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【世界の農業】EUの「共通農業政策」とは? しくみや目的、メリットを学ぶ

【世界の農業】EUの「共通農業政策」とは? しくみや目的、メリットを学ぶ
出典 : AnEduard /PIXTA(ピクスタ)

EUの共通農業政策(CAP)は半世紀以上もの間、加盟国の農業を守り、人々の食料の安定的な確保に向け変遷を重ねてきました。本記事では、CAPのしくみや歴史、具体的政策をわかりやすく紹介し、自由貿易化に向けて日本の農業が取るべき対策のヒントを探ります。

TPPの発行を受け、今後、日本の農業はこれまでに経験のない自由貿易に向き合うことになります。日本の農業を守りつつ国際競争力を身につけるには何をすべきなのでしょうか。半世紀以上前から国境を超えて世界経済と向き合ってきたEUの共通農業政策から学びます。

EUの共通農業政策(CAP)とは?

ヨーロッパ 食料 安定供給

maru /PIXTA(ピクスタ)

共通農業政策(CAP:Common Agricultural Policy)は、1962年、EU(欧州連合)の前身であるEC(欧州共同体)において、加盟各国における農業分野での共通政策を行うために発足しました。

当初の目的は、EC内で1つの農産物市場を作って価格の統一や生産性の向上、農業従事者の収入の安定などでした。

「価格・所得政策」と「農村振興政策」の2本柱で押し進められてきた共通農業政策は、昨今の国際情勢に合わせ、2本の柱に加えて持続可能で生産性が高く、競争力のある農業の確立に向けた取り組みも行われています。

内容や効果は? 共通農業政策におけるポイント

農業 経済支援 穀物

Sima /PIXTA(ピクスタ)

共通農業政策の具体的な内容やその効果について詳しく見ていきます。

農業者の所得を保障する「価格・所得政策」

1つ目の柱である価格・所得政策は、現在に至るまで最重点事項として取り組まれています。ECやEUの加盟国増加や、国際的な情勢の変化に合わせ、その内容も大きく変わり続けています。

設立当初は価格支持、輸出補助、直接支払いを並行して行っていました。しかし、価格支持は生産過剰を招き、支出が膨大になって財政を圧迫したため、次第に直接支払いによる政策が中心になりました。

1992年の改革以降は、支持価格の引き下げや、直接支払いを受給するための共通遵守事項(クロスコンプライアンス)が定められたり、2013年の改革では直接支払いを「基礎支払い」や「グリーン化支払い」などの目的別に再編したりしました。

現在では直接支払いが政策の中心となり、農業を取り巻く問題の解決に活用されています。

また、当初の輸出補助は、健全な価格競争を促すものではなく、国が補助金を負担することで競争力を高めようとしていました。そのため、自国の財政や国際貿易への悪影響を回避しようと、次第に適用する作物が減らされてきました。

GATTのウルグアイ・ラウンド以降、途上国以外は世界的に廃止が進められています。

価格・所得政策は、新規加入した国の農家の所得を上げ、EU域内の農業者全体の所得安定に一定の役割を果たしてきたといえるでしょう。

農業の構造改革や環境施策を実施する「農村振興政策」

2つ目の柱である「農村振興政策」は、重要性を認識されていながらも当初は十分な成果が出ないことが問題点でした。

大規模で裕福な農家の多い国や地域がある一方、条件不利地域で小規模な農家を多く抱えるところもあり、格差を埋めるのは非常に困難です。

財源も、共通農業政策の予算の多くは価格・所得政策で割り振られてしまい、農村振興政策の支出は発足当初よりも削減されたほどでした。

しかし、EU拡大後は、新加盟国も含め農地の集約化・大規模化が推進され、格差が是正されつつあります。

また、大規模経営農家への直接支払額を引き下げた分を農村開発政策に充てるなど工夫し、環境保全対策や農家への直接的・間接的な支援に役立てようとしています。

さらに、2013年の改革以降、価格・所得政策と農村振興政策の間で予算の最大15%までを双方向に移転できるようになり、弾力的な運用が可能となりました。

現在は、農地の集約化・大規模化に伴って発生した環境問題の解決に向け、農村振興政策における環境対策の強化が課題となっています。

単一市場・共通関税のしくみ

2本柱の共通農業政策は、機構全体の基本的なしくみであるEU域内の統一市場にも支えられています。ECの時代は、域外からの輸入品に対して共通の関税を設定する関税同盟であり、域内では関税のかからない共同市場を持っていました。

さらにEUの拡大で、域内にはモノだけでなく、人や資本、サービスについても関税がなく自由に移動ができる「単一市場」を形成しました。

これにより、アメリカに匹敵する市場ができ、世界的な経済の活性化に貢献したのです。

単一市場というしくみがあってこそ、価格・所得政策による農産物の価格統一が可能になり、域内における農産物の流通自由化が実現できたのです。

なお、域外との輸出入には、国ごとではなくEUとして共通関税を設けて貿易を行います。EUは非常に厳しい輸入制限を設定しており、輸入品の質も向上しています。

共通農業政策がヨーロッパの農家に与えた影響

ヨーロッパ 若い農家

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農業経営を補助する所得保障や直接支払いによって、ヨーロッパの農家は資金力に関係なく積極的な設備投資が行えます。

EUの共通農業政策では大規模化・集約化の一辺倒ではなく、地域性を重視し、独自の生産方法などに取り組む農家を支援する政策も講じ、小規模な農家を抱える地域の農業の活性化を促進しています。

そのため、施設の拡充やIT農業の導入など農作業の効率化が進み、農産物の質向上や収量の大幅アップが実現できています。

ヨーロッパは未だ小規模経営の農家も多く存在しますが、小さい経営面積で高い収量を得ている農家も少なくありません。

一方で、着々と集約化・大規模化が進んでいる地域もあり、そうした地域では大型農機や最新のIT技術を取り入れ、効率化を進めて生産量を増やしています。

このように多様性に対応した政策によって、ヨーロッパの農業と食料が守られています。

ただし、デメリットも存在します。効率化や大規模化を進める一方で環境負荷が深刻な問題となり、その考えに反対し有機農業に回帰する農家も増えています。

今後の対応策として、伝統的な農業や自然環境を守る活動が重要になるでしょう。

共通農業政策を導入した当時の課題と、その解決策

ヨーロッパ 農業 多様性

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EUが行ってきた共通農業政策は、TPPによる貿易自由化で農業分野の大きな変革を迎える日本にとっても、参考になる部分が多々あります。

そこで共通農業政策が導入された当時から現在までに問題になったポイントと、その解決策について解説します。

ECの頃、ヨーロッパ各国では保護主義的な農業政策が行われており、それぞれの政策がばらばらでした。

共通市場の成立や生産の増強を図るためには域内で共通した農業政策の調整が必要との理由で、1962年に共通農業政策がスタートしました。

共通農業政策が導入されてからしばらくは、価格支持など価格・所得政策が中心でEU各国の農業構造の著しい差異への対応は遅れてしまいます。

また、農産物の価格支持は生産コストの高い国に合わせて高水準となることが多く、国際価格と比較しても割高でした。

また、作れば作るほど儲かるので生産過剰となり、長く続くうちにEUの財政を圧迫するようになりました。

さらに、余剰の農産物を輸出補助金によって安価で輸出をしたため、特にアメリカとの貿易摩擦が生じ、ウルグアイ・ラウンド農業交渉では輸出補助金の削減を求められます。

これらの問題に対応するために行われたのが、1992年の改革です。支持価格を大幅に引き下げ、その分の補償措置として、休耕を受給条件とした直接支払制度を導入しました。

その後、EU加盟国が増えるにつれ、新たに加盟した国が旧加盟国よりも農業就業人口の比率が高く、かつ小規模経営の割合も高い傾向があるため、価格低下や所得減少、そして財政負担のさらなる増加が懸念されました。

そこで、中東欧諸国のEU加盟を控えた1999年に改革を行い、価格支持をさらに減らして直接支払いへのシフトを強化したり、直接支払いにも受給要件として共通遵守事項を導入したりしました。

この際、ようやく農村振興政策が強化され、価格支持を減らした分の財源を補てんするなどの対策も行われました。

この改革が奏功し、新たな加盟国の農家にも同様に直接支払いが行われ、結果として、EUへの新加盟国における農家の所得は向上し、懸念されていた旧加盟国の農家の収入はほぼ一定のままで大きな影響は見られませんでした。

さらに2003年の改革では、それまで作物の作付面積や家畜頭数などの生産要素によって支給していた直接支払いを、生産要素から切り離し、過去の支払い実績に基づいて支払額を決める「単一支払制度」のデカップリング化を実施しました。

同時に、年間の直接支払額が5,000ユーロを超える大規模経営農家については受給額を段階的に引き下げるなどの工夫を重ね、財政支出を縮小させました。

2013年改革の際は、それまで推進されてきた農地の集約化・大規模化による環境悪化や、加盟国間の直接支払いで発生していた単価の不均衡改善のために、農村振興政策における環境対策を強化しました。

国ごとに生じた直接支払い単価の不均衡を是正するなど、半世紀以上を経た共通農業政策によって発生した課題を解消するための対策が実施されたのです。

イギリスのEU離脱でどう変わる? ヨーロッパ農業の今後

ヨーロッパ 農業 伝統

ハル /PIXTA(ピクスタ)

2020年12月31日に移行期間を終えイギリスがEUを離脱しました。これにより、イギリスはEUの共通農業政策から離れ、独自の農業政策を展開できます。今後、2028年までに農業が補助金に頼らず経済的に持続できる経営状態を実現することを目標に、農政の改革を行っていくとしています。

また、EUとは無関税・無割当の通商協定を締結し、日本とも新たな通商協定を締結しました。この協定で日本とイギリスの間では、年間約2兆円の貿易拡大につながると期待されています。

一方、イギリスが抜けたEU共通農業政策については、財政貢献度の高かったイギリスの離脱により財源が減少し、その他の先進国の負担が増すことが想定されます。

これまでも、先進国は価格・所得政策による恩恵が少なく負担が多いという構図があり、イギリスの離脱につながっていることを考えれば、あとに続く先進国がないとも限らず、今後、農家への支援内容などにどのような変化があるのか注目されています。

半世紀を超える歴史を持つEUの共通農業政策は、すべてが順調に進んだわけではありませんが、ヨーロッパの多様な個性を持つ国の農業をまとめ、国際競争の中、各国の農業を守ってきました。今後自由貿易と向き合う日本の農業においても、EUの行ってきた農業政策の成功と失敗に学び、活かしていく必要があります。

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中原尚樹

中原尚樹

4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。

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