玉ねぎの定植方法|適した時期・株間とプロ向け定植機4選
玉ねぎの定植は、やり方によって収量にも影響する重要な作業です。特に大切な定植のタイミングや条間・株間の取り方を中心に、玉ねぎの作付けで失敗しないための栽培ポイントを解説します。また、作業効率アップにつながるおすすめの定植機(移植機)を紹介します。
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玉ねぎを十分に肥大させ、品質・収量をアップするには、適切な栽培管理が重要です。本記事では、まず基本的な栽培暦を振り返り、その中でも定植作業に重点を当てながら、播種から収穫までの栽培工程全体を具体的な手順や注意点とともに解説します。
【作型別】玉ねぎの栽培暦
トマト大好き / PIXTA(ピクスタ)
玉ねぎの作型は、北海道などの寒地・寒冷地では「春播き秋どり」、温暖地では「秋播き春どり」が一般的です。
春播きでは3月上旬に播種し、5月上旬に定植をして8〜9月頃に収穫します。秋播きでは9月頃に播種し、11月頃に定植して冬越しさせ、4〜6月頃に収穫します。
玉ねぎは冷涼な気候に向き、発芽適温は15~20℃、生育適温は15℃前後です。肥大には日長の影響が大きく、日が長くなることで肥大を開始する性質を持つことから、産地の気候に合わせて栽培歴が確立されています。
肥大開始温度は品種の早晩性によっても幅があるので、適期に肥大開始する品種を選ぶことも重要です。
以下では、寒冷地・温暖地それぞれの栽培暦の詳細を解説します。ただし、一般的な目安であり、地域や品種、その年の気候などによって時期は前後します。
実際の作業では、種子袋の表示や地域の指導を参考にしながら生育状況を判断し、適期に作業しましょう。
春播き秋どり(北海道・東北などの冷涼地)
春播き秋どりの作型は、主に北海道や東北などの冷涼地で採用されます。
春播き用品種を用い、北海道では主に2月下旬~3月上旬に播種、4月下旬~5月上旬に定植を行います。14~14.5時間程度の日長で肥大が始まり、収穫は8月中旬から9月頃まで続きます。 寒冷地の中でも少し暖かい地域では、この栽培暦よりも10日から2週間ほど前倒しになります。
また、東北地方などの寒冷地では近年、これまで玉ねぎの端境期とされていた7~8月に収穫できる、「冬春播き栽培」という新たな作型が確立しています。
この作型では、1月下旬~2月中初旬に播種し、3月下旬~4月中旬、または4~5月中旬にかけて定植、7月下旬の夏場に収穫します。 年間を通して需要が高い玉ねぎの供給が少なくなる時期を補う作型として、普及が進められています。
秋播き春どり(関東以南の温暖地)
秋播き春どりの作型は、主に関東以南の温暖地で採用されています。
地域や品種によっても異なりますが、目安として9月頃に播種、11月頃に定植を行います。越冬させて春までの間にある程度の葉や根を作っておくと、日長が伸びるにつれて肥大していきます。4月下旬から6月にかけて収穫します。
品種の早晩性別に見ると、次のようになります。
- 早生:9月上旬に播種、11月上旬に定植、4月下旬~5月上旬に収穫
- 中生:9月中旬〜10月上旬に播種、11月下旬に定植、5月下旬~6月中旬に収穫
- 中晩生:9月下旬〜10月上旬に播種、11月下旬〜12月上旬に定植、5月下旬~6月中旬に収穫
玉ねぎの定植方法とタイミング
PRock / PIXTA(ピクスタ)
玉ねぎの定植に適した時期の見極め方と、具体的な定植方法は次のとおりです。
植え付けに適した時期・気温
玉ねぎはとう立ちしやすく、大玉の玉ねぎに仕立てるには、定植のタイミングが重要です。品種にもよりますが、播種後約2ヵ月経過し、苗の太さが5〜6mm、草丈が20~25cm程度になった頃が定植の目安です。
定植の際に苗が小さすぎると、大きな球になりません。反対に、生長しすぎた苗を定植してしまうと、とう立ちしやすくなります。
しっかりと肥大した良質な玉ねぎを収穫するためには、前出の栽培暦や、その年の気候なども参考にしながら、苗をよく見て定植のタイミングを見極めましょう。
なお、玉ねぎは気温が30℃以上になると生育が抑制されてしまうので、暑くなる前に収穫できるように播種や定植の時期を設定しておくことも重要です。
作業手順と株間・条間の目安
定植するほ場の準備をします。植え付けの3週間前までには堆肥を入れ、2週間前までには苦土石灰を入れます。1週間前までに基肥を入れ畝立てをしたら、雑草対策に穴あき黒マルチを張っておくと、管理の手間が省けます。
定植では、畝幅は120〜150cm、通路30cm、条間20〜25cm、株間は10〜12cmを目安として、1穴1本ずつ植えていきます。茎の白い部分が出るくらいの浅植を基本とし、葉の分岐点が埋まらないように注意します。
玉ねぎの定植を効率化! プロ向け定植機(移植機)4選
kiki / PIXTA(ピクスタ)
大規模なほ場を持つ農家の場合、定植機を導入することで作業効率が一気に上がります。機種によって、移植と同時に灌水ができるものもあります。
省力化重視の「全自動型」と、コストが抑えられ苗の選別をしながら定植できる「半自動型」があるので、状況に応じて選びましょう。
プロの大規模農家向けにおすすめできる定植機(移植機)は、以下の4機種です。
【歩行型】専用育苗箱で苗の取出し・供給まで自動化「クボタたまねぎ移植機 OPK-4」
苗箱をセットするだけの全自動型で、ひと畝4条を毎分400株の高速で植え付けできます。適応畝形状は畝幅130~150cm、条間24cm、株間は10~13cmです。
条間が一定なので、栽培管理や収穫もスムーズに行えます。マルチと露地どちらにも対応可能で、土落とし装置がゴムベラのため、灌水による土落としのための水補給が必要ありません。
軽トラックに搭載可能なコンパクトな機体で、運搬にも便利です。メーカー希望小売価格は2,860,000円(税込価格・2024年7月時点)です。
製品ページ:
株式会社クボタ「たまねぎ移植機 OPK-4」
【乗用型】広いほ場で威力を発揮! 「みのる産業 乗用4条たまねぎ移植機 OPKR40」
出典:みのる産業株式会社「製品案内|乗用4条たまねぎ移植機 」
写真提供:みのる産業株式会社
専用苗箱で育苗した玉ねぎ苗を全自動でマルチ・露地のどちらにも移植できる、乗用型移植機です。4条タイプで条間24cm、株間は9.3〜12.3cmで6段階に切り替えられます。
作業能率は10a当たり74分~で、広いほど効率的に作業できます。メーカー希望小売価格は4,730,000円(税込価格・2024年7月時点)です。
製品ページ:
みのる産業株式会社「乗用4条たまねぎ移植機(ポット448苗箱用) 」
【乗用型】広めの株間・条間にも対応「ヰセキたまねぎ移植機 PVHR403」
井関農機「【野菜作機械】乗用型半自動たまねぎ移植機 PVHR400-145T2D・TD」
※動画で紹介している農機は旧型式です。
乗用型の半自動4条玉ねぎ移植機で、1人乗り・2人乗りの2種類があります。乗車席では座ったままアクセルやクラッチ、植え付け深さの調整、走行の微調整、停止など1人での操作が可能で、後ろ向き進行も安全に配慮されています。
走行中、作業者は乗ったままカップに慣行苗を投入する簡単な操作だけで、慣れない人や高齢者でも作業しやすいのが特長です。4条分の植え付けを一度にできるので、植え付けの効率がアップします。
適応畝形状はトレッドが125~157cm、条間は20~24cmと21~29cm、株間は10~20cmまでで、株間と条間を広くとれます。
コンパクト・軽量設計のため、軽トラックに積載できるのも便利です。トレッド条件によっては積載できない場合もあります。価格は、最寄りの販売店またはJAまでお問い合わせください。
製品ページ:
井関農機株式会社「たまねぎ移植機(1人・2人乗り)[4条]」
【乗用型】慣行苗からセル成型苗まで「ヤンマー 乗用汎用たまねぎ移植機 PH40RA,Tシリーズ」
ヤンマー農業チャンネル「乗用汎用たまねぎ移植機 PH40R,T1 プロモーションビデオ」
※動画で紹介している農機はPH40Rです。
同時4条植えの乗用汎用たまねぎ移植機で、マルチ・露地どちらにも対応し、1人乗り・2人乗りが選べます。開孔器が横開きのため、草丈の長い苗にも適応でき、慣行苗やポット苗、セル成型苗に広く対応します。
条間は、出荷時には24-25-24cmですが、4つの開孔器の先端部はそれぞれ2cmずらすことができ、条間の調整が可能です。
トレッドは畝形状に合わせ125~157cmに調整でき、株間は10~20cmの間からレバー1本で簡単に変更できるので、幅広い品種に対応します。
防錆対応の灌水装置が付き、植え付けと同時に灌水を行うことで、省力化しながら根の活着を促します。
メーカー希望小売価格は1人乗りで1,828,200円、2人乗りで1,922,800円(いずれも税込価格・2024年6月時点)です。
製品ページ:
ヤンマーホールディングス株式会社「乗用汎用たまねぎ移植機PH40RA,Tシリーズ」
作付け前に要確認!玉ねぎ栽培のポイント
kiki / PIXTA(ピクスタ)
これから玉ねぎの作付けで失敗しないために、土作りから収穫までの玉ねぎ栽培の手順に沿って、定植以外の栽培のポイントを解説します。
苗床の準備
育苗のポイントは、排水をよくすることです。苗床用に排水のよいほ場を選び、育苗に適した土作りや施肥を行って、10a当たり約60平方mの苗床を準備します。
苗床への施肥例は、60平方m当たり堆肥を120kg、苦土石灰を6kg、過リン酸石灰を4kg、化成肥料を4kgなどとします。あくまでも一例なので、地域の施肥体系も参考に、土質や環境、品種などによって調整してください。
施肥をしたら、苗立枯病やべと病などの防除のために土壌消毒を行います。秋播きの場合、梅雨明け後の7月下旬に施肥をし、畝立てを行ったあと、十分に灌水してから畝をビニールで覆い、20日以上日光に当てて太陽熱消毒を行うと効果的です。
播種~育苗・間引き
播種は、早播きをしてしまうととう立ちしやすくなるため、品種に合った適期に行います。10a当たり3~4dLの種子を条播きします。10cm前後の条間で1cm間隔を目安に播きます。
播種後は、種子が隠れる程度に覆土し鎮圧したあと、十分に灌水します。乾燥を防ぐために、敷きわらや黒寒冷紗を敷き、芽が出揃ったら被覆を撤去します。発芽適温は15〜20℃であり、適温であれば7日程度で発芽します。
間引きは、草丈6~7cmくらいで1回目、草丈10cmくらいで2回目を行い、最終的に株間1.5cmほどに調整します。間引きと同時に、固くなった条間をほぐして根元に土寄せすることで、倒伏を防ぎ、根張りがよくなります。
ほ場の準備(土づくり~施肥)
ほ場には、排水性のよい土壌を選びます。また、玉ねぎは極端な酸性を嫌うので、弱酸性~中性に調整します。
排水の悪いほ場では株が腐敗しやすくなるため、水田転換畑など水はけの悪いほ場では、あらかじめ明きょ・暗きょの整備などの排水対策を行いましょう。
施肥の目安は、10a当たり堆肥を4,000kg、苦土石灰を100kg、過リン酸石灰を50kg、化成肥料を100kgなどとします。あくまでも一例なので、地域の施肥体系も参考に、土質や環境、品種などによって調整してください。
玉ねぎ栽培では、施肥は窒素(N):リン酸(P):カリウム(K)の割合をほぼ均等に施用することが多く、それを基準として、地域の特性やほ場の土壌診断結果に基づいて割合を調整するとよいでしょう。
▼玉ねぎ栽培における土作りについては、以下の記事も参考にしてください。
追肥
玉ねぎ栽培では多肥を防ぐため、追肥は生育状況を見ながら適量を守って行うことが重要なポイントです。北海道などの寒冷地における春播き栽培では、腐敗球が増える恐れがあるため基本的に追肥は行いません。
暖地では、極早生・早生の品種で早出し栽培をする場合、12月下旬~1月上旬に1回目の追肥をし、2月上旬から中旬当たりで止め肥をします。中生・中晩生で貯蔵栽培する場合は、1月初旬〜中旬に1回目の追肥をし、2月中旬~3月上旬で止め肥をします。
施肥量の目安は、1回目は定植20日後頃、それ以降は生育状況を見ながら1ヵ月おきに行います。
生育期の後半に追肥をしすぎると、首のしまり(球の最上部のくびれ)が悪くなり、貯蔵性の低下、球の腐敗増加などのリスクが高まります。それを防ぐために止め肥のタイミングを守りましょう。
とう立ちが多く見られる場合は、肥料不足の可能性があるので追肥をします。ただし、多肥は過繫茂となり、病害虫の被害を受けやすくなるほか、貯蔵性も低下させるので要注意です。
▼玉ねぎ栽培の追肥について、詳しくは以下の記事も参考にしてください。
収穫
kinpouge / PIXTA(ピクスタ)
収穫作業のポイントは、タイミングの見極めです。寒冷地では7月上旬くらいから、暖地では5月下旬から6月にかけて、葉先が枯れ、葉が倒伏し始めたら成熟のサインです。倒れた葉が枯れてしまう前に順次収穫します。
一度にすべて収穫する場合は、全体の8割程度が倒伏した頃が収穫のタイミングです。葉が黄ばみ始めると病気や腐敗が増えるので、葉が青いうちに、雨が降らない間に収穫を終えることが大切です。
小規模のほ場で手作業により収穫する場合は、根切りをし、葉が枯れたら収穫して葉と根をカットしコンテナに詰めます。
中規模以上で機械体系による収穫を行う場合は、根切り・葉切り→掘り起こし→ピッカーで拾い上げ→コンテナに収容して運搬、という流れになります。
根切りを行わず、掘り起こすだけで枯れさせる場合や、葉切りを行わないなど、規模や使用する機械に合わせて作業を合理化します。
中規模栽培では多くの場合、アタッチメントを利用して、1つの農機で複数の作業を行います。大規模栽培の場合は、一連の作業にそれぞれ専用の農機を用い、効率的・スピーディに作業を行います。
▼規模別の収穫作業について、詳しくは以下の記事も参照してください。
病害虫の防除
玉ねぎ栽培における病害虫防除の重要なポイントは、病害では主にべと病や灰色腐敗病、害虫ではアザミウマ類(スリップス 英名:Thrips)などへの対策です。
灰色腐敗病の防除には定植直前に殺菌剤で苗浸漬処理を行ったり、定植後に殺菌剤を散布したりします。べと病には予防剤を散布します。また、変色や歪曲した罹病株を見つけたら、すぐに抜き取ってほ場の外に出し処分します。
アザミウマ類などの害虫を防ぐため、ほ場周辺の除草を徹底します。病害虫は早期発見・早期防除が基本です。発見次第、適用農薬を調べ、速やかに農薬による防除を行うことで、被害を最小限に抑えましょう。
特に寒冷地の「春播き秋どり」の作型では、生育中期~収穫期にかけて梅雨の過湿状態や夏の高温にさらされ、高温多湿を好む病害虫が発生します。よく観察し、病害虫の早期発見に努めましょう。
▼玉ねぎ栽培の病害虫防除について、詳しくは以下の記事も参照してください。
玉ねぎは1年を通して安定した需要が見込め、畑作物の中では収益性が高い作物の1つです。定植や収穫のタイミング、適切な条間を見極めるコツを押さえ、余裕があれば定植機の利用も検討し、大きく肥大した質のよい玉ねぎの生産をめざしましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。