【ブロッコリーの育苗方法】徒長を防いで収量を上げる! 育苗のポイント
ブロッコリーは定植時期がずれると、苗の徒長による発育不良や、形の不揃い、蕾が小さくなる原因となり、収量の低下してしまいます。そこで今回は、徒長を防ぐ育苗管理の方法や、苗を長期間持続する方法などについて詳しく紹介します。
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目次
ブロッコリーの収穫時期はいつ? 主な作型と栽培暦について
KY / PIXTA(ピクスタ)
ブロッコリーの作型には「夏まき秋冬どり」と「春まき初夏どり」の2種類があります。
「夏まき秋冬どり」の栽培暦
夏まき秋冬どり 極早生~中生 | 夏まき秋冬どり 晩生 | |
---|---|---|
播種 | 7月中旬から 8月上旬 | 8月下旬から 9月上旬 |
定植 | 8月中旬から 下旬 | 10月上旬から 中旬 |
収穫 | 10月から 12月 | 翌年2月から 3月 |
「夏まき秋冬どり」は、生育初期に徹底した防除を行うことによって、病害虫の被害を少なくすることができる作型です。収穫をする際は、気温が低い時間に行うと品質保持の点で有利でしょう。
「春まき初夏どり」の栽培暦
春まき初夏どり | |
---|---|
播種 | 2月 |
定植 | 3月下旬から4月中旬 |
収穫 | 5月中旬から6月上旬 |
播種から生育初期が2~3月と低温期であり、花蕾形成から収穫時期にかけて気温が上昇するため、ブロッコリーの生育特性上、栽培難度が高くなります。播種の際には地温を確保して発芽を促す必要があります。
生育初期は生長がゆっくりとなるため、この時期に生長が停滞しないように管理することが重要です。また収穫の適期は秋冬どりの場合よりも短くなるため、採り遅れにも注意が必要です。
この記事では、一般的で水稲の裏作としても栽培されていることが多い「夏まき秋冬どり」の作型を前提として、栽培のポイントを詳しく解説していきます。
収量にも影響! ブロッコリー栽培における「育苗」の重要性
ブロッコリー栽培において適切な「育苗」を行わなかった場合、その後の収量が低下しやすくなります。ではなぜ「育苗」によって収量に差が出るのでしょうか。その理由と徒長によるデメリットや育苗の重要性について説明します。
定植の遅れなどにより苗が徒長すると、根張りや生育の悪さの原因に
Ystudio / PIXTA(ピクスタ)
ブロッコリーをセルトレイで育苗した場合、播種後20~25日で定植可能な状態となります。しかし、台風や長雨などで定植が遅れてしまうと、苗が徒長するため機械定植適性の低下が起きたり、根鉢のまわり過ぎで活着の遅れが発生したりします。
活着の遅れによる根張りの悪さは、生育不良や不整形花蕾(形が乱れてしまった花蕾のこと)の原因となり、収量低下にもつながるでしょう。また、定植適期を逃すと、茎葉の生長が十分ではないうちに低温遭遇して花芽分化してしまうため、花蕾が小さくなる「ボトニング」が発生するリスクもあります。
そのほか、徒長した苗は普通の苗よりも枯れやすく虚弱であることから、病害に侵されやすくなります。このように定植時期のずれにはさまざまなデメリットがあるため、適切なタイミングで定植を行うことが大切です。
失敗を防ぐには、定植まで苗の大きさを一定に保つ栽培管理が重要!
ブロッコリーは定植適期が短いため、「播種作業を分散させない」、「適期に定植する」ように管理し、苗の徒長を防がねばなりません。しかし、地域によっては水稲の収穫作業とブロッコリーの播種作業の時期が重なったり、時期的に台風や秋雨の影響を受けたりして、どうしても適期に定植ができない場合もあります。
その場合、定植まで苗を徒長させないよう一定の大きさに保つ育苗管理が重要です。
播種量や温度の目安は? ブロッコリー基本の育苗方法
茶華月/ PIXTA(ピクスタ)
次に播種から定植までの育苗管理の方法について解説します。
【播種】播種方法と播種量の目安
まずは地域の気候条件などを考慮して品種を選択します。播種量は10a当たり40~60ml程度で、128穴セルトレイ1穴につき1粒ずつ播種を行います。予備苗も含めて10aでセルトレイ35~45枚が目安となります。
共同育苗などを行う場合は、セルトレイ用の土入れ機と播種機を併せて使用することで、セルトレイへの土入れと、播種・覆土の省力化を図れます。また、手作業の場合でも、コート種子を使用することによって播種機の使用が可能となるため、同じく省力化できるでしょう。
【育苗管理】発芽適温と、基本の育苗管理
発芽適温と播種後の管理
ブロッコリーの発芽適温は25℃前後で、30℃以上の高温が続くと発芽に影響を及ぼすため、寒冷紗などの被覆資材を用いて遮光を行い、地温を下げましょう。暖地などもっと暑くなる地域では、熱線カットフィルムの使用もおすすめです。
好適環境下であれば、2~3日後には発芽します。播種したセルトレイは、パイプや木などを下に敷き、地面との間に30cm以上の空間を作って通気性を高めます。育苗ハウス自体も風通りをよくして、熱がこもらないようにしましょう。
発芽後も直射日光を避けるために、寒冷紗などの被覆資材や熱線カットフィルムを晴天時の10~15時頃を目安として利用しましょう。熱線カットフィルムを使用したハウスからそのまま定植すると活着が遅れるため、2~3日前には外に出して暑さや紫外線に慣れさせておくことが大切です。
水分管理
育苗期間中の水分管理は、重要なポイントです。播種後の灌水は十分に行い、発芽するまで用土を乾燥させないように注意します。特にコート種子はコート内の種子まで水分を行きわたらせる必要があるため、裸種子よりも十分な灌水をするように心がけてください。
発芽後の灌水は、早朝から午前中までに1~2回行います。高温期の育苗では乾燥に注意しなければなりませんが、過度の灌水は夜間加湿となり苗が軟弱となって徒長しやすいため、夕方には表面がやや乾燥気味になるようにしましょう。
灌水の回数は最小限に抑えて、1度に多くの水を与えることが育苗のポイントです。乾燥のし過ぎも過度の灌水も、徒長の原因となるので注意してください。
ここがポイント! 苗の徒長や劣化を防いで収量を保つ、2種類の施肥方法について
Taner / Adobestock.com
最後に、育苗管理の中でも重要な施肥方法について解説します。従来の方法と比べても収量が低下せず、苗が長期間維持できる方法を紹介していますので、ぜひチェックしてください。
1. 液肥を使わず、定植直前に「肥効調節型肥料」の施肥のみを行う栽培方法
通常、ブロッコリーなどの葉菜用育苗培養土は、窒素肥料分が少ないため播種して2週間たった頃から液肥などで追肥を行わなければなりませんが、定植時期が遅れた場合には、苗が徒長してしまいます。
千葉県農林水産部では、有効な対策として「肥効調節型肥料」を利用する施肥方法を紹介しています。この方法では育苗中の追肥は行わず、定植直前に肥効調節型肥料「マイクロロングトータル40日タイプ」を1株当たり約0.5~1g(128穴セルトレイで約60~130g)施用します。
従来の育苗後期に液肥を与える方法と、肥効調節型肥料を利用する方法で収量(可販株率)を比較した場合、前者が96%であるのに対して後者は92%とほぼ同等の収量があり、収穫物の外観品質にもほとんど差がありません。
また、早播きした苗でも定植時期が品種の適期ならば、同様の処理を行うことで対応できる点も魅力です。
※この例で紹介した苗の品種は「むつみ(ブロリード)」です。後者の育苗日数は通常より10日程長くした状態で定植を行っています。
出典:千葉県農林水産部「水田裏作でのブロッコリー栽培~育苗方法と排水対策のポイント~」
2. 90日までの長期維持が可能に! 育苗の全期間を「施肥なし」で行う栽培方法
苗の徒長を回避しながらも長期間、苗の状態を維持するために開発されたのが、「長期常温貯蔵技術」を活用した育苗方法です。この方法の特徴は、育苗中の全期間を底面からの水補給のみで管理することにあります。一定の大きさを90日もの間にわたって維持し、常温貯蔵が可能です。
播種後の芽出しは従来の育苗と同様に行い、その後タイマー付き電磁弁で1日1回、約2cm程度湛水しセルトレイ底面より給水をします。この方法で育苗した場合の苗質は、播種後30~40日頃より葉色が薄く、茎の太いがっちりした苗になることが特徴です。草丈も伸びず下葉脱落によって総葉数も増えないため、一定の大きさを維持できます。
慣行苗と比較して収穫の最盛期が4日ほど遅れるものの、収量や品質に違いは見られません。また品種ごとの適期に定植できるのであれば、前述の方法と同様に早播きにも対応可能です。
出典:農研機構「ブロッコリーのセル成型苗における長期常温貯蔵技術」
ブロッコリーの収量は育苗管理と定植時期の見極めによって決まる
大久保翔太 / PIXTA(ピクスタ)
今回はブロッコリーの育苗管理や苗の徒長を防ぐ方法などについて紹介しました。ブロッコリーの収量には育苗管理と定植のタイミングが大きな影響を与えるため、正しい知識を身に付けて苗の大きさを一定に保てるように適切な育苗管理を徹底しましょう。
水稲収穫時期と重なったり、台風の影響を受けたりして定植時期のずれに悩まされている方は、ぜひこの記事で紹介した定植直前に「肥効調節型肥料」を施肥する方法や、施肥なしで底面からの水補給のみの管理を行う方法を試してみてください。
どちらも収量を保ったまま苗の長期保存が可能となるため、問題解決の糸口になる可能性があります。
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百田胡桃
県立農業高校を卒業し、国立大学農学部で畜産系の学科に進学。研究していた内容は食品加工だが、在学中に農業全般に関する知識を学び、実際に作物を育て収穫した経験もある。その後食品系の会社に就職したが夫の転勤に伴いライターに転身。現在は農業に限らず、幅広いジャンルで執筆活動を行っている。