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ネギハモグリバエとは? 起こす被害と特徴、防除対策

ネギハモグリバエとは? 起こす被害と特徴、防除対策

ネギ農家にとって「ネギハモグリバエ」は、よく知られた害虫の1つです。しかし近年、外見は同じでも遺伝子の異なる個体が多発し、各地で甚大な被害をもたらしています。被害を防ぐためには、新たな系統のネギハモグリバエの特徴を正しく知り、早期に対策することが重要です。

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近年、「ネギハモグリバエ」は遺伝子の異なるタイプの発生が問題となっていますが、基本的に防除対策は従来と同じです。そこで本記事では、改めてネギハモグリバエの特徴を整理し、新しい系統との違いや効果的な防除方法について詳しく解説します。

ネギハモグリバエとは?

ネギハモグリバエの成虫

ネギハモグリバエの成虫
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

ハモグリバエ類にはトマトハモグリバエ、マメハモグリバエ、ナスハモグリバエなどがあり、さまざまな作物で被害が出ます。

ネギに発生するものの多くは「ネギハモグリバエ」です。ネギハモグリバエは、成虫・幼虫ともにネギの葉を食害し、白く目立つ食害痕を残して商品価値を著しく下げる厄介な害虫です。

特に、近年発生している遺伝子の異なるタイプのネギハモグリバエは、従来のタイプよりも被害が著しく、各地で深刻な問題となっています。

まずは、基本的なネギハモグリバエの被害と生態の特徴について確認し、次の項目で新しい系統との違いについて解説します。

ネギハモグリバエの被害

ネギハモグリバエ 成虫の食害痕 産卵痕

ネギハモグリバエ 成虫の食害痕 産卵痕
HP埼玉の農作物病害虫写真集

成虫による被害は、主に雌成虫が葉の表面に小さな穴を開けて吸汁することで、点々と1列に並ぶ白く小さな食害痕が残ることです。また、葉肉の内側に、半透明のゼリー状で0.2mmほどの楕円形の卵を産み付けます。

ネギハモグリバエ 幼虫の食害痕

ネギハモグリバエ 幼虫の食害痕
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

卵からふ化した幼虫は、葉の内部に潜り込んで葉肉を食害します。食害痕は白く不規則な線になります。

後述する新しい系統の場合は、多発すると食害痕が癒合して葉全体が白化し、幼苗期に被害が多発すると、株ごと枯れることもあります。

ネギハモグリバエの特徴

ネギハモグリバエの見た目は、成虫は体長約2mmで頭や脚が淡い黄色、小楯板(胸部の背側)と腹部が黒いのが特徴です。

ネギハモグリバエの成虫(体長約2mm)

ネギハモグリバエの成虫(体長約2mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

幼虫は、老齢幼虫で体長約4mmの淡い黄色のウジ虫になります。その後、葉から脱出して地面に降り、地表または地中で約3mmの茶色い俵型の蛹を作ります。

ネギハモグリバエの幼虫(体長約3mm)

ネギハモグリバエの幼虫(体長約3mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

ネギハモグリバエの蛹(体長約2.5mm)

ネギハモグリバエの蛹(体長約2.5mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

発生時期や発生条件

ネギハモグリバエの発育適温は20~25℃で、発育に必要な期間は25℃の条件下で約20日といわれています。他方、卵から羽化まで25℃で36日、30℃で19日とする研究結果もあります。


春と秋に多発し、真夏と真冬は非常に少なくなり、土中で蛹の状態で越冬します。年間では5~6回発生すると見られています。

出典:
株式会社全国農村教育協会「病害虫・雑草の情報基地|防除ハンドブック|ネギの病害虫|ネギハモグリバエ」
京都府「病害虫防除所|平成31年及び令和元年に発表した予察情報等」所収「発生予察特殊報第1号(平成31年3月13日発表)」

ネギハモグリバエの系統による違い

次に、従来のネギハモグリバエと、近年各地で多発している新しい系統の違いについて解説します。なお、従来のネギハモグリバエは「A系統」、この系統とは異なる遺伝子を持つ、新たに見られるようになったネギハモグリバエは「B系統」と呼ばれます。

A系統(従来系統)

この系統は、古くから日本のネギ栽培で見られるネギハモグリバエです。1葉当たり1~数匹程度で食害します。

B系統(新系統)

この系統の特徴は、1葉当たり5~10匹以上の幼虫が寄生し、一斉に食害することです。そのため、発生初期はA系統と同様の症状が現れますが、白い筋状の食害痕が癒合して太くなり、次第に白化が面的に広がります。

被害が拡大すると葉全体が白化するため、「べと病」と見間違われることもあります。

B系統は2019年に京都府で確認され、次いで茨城県、富山県、千葉県、長野県、埼玉県、新潟県などの病害虫防除所から特殊法が出されました。日本農業新聞によれば、2022年7月1日現在、東北地方から九州地方まで、32都府県で確認されているとのことです。

出典:株式会社日本農業新聞「害虫対策/ネギハモグリバエの防除 京都府農林水産技術センター 農林センター環境部 技師 中島優介」(2022年7月26日)

早期防除が重要なのは従来の系統と同じです。初期の食害痕はどちらの系統も似ているので、ネギハモグリバエの食害痕が見られたら、速やかに有効な農薬を散布するなどの防除を行ってください。

B系統の被害とべと病との見分け方

ネギべと病の白色病斑

ネギべと病の白色病斑
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

べと病の葉が白化して枯れかける症状は、ネギハモグリバエB系統の被害痕と似ており、べと病と見誤って殺菌剤のみを使った防除をすると、被害が拡大してしまうことがあります。

そのため、白化して枯れかける症状については、べと病の病斑か、ネギハモグリバエの被害痕か、を見極め、適切な防除を行うことが非常に重要です。

ネギべと病 病斑上の黒色のカビ

ネギべと病 病斑上の黒色のカビ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

べと病とネギハモグリバエの食害による症状とを区別するには、白く変色した部分に黄白色の病斑が発生し、その上に白または暗緑色や暗紫色のカビが生えているかどうかです。病斑が黄色っぽく、カビがあればべと病と判断できます。

また、ネギハモグリバエの被害であれば、白化した部分の葉を割いてみると、中に幼虫や卵が多数確認できるので判断可能です。

▼べと病の症状やよく似た病害との見分け方については、以下の記事も参考にしてください。

ネギハモグリバエの防除対策とポイント

ネギの病害虫は、ネギハモグリバエだけに焦点をあてた防除ではなく、「IPM」(総合防除/Integrated Pest Management)が推奨されています。

IPMとは、農薬による防除だけでなく、利用可能なまざまな技術を総合的に組み合わせて効率よく防除するのと同時に、農薬使用を最適化し、人や環境へのリスクを最小限に抑えようというものです。

自治体の農政部署でネギのIPM実践指標モデルが提示されていることが多いので、それを参考にしながら、効率的で効果的な防除を行ってください。

ネギのIPMモデル例:
富山県「富山県IPM実践指標」所収「白ねぎ」
三重県「農業|環境農業|病害虫・雑草の防除|総合的病害虫・雑草管理(IPM)庁」所収「IPM実践指標モデル(ネギ)」
静岡県「農業 |お知らせ(食と農の振興課)|静岡県は環境保全型農業を推進しています。」所収「白ねぎ」

ネギアザミウマとの同時防除を行う

ネギハモグリバエの防除は、同時期に発生する「ネギアザミウマ」と同時防除をすると効率的・省力的です。

ネギの施設栽培

akitaso / PIXTA(ピクスタ)

施設栽培の場合は、成虫の侵入を防ぐことが基本なので、成虫の飛来を低減できるUVカットフィルムを張ったり、防虫ネットで防いだりするとよいでしょう。

農薬を使用する場合は、ネギハモグリバエとネギアザミウマ、またはアザミウマ類とハモグリバエ類の両方に有効な農薬を使用します。

定植時に使えるもの、生育期に株元散布できるもの、生育期に散布できるものが、それぞれ多数あり、使える回数と生育段階を見合わせて使い方を考えてください。

■定植時灌注:
スタークル顆粒水溶剤、アルバリン顆粒水溶剤など
■生育期株元処理:
ベストガード粒剤、ダントツ粒剤、スタークル粒剤、グレーシア乳剤など
■生育期散布:
カスケード乳剤、ディアナSC、ベネビアODなど

※上記の記載している農薬は2023年7月11日現在、登録のあるものです。実際の使用に当たっては、必ず使用時点での農薬登録情報を確認し、ラベルをよく読んで用法・用量を守って使用しましょう。

▼ネギアザミウマとネギハモグリバエの同時防除については、以下の記事も参照してください。

予察情報を確認する

農薬は適期に使用することで、最小限の散布で最大限の効果を得られます。そのため、地域の病害虫発生予察情報をこまめにチェックして、周囲の農地と併せて防除を行うとよいでしょう。

周囲のほ場と同時に実施することで、害虫が別のほ場間を移動して被害が拡大してしまうリスクを防げます。

また、予察情報だけでなく、実際のほ場の発生状況も常に把握しておくことが大切です。粘着トラップを設置して害虫の発生量をモニタリングし、防除のタイミングを判断することで、高い効果が期待できます。

農薬をローテーション散布する

ネギ 生育期の農薬散布

akiyoko / PIXTA(ピクスタ)

農薬を散布する際は、最低限の回数・量で高い効果を得るために、以下のポイントに注意しましょう。

生育期の散布では、展着剤を加える
ネギは、表面が液体をはじきやすく薬液が付着しにくいため、農薬に展着剤を適切に加えることで、一度の散布で効果を十分に発揮し、長く持続させることが可能です。

抵抗性個体の発生を防ぐために、農薬はローテーション散布する
ハモグリバエ類やアザミウマ類は発生サイクルが短く、抵抗性を得やすい害虫です。そのため、同一系統の農薬の連用は避け、ローテーションで散布することが重要です。

前項で挙げた生育期の散布で使える農薬のIRACコードは以下の通りです。
・カスケード乳剤:15 ベンゾイル尿素系
・ディアナSC:5 スピノシン系
・ベネビアOD:26 ジアミド系
・グレーシア乳剤:30 イソオキサゾリン系

出典:JCPA農薬工業会「RACコード(農薬の作用機構分類)」所収「殺虫剤(IRAC)2021年9月版(Ver10.1)」

防虫ネットで侵入を抑える

施設栽培の場合は開口部に防虫ネットを張り、露地栽培の場合は防虫ネットのトンネル掛けで、をハモグリバエの侵入を抑えられます。

0.8mm目合の赤色防虫ネットを使うと、ネギハモグリバエだけでなくネギアザミウマの侵入も抑えられます。

ただし、目合の小さい防虫ネットを使うと熱が籠りやすくなります。高温になりすぎる心配がある場合は、使用を控えましょう。

土着天敵を利用する

ネギハモグリバエやネギアザミウマには、土着天敵がいる場合も少なくありません。大麦との間作やハゼリソウのほ場外周への植え込みで天敵の発生を促しながら、選択性農薬を使う防除体系も提案されています。

例えば、静岡県では、大麦との間作でアザミウマ類を捕食するヒメオオメカメムシを保護し、選択性農薬を使用する防除体系を試験研究しています。

この研究の中でネギハモグリバエについては、播種時にダントツ粒剤を使い、ヒメオオカメムシ発生後は土寄せ時に「プレバソンフロアブル5」を使う組み合わせが提案されています。

出典:静岡県「ふじのくに研究所 |ふじのくに研究所 研究成果|研究成果情報|あたらしい農業技術(穀類、野菜、花など、平成26年度~30年度)」所収「あたらしい農業技術No.633 ムギ間作と選択性農薬による秋冬作シロネギの土着天敵活用害虫防除体系(平成29年度)」

また、千葉県では、ネギハモグリバエの寄生バチの発生初期に人工的にハゼリソウの花を給餌して飼育し、さらにハゼリソウの追い播きで開花時期を遅くすることで、寄生バチによるネギハモグリバエの発生抑制をすることが提案されています。

出典:農林水産省「消費・安全|病害虫防除に関する情報|会議・講演等資料|農作物病害虫防除フォーラム|第17回 農作物病害虫防除フォーラム」所収「露地ネギ栽培で有望視される土着天敵とその保護・利用の試み(千葉県農林総合研究センター生産環境部 病理昆虫研究室 大井田 寛)」

▼施設のネギアザミウマの防除についてはいくつか有効な生物農薬の登録があります。下記の記事を参考にしてください。

被害葉や収穫残さの処分を徹底する

ネギの収穫作業

川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)

害虫は一度発生すると、蛹や卵を残すことで、周囲への二次被害や次の作付け以降にも被害が広がってしまいます。発生した場合は、早期に被害葉や株をほ場から持ち出し、作物内に残った卵や幼虫もすべて処分することが重要です。

ほ場から取り除いた被害葉や株、残渣は1か所に集め、内部から虫が漏れないようにビニールなどで被覆しておきます。収穫後に埋没処理などをして、しっかり防除してください。

▼ネギの主要害虫や防除方法について全般的に知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。

ネギハモグリバエはネギ栽培における代表的な害虫ですが、天敵や効果のある農薬も多く、それほど防除は難しくありませんでした。しかし近年、遺伝子の異なるB系統が出現したことにより、甚大な被害が各産地で報告されています。

新たな系統のネギハモグリバエについては、現在も生態などの研究が進められています。こうした研究の結果や被害の最新情報をこまめに確認しながら、臨機応変に対応し、適切な防除対策を心がけてください。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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