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ネギのスリップス対策! ネギアザミウマの生態&防除方法を解説

ネギのスリップス対策! ネギアザミウマの生態&防除方法を解説
出典 : koro / PIXTA(ピクスタ)

スリップス(アザミウマ類)は、ネギやトマトなど多くの作物に発生し、食害を与える害虫です。ネギ栽培では、ネギアザミウマが問題になります。この記事では、ネギアザミウマの生態や発生条件、時期、防除方法について解説します。

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ネギ栽培で注意すべきスリップス(アザミウマ類)は、ネギアザミウマです。ネギアザミウマによる被害としては、食害痕による商品価値の低下や、ウイルス感染のリスクなどが挙げられます。一度増殖すると防除が難しいため、初期から防除対策を徹底することが大切です。

短い生態サイクルで増殖するネギアザミウマ

ネギアサミウマ成虫(体長1mm)

ネギアサミウマ成虫(体長1mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

ネギアザミウマは、アザミウマ目アザミウマ科に属し、ネギや玉ねぎなどのユリ科をはじめ、さまざまな作物に寄生する吸汁性の害虫です。アザミウマ類の英語名は「Thrips」であり、「スリップス」とも呼ばれます。

ネギアザミウマは、防除が難しいといわれる害虫です。その理由として、体長1~2mm程度と小さいため見つけにくく、農薬を散布しにくい場所に潜むことや、増殖率が高いことなどが挙げられます。特に生態サイクルが短く、増殖しやすいことには注意が必要です。

ネギアザミウマからネギを守るためには、まずはネギアザミウマの生態サイクルと発生しやすい条件、多発時期を理解しましょう。

ネギアザミウマの生態サイクル

ネギアザミウマは、雌1匹当たり、300〜500個ほどの卵を、葉や幼果などの組織内に1個ずつ産みつけます。

幼虫は、花に寄生して花粉をえさに成長し、蛹になる前に地表に移動して、土の中で蛹に変化します。やがて成虫になると、再び花に寄生します。成虫の寿命は50日前後です。

卵から成虫までの1サイクルに要する期間は10〜20日程度で、生態サイクルが非常に短いという特徴があります。

ネギアザミウマが発生しやすい条件と多発時期

ネギアザミウマは高温を好み、20〜25℃の環境下で増殖します。特に高温乾燥下で発生しやすく、雨が少ない夏や空梅雨では急激に増殖するため注意が必要です。ネギの葉が折れ曲がっている部分や、葉の基部など、農薬を散布しにくい場所に多く入り込みます。

寒冷地以外では3~4月頃から発生し始め、気温が高くなるにつれ増殖し、秋口まで発生し続けます。特に多発する時期は5~6月です。

ネギアザミウマの被害

ネギアサミウマ 被害葉(かすり状の食害痕)

ネギアサミウマ 被害葉(かすり状の食害痕)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

ネギアザミウマは、蛹の時期には加害せず、幼虫と成虫の時期に葉に寄生して加害します。葉の表皮を舐食して吸汁するので、 食害痕はかすり状の小白斑となります。

ネギの中でも、葉の部分を出荷する葉ネギの場合は、加害を受けると等級が下がり、商品価値が落ちる可能性があります。一方、葉を刈り取って出荷する軟白ネギ(いわゆる長ネギ)の場合は、新葉への被害が少なければ出荷への影響はそこまで大きくありません。

食害が進むと葉が全体的に白くなり、生育の悪化から枯れてしまうこともあります。

また、ネギアザミウマはIYSV(アイリス黄斑ウイルス)を媒介する可能性があるため、注意が必要です。ウイルスに感染したネギは、えそ条斑病を発症します。

えそ条斑病が進行すると大型病斑が生じたり、葉がねじれて枯れたりします。一度ウイルスを持ったネギアザミウマは、死ぬまでウイルスを保持し続けます。

このように、ネギアザミウマの食害だけではなく、ネギアザミウマが媒介するウイルスに感染するリスクがあることにも注意が必要です。

ネギアザミウマの農薬防除|ネギハモグリバエとの同時防除が効率的

ネギアザミウマの防除の基本は、農薬のローテーション散布です。

農薬の選択に当たっては、同時期に多発するネギハモグリバエの同時防除や、薬剤抵抗性についても考慮しましょう。

なお、この記事で紹介する農薬は、2022年9月5日現在登録があるものです。実際の使用に当たってはラベルをよく読み、用法・用量を守りましょう。

また、地域によっては農薬使用の決まりが設けられている場合もあるため、事前に確認しておいてください。農薬の登録は、以下のサイトで検索できます。

農薬登録情報提供システム

ネギアザミウマとネギハモグリバエの多発時期は重なっている

ネギハモグリバエ老齢幼虫(体長4mm)

ネギハモグリバエ老齢幼虫(体長4mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

ネギアザミウマを防除する際は、ネギハモグリバエも同時に防除することが効率的です。

ネギハモグリバエはネギ属の作物に寄生し、春と秋に多発します。寄生されると、葉の奇形や発育遅延、枯死といった被害を受けるため、ネギアザミウマと同様に注意が必要な害虫です。

ネギハモグリバエは、20~25℃の環境下で発生しやすく、ネギアザミウマの急な増殖は、20〜25℃での高温乾燥下で起きやすいため、発生時期がほぼ重なっています。

▼ネギハモグリバエの防除については、以下の記事もご覧ください。

両方に登録がある農薬による防除が効果的

前述のとおり、ネギアザミウマとネギハモグリバエの多発時期はほぼ重なっています。そのため、両方に登録がある農薬による防除が効果的です。以下に時期別に使える農薬の例を挙げます。

農薬の散布には、害虫の発生が目立つ場合に散布するパターンと、定植時や土寄せ時に株元散布するパターンがあります。アザミウマ類とネギハモグリバエ類の両方に登録がある農薬の例を整理すると、以下のとおりです。

苗箱潅注:
スタークル顆粒水溶剤、アルバリン顆粒水溶剤など

土寄せ~追肥時の株元散布:
ベストガード粒剤、ダントツ粒剤、スタークル粒剤など

生育期の散布:
ディアナSC、ベネビアOD、グレーシア乳剤など

薬剤抵抗性を考えてローテーション散布を

ネギ 農薬散布

akiyoko / PIXTA(ピクスタ)

ネギアザミウマとネギハモグリバエは、どちらも各種農薬に対する薬剤抵抗性が問題になっています。同じ作用機構の農薬を使用し続けることで、害虫が薬剤抵抗性を持つようになり、防除できなくなってしまうのです。

そのため、異なる作用機構の農薬をローテーション散布することが重要です。鳥取県の調査では、ローテーション散布により、既存農薬に比べて同等以上の防除効果を示した、という結果が出ています。

また、同試験の報告では、ローテーション例も挙げているので参考にしてください。

出典:鳥取県「目で見る研究成果」 所収「白ネギ栽培におけるネギアザミウマに対するローテーション防除の効果 (環境研究室)」

薬剤抵抗性の発達をできる限り抑えるために

前述のとおり、農薬を使用することで薬剤抵抗性が発達し、既存の農薬が効きにくくなるリスクがあります。農薬以外の防除方法を取り入れ、農薬の使用回数を減らすことも重要です。

物理的防除をしっかりと

物理的防除をしっかり行って、アザミウマ類の侵入・発生を抑制することで、農薬の使用回数を減らせれば、薬剤抵抗性の発達を遅らせることにつながります。

ほ場周辺の除草を徹底する

ネギのほ場周辺の雑草は、ネギアザミウマにとって格好の越冬場所です。除草を徹底し、ほ場に入り込まないよう工夫しましょう。

青色や黄色のものを置かない・光反射シートマルチの使用

ネギアザミウマは青色や黄色に誘引されやすいという性質があります。そのため、ほ場周辺に青色や黄色のものを置かないようにすることも大切です。また、光反射シートマルチも、ネギアザミウマの侵入を抑制する効果があります。

残さ処理を徹底する

ネギ収穫あ業 ネギの残さ

川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)

収穫後の残さは放置せず、適切に処理しましょう。放置すると、そこが再びネギアザミウマの発生源となり、周囲に分散してしまいます。

施設栽培の場合、開口部に赤色ネットを設置する

施設栽培の場合、防虫ネットを張るだけでは、体長の小さいアザミウマ類の侵入を防ぎきれないという難点があります。

そこで、ハウスの開口部に、赤色ネットを設置することが効果的です。アザミウマには、620nm以上の波長の赤色を認識できないという性質があるため、赤色ネットが真っ暗に見え、侵入を防ぐ効果が期待できます。

近紫外線を防ぐフィルムと防虫ネットの併用(ワケネギ施設栽培の場合)

東京都農林総合研究センターの試験では、ワケネギの施設栽培において、近紫外線除去フィルムと防虫ネットの併用によって、ネギアザミウマの発生が抑えられることが報告されています。

出典:東京都農林総合研究センター「物理的防除資材によるワケネギのネギアザミウマとネギハモグリバエの防除(農研機構 中日本農業研究センター「平成19年度 関東東海北陸農業 研究成果情報」掲載)

このように、農薬の使用だけではなく、ネギアザミウマの侵入や発生を抑制するさまざまな物理的防除も考えられます。ぜひ取り入れてみてください。

施設栽培では、生物農薬の活用も

アザミウマ類にとっての天敵生物は、「タイリクヒメハナカメムシ」や「リモニカスカブリダニ」などですが、施設栽培では、これらを製剤化した生物農薬と化学農薬を併用することで、薬剤抵抗性を抑えながら防除できます。

タイリクヒメハナカメムシ剤では「タイリク」「リクトップ」「オリスターA」など、リモニカスカブリダニ剤では「リモニカ」があります。

ローテーション散布に生物農薬を組み入れる場合は、天敵に影響のない農薬を選択する必要があります。

※生物農薬は、農薬として登録されており、通常の農薬同様、ラベルをよく読み、用法・用量を守って使用してください。

青ネギの施設栽培

akitaso / PIXTA(ピクスタ)

この記事では、ネギ栽培で注意すべきスリップス(アザミウマ類)として、ネギアザミウマの生態サイクルや防除方法などを解説しました。

ネギアザミウマは、体長が小さく増殖しやすいという特徴があり、一度増殖すると完全に防除するのは困難です。そのため、初期から防除対策を徹底しましょう。

防除方法としては農薬の使用が考えられますが、薬剤抵抗性の発生リスクを抑えるためにはローテーション散布や物理的防除、生物農薬の使用が有効です。この記事を参考に、ネギのスリップス(アザミウマ類)対策を徹底してください。

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小谷美乃里

小谷美乃里

ビジネス、介護、受験など多分野の記事執筆に携わるwebライター。これまで10以上のメディアで記事執筆や校正に携わり、現在は毎月20本以上を執筆中。大学時代に農業経営を学んだ経験も持つ。趣味は、ウォーキングと日本の豊かな自然を写真に収めること。美しい海と緑のためなら何万歩でも歩けるほど自然が好き。

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