核病は、糸状菌(カビ)の一種である「Sclerotinia sclerotiorum(スクレロチニア・スクレロチオルム)」によって引き起こされる病害です。
この病原菌は、感染した作物上で、「菌核」という黒い小さな塊を形成するのが特徴で、この黒い 塊の有無で他の病害との見分けがつきます。
キャベツ以外にもブロッコリーや白菜など、アブラナ科全般の葉菜類のほか、トマト、ナス、きゅうりなどの果菜類にも感染する、代表的な「多犯性病原菌」の1つでもあります。
伝染源と多発時期
一次伝染源は、ほ場の土壌中で生き残った菌核です。この「菌核」からのびる菌糸、もしくは「菌核」から飛散した胞子が二次伝染源となって、感染が拡大していきます。
病原菌や菌核の生育適温・湿度との関係で、春と秋の比較的涼しく感じる15~20℃の温度帯が続く雨天や曇天が続く時期に感染が拡大しやすいことが知られています。
キャベツの場合、最も被害が大きいのが秋まき春穫り栽培で、次いで夏まき秋穫り栽培です。春まき夏穫り栽培の場合は、菌核の生育適温を超えるため、発生リスクは低くなります。
感染
1. 菌核からの感染
地表近くに潜んでいる「菌核」から直接菌糸がのびて、地表近くの古い下葉や、茎の傷口から侵入し菌核病が発生します。キャベツやレタス、白菜などは主にこの経路から感染します。
菌核からのびた菌糸は、隣接する株にも侵入し、株から株へ伝染していきます。
2. 飛散した胞子による感染
春・秋に雨の日が続きほ場の水はけが悪くなると、地表近くの土壌に潜んでいた「菌核」が発芽し、小さなキノコ状の「子のう盤」をつくります。「子のう盤」は胞子を形成し、その胞子が飛散して、古くなった下葉や風雨などによってできた傷口から作物に入り込み、菌核病が発生します。
伝染
菌核からのびた菌糸が隣の株にも侵入して、隣接する株に次々伝染していきます。やがて飛散した胞子によって隣接したほ場にも伝染していきます。
そして、感染した作物の上でつくられた菌核は、ほ場の土壌中で4~5年生き残るため、次のシーズンでの一次伝染源になります。そのため一度菌核病が発生したほ場では再び菌核病が発生するリスクが高いのです。
キャベツ菌核病の防除方法
bwinds/PIXTA(ピクスタ)
ここからは菌核病の予防方法と、発生した場合の対策について具体的に解説します。ほ場の環境を整えて、原因になる「菌核」が侵入しないように対策することが肝要です。
菌核病の化学的防除
菌核病の予防には、後述する耕種的防除とあわせ、結球が始まる時期から定期的に予防的な農薬散布を行うことが大切です。
台風などの強い風雨のあとは、キャベツの葉や茎に傷がつき、菌糸や胞子が侵入しやすい状態になるので、この場合も農薬散布を行います。
キャベツの菌核病に登録がある主な農薬:
アフェットフロアブル、アミスター20フロアブル、カンタスドライフロアブル、ゲッター水和剤、シグナムWDG、スミレックス水和剤、セイビアーフロアブル20、トップジンM水和剤、パレード20フロアブル、ファンタジスタ顆粒水和剤、フロンサイドSC、ベルクート水和剤、ベルクートフロアブル、ベンレート水和剤、ポリオキシンAL水溶剤、ロブラール水和剤 など
※剤型や有効成分の含有量によって、キャベツの菌核病に登録のない場合もあります。必ず最新の登録内容を確認のうえ、使用量、使用時期、使用方法を守って散布してください。
菌核病の耕種的防除
1. 多発ほ場での連作を避ける
前述したとおり、菌核は土壌中で長期生存し次の一次伝染源となるので、菌核病の多発ほ場での連作は避けます。
2. 被害残渣は残さない
ほ場の被害残渣は、一次伝染源の菌核を土壌に広げることになるため、ほ場から徹底的に取り除き ます。胞子が飛散しないように袋などに入れ、ほ場から移動し、焼却するか、地中深く埋めて処理します。
3. 天地返し
ほ場の土壌中の菌核を天地返しによって地中深くに埋め込み、菌核が地表近くで活動して菌糸をのばしたり、「子のう盤」を形成したりできないよう封じ込めます。
地表から5cm以上埋め込むと、菌核が「子のう盤」を形成できなくなるといわれていますが、念のため10cm以上の「天地返し」をして、表層土と地下の土を入れかえておくと予防効果が期待できます。
4.水稲との輪作・湛水(たんすい)処理
菌核はほ場に一定期間水を張る「湛水(たんすい)処理」によってほぼ死滅します。
水稲とキャベツを組み合わせた作型をとっている産地では、水田が湛水状態をつくっていたため、菌核病被害が抑えられ、キャベツの産地形成が維持されてきました。
しかし、近年は、転作や水田の有効利用などが進み、水田に水を張らないことも増えてきました。そのかわり、水稲を栽培しない場合でも、夏季に1ヵ月程度、ほ場を一度水田の状態に戻し、水を張って湛水処理を行うことで菌核病発生リスクを抑えられます。
5 .ほ場の環境整備
そのほか、風通しと水はけをよくするために密植を避ける、作付け前に土壌改良をして排水性を高めておくなどの対策も効果的です。
より高い予防効果を求める場合は、前述した農薬の散布がおすすめです。結球の始まる時期からの防除方法で、雨が多いなど糸状菌が増殖しやすい状況下でも効果が得られます。
菌核病が発生してしまった場合の対策
菌核病は早期発見・早期防除が大変重要です。菌核が大量につくられたあとでは、防除は困難になります。主な対策としては、以下の2つが考えられます。
1. 被害株を取り除く
菌核病の発生を認めたら、すぐに発病株を抜き取り、発病株のまわりの落ちた下葉などとともに取り除きます。病原を広げないよう覆ったうえでほ場以外に移動し、焼却するか、地中深く埋めて処理します。
2. 農薬散布
早期発見ができた場合は、農薬を改めて散布し防除しましょう。(詳細は前項「菌核病の化学的防除」を参照)
キャベツのほ場で、菌核病の感染が拡大してしまうと収量が激減し、収益的にも大きな影響があります。感染予防と早期防除を徹底し被害を最小限にくいとめましょう。
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大澤秀城
福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。