果樹苗木の植え付け方|時期や間隔&結実に向けた栽培のポイント
果樹苗木の植え付けには、適期や土壌の準備のほかに、適した間隔、受粉樹の植え付けなど、果樹特有の注意点があります。苗木をしっかり育てて将来の安定した収穫につなげるためには、植え付けの際にきちんとポイントを押さえておきましょう。
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果樹栽培は、種類を選べば大きな負担もなく農地を保つことができ、遊休農地の活用としても有効です。この記事では果樹の植え付けに適した品種選びや土壌の準備、苗木の選び方、植え付けの適期や間隔など、押さえておくべきポイントについて詳しく解説します。
果樹苗木の植え付けに適した土壌と気候
果樹の種類を問わず、以下のような条件の場所と土壌を用意するとよいでしょう。
《場所の条件》
・日当たりがよい
・夏の西日が強く当たりすぎない
・成長してからも十分に枝を伸ばせるスペースが取れる
・北風が直接当たらない
《土壌の条件》
・水はけがよい
・30cmほどの深さまで岩盤や粘土質の層がなく掘り返せる
・土壌pHが低すぎない(作物により異なるが、約5.5〜7.0の間)
土壌の条件がそろわない場合は、以下のような土壌改良を行います。
・水はけをよくするには、腐葉土、バーク堆肥などをすき込む
・土が硬い場合は大きな石などを取り除きながら深く掘り返し軟らかくする
・pHが低く酸性度が高い場合は苦土石灰を施用し調整する(作物により異なるが、約5.5〜7.0の間)
果樹の種類によって適した気候は違う
果樹の種類ごとに適した気候は異なります。りんごと温州みかんを例に栽培に適した気候条件を見ていきましょう。
《りんご》
年間平均気温:6~14℃、4~10月の平均気温:13~21℃、最低極温(注)-25℃以上、低温要求時間(注)1,400時間以上となっており、冷涼な気候が適しています。また、気象被害を防ぐには、最大積雪深は概ね2m以下(矮化栽培の場合は1.5m以下)であること、蕾から幼果期に降霜が少ないことも重要です。
(注)最低極温:栽培地における1年を通して最も低い気温
(注)低温要求時間:栽培地の気温が7.2℃以下になる期間の延べ時間
青森や長野が主な産地ですが、北海道北部・東部や西南暖地~関東・東海の平野部を除く広い地域がこの気候にあてはまります。
《温州みかん》
年間平均気温:15~18℃、最低極温は-5℃で、腐敗や品質低下を防ぐため11月から収穫まで降霜が少ないことが重要です。この気候にあてはまるのは西南暖地の沿岸部が中心です。
出典:
農林水産省「果樹のページ」所収の「果樹農業の振興を図るための基本方針(果樹農業振興基本方針)令和2年4月30日」
農林水産省「農林水産省気候変動適応計画」のページ所収の「農林水産省気候変動適応計画概要」
そのほかにも、北海道はぶどう、梨、ベリー類、沖縄はレモン、ゆずなど一部の柑橘類とマンゴーなどのトロピカルフルーツの栽培に適しています。
同じ都道府県内でも山沿い、海沿い、高地、盆地など、地形によっても気候は大きく変わるので、栽培したい果樹の代表産地の地形や気候の特徴を調べてみるとよいでしょう。
【種類別】苗の移植に適した時期
果樹の植え付けの適期は、常緑果樹と落葉果樹で異なります。植え付けの直後は枝葉や根が一時的に弱るため、寒さに強い落葉果樹は生育が緩慢な11月~3月の寒い時期に植え付けると、環境による悪影響を抑えることができます。寒さに弱い常緑果樹は寒さが緩む3月頃に、さらに寒さに適さない熱帯果樹は十分に暖かくなる5~7月に植え付けるとよいでしょう。
萌芽し枝葉を伸ばし始める頃までに根がしっかり土に馴染むようにするには、適期の中でも常緑果樹は11月、熱帯果樹は5月に植え付けるのがおすすめです。
pu- / PIXTA(ピクスタ)
果樹苗木の基本の植え付け方法(露地栽培)
実際の植え付けについて、各工程に沿って詳しく説明します。
吸水~植穴の準備
定植の前に、直径80cm程度、深さ50~70cm程度の土壌を掘り返して軟らかくし、水はけを調整した表土、心土、完熟堆肥、石灰と元肥をよく混ぜて埋め戻しておきます。
元肥は果樹の特性に合わせて調整します。りんごの場合は1ha当たり窒素200~300kg、カリウム400~600kgを目安にするとよいでしょう。
苗木は、根の土を取り除いて6~12時間ほど水に浸し、吸水させたらすぐに植えます。すぐに定植できない場合は仮植をします。根部を風や日光に当てて乾燥させると枯死することもあるので、吸水後は放置せず、速やかに植えつけることが大切です。
植え付け~主幹の切り戻し
植え付ける前に、苗木の接ぎ木部にビニールテープなどが巻いてある場合は取り除き、根の先に枯死している部分があればハサミなどで切り取るなど、余分なものを取り除き整えます。
「りんご」「なし」「もも」を植え付ける場合は、「白紋羽病」に登録がある農薬を根部浸漬処理した後に植え付けて下さい。
植え付ける際はできるだけ根を放射状に広げ、根の細かい部分まで土がしっかり密着するように少しずつ丁寧に土をかけましょう。接ぎ木部分が地表面下に埋もれないように注意してください。
最後に苗木の主幹の上部を切り戻しします。切り戻しとは、幹を短く切り詰めて地上部を小さくすることで根に栄養が回るようにする方法です。
果樹の種類や整技法によって異なりますが、一般的にはりんごや桜桃(さくらんぼ)で70~90cm、梨や栗などで80~100cm、ブドウやキウイフルーツなどは20~40cmほどを目安に、その長さにあるよい芽の上で切ります。切り口には癒合剤を塗り、傷を保護しておきましょう。
支柱の設置~水やり
植え付け完了後は支柱を立てます。土の表面が乾かないよう十分に灌水を行いながら、病害虫の初期防除に気を配りましょう。春期には敷きわらを行い、乾燥と雑草の発生を防ぎます。
植え付け直後は施肥をすると根を傷めてしまうことがあるので控え、芽出しの1ヵ月後くらいから、1本当たり一握りくらいの化学肥料を数回に分けて施肥します。
ポイント1 植え付け間隔について
果樹の種類や環境によって、樹高や枝の広がり方は変わります。植え付けの際には成長後を想定した間隔を空ける必要があります。
りんごの場合、中間サイズの品種であれば1本当たり4×5m~4×6m:1ha当たり400~500本、わい性品種なら2.5×4m:1ha当たり1,000~2,300本の間隔が必要です。
ゆずの場合は4m四方くらいの栽培間隔があるとよいでしょう。ゆずはトゲがあるのではしごを使っての収穫が大変なため、枝を下に引っ張って低い樹形に育てるのもよい方法です。
ポイント2 結実のための受粉を促す「混植」
りんごや柿、栗、桜桃(さくらんぼ)やキウイフルーツといった多くの作物で、受粉のための「受粉樹」の混植が必要です。受粉樹は、全体の30%ほどの割合で植えつけるようにします。
例えばりんごの場合、同じ花粉では受粉しても結実しない自家不結実性の品種が多いため、別の品種を受粉樹として混植します。「ファーストレディ」には「あいかの香り」や「つがる姫」、「シナノゴールド」には「アルプス乙女」など、品種によって相性のよい受粉樹の品種も変わるので、育てたい品種に合う受粉樹の苗を用意しておきましょう。
また柿は雌花しかつけない木が多いため、雄花をつける受粉樹を混植する必要があります。柿の結実は複雑で、受精しなくても結実する「単為結果性」という性質があり、その場合は種無し柿になります。受粉して結実した場合でも、種が入りやすいものと入りにくいものがあり、そのしくみは複雑ですが、安定した収穫にはやはり受粉樹が必要です。
果樹苗木の入手方法
果樹苗木はJAや農家向けに小売りしている種苗業者から、品種名や台木の名称がはっきりしているものを購入することが重要です。購入先についてはJAや同業の果樹農園の経営者に相談してから決めましょう。
入手タイミングは植え付け時期に合わせて購入するのが一番ですが、春植えの場合、春では苗の状態があまりよくない傾向にあります。優良な苗が多く出回る秋に苗木を購入しておき、仮植をして十分な管理のもとで越冬させてから、春植えするという方法もあります。
よい苗木の選び方
購入する業者を決める際に、下見ができるのであれば購入予定の苗木をチェックしておくと安心です。良質な苗木のポイントは、以下の通りです。
・枝が太くて長く、芽と芽が間延びしていない
・芽がしっかり詰まって充実し、葉の色が濃く病変や萎縮が見られない
・接木部がきれいで滑らか
・穂木と台木の接合がしっかりしている
・根の色が褐色で、細かい根がたくさんある
枝が細く葉の色も薄い、穂木と台木の接合部がでこぼこしている、根に異常が見られる、といったものは避けたほうがいいでしょう。
topic_e5 / PIXTA(ピクスタ)
果樹栽培を始める際の植え付けは、その後の果樹の成長を左右する大切な作業です。ほ場の環境に合った品種を決めたら、果樹の特性に合わせて土壌をしっかり準備します。よい苗を選び、適期に植え付けをして果実の肥大と豊かな収穫をめざしましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。