【ネギの育苗マニュアル】失敗しない育苗管理とは? 農家必見の新技術情報も
ネギを栽培する上で、最初の重要ポイントが育苗管理です。そこで本記事では、ネギを栽培する農家に向けて、主なネギの育苗の方法である「チェーンポット育苗」と「セルトレイ育苗」の詳しい方法や収量アップのコツについて解説します。
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目次
ネギの育苗の主流には「チェーンポット育苗」と「セルトレイ育苗」があります。そこで本記事では、この2種類の作業手順や栽培管理の方法について詳しく解説します。併せて最新の育苗技術なども紹介しているので、本記事を参考にして、導入を検討してください。
大規模栽培に対応するネギの育苗方法と、それぞれのメリット
riri / PIXTA(ピクスタ)
ネギの育苗方法には、主に「チェーンポット育苗」と「セルトレイ育苗」の2種類があります。ここでは、それぞれの方法の概要やメリットを解説します。栽培規模や所持農機、予算などを加味した上で、どちらの方法を選ぶかを検討しましょう。
低コストで省力的な移植作業を実現する「チェーンポット育苗」
annko/ PIXTA(ピクスタ)
「チェーンポット」とは、日本甜菜製糖株式会社から発売されている紙でできた育苗用ポット(ペーパーポット)のことです。ポットの一つひとつが連結しており、1度に連続して植えつけることが可能です。
このチェーンポットは、ネギの苗を簡易的に移植する機器「ひっぱりくん」と組み合わせて使用できます。「ひっぱりくん」は苗を機器に乗せ、人の手で引っ張るだけで定植作業ができます。苗取りや選別が不要となるため、ハイスピードかつ省力的に行える点が魅力です。
また全自動の移植機を導入するよりは低コストであるため、あまり費用を割けない方におすすめといえるでしょう。
大量の苗をより効率的に生産・移植できる「セルトレイ育苗」
「セルトレイ育苗」は、セルトレイで育苗した苗を全自動ネギ移植機にセットして移植する方法です。セルトレイは規格に合ったものを使用する必要があるものの、より良質な苗を大量に生産・移植できます。
また、セルトレイ育苗は軽くて持ち運びも楽であるため、作業者の負担を軽減することができます。移植後の活着もよいため、生長も期待できるでしょう。
YANMAR Japan Youtube公式チャンネル「ヤンマー全自動ねぎ移植機PW10,N作業」
【育苗方法別】 必要な資材や適した培土の例
「チェーンポット育苗」や「セルトレイ育苗」を行う方法について詳しく解説します。最初に紹介するのは、それぞれの育苗方法で必要となる資材や適した培土の例についてです。
チェーンポット育苗に必要な資材・培土
チェーンポット育苗の培土としては、日本甜菜製糖株式会社の「ニッテン葱培土」や「ニッテンスーパー培土」など、ペーパーポットやチェーンポット専用のものを使用するのがおすすめです。特にニッテン葱培土は、ネギや葉ネギなどのために開発されたものであり、通気性や透水性、保水性、保肥力に優れ、葉部と根部ともに充実した苗になります。
育苗に必要な資材としてはチェーンポット、下敷紙、水稲育苗箱、培土、覆土材、種子が挙げられます。必要な量は、チェーンポットの規格によって異なります。例えば、口径3cm×高さ3cm(CP303)であれば、10a当たり冊数75~90冊、下敷紙75~90枚、水稲育苗箱75~90箱、ニッテン葱培土13~14袋、ニッテン覆土材3~3.5袋、種子6万~7万粒を準備してください。
そのほかの器具として、展開板や展開串、土詰ブラシ、ポットシーダー(播種器)が挙げられます。また、必要に応じてポットプレートなども用意しましょう。
日本甜菜製糖株式会社 紙筒事業部 Youtube公式チャンネル「チェーンポット簡易移植器、ひっぱりくんによる白葱栽培」
セルトレイ育苗に必要な資材・培土
セルトレイ育苗の培土には、市販されているネギ用培土を使用し、覆土材としては「バーミキュライト」、もしくは培土と同様のものを使用してください。育苗に必要な資材としては、セルトレイ、水稲兼用箱、種子、培土、覆土材が挙げられます。
また全自動の移植機を使用する場合、セルトレイは全自動移植機用の農水省規格品を使用することが重要です。10a当たり1万2,000株とした場合の必要量は、セルトレイ(200穴)60枚、水稲兼用箱60枚、種子3万6,000粒、培土(30L入り)6袋、覆土材(60L入り)0.5袋となっています。
そのほかの器具としては穴開けローラー(プレス版でも可)、ハンドシーダー(ポットル)、ブラシ、セルトレイ播種機(手動、オートどちらでも可)などを用意しましょう。
出典:井関農機株式会社「育苗資料」のページ所収「全自動ねぎ移植機用 育苗の手引き」
具体的なやり方は? ネギの育苗手順と、失敗しない栽培管理のポイント
準備が完了したあとは、ネギの育苗手順を解説します。本記事で以下のようにの4工程に分け、管理のポイントなどと併せて解説します。
1.温度と環境の準備
2.育苗箱と培土の準備
3.播種から覆土
4.鎮圧から灌水
(1)温度と環境を整える
ネギの発芽適温は15~25℃で、30℃以上の高温になると発芽不良を起こすため注意が必要です。外気温が25℃まではハウス内で発芽させ、15℃以下の場合はハウスを閉め、底面にパイプなどを敷いた上にシルバーシートなどをかけて発芽させましょう。
外気温が25℃以上の場合は、納屋の日陰など、風通しのよい場所にトレイを最大10枚程度重ね、不織布などをかけて発芽させます。ネギは乾燥に比較的強い一方で加湿には弱いため、湿度が上がり過ぎないように注意してください。土壌の適応性は広く、pH5.7~7.4であれば正常に生育します。
(2)育苗箱・培土の準備
YUMIK/ PIXTA(ピクスタ)
まず育苗箱にセルトレイもしくはチェーンポットをセットします。育苗箱は、セルトレイの穴などに箱穴が1個以上合うものを使用します。
次に培土の準備です。使用前に培土を手で握り、培土が固まって水が落ちない程度の水分量になっているかを確認します。
もしも水分が足りないようであれば追加し、全体をしっかり攪拌してから使用しましょう。これによって灌水時に水が均等に染み込み、発育や発芽のムラをなくせます。土詰めのあとは、平らな板などを使用して均一にならします。
その後、5cm程度の高さからトレイを2、3回落として床土を締めます。もしも凹んだ箇所がある場合は、さらに土を追加して均一にしてください。最後に、セルトレイやチェーンポットの底から、水が染み出るほどしっかり灌水します。灌水量の目安は、1冊約1,000cc程度です。
(3)播種~覆土の実施
土詰めが完了したあとは、穴開けローラーなどで穴を開けたあとにハンドシーダー、ポットシーダーなどを使って、L~LLサイズのコート種子を2~3粒ずつ播種します。また土詰機、真空播種機、土詰播種一貫機、チェーンポット小型電動播種機などもありますので、栽培の規模や育苗方法に応じて活用すると、さらなる省力化を行えるでしょう。
播種後はバーミキュライトなどの覆土材を用い、種子が完全に見えなくなるまで、しっかり覆土(目安は3mm程度)を行います。前述したように、培土を覆土材としても問題ありません。
また逆に覆土量が多く、トレイやポットのふちが見えない状態では、根渡りの原因になるため注意が必要です。そのため覆土を行ったあとは、トレイが見えるまですり切りを行いましょう。
日本甜菜製糖株式会社 紙筒事業部 東京営業所 Youtube公式チャンネル「土詰播種一貫機NFS」
(4)鎮圧~灌水、発芽管理を行う
覆土後は鎮圧を行い、その後不織布などでべたがけした上から再度灌水を行ってください。覆土後の灌水は、おおよそ100~200ccを目安に、覆土がなじむ程度に行います。
発芽までは20℃前後を維持し、発芽したならばべたがけ資材を取り除いて15~20℃に保ちます。セルトレイは、根鉢形成をよくするために育苗ベンチなどに置いて通気性を保ちましょう。育苗期間は約60日前後、灌水は朝に実施し、育苗後半に入ってからは灌水量を減らします。ただし、定植前日は十分灌水することが重要です。
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初期生育に好影響! ネギ苗をより大きく、丈夫に栽培するコツ
ネギの苗をより大きく、より丈夫に仕立てられるよう、初期生育に活用できる栽培のコツについて解説します。前述した葉切りのほか、生育を促す「微生物資材」についても併せて紹介します。
複数回の「葉切り(剪葉)」で生育を揃え、倒伏も防ぐ
gomasio / PIXTA(ピクスタ)
葉切り(剪葉)とは、苗の育成を揃え、倒伏を防止するために葉を均一に切りそろえることをいいます。倒伏した苗や曲がった苗を使用することにより、移植精度が低下するのを防ぐとともに、太くて丈夫な苗をつくり出せることがメリットです。
葉切り機やバリカンなどを使用することで省力化も可能です。1回目は15cm程度になったタイミングで10cmにカット、2回目以降は20cm程度になったら10~15cmにカット、これを3~4回程度繰り返し、移植前にも同様に切り揃えます。葉切りが遅れて倒伏すると、苗が曲がって機械移植できなくなるため注意しましょう。
生育を促す「微生物資材」を定植前に散布する
微生物資材とは、有益な微生物を活用した資材のことです。ネギ栽培では根に共生する「アーバスキュラー菌根菌(AM菌)」を活用した「育苗用G2」があります。「育苗用G2」は、定植直前の苗に散布するだけで菌が根に共生し、ネギの生育を促進できます。
菌根菌がネギにリン酸を含む養水分を供給します。養水分の吸収領域が拡大することで、生育スピードが上がり、生産性や耐乾燥性、耐病性が向上することが魅力です。これにより、「サイズがLからLLになった」という事例も存在します。
▼アーバスキュラー菌根菌(AM菌)についてはこちらの記事もご覧ください。
新たに生まれた、“白ネギの大苗育苗技術”も要チェック
現在、白ネギ栽培では育苗ポットによる育苗が主流であるものの、苗の小ささから定植初期の生育が不安定であることや、「雑草対策に負担がかかる」、「収穫までの期間が長い」といったデメリットが存在します。
しかし、近年このデメリットを解消する「白ネギの大苗育苗技術」の開発が進められています。最後にこの技術について詳しく紹介します。
この項の出典:大分県 農林水産研究指導センター「白ネギの新方式大苗育苗技術」
苗の間隔を広げ、より太く大きい苗の育苗を可能にする最新手法
大分県で開発が進められている「ベルトプランター大苗育苗技術」は、すでに方法が確立されている最新手法です。チェーンポットでの育苗中にポットを展開して間隔を広げ、慣行の2倍の太さまで育苗したのち、専門機材で回収して既存の移植機で定植を行います。
これによって定植後も初期生育が安定し、雑草の抑制や収穫までの期間短縮が可能です。また、前述した専門機材さえ必要としない簡易型の技術も開発中です。
専用機械は不要! 開発中“簡易型大苗育苗技術”の概要
「簡易型大苗育苗技術」は、育苗箱1枚で生育している苗を、育苗箱2枚に展開して仮植し、二次育苗を行います。こちらは慣行の1.5倍の太さまでの育苗が可能であり、既存移植機での定植も可能です。
定植後の育成を安定させる効果などについては、ベルトプランター苗と比較するとやや劣る部分があるものの、専用機材を必要としないため、より手軽に実施できる点が魅力です。ただし、前述したように現在開発中です。今後、開発が成功することに期待しましょう。
大分県 農林水産研究指導センター Youtube公式チャンネル「「白ネギ簡易型大苗展開 その1」
本記事では主なネギの育苗方法として「チェーンポット育苗」と「セルトレイ育苗」について、必要な準備や作業手順、コツなどについて解説しました。
より品質の高いネギを収穫するためには、最新の情報を含めて育苗技術を学び、実施することが重要です。紹介した「白ネギの大苗育苗技術」のように、新しい技術も開発されているため、ぜひ本記事を参考にして、白ネギの品質や収量アップもめざしてみてはいかがでしょうか。
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百田胡桃
県立農業高校を卒業し、国立大学農学部で畜産系の学科に進学。研究していた内容は食品加工だが、在学中に農業全般に関する知識を学び、実際に作物を育て収穫した経験もある。その後食品系の会社に就職したが夫の転勤に伴いライターに転身。現在は農業に限らず、幅広いジャンルで執筆活動を行っている。