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ブロッコリー軟腐病・花蕾腐敗病|防除対策と有効な農薬一覧

ブロッコリー軟腐病・花蕾腐敗病|防除対策と有効な農薬一覧
出典 : Yoshi / PIXTA(ピクスタ)

ヨーロッパ地中海沿岸部が原産地のブロッコリーは、高温多湿の日本ではカビや細菌性の病害に注意が必要です。この記事では、ブロッコリー栽培で発生しやすい「軟腐病(なんぷびょう)」と「花蕾腐敗病(からいふはいびょう)」について、発生原因や防除方法、有効な農薬を紹介します。

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主に花蕾(からい)を食べるブロッコリーは、花蕾が大きく、蕾は小さくよく締まっているものが良品とされます。そのため栽培では、花蕾を形成する時期に感染が拡大しやすい「軟腐病」と「花蕾腐敗病」の予防・防除が特に重要です。

この2つの病害について、発生原因と防除方法、適用のある農薬などを写真を添えて解説します。

ブロッコリー軟腐病の症状と発生原因

ブロッコリー軟腐病により発症した部分が腐ってべとべとになった花蕾

ブロッコリー軟腐病により発症した部分が腐ってべとべとになった花蕾
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

軟腐病はブロッコリーのほか、キャベツや白菜、大根などのアブラナ科葉菜類を中心に多く発生する病害です。

ブロッコリーでは定植後50日頃から発生することが多く、ちょうど花蕾を形成する時期に感染が広がります。特に高温期に出蕾する作型で発生しやすいので、予防や早期発見・防除を徹底することが大切です。

軟腐病の主な症状

ブロッコリー軟腐病を発症した花蕾の断面図。内部では腐敗が進行している

ブロッコリー軟腐病を発症した花蕾の断面図。内部では腐敗が進行している
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

ブロッコリー軟腐病は、発症した部分が軟化して腐敗する症状の病害です。最初は地面に接した葉が緑色から黄褐色に変色し、徐々に軟化と腐敗が進みます。腐敗した部分はべとべとになり、強い悪臭を放つ点が特徴です。

病変は地面に接した葉から茎へと移り、場合によっては花蕾にも達します。症状が茎まで進行すると、内部が空洞化して、株そのものが枯れてしまうこともあります。 花蕾に発生すると褐変して腐敗し、花蕾全体に急速に広がって品質を著しく損ないます。

原因と発生しやすい条件

軟腐病の病原は「Pectobacterium carotovora(ペクトバクテリウム カロトボラ)」という土壌中に広く存在する土壌常在菌の一種であり、広範囲で作物や雑草に感染します。

灌水や降雨の際、土はねによって土壌中の病原細菌がブロッコリーの葉面に付着し、葉面で増殖して水孔、害虫の食害痕などの傷口から内部に侵入し感染します。感染部位で増殖した病原細菌は、灌水や降雨によってほかの部位や隣接する株に運ばれ、感染が拡大していきます。

原因菌が増殖できる温度帯は6~37℃と広く、発病は20~35℃でおこり、27℃で最も活発化します。そのため、結球期に高温となる作型や多雨の年に発生が増えます。また、多肥栽培で軟弱に育った株で発生が多く見られます。

ブロッコリー花蕾腐敗病の症状と発生原因

ブロッコリーの花蕾腐敗病とは、花蕾が腐敗する症状の総称で、古くからブロッコリー栽培で大きな被害をもたらしてきました。

花蕾形成の時期に多く発生し、可食部である花蕾を侵すため、ブロッコリーの品質や収量に深刻な影響を及ぼす厄介な病害です。

花蕾腐敗病の主な症状

最初は花蕾の一部に濃緑色で水浸状の病斑が現れ、やがて淡褐色や黒褐色になって腐敗する病害です。症状が進行すると、花蕾全体が腐敗し消失します。

病原菌は複数あり、病原菌によって腐敗しても悪臭がしないものと、かなりの悪臭を放つものがあります。

軟腐病は花蕾だけでなく葉や茎も腐敗する一方、花蕾腐敗病は花蕾のみが腐敗します。

原因と発生しやすい条件

花蕾腐敗病の病原は土壌中に生存している細菌で、「Pseudomonas marginalis(シュードモナスマージナリス)」など4種類があります。病原菌によって悪臭の有無はありますが、症状や発生条件、防除対策は同様です。

病原菌は高温・多湿で活発になるので、降水量が多く、最低気温が高い夏期に出蕾期が重なる作型は注意が必要です。また、花蕾が大きい品種の場合や、土壌中の窒素過多・カルシウム不足の場合にも発生しやすくなります。

よく似た病害「菌核病」との見分け方

菌核病になったブロッコリー

菌核病になったブロッコリー
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

菌核病は、軟腐病や花蕾腐敗病とよく似た症状を持つ病害ですが、病原は細菌ではなく糸状菌(かび)の一種です。防除方法が異なるため、的確に見分けて適切な対策を取る必要があります。

菌核病の症状は、まず地際部の茎や葉柄、花蕾、花梗などに暗緑色で水浸状の病斑が現れ、範囲を拡大しながら次第に褐色に腐敗します。

軟腐病や花蕾腐敗病と見分けるポイントは以下の通りです。

  • 菌核病には腐敗臭がない。
  • 菌核病には腐敗した部分に白くふわふわしたカビや、ネズミの糞のような黒い菌核が形成される

また、病原菌の菌糸生育適温が20℃前後と多湿を好むので、暑い夏場ではなく春や秋の多雨条件で多発します。発生時期の気温も見分けるポイントです。

▼ブロッコリーの菌核病について、詳しくは以下の記事も参照してください。

【耕種的防除】ブロッコリー軟腐病・花蕾腐敗病の対策方法

ブロッコリー畑

川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)

ブロッコリー軟腐病と花蕾腐敗病は、耕種的防除では、ほぼ同じ方法で防除できます。どちらも感染拡大後の防除は困難であり、日常的な耕種的防除による予防が基本です。

ブロッコリー栽培において徹底したい耕種的防除対策は、次の6つです。

1.宿主作物の連作を避ける

病原細菌は土壌中で長期生存するため、軟腐病・花蕾腐敗病の宿主となる作物(ブロッコリーを含むアブラナ科の作物など)の連作を避けることが大切です。

前作にイネ科、マメ科の作物を栽培すると、ほ場を裸地で休栽する場合より土壌中の病原細菌の密度が下がります。

2.排水対策や除草を徹底する

ほ場での対策としては、定植前の排水対策と除草の徹底が重要です。原因菌は土壌水分が多い状態で発生しやすいので、ほ場には排水性を高める目的の土壌改良資材を投入する、排水が良好でない場合は排水路や暗渠を設ける、などの排水対策を行います。

また、病原細菌は多犯性で、多くの雑草を宿主として増殖します。そのため、定植前にほ場と周辺の除草をできる限り行います。

3.育苗期の傷に注意する

植物体に傷があると、傷口から細菌が侵入しやすくなります。それを防ぐため、作業中に茎や葉を傷付けないように注意しましょう。

特に育苗期は、風雨によって苗に傷が付きやすい時期でもあります。風当たりの強い場所は避け、寒冷紗をかけるなどの防風対策を施します。

4.多肥を控える

土作りに当たっては、病害発生を助長する窒素過多に注意することと、カルシウム不足を防ぐことが重要です。窒素過多にならないように、土壌診断をもとに適量・適切な施肥を行いましょう。

カルシウム資材を適切に施用することも、花蕾腐敗病の発生減につながります。土壌へのカルシウム資材の施用または葉面散布と併せ、発病しにくい品種の選定と銅水和剤の散布を行うことで、花蕾腐敗病を効果的に防除できたというデータもあります。

出典:農研機構「平成12年(2000年)度 研究成果情報 北海道農業」
所収北海道立花・野菜技術センター「ブロッコリー花蕾腐敗病の病原と総合防除対策」

5.濡れた状態で作業しない

降雨直後やスプリンクラーによる灌水直後など、濡れた状態での作業は避けましょう。作業で茎や葉に付いた細かい傷に、水滴を伝って病原細菌が侵入する恐れがあります。特に収穫は茎に大きな切り口を作るため、降雨後や露が残った状態で行わないことが重要です。

6.被害残渣を残さない

病原細菌は発病株の茎や葉など被害残渣に残り、土壌中に落ちて発生源となります。発病した株は、周囲の土ごと速やかに撤去し、ほ場以外の場所で焼却するか地中深くに埋めてください。

なお、収穫の際は感染が広がらないよう健全な株から収穫し、収穫後の残渣は速やかに取り除きます。

ブロッコリー軟腐病・花蕾腐敗病に使える農薬の例

農薬散布

topic_g4/PIXTA(ピクスタ)

農薬の散布は、作型にかかわらず生育状況と病害発生状況を見ながら行います。前年に同じほ場で病害が発生した場合や、近隣のほ場で発生が見られた場合、大雨や暴風で作物が傷付いたり発生株を発見したりした場合には、速やかに農薬を散布します。

また、定期的に害虫防除を行うことも、病害発生の抑制に有効です。害虫の食害痕から病原細菌が侵入するリスクを軽減できます。

ここでは、軟腐病・花蕾腐敗病それぞれについて、ブロッコリーに適用がある農薬を紹介します。農薬散布に当たっては、必ず使用時点で最新の登録を確認し、製品ラベルに記載の使用方法を遵守してください。

軟腐病に登録のある主な農薬と散布時期

ブロッコリーの軟腐病に登録のある代表的な農薬は、次の通りです(2024年8月現在)。

・スターナ水和剤
軟腐病と花蕾腐敗病の両方に登録があり、同時防除が可能です。2000倍に希釈して、まんべんなく散布します。収穫14日前までに2回以内で使用できます。予防的に散布します。

・ナレート水和剤
ブロッコリーでは軟腐病にのみ登録があります。1000倍に希釈して、まんべんなく散布します。収穫14日前までに2回以内で使用できます。 発病初期に散布し、予防効果と残効を示します。

・マスタピース水和剤
軟腐病と花蕾腐敗病の両方に登録があり、同時防除が可能な生物農薬です。1000~2000倍に希釈して、まんべんなく散布します。改正JAS法に適合し、減農薬栽培などのJAS認証制度に適しています。収穫前日まで使用できます。 予防目的が主体となるため、発病前から発病初期に7~10日間隔で散布します。

花蕾腐敗病に登録のある主な農薬と散布時期

ブロッコリーの花蕾腐敗病に登録のある代表的な農薬は、次の通りです(2024年8月現在)。

・Zボルドー
ブロッコリーでは花蕾腐敗病に登録があり、軟腐病には登録がありません。花蕾腐敗病の防除時には500倍に希釈し、まんべんなく散布します。使用時期や使用回数に制限はありません。 ただし、花蕾形成期以降の散布は花蕾に薬害を生じる恐れがあるので、花蕾形成期までに散布しましょう。

・コサイド3000
ブロッコリーでは花蕾腐敗病にのみ登録があります。1000倍に希釈して、まんべんなく散布します。使用時期や使用回数に制限はありません。 ただし、花蕾形成期以降の散布は花蕾に薬害を生じる恐れがあるので、花蕾形成期までに散布しましょう。

軟腐病・花蕾腐敗病ともに、感染が拡大してからでは防除が困難な病害です。耕種的防除と殺菌剤の散布を併せて行い、予防と初期防除に努めましょう。

▼ブロッコリーに発生するその他の病害については、こちらの記事も参照してください。

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大澤秀城

大澤秀城

福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。

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