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【玉ねぎの防除暦】病害虫&雑草対策! 農家の防除体系まとめ

【玉ねぎの防除暦】病害虫&雑草対策! 農家の防除体系まとめ
出典 : sasaki106/ PIXTA(ピクスタ)

玉ねぎ栽培を新たに始める場合や、収量・品質の向上をめざす場合には、気候や環境に適した栽培暦や防除暦をもとに、最適な栽培計画を立てることが重要です。そのためには、地域で注意すべき病害虫をチェックし、効果的かつ省力的な防除のしくみをつくる必要があります。

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玉ねぎをはじめとしたネギ類には特有の病害虫が多く見られます。玉ねぎの防除対策は、病害虫の特徴をよく調べたうえで、地域の防除暦をもとに行うのが基本です。本記事では、暖地における秋播きの玉ねぎ栽培(露地)で注意すべき病害虫について、生育ステージに沿って解説します。

【一覧表】 玉ねぎの栽培暦・防除暦

玉ねぎ 生育 収穫 

Nagi / PIXTA(ピクスタ)

玉ねぎの栽培方法や病害対策などは、全国一の産地である北海道と、2位以下の上位を占める産地(主に西日本の暖地)とで異なります。寒冷地の北海道では春播き、それ以外の産地では秋播き栽培が一般的です。

秋播き玉ねぎの暖地における栽培暦と防除暦を見ると、防除のポイントとなる生育ステージは、大きく「播種前~苗床期」「定植期前後」「生育期~収穫前」の3つに分けられます。

玉ねぎの主な病害と害虫の多発時期

出典:グリーンジャパン「たまねぎ/秋まき春どり栽培(神奈川県の例)」宮城県「野菜・果樹・花き技術情報」所収「平成27年(2015年)3月31日機械化たまねぎ栽培暦」、佐賀県「タマネギべと病防除に関する共同研究の成果」 所収「タマネギべと病防除対策マニュアル」、JAちば「JAちばみどり 海上野菜組合産直部(長ねぎ/秋冬どり)」 「もっと安心農産物 ねぎ(秋冬どり)栽培暦(令和3年(2021年))」よりminorasu編集部作成

それぞれのタイミングで、発生が懸念される病害虫や雑草を適切に防除することが、効果的・効率的に収量・品質を確保することにつながります。次項からは、各ポイントについて解説します。

※なお、本記事で紹介する農薬は2024年1月時点で登録のあるものです。実際の使用に当たっては、使用時点の農薬登録情報で登録状況を必ず確認し、ラベルをよく読んで用量・用法を守ってお使いください。

農薬登録情報提供システム

玉ねぎの防除時期【1】播種前~苗床期

玉ねぎ 育苗 

モンキチ / PIXTA(ピクスタ)

玉ねぎの暖地における秋播き栽培では、8月下旬~11月頃が播種前から定植までの育苗期間となります。この時期に特に防除すべき病害虫は、苗立枯病、べと病、ネキリムシ類、タネバエ・タマネギバエです。

苗立枯病

玉ねぎの苗立枯病

玉ねぎの苗立枯病
画像提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

苗立枯病は、草木が立ったまま枯死する症状の総称です。発芽直後や育苗中、定植直後の苗に発生します。

茎の地際部がくびれ、白または褐色に変色して倒伏し、根も腐敗していくのが主な症状です。苗が小さいうちは枯死することもあります。

定植後に発症し軽症で済んだ場合でも、くびれた部分の道管部は損傷するため、生育に影響が及びます。

苗立枯病の病原は、罹病した植物の残さに生存しているフザリウム菌やフハイカビ(Pythium属菌)、リゾクトニア・ソラニ菌などの糸状菌です。

苗立枯病の防除で重要なことは、菌を持ち込まないことです。地床育苗の場合は、「バスアミド微粒剤」などで土壌消毒を実施し、セルトレイ育苗の場合は無病の床土を入手します。

どちらの場合も、使用する資材やハサミなどの農具、手袋や長靴も丁寧に洗浄・消毒することがポイントです。また、湿度が高いと菌が増殖しやすいので、灌水しすぎないように注意します。

発生してしまった場合は、「オーソサイド水和剤80」などの農薬を使用して、菌が広がるのを防ぎます。

べと病

玉ねぎ べと病 発病葉

画像提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

べと病には、一次感染と二次感染があります。

一次感染では、主に前作の罹病株が原因で病原菌の卵胞子が土壌中に残り、10~12月頃に苗床や本圃で次作の株に感染します(苗床感染、本圃感染)。べと病に感染した株は、越冬する間に菌が全身に回り、2~3月頃に発病します。発病した株は越年罹病株といいます。

二次感染では、越年罹病株が原因で3~5月頃に発症しますが、特に降雨の続く春に多く見られます。二次感染株では、葉・果梗に長卵形や楕円形の黄色がかった大型斑点がみられます。

べと病の病原菌は糸状菌で、気温15℃前後で発生しやすく、多湿な環境を好みます。病原菌は、罹病した植物残滓や土壌の中で10年以上も生存するうえ、胞子を飛ばして感染を広げます。

育苗期は予防的な防除が基本になります。地床育苗の場合は、太陽熱や土壌処理剤で苗床の消毒を行うと効果的です。

また、農薬の予防散布も効果があります。「ジマンダイセン水和剤」や「ジャストフィットフロアブル」などを散布し、被害を最小限に抑えてください。

ネキリムシ類

ネキリムシとは、タマナヤガやカブラヤガといった夜蛾の幼虫の総称です。冬場は幼虫の状態で土の中で過ごし、暖地では早春から活動を始めます。7、8月の真夏や12月〜3月の冬は活動が収まりますが、春から秋の間に年3~4回発生します。

昼間は地中に潜み、夜間に地際部の茎を食害します。苗が小さいと、食い切られて葉が倒れることもあります。

昼間は地中にいることから発見が困難で、農薬もかかりにくく、防除が難しい害虫です。

ネキリムシの防除には、床土やほ場の土壌くん蒸をする、「カヤククロールピクリン」などのくん蒸剤が有効です。また、発生初期で範囲が狭ければ、家庭菜園用の「ネキリベイト」「ガードベイトAA」などを手撒きすることも推奨しています。

タマネギバエ・タネバエ

タマネギバエやタネバエは、春から秋にかけて見られ、年に5~6回発生します。両種ともに夏眠するため真夏は発生が減りますが、播種後や定植期前後で幼虫による被害が増えます。

播種直後の種子や発芽直後苗が食害されると、腐敗・枯死することもあります。また、定植後に茎盤部を食害されると、生育が劣って外葉が枯れ、酷い場合には株ごと枯死します。

タマネギバエ・タネバエの成虫は飛び回るため、殺虫剤のみでの防除は困難です。未熟な堆肥は成虫を呼び寄せるため使用せず、完熟堆肥を使うことが重要です。

未分解の植物残渣も成虫を呼び寄せる原因となるため、前作の残渣をすき込む場合には定植までに残渣が分解されるよう十分な期間を置いてください。

また、土壌水分が多いと産卵数が増えて幼虫の生存率が上がるとされているため、土壌の排水をよくすることも大切です。

タマネギバエやタネバエに登録のある農薬は、育苗箱に土壌灌注する「カルホス乳剤」や、播種時または定植時に土壌混和する「ダイアジノン粒剤5」、希釈して散布する「ダイアジノン乳剤40」などがあります。

玉ねぎの防除時期【2】定植期前後

玉ねぎ 定植 高畝 

けいわい / PIXTA(ピクスタ)

11月頃の定植期前後に特に注意すべき病害中は、白色疫病、灰色腐敗病です。また、雑草の防除も実施します。

白色疫病

玉ねぎ 白色疫病 発病葉

画像提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

白色疫病は、排水不良のほ場で、10~11月頃と2〜4月頃にも発生します。主な症状は、まず葉にシミのような青白い病斑ができます。次第に病斑部から葉が折れ曲がったりよじれたりします。最終的に葉全体の色が抜け、枯死します。

白色疫病の病原菌は糸状菌の一種で、罹病した植物の残さとともに土中に何年もの間生存します。15~20℃の菌の発育に適した温度や、降雨など多湿の条件下で胞子が発芽し、感染が広がります。春先や晩秋の降雨が続くときに発生しやすくなります。

防除の基本は、病原菌を持ち込まないことや健全苗を使うことです。また、玉ねぎの白色疫病は、排水不良のほ場で発生することが多いので、多湿の状況を作らないように高畝にするといった対策をとります。

農薬による防除では、発生のなるべく初期に「ドイツボルドーAA」「リドミルゴールドMZ」「ジマンダイセン水和剤」などを散布します。「リドミルゴールドMZ」と「ジマンダイセン水和剤」はべと病と同時防除ができます。

灰色腐敗病

灰色腐敗病は、苗床期から収穫期、さらに貯蔵中にも発生します。主な症状は、りん茎の侵食や葉の黄変、軟化です。地際部から下のりん茎部は赤褐色に変わり、灰色で粉状のかびを生じます。症状が深刻化すると、黄変した葉が鮭肉色ないし白色に変わり、立ち枯れてしまいます。

灰色腐敗病の病原菌は糸状菌の一種で、貯蔵中の罹病した玉ねぎ、または放置されたくず玉などの残渣から胞子が飛散して、ほ場内の玉ねぎに感染します。菌は下位葉の葉鞘部から侵入し、地際部から下のりん茎部を侵します。

灰色腐敗病の防除の基本は、罹病した株を貯蔵庫に持ち込まないことや、くず玉をほ場に放置しないことです。可能であれば、貯蔵施設をほ場から離れたところに設置することも重要なポイントです。

また、多湿やほ場中に窒素を多用すると、病気の発生を助長することにつながるため、ほ場の排水をよくして、過剰に肥料を施用するのは控えてください。

農薬による防除は、定植時に「トップジンM水和剤」を苗に浸漬したり、発生ほ場に「ファンタジスタ顆粒水和剤」「ジマンダイセン水和剤」などを散布したりするのが有効です。「ジマンダイセン水和剤」は、べと病・白色疫病との同時防除ができます。

雑草

玉ねぎ 定植後 雑草

画像提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

雑草が多いと、玉ねぎの生育が悪くなったり、病害虫の発生を助長したりします。定植し苗の活着を確認したあと、雑草が生える前に発芽抑制剤を散布することがポイントです。雑草が生え始めたら、茎葉処理剤や発芽抑制剤を用いて防除します。

雑草が増えやすい春の時期にも、多発しないよう農薬を活用することで、広いほ場での除草の労力や時間が省力化できます。

玉ねぎの除草対策には、土壌処理剤として定植直後に「サターンバアロ粒剤」、その後の土壌処理には「ゴーゴーサン細粒剤F」を土壌全面に散布します。すでに発生した雑草には、茎葉処理剤として「アクチノールB乳剤」「ホーネスト乳剤」を散布します。

▼玉ねぎの雑草防除について、詳しくは以下の記事も参照してください。

玉ねぎの防除時期【3】生育期~収穫前

玉ねぎ 収穫 

モンキチ / PIXTA(ピクスタ)

定植後、冬を越して5月下旬〜6月に収穫するまでの生育期に防除をすべき病害虫は、べと病、軟腐病、アザミウマ類、アブラムシ類です。

べと病

玉ねぎ べと病 発病進展葉

画像提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

播種前~苗床期の項でも触れた通り、べと病は春と秋に多発します。基本的な症状や注意事項は同じですが、玉ねぎの肥大する春から収穫までの育成の時期は、べと病が多発します。

この時期も引き続き、べと病が好む湿度が高い環境を作らないように、雨除けや排水を心がけます。それとともに、被害を最小限に食い止めるため、発生が予想される場合は早めに農薬を使用してください。

農薬は、「ジマンダイセン水和剤」「ランマンフロアブル」「リドミルゴールドMZ」「プロポーズ顆粒水和剤」「ホライズンドライフロアブル」「ザンプロDMフロアブル」などが使用できます。

軟腐病

玉ねぎ 軟腐病 発病株

画像提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

軟腐病は、生育期の中でもりん茎が肥大する時期から発生が見られます。

軟腐病の症状は、下位葉の葉鞘部が灰白色や淡褐色に変色し、やがて軟化して倒れます。りん茎部も表層部から軟化し、次第に腐敗・消失します。軟腐病による腐敗は、独特の悪臭があることが特徴です。収穫時ではなく貯蔵中に発症して腐敗することもあります。

軟腐病は細菌によって引き起こされます。農作業や強風時に付いた傷口や害虫の食害痕から細菌が侵入し感染します。

感染を防ぐためには、害虫の防除を徹底して食害痕をつけないようにすること、台風など強風が予想されるときには軟腐病を予防するため事前に農薬を散布することがポイントです。

この時期に使用できる農薬には、「アグリマイシン-100」「ヨネポン水和剤」「カスミンボルドー」などがあります。

なお、「アグリマイシン-100」と「ヨネポン水和剤」は使用できる時期が収穫7日前までですが、「カスミンボルドー」は収穫14日前までとなっています。ラベルを読み使用時期を守ってお使いください。

アザミウマ類

玉ねぎ アザミウマ類 成虫と幼虫

画像提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

アザミウマ類は種類が多く、しかも多様な作物に発生する害虫ですが、玉ねぎ栽培で特に注意すべきはネギアザミウマです。暖地では3~4月頃から発生し始め、気温が高くなるにつれ増殖し、多発するのは5~6月です。

玉ねぎはネギアザミウマの食害を受けると、葉の色があせたり白くなったり、果面は茶褐色になります。また、ネギアザミウマはウイルス病である「タマネギえそ条斑病(IYSV)」を媒介することもあるので、非常に厄介です。

ネギアザミウマは、成虫・幼虫ともに1mmほどの小さな害虫で、葉から吸汁します。小さいため見つけにくく、加えて生態サイクルの短さから増殖率が高いため、防除がとても難しい害虫です。

防除するには、発生し始める3~4月に注意深く観察し、発生を確認したら速やかに「グレーシア乳剤」「プレオフロアブル」などを散布します。多発する5~6月までに密度を下げておくことが重要です。

▼ネギアザミウマの防除について、詳しくは以下の記事も参照してください。

アブラムシ類

玉ねぎ ネギアブラムシの寄生株

玉ねぎ ネギアブラムシの寄生株
画像提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

アブラムシ類は種類が多く、ほとんどの作物に発生する害虫で、玉ねぎも例外ではありません。アブラムシ類の中でも、主に玉ねぎに付くものは黒っぽい体をしている「ネギアブラムシ」です。

ネギアブラムシはやや冷涼で乾燥した環境を好み、5~6月と10~11月に多発します。ネギアブラムシの食害を受けた玉ねぎは、吸汁によって養分が奪われて生育不良に陥ります。葉が黄変したり、萎縮したりするだけでなく、りん茎の肥大が遅れるため、収量減にもつながります。

ネギアブラムシは増殖力が極めて強く、短期間で増殖してしまうため、耕種的防除を行って発生しにくい環境に整えることが重要です。

耕種的防除には、光を避けるアブラムシ類の性質を利用してシルバーマルチで覆ったり、アブラムシ類を増殖する雑草を除草したりする方法などがあります。

また耕種的防除と併せて、発生初期に「ダイアジノン乳剤40」「スミチオン乳剤」などを散布するとアブラムシ類の密度を下げられます。これらはいずれもアザミウマ類と同時防除ができます。

▼ネギアブラムシの防除について、詳しくは以下の記事も参照してください。

玉ねぎは比較的病害虫に強く育てやすい作物とされていますが、ネギ類特有の病害虫も多く、栽培暦に沿った体系的な防除が欠かせません。多収をめざすなら、栽培に取り組む前に地域の病害虫の発生状況を調べ、効果的に防除していくことがポイントです。

▼なお、玉ねぎの病害虫防除については、こちらの記事も参照してください。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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