北アメリカ農業の今~国・地域の特色から見る、これからの日本農業~
この記事では、北アメリカの主要3ヵ国であるカナダ・アメリカ合衆国・メキシコにおける農業の特徴について、土地や気候の特性を踏まえて紹介します。特に、アメリカ合衆国の「大規模」「適地適作」農業について詳しく解説しつつ、日本の農業への活用の可能性を探っていきます。
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広大な土地を有する北アメリカでは、地域によって多様な植生や気候が見られます。今回は、北アメリカの主要国であるカナダ・アメリカ合衆国・メキシコの農業事情について、土地や気候の特性を踏まえたうえで日本の農業と比較しながら解説します。
北アメリカとはどんな地域?
pytyczech /PIXTA(ピクスタ)
地理的な区分としては、アメリカ大陸と周辺の島々のうち、パナマ地峡で隔てた北側を「北アメリカ」と呼びます。この場合、グリーンランド島や西インド諸島も含まれ、カナダ・アメリカ合衆国・メキシコの3ヵ国を主要国とします。
一方で人種や文化、社会的な観点から、北部・中部・南部の3つに分けられることもあります。この場合は、一般的にリオ・グランテ川以北が北アメリカとされ、主要国はカナダとアメリカ合衆国の2ヵ国です。
この記事では、地理的な区分による北アメリカのうち、カナダ・アメリカ合衆国・メキシコの3ヵ国について、地理的特徴や農業の現状を解説します。
北アメリカの気候
北アメリカは南北に長く広がっているため、地域によってさまざまな地形や海流、風向きといった自然条件があります。そのため、北アメリカには世界中にある気候区のほとんどが存在しています。
南部のメキシコには熱帯雨林やサバナ気候が広がり、南東部は日本と同じ温暖湿潤気候です。西海岸は地中海性気候や西岸海洋性気候、内陸にはステップ気候や砂漠気候も見られ、北部には亜寒帯気候やツンドラ気候、氷雪気候の地域もあります。
こうした気候に対応して植生や土壌も多様性に富んでいます。
カナダの北部や山地では針葉樹が中心ですが、北アメリカ東部は湿潤な温帯地域で、ナラ類をはじめ日本と共通の樹木が多く見られます。
西部にはナラ林と乾燥草原、セコイアなどの森林も発達しています。中央部はやや乾燥し、草原やサバナ、低灌木からなるプレーリーと呼ばれる大草原が広がります。また、カリフォルニアの半乾燥地域は非常に植生豊かで、多くの固有種が存在しています。
このように、北アメリカは地域によって気候や植生、土壌が大きく異なります。多様な自然環境の中、それぞれの地域でどのような農業が営まれているのでしょうか。
北アメリカ農業の中心、「世界の食料庫」アメリカ合衆国
miamiwatase/PIXTA(ピクスタ)
北アメリカの中でも、アメリカ合衆国は世界有数の農産物生産国です。農業生産量は国内消費量よりもはるかに多く、世界各国に輸出しています。そのため、「世界の食料庫」とも呼ばれています。
近年、世界規模で人口増加や気候変動の影響が見られ、近い将来の食料危機が懸念されています。「世界経済フォーラム(World Economic Forum)」によれば、2050年までに世界人口は90億人まで増え、食料の需要は現在比で60%上昇するとされています。
一方で、気候変動により世界各地で砂漠化が加速し、このまま進めば2050年までには人口の半分にしか食料を供給できないと予想されています。
出典:世界経済フォーラム(World Economic Forum)「Food security and Why it matters」
このような状況の中、世界の食料供給を支えるアメリカの役割は、より重要なものとなっていくでしょう。
農作物・食料品の輸出額世界一を誇るアメリカ
アメリカ合衆国の2019年の農産物・食料品輸出額は、135,950US$で世界第1位となりました。また、2018年の農業生産額は166,500US$で、中国・インドに次いで第3位でした。
同じ北アメリカのカナダでは、同年の農産物・食料品輸出額が第8位、農業生産額が第21位であり、メキシコではそれぞれ第15位・第14位と、両国ともアメリカには及びません。なお、日本はそれぞれ第44位・第8位と、生産額では健闘しているものの、輸出は多くありません。
出典:GLOBALNOTE「世界の農産物・食料品輸出額国別ランキング」、「世界の農業生産額国別ランキング」
耕地面積の広さがアメリカの農業生産力の高さに寄与
Gorlovkv/PIXTA(ピクスタ)
北アメリカの中でも特にアメリカの農業生産力が高い理由としては、気候が農業生産に向いていることもありますが、そもそもの耕地面積の大きさや生産効率の高さが挙げられます。まずは、アメリカの耕地面積の大きさについてみていきましょう(生産効率については、詳しく後述します)。
2017年の総務省のデータによると、アメリカの陸地面積は約9億1,470万haで、そのうち一時的な農作物を栽培・収穫する耕地面積が約1,580万ha、カカオや果樹など収穫後に植え替える必要のない長期的な作物を栽培する永年作物地が約260万haと、農業用地は陸地面積の17%ほどを占めています。
一方で、カナダでは陸地面積約8億9,660万haに対し、農業用地は約4%に当たる約3億3,840万ha、メキシコでは陸地面積約1億9,440万haに対し、農業用地は約13%の約2,660万haであり、アメリカは陸地に占める農業用地の割合が高いことがわかります。なお、日本は陸地面積約3,650万ha、農業用地は約440万haで、陸地面積に占める耕地の割合は12%ほどです。
出典:総務省統計局「世界の統計2020」第4章
アメリカの主な農業地域分布
アメリカでは、気候が異なるそれぞれの土地の特徴を活かして、地域に適した作物を集中的に生産しています。ここでは、地域別に農作物の主な分布をまとめました。
○西経100度線:小麦
西経100度線上は、小麦の栽培に適する年間降水量100mmという条件を満たすため、南北に冬小麦・春小麦の産地が広がっています。
○西部のグレートプレーンズ:放牧・灌漑(かんがい)農業
西経100度線の西側は年間降水量が500mmを下回る乾燥した地帯で、牧草が十分に生育しないため、広大な土地に放牧することで肉牛を飼育してきました。最近では、灌漑農業で飼料となるとうもろこしなどを栽培し、肥育場で効率的に牛を肥育する農地も増えています。
○北東部:酪農
亜寒帯の冷涼な気候を活かして、酪農が盛んに行われています。
○五大湖南(オハイオ州・イリノイ州・アイオワ州・ネブラスカ州):とうもろこし
比較的降水量が多い地域で、「コーンベルト」と呼ばれる広大なとうもろこし畑が広がります。大豆の栽培も盛んで、それらを飼料とする畜産との混合農業も多く見られます。
○南部:綿
北緯37度以南の南部では、綿花の栽培が集中しており、一般に「コットンベルト」と呼ばれています。
○太平洋岸:オレンジやブドウ
高温で乾燥した地中海性気候に適した、オレンジ・ブドウの栽培が盛んです。
このように、アメリカでは穀類や麦類、牛の生産が盛んで、中でもとうもろこしと大豆と牛乳の生産量は世界1位を誇ります。
一方でカナダでは、小麦・大麦・ライ麦・えん麦など麦類の生産が多く、アメリカを上回るほどです。
メキシコは熱帯系の気候を活かし、とうもろこしやトマト、きゅうり、オレンジなどを多く生産しています。
アメリカ農業のキーワードは「大農法」&「適地適作」
アメリカの農業の特徴は、「適地適作」と「大農法」です。「適地適作」とは、一定の作物を適した地域で集中的に栽培すること、「大農法」は農業の経営規模を大きくして、大型機器を使って効率的に営農することを意味します。
アメリカでは企業による大規模経営が増えていますが、個人経営農家でも大規模な農業経営が行われています。例えば、ネブラスカ州で実際に農業を営むある家族は、家族経営で4,000エーカー(約1,620ha)、東京ドーム約348個分の農地で大豆を栽培しています。
さらに広い5,000エーカー(約2,023ha)の大豆畑と、340頭もの牛の飼育を家族で営む農家もいます。こうした個人経営農家も、アメリカの食料生産を支えているのです。
アメリカ農業の今と、そこから学ぶ日本農業のヒント
haveseen/PIXTA(ピクスタ)
アメリカの農業は現在、日本と同様に高齢化や担い手不足といった問題を抱えており、その対策として農地の集約化やスマート農業が推進されています。
農業従事者は全人口の1.7%。1農場当たりの規模が拡大傾向に
アメリカは陸地の約17%を農地が占めていますが、実は農業従事者の比率は低く、2017年の時点で約260万人と就業人口の1.3%にすぎません。
さらに、大規模農家との経営統合や企業化の推進により、農地の集約が進み、農場数は徐々に減少しています。一方で、大型の農業機械の導入により、1人当たりの労働生産性は非常に高くなっています。
出典:アメリカ合衆国農務省経済調査サービス「Ag and Food Sectors and the Economy」
こうした動きは生産性の安定的な向上に寄与しますが、その一方で、消費者からは安全性や倫理性、環境への影響の不安から、自給自足を支持する動きも現れ始めています。安全性の確立や環境への配慮が、今後の課題といえるでしょう。
アメリカの「適地適作」に対して、日本の農業では古くから「地産地消」「身土不二(しんどふじ)」といった考えが根付き、自給自足を主体としてきました。しかし、近年ではこのようなアメリカ農業の特性を取り入れ、日本でも農地の集約化・大規模経営化が進められています。
広い農場をスマートに管理。日本農業にも生かせる「アグテック」という考え方
1人当たりの労働生産性が高いアメリカでは、「Agriculture(農業)」と「Technology(科学技術)」を組み合わせた「AgTech(アグテック)」という造語があります。近年、日本でも進められている「スマート農業」の考え方と同じです。
アメリカの大規模な農業経営は、テクノロジーとの相性が非常によく、大幅な効率化に成功しています。ドローンの活用はその代表的なもので、農薬散布だけでなくカメラやセンシング機能を備え、作物やほ場の状態を撮影・分析・管理し、効率的な営農の実現に活用されています。さらにそのデータを活用して、新たなビジネスにつなげている企業もあります。
こうしたアメリカの農業の最新技術は日本にも徐々に波及し、主に高齢化に悩む地域で取り入れられ、各地で省力化や生産性向上といった成果を上げています。
アメリカの広大な土地と多様な気候を活かした適地適作・大規模農業は、先端技術を取り入れることで生産量を飛躍的に向上させ、世界の食料を支えています。
日本の農業においても、国土に合った独自の特性を守りつつ、アメリカ農業の長所を上手に取り入れ、次世代の農業に活かすことが期待されます。
※お役立ち情報:以下は日本のスマート農業の活用事例です。ご興味のある方はぜひご覧ください
JAにいがた岩船
時田様、山田様、近様
■管内耕地状況
水田耕地面積:5,755ha
水稲作付面積:4,798ha
▷ブランド米として収穫量と品質を向上させるための追肥効率化
▷営農指導員の育成期間の短縮化
▷面積が大きく、砂地が多いことから、肥料がうまく効きづらい土地があり、強風が吹く地帯であるため、稲が綺麗に育たないことや生育が停滞することがある。
▷管内では高齢化が特に進んでおり、若手への指導が急がれている。
▷生育マップを元にドローンでの追肥を行うことで、収量が20%UP。例年6.5俵のところ、今年では8俵。
▷地力マップや生育マップにより、追肥のタイミングや追肥量の判断の確実性が上がった。
▷ザルビオのデータやAI分析を活用することで、通常5年ほどの経験が必要とされる営農指導が、3年ほどに短縮。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。