【ブロッコリーの定植】時期や作業のポイント、水田裏作における排水方法
ブロッコリーは、栽培にかかる作業負担が野菜類の中でも比較的軽めで栽培しやすく、各地で積極的に作付けが進められています。特に水稲農家にとっては、水稲の収穫後に、定植するため裏作として取り組みやすく、収益アップが期待できる秋冬野菜として注目されています。
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ブロッコリーは、ほかの秋冬野菜と比較して栽培しすいといわれますが、品質・収量を上げるためには注意すべきポイントがあります。特に、定植するほ場の準備と定植後の管理は重要です。
そこで本記事では、ブロッコリーの定植について、栽培のポイントを解説します。
ブロッコリーは水田裏作に最適
yuuno177 / PIXTA(ピクスタ)
ブロッコリーは導入しやすく、高収益が期待できる野菜の1つとして注目されています。
農林水産省の作況調査を見ると、2000年に8,150haだったブロッコリーの作付面積は、2005年に1万haを超え、その後も増加を続けて2021年は1万6,900haに達しています。
出典:農林水産省「作物統計調査|作況調査(野菜)|長期累年」よりminorasu編集部作成
特に、水稲の裏作で導入する野菜として注目されるようになり、各地で導入が推進されています。それには、以下のような理由があります。
■導入初期投資が抑えられる
水稲栽培で使用している農機や農具の多くをブロッコリー栽培にも活用できるため、導入に際し新たに購入する農機は比較的少なく済みます。
■労働力が適切に分配できる
秋冬どりのブロッコリーは、水稲の農閑期に当たる冬期に労働時間が多く、関東平坦地の夏まき秋冬どりの場合、2月には収穫が終わるため、冬場の水田を有効活用できます。
出典:埼玉県「農林部|農林部の地域機関|農業技術研究センター |研究報告」 「研究報告第19号(令和2年発行)」の項所収「水田における秋冬ブロッコリーの適応性とブロッコリー連作、後作水稲への影響」よりminorasu編集部作成
ただし、地域によっては稲刈り作業と定植作業が重なるため、うまく作業計画を立たてないと、ブロッコリーの生育遅れや凍霜害を招く場合もあります。
■収益性が高い
米麦に比べ秋冬ブロッコリーは収益性が高いため、裏作として導入すると収益増に高い効果を発揮します。ただし、年次によって環境や気候による収量の変動が大きいため、計画に沿った適切な栽培管理が重要です。
米麦にブロッコリーを導入した場合の収支試算例
水稲 14ha | 小麦 5ha | ブロッコリー 1ha | 合計 | 水稲+小麦 との差分 | |
---|---|---|---|---|---|
粗収入 | 1,492万円 | 348万円 | 360万円 | 2,200万円 | +360万円 |
生産販売費 | 521万円 | 108万円 | 167万円 | 796万円 | +167万円 |
減価償却費 | 475万円 | 149万円 | 31万円 | 655万円 | +31万円 |
所得 | 496万円 | 91万円 | 163万円 | 749万円 | +162万円 |
所得率 | 33.2% | 26.1% | 45.0% | 34.0% | +2.1% |
※ブロッコリーの10a当たり収量1,200kg、販売価格1kg当たり300円を前提とした試算
出典:埼玉県「農林部|農林部の地域機関|農業技術研究センター |研究報告」 研究報告第19号(令和2年発行)」の項所収「水田における秋冬ブロッコリーの適応性とブロッコリー連作、後作水稲への影響」よりminorasu編集部作成
ブロッコリー定植前の作業
ブロッコリーの栽培暦のうち、多くの労力と労働時間を要するのが定植作業と収穫作業です。しかも、収穫は2~3ヵ月かけて行われますが、定植作業は短期間に集中して最も多くの労働時間がかかります。
埼玉県が試算した月別作業時間を例に挙げると、収穫のピークは11~12月で、どちらの月も作業に132時間ずつ費やしますが、定植は8月だけで147時間の労働時間を費やします。
出典:埼玉県「農林部|農林部の地域機関|農業技術研究センター |研究報告」「研究報告第19号(令和2年発行)」の項所収「水田における秋冬ブロッコリーの適応性とブロッコリー連作、後作水稲への影響」よりminorasu編集部作成
以下では、重要な作業である定植作業を中心に、その準備作業と定植後の作業に分けて詳しく解説します。まずは、定植前の育苗とほ場の準備、品種選定について、それぞれ注意すべきポイントを見てみましょう。
収量に影響する育苗
cozy/ PIXTA(ピクスタ)
ブロッコリーの生育過程で、育苗は特に重要なポイントの1つです。播種時期を分散させずに苗の大きさを揃えることと、適期を正しく判断して定植を遅らせないことが、収量・品質の向上には欠かせません。
定植が遅れると苗を徒長させ、活着が悪くなり、結果的に生育不良や不整形花蕾などを引き起こし品質・収量が著しく低下します。それを避けるためには、適切な育苗の管理が重要です。
▼育苗の重要性と基本的な育苗方法については下記記事で詳しく解説しています。
ほ場の排水対策と品種選定
ブロッコリーは湿害を受けやすく、排水性の高い土壌を好みます。そのため、継続してブロッコリーを栽培する場合は、それに適した土壌であるかが重要です。
特に、水田裏作の場合は、事前の排水・湿害対策が不可欠です。
湿害対策の基本は、湿害に強い品種を選ぶことと、排水対策を十分に施すことの2点が重要です。湿害に強い品種には、「おはよう」「グリーンベール」「グランドーム」「ピクセル」「しげもり」などがあります。
排水対策は土壌条件や土地の特性、気候に応じて、定植前のほ場に適切な対処をします。具体的な対策については後述します。
ブロッコリー定植の時期と管理方法
ブロッコリーは寒冷地から暖地まで栽培でき、作型は地域によって異なります。
例えば、北海道では初春播きで6月中旬から7月中旬にかけて収穫する作型や、夏播きで10月上旬から中旬にかけて収穫する作型など、さまざまな作型があります。
一方、暖地では一般的に「夏まき秋冬どり」と「冬まき初夏どり」の2種類があります。
冬まき初夏どりは、育苗期が厳寒期に当たるうえ、収穫期は病害虫の発生が多い時期のため、初めて導入する場合には向いていません。また、水稲裏作は夏まき秋冬どりに該当します。
そこで、ここでは関東平坦地~暖地を対象として8月頃に播種し、9月頃に定植する夏まき秋冬どりの作型に沿って、定植や管理方法について解説します。
この項の主な出典:
千葉県「農林水産業 |農林水産政策 |農林水産業への支援|技術指導資料」「平成27年度作成資料」の項所収「水田裏作野菜の栽培技術」
埼玉県「農林部|農林部の地域機関| 農業技術研究センター|水田高度利用担当」 所収「主穀作農家が水田で初めて野菜を導入するためのてびき」
定植
川村恵司/ PIXTA(ピクスタ)
定植で最も大切なのは、適期を見極めることです。
品種によって差はありますが、千葉県の「水田裏作野菜の栽培技術」によると、8月まきの場合、セル育苗の場合は播種から23~25日前後・本葉が2.5~3枚、地床育苗の場合は播種から30~35日前後・本葉5枚程度定植します。
特に水稲裏作の場合、天候によって水稲の収穫がずれ込むと、ブロッコリーの定植予定と重なり、予定したとおりに定植できない場合もあります。その場合にも、徒長しないように余裕を持って育苗管理をしましょう。
そのほか、定植時には以下のことに注意が必要です。
■畝形成と栽植密度:
2条植えの場合は、ベッド幅90~100cm・通路幅20~30cm、条間45~60cm・株間35〜40cm程度。1条植えの場合は、ベッド幅40~50cm・畝間60~80cm、条間60cm・株間35〜45cm程度。
畝の高さは、5~20cmの範囲で排水の良しあしによって調整します。
定植後に乾燥させないように、晴天日の日中は避けて、午後の涼しい時間帯または曇天日に定植し、十分に灌水を行います。
定植後の管理
定植から20~25日頃を目安に、倒伏防止と除草、根の生長を促す中耕を兼ねた土寄せと追肥を行います。2回目の追肥は、1回目の追肥の1ヵ月後に生育状況を見ながら調整します。
また、定植直後から10月にかけては病害虫の発生に特に注意すべき時期であるため、定期的な防除を予定します。台風通過後は特に病害が発生しやすいので、予定外でもすぐに農薬散布を行い、その後の予定を調整します。
ブロッコリーの定植作業を効率化するポイント
夏まき秋冬どりの作型は、大きな労力のかかる定植作業が、高温になる時期に当たります。近年、この時期の畝立てや定植の作業負担を軽減するために、機械化による作業効率化が進められています。
畝立ての機械化
きさらぎ猫 / PIXTA(ピクスタ)
水田を活用したブロッコリーの栽培では、特に排水の悪いほ場での対策の1つとして、高畝を立てる方法があります。畝形成はトラクタで行いますが、操縦者の熟練度が低いと時間がかかるうえに、畝が曲がり、結果的に畝数が減ってしまいます。
しかし、スマート技術を取り入れ、オートトラクタを活用することで、作業者の技術を問わず、作業時間を大幅に効率化できます。
例えば、石川県農林総合研究センター農業試験場では、ブロッコリーの大規模経営ほ場へのスマート農業導入について実証実験を行っています。
同実験では、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)を搭載したオートトラクタの直進アシスト機能を使い、熟練者でなくてもまっすぐに、決められた畝幅で畝立てができることが実証されました。
さらに、畝立ての作業時間が約6割減り、作業の大幅な効率化に成功しています。
出典:農林水産省 北陸農政局
「農業生産 > スマート農業 > スマート農業推進フォーラム2022 in 北陸」所収「水田農業の高収益化を推進するブロッコリー大規模経営スマート化実証 (実証地区:石川県白山市、発表者:石川県農林総合研究センター農業試験場)」
「政策情報|農業生産|生産技術環境に関する情報|スマート農業」「令和2年度採択地区」の項所収「(有)安井ファーム「水田農業の高収益化を推進するブロッコリー大規模経営スマート化実証」
▼有限会社安井ファームの大規模ブロッコリー栽培については、minorasu編集部でインタビューしていますので、ぜひご覧ください。
移植機を用いた定植
歩行型のブロッコリー移植機
Ystudio / PIXTA(ピクスタ)
ブロッコリー栽培で特に時間と労力のかかる定植作業についても、機械化による省力化・効率化が進められています。
前項で紹介した石川県の安井ファームでの実証実験では、全自動移植機を用いた移植作業の実証も行われています。
従来の半自動移植機では、1株単位で苗をセットし、歩行によって移植を進め、ターンも歩行で行われていました。しかし、スマート技術を活用した全自動移植機では、セルトレイのままセットでき、ターンも乗車したままできるため、作業時間を削減できます。
▼乗用型の全自動野菜移植機の例
ヤンマーアグリジャパン株式会社 YouTube公式チャンネル「乗用型野菜移植機 PW20R,Aシリーズ」
大規模水田で今後、継続してブロッコリー栽培を行う予定であれば、スマート技術を取り入れた農機を導入し、効率化にも収益アップにも効果的です。
ブロッコリーの水田裏作における最大の注意点は、排水対策
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湿害に弱いブロッコリーを安定的に栽培するために、排水対策は初めに取り組むべき重要な課題です。
排水対策が不十分のほ場では、湿害だけでなく、定植前に降雨があった場合に、水が引くまで耕うんや畝立ての作業ができません。そのため、定植作業が遅れ、その後の生育に大きな影響を及ぼす恐れがあります。
そこで、耕うんの前にできるだけ早い排水対策をすることが重要です。主な排水対策のポイントは、以下の5つです。
・水はけのよいほ場の選定
・地表水を速やかに排水する、明きょや補助暗きょの施工
・地下水を速やかに排水する、暗きょの施工などの基盤整備
・ほ場の地下水位は地表下60cm以下を目安にする
・暗きょが地表下50cm付近に施工してあるほ場では、15〜20cmの高畝を立てる
定植前にこれらの排水対策を万全にすることで、適期定植をしやすくなり、定植後の湿害も防げます。
出典:千葉県
「農林水産業|農業・畜産業|普及・技術 |千葉県農業改良普及情報ネットワーク > フィールドノート履歴一覧|フィールドノート平成31年/令和元年|水田裏作でのブロッコリー栽培~育苗方法と排水対策のポイント~」
「農林水産業 |農林水産政策 |農林水産業への支援|技術指導資料」「平成27年度作成資料」の項所収「水田裏作野菜の栽培技術」
Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)
米の価格が低迷している昨今、収入増のために水田を活用し、より収益性の高い野菜作を導入することは、水稲農家にとって喫緊の課題です。なかでもブロッコリーは、水田裏作として取り組みやすく、多くの地域で導入が進められています。
水田裏作のブロッコリー栽培では、排水対策と適期定植が特に重要です。安定的に生産するために、自身の水田の土壌を調査し、排水性に応じて計画的にほ場と苗の準備を進めましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。