【ネギの育苗マニュアル】種まき時期とセルトレイ管理法、注目の新技術も

ネギの育苗は「セルトレイ育苗」と「チェーンポット育苗」が主流です。本記事では、2種類の育苗方法のしくみや播種・定植の時期、栽培管理について詳しく解説します。併せて最新の育苗技術なども紹介しているので、本記事を参考に導入を検討してください。
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目次
【ネギ育苗の基本】種まき時期と2つの育苗方法

riri / PIXTA(ピクスタ)
ネギの播種は春と秋の2回に分けられます。春播きは3月下旬播種を行い、5月上旬にかけて定植します。追加播種を行う場合は、5月中旬まで適宜播種が可能です。秋播きは10月中旬に播種を行い、12月上旬に定植します。発芽適温は15〜25℃となるため、播種後は覆土と灌水を適切に行いながら温度管理を徹底してください。
育苗方法は主に「セルトレイ育苗」と「チェーンポット育苗」の2種類です。
セルトレイ育苗は均一な培土管理と高い発芽率が特徴で、発芽〜定植時の生育ムラを抑えたい場合に有効です。一方、チェーンポット育苗はトレイ代や資材コストを抑えつつ、機械移植にも対応しやすい省力的な方法として大規模栽培に適しています。
育苗方法を検討する際は、栽培規模や利用可能な資材・機械、予算などを踏まえて選択することが大切です。
ネギの「セルトレイ育苗」とは? 大量の苗を効率的に生産・移植

川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
YANMAR Japan YouTube公式チャンネル「ヤンマー全自動ねぎ移植機PW10,N作業」
「セルトレイ育苗」は、セルトレイを使用することで、播種から移植まで全作業を機械化できる効率的な育苗方法です。自動播種機による均一な播種から覆土・灌水、育苗期間を経てから、自動移植機にセルトレイごとセットすることで、播種から定植までの一連作業をほぼ全自動化できます。
ただし、必ずしも全機械化する必要はなく、小規模ほ場などではセルトレイへの播種や覆土を手作業で実施し、そのまま人手で定植することも可能です。
セルトレイ育苗のメリットとしては、均一な培土管理と高い発芽率により、苗の生育ムラを抑えられる点が挙げられます。また、トレイが軽量なため、持ち運びや箱詰め作業の負担も軽減されます。
自動播種機や自動移植機を用いれば、作業を大幅に省力化でき、作業スピードを飛躍的に向上させることが可能です。人手による定植でも、トレイの規格化された穴と播種量のおかげで、一定レベルの品質を維持できます。定植後の活着率も高いため、その後の生育も安定しやすく、収量の向上につなげやすい育苗方法といえます。
セルトレイ育苗に必要な資材・培土
セルトレイ育苗の培土には、市販されているネギ用培土を使用し、覆土材としては「バーミキュライト」、もしくは培土と同様のものを使用してください。育苗に必要な資材としては、セルトレイ、水稲兼用箱、種子、培土、覆土材が挙げられます。
また全自動の移植機を使用する場合、セルトレイは全自動移植機用の農水省規格品を使用することが重要です。10a当たり1万2,000株とした場合の必要量は、セルトレイ(200穴)60枚、水稲兼用箱60枚、種子3万6,000粒、培土(30L入り)6袋、覆土材(60L入り)0.5袋となっています。
そのほかの器具としては穴開けローラー(プレス版でも可)、ハンドシーダー(ポットル)、ブラシ、セルトレイ播種機(手動、オートどちらでも可)などを用意しましょう。
出典:井関農機株式会社「育苗資料」所収 「全自動ねぎ移植機用 育苗の手引き」
ネギの「チェーンポット育苗」とは? 低コスト・省力的な作業を実現

annko/ PIXTA(ピクスタ)
「チェーンポット」とは、日本甜菜製糖株式会社から発売されている紙でできた育苗用ポット(ペーパーポット)のことです。ポットの1つ1つが連結しており、1度に連続して植えつけることが可能です。
このチェーンポットは、ネギの苗を簡易的に移植する機器「ひっぱりくん」と組み合わせて使用できます。「ひっぱりくん」は苗を機器に乗せ、人の手で引っ張るだけで定植作業ができます。苗取りや選別が不要となるため、ハイスピードかつ省力的に行える点が魅力です。
また全自動の移植機を導入するよりは低コストであるため、あまり費用を割けない方におすすめといえるでしょう。
チェーンポット育苗に必要な資材・培土
チェーンポット育苗の培土としては、日本甜菜製糖株式会社の「ニッテン葱培土」や「ニッテンスーパー培土」など、ペーパーポットやチェーンポット専用のものを使用するのがおすすめです。特にニッテン葱培土は、ネギや葉ネギなどのために開発されたものであり、通気性や透水性、保水性、保肥力に優れ、葉部と根部ともに充実した苗になります。
育苗に必要な資材としてはチェーンポット、下敷紙、水稲育苗箱、培土、覆土材、種子が挙げられます。必要な量は、チェーンポットの規格によって異なります。例えば、口径3cm×高さ3cm(CP303)であれば、10a当たり冊数75~90冊、下敷紙75~90枚、水稲育苗箱75~90箱、ニッテン葱培土13~14袋、ニッテン覆土材3~3.5袋、種子6万~7万粒を準備してください。
そのほかの器具として、展開板や展開串、土詰ブラシ、ポットシーダー(播種器)が挙げられます。また、必要に応じてポットプレートなども用意しましょう。
出典:日本甜菜製糖株式会社 紙筒事業部「カタログ」所収「ネギ」
具体的なやり方は? ネギの育苗手順と、失敗しない栽培管理のポイント
準備が完了したあとは、ネギの育苗手順を解説します。本記事で以下のような4工程に分け、管理のポイントなどと併せて解説します。
- 温度と環境の準備
- 育苗箱と培土の準備
- 播種から覆土
- 鎮圧から灌水
(1)温度と環境を整える
ネギの発芽適温は15~25℃で、30℃以上の高温になると発芽不良を起こすため注意が必要です。外気温が25℃まではハウス内で発芽させ、15℃以下の場合はハウスを閉め、底面にパイプなどを敷いた上にシルバーシートなどをかけて発芽させましょう。
外気温が25℃以上の場合は、納屋の日陰など、風通しのよい場所にトレイを最大10枚程度重ね、不織布などをかけて発芽させます。ネギは乾燥に比較的強い一方で加湿には弱いため、湿度が上がり過ぎないように注意してください。土壌の適応性は広く、pH5.7~7.4であれば正常に生育します。
(2)育苗箱・培土の準備

YUMIK/ PIXTA(ピクスタ)
まず育苗箱にセルトレイもしくはチェーンポットをセットします。育苗箱は、セルトレイの穴などに箱穴が1個以上合うものを使用します。
次に培土の準備です。使用前に培土を手で握り、培土が固まって水が落ちない程度の水分量になっているかを確認します。
もしも水分が足りないようであれば追加し、全体をしっかり攪拌してから使用しましょう。これによって灌水時に水が均等に染み込み、発育や発芽のムラをなくせます。土詰めのあとは、平らな板などを使用して均一にならします。
その後、5cm程度の高さからトレイを2、3回落として床土を締めます。もしも凹んだ箇所がある場合は、さらに土を追加して均一にしてください。最後に、セルトレイやチェーンポットの底から、水が染み出るほどしっかり灌水します。灌水量の目安は、1冊約1,000cc程度です。
(3)播種~覆土の実施
土詰めが完了したあとは、穴開けローラーなどで穴を開けたあとにハンドシーダー、ポットシーダーなどを使って、L~LLサイズのコート種子を2~3粒ずつ播種します。また土詰機、真空播種機、土詰播種一貫機、チェーンポット小型電動播種機などもありますので、栽培の規模や育苗方法に応じて活用すると、さらなる省力化を行えるでしょう。
播種後はバーミキュライトなどの覆土材を用い、種子が完全に見えなくなるまで、しっかり覆土(目安は3mm程度)を行います。前述したように、培土を覆土材としても問題ありません。
また逆に覆土量が多く、トレイやポットのふちが見えない状態では、根渡りの原因になるため注意が必要です。そのため覆土を行ったあとは、トレイが見えるまですり切りを行いましょう。
日本甜菜製糖株式会社 紙筒事業部 東京営業所 YouTube公式チャンネル「土詰播種一貫機NFS」
(4)鎮圧~灌水、発芽管理を行う
覆土後は鎮圧を行い、その後不織布などでべたがけした上から再度灌水を行ってください。覆土後の灌水は、おおよそ100~200ccを目安に、覆土がなじむ程度に行います。
発芽までは20℃前後を維持し、発芽したならばべたがけ資材を取り除いて15~20℃に保ちます。セルトレイは、根鉢形成をよくするために育苗ベンチなどに置いて通気性を保ちましょう。育苗期間は約60日前後、灌水は朝に実施し、育苗後半に入ってからは灌水量を減らします。ただし、定植前日は十分灌水することが重要です。

gomasio / PIXTA(ピクスタ)
初期生育に好影響! ネギ苗をより大きく、丈夫に栽培するコツ
ネギの苗をより大きく、より丈夫に仕立てられるよう、初期生育に活用できる栽培のコツについて解説します。前述した葉切りのほか、生育を促す「微生物資材」についても併せて紹介します。
複数回の「葉切り(剪葉)」で生育を揃え、倒伏も防ぐ

gomasio / PIXTA(ピクスタ)
葉切り(剪葉)とは、苗の育成を揃え、倒伏を防止するために葉を均一に切りそろえることをいいます。倒伏した苗や曲がった苗を使用することにより、移植精度が低下するのを防ぐとともに、太くて丈夫な苗をつくり出せることがメリットです。
葉切り機やバリカンなどを使用することで省力化も可能です。1回目は15cm程度になったタイミングで10cmにカット、2回目以降は20cm程度になったら10~15cmにカット、これを3~4回程度繰り返し、移植前にも同様に切り揃えます。葉切りが遅れて倒伏すると、苗が曲がって機械移植できなくなるため注意しましょう。
生育を促す「微生物資材」を定植前に散布する
微生物資材とは、有益な微生物を活用した資材のことです。ネギ栽培では根に共生する「アーバスキュラー菌根菌(AM菌)」を活用した「育苗用G2」があります。「育苗用G2」は、定植直前の苗に散布するだけで菌が根に共生し、ネギの生育を促進できます。
菌根菌がネギにリン酸を含む養水分を供給します。養水分の吸収領域が拡大することで、生育スピードが上がり、生産性や耐乾燥性、耐病性が向上することが魅力です。これにより、「サイズがLからLLになった」という事例も存在します。
出典:株式会社 松本微生物研究所「育苗用G2」
▼アーバスキュラー菌根菌(AM菌)についてはこちらの記事もご覧ください。
新たに生まれた、“白ネギの大苗育苗技術”も要チェック
現在、白ネギ栽培では育苗ポットによる育苗が主流であるものの、苗の小ささから定植初期の生育が不安定であることや、「雑草対策に負担がかかる」、「収穫までの期間が長い」といったデメリットが存在します。
しかし、近年このデメリットを解消する「白ネギの大苗育苗技術」の開発が進められています。最後にこの技術について詳しく紹介します。
2017年に大分県で開発された「ベルトプランター大苗育苗技術」は、育苗した小苗を専用の育苗容器「ベルトプランナー」に仮植して二次成長させることで、移植機で定植が可能な大苗に育苗する技術です。この技術により、従来の小苗に比べて、収穫までの期間が短縮されるなどの効果が認められています。
さらに近年では、ベルトプランナーのような専用資材を必要としない「簡易型大苗育苗技術」も開発されています。これは、チェーンポットに播種した苗を慣行の管理方法で育苗したあと、1枚の育苗箱から2枚の育苗箱に展開して二次育苗を行う方法です。
2021年の研究報告によると、簡易型大苗育苗技術では慣行の1.5倍の太さまでの育苗が可能であり、慣行苗よりも生育がよくL規格以上の太いネギの割合が増え、収量が多くなることがわかっています。今後は、苗の展開作業の簡素化・省力化が課題となっています。
出典:大分県農林水産ポータルサイト「研究Now (一般の方向け成果情報)」所収「新開発!ベルトプランター大苗育苗技術」,「白ねぎの生育を安定させる大苗育苗技術」
農林水産省「協同農業普及事業の成果事例(令和元年度)」所収「九州・沖縄ブロック スーパー大苗定植による夏越し作型安定化技術」
本記事では主なネギの育苗方法として「セルトレイ育苗」と「チェーンポット育苗」について、必要な準備や作業手順、コツなどについて解説しました。
より品質の高いネギを収穫するためには、最新の情報を含めて育苗技術を学び、実施することが重要です。紹介した「白ネギの大苗育苗技術」のように、新しい技術も開発されているため、ぜひ本記事を参考にして、白ネギの品質や収量アップもめざしてみてはいかがでしょうか。
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百田胡桃
県立農業高校を卒業し、国立大学農学部で畜産系の学科に進学。研究していた内容は食品加工だが、在学中に農業全般に関する知識を学び、実際に作物を育て収穫した経験もある。その後食品系の会社に就職したが夫の転勤に伴いライターに転身。現在は農業に限らず、幅広いジャンルで執筆活動を行っている。