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ヨーロッパ農業の現状と課題~比較して見えた日本農業との違い~

ヨーロッパ農業の現状と課題~比較して見えた日本農業との違い~
出典 : alexlmx / PIXTA(ピクスタ)

大規模経営農家中心のフランスや小規模経営で多様な農業を有するイタリア、最新のテクノロジーで世界トップレベルの生産性を持つオランダなど、ヨーロッパの国々の農業の現状を解説します。EUの共通農業政策「CAP」についても紹介し、日本農業との違いを探ります。

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ヨーロッパでは大小の国々が独自の農業を発展させる一方で、CAPとして統一された農業施策を行ってきました。フランスやドイツなどの農業大国やオランダの農業の現状や課題などを知り、日本の農業との違いを解説していきます。

ヨーロッパ農業の特徴

ヨーロッパに属する多くの国々は、互いに深く関わりあいながらも異なる文化を育くみ、それぞれ独自の歴史を歩んできました。農業においても、共通点を持ちつつ気候や地理に合わせてさまざまな発展を見せています。


この項では、2020年10月現在のEU加盟国全27ヵ国と1月にEUから脱退したイギリスを中心に、ヨーロッパの地域ごとの農業区分に沿って農業の分布と特徴を解説します。

ヨーロッパの気候と主要農産物

北西ヨーロッパ

フランス ライ麦畑。北西ヨーロッパは麦類、ジャガイモ、ビートなどの栽培と養豚が盛ん

southtownboy / PIXTA(ピクスタ)

北西ヨーロッパにはイギリスやフランス北部、ドイツなどが含まれ、西岸海洋性気候と呼ばれる温暖湿潤な地域が広がります。主に小麦・ライ麦・大麦・えん麦など多様な麦類やジャガイモ(馬鈴薯)、てんさい(ビート)などを栽培し、それらを飼料として豚を飼育する混合農業が盛んです。

地中海地方

欧州のオリーブ園風景。ヨーロッパ南部の地中海地方は、冬は小麦、夏はオリーブやブドウ、柑橘類などの果樹栽培が盛ん

Nadtochiy / PIXTA(ピクスタ)

イタリアやスペインなど南部の地中海地方は、冬には雨が多く夏は乾燥する地中海性気候です。その気候を活かした地中海式農業が発達し、冬は小麦、夏にはオリーブやブドウ、柑橘類などの果樹栽培が行われています。

北海沿岸部

デンマークの牧場風景。ヨーロッパの北海沿岸部の農業は酪農が多くみられる

Cyrena111 / PIXTA(ピクスタ)

ドイツ北部、デンマーク、オランダ、イギリス南部などの北海沿岸部は温暖ながらも比較的冷涼な気候です。牧草を栽培して乳牛を飼育する酪農が多く見られます。

各国の農業人口と農業用地面積の比較

ヨーロッパの中でも農業大国といわれるフランスをはじめ、スペイン、ドイツ、イギリス、イタリアは農業が盛んな国です。

EU全体の農地に占める割合

2009年時点でEU全体の農地に占める割合は、フランスが17%、スペインが14%、ドイツが10%、イギリスが9%、イタリアが8%でした。

これらの国々では日本と同様に、農家数が減少する一方で経営規模は増加する傾向にあります。

状況を確認すると、国によって平均的な経営規模に大きな開きがあり、フランス、ドイツ、イギリスでは大規模経営が進んでいますが、スペインやイタリアなど南欧では小規模農家が多数を占めています。

農用地面積

農林水産省の資料によると、ヨーロッパの農業大国といわれる5ヵ国の2017年の農用地面積は、いずれも国土の4~7割を農地が占めています。

・フランス:2,870万ha 国土の52.3%
・ドイツ:1,669万ha 国土の46.7%
・イギリス:1,747万ha 国土の71.7%
・スペイン:2,630万ha 国土の52.0%
・イタリア1,283万ha 国土の42.6%

出典:農林水産省「海外農業情報 主要国・地域別の農業概況」

なお、同年の日本の農用地面積は444万ha、国土の11.8%です。

農家戸数と平均経営規模

また、2007年時点の農家戸数と平均経営規模(ha)をみると、フランス、ドイツ、イギリスは平均経営規模が50ha前後です。この3国と比べると、スペインとイタリアは農家戸数が多く平均経営規模が小さいことがわかります。

・フランス:52万7000戸/52.1ha(農家戸数/平均経営規模)
・ドイツ:37.1万戸/45.7ha
・イギリス:30万戸/53.8ha
・スペイン:104.4万戸/23.8ha
・イタリア:167.9万戸/7.6ha

出典:農林水産政策研究所「平成22年度 世界の食料需給の中長期的な見通しに関する研究 研究報告書 第14章 EU」

一方で、同年の日本の農家戸数は260.5万戸、平均経営規模は1.7haです。これらのデータを比較すると日本でいかに小規模経営が多いのかわかります。

主な農業国はどこ?生産シェアの上位一覧

前出の農林水産政策研究所の資料によれば、2008年時点でEUの農業生産の高いシェアを占めるのはフランスが20%、次いでドイツの14%、イタリアの13%、スペインの12%です。この4カ国だけでEU全体の農業生産の6割近くを占めています。

各国の農産物の内訳を生産額ベースで比較すると、フランスでは小麦や大麦・とうもろこしやライ麦などの穀物が最も多く、次いでワインや牛乳、牛肉が多く生産されています。ドイツも穀物や牛乳がそれぞれ20%前後を占め、豚肉が続きます。


小規模経営農家の多いイタリアやスペインでは穀物、果実、野菜、ワイン、牛乳など多様な農産物がバランスよく生産されています。

めざす先は?ヨーロッパ農業の課題と農業政策

イタリアのブドウ園の自動灌漑装置。CAPは過去にEUの農業の近代化・工業化を推し進めてきた

Alberto Masnovo / PIXTA(ピクスタ)

ヨーロッパでは、EU加盟国はCAP(Common Agricultural Policy:EU共通農業政策)を実施しています。ここではヨーロッパの農業事情と、それに対するCAPの政策について解説します。

ヨーロッパ農業が抱える現状の課題

ヨーロッパはアメリカやオーストラリアに比べて、各国の歴史や文化、風土性を重視しており、その点では日本の農業に似ています。その反面で、CAPは過去にEUの農業の近代化・工業化を推し進めてきた経緯があります。

その結果、大量生産・大量消費や環境問題が深刻化しました。そこで、今度は有機農業を伸長するなど、CAPは農業の抱える問題に対する改革に着手しました。

現在、最大の農業国であるフランスをはじめとするEU各国では日本と同じく農業人口の減少や耕作放棄地の問題を抱えています。それに対してCAPでは、持続可能な農業を推進するための所得補助や環境保全に取り組んでいます。

めざすのは「持続可能で競争力の高い農業」

CAPが取り組む政策には2つの柱があります。農家への所得補助や市場施策など直接生産者側に影響する政策と、環境保全や競争力強化などの振興政策です。

具体的には、食の安全と環境を保全する持続可能な農業に取り組む農家への補助金の実施が挙げられます。世代交代を促すため、新規参入の40歳以下の若年農業者に補助金の交付を最長5年間延長するといった推進策もあります。

CAPは現在、環境保護やグローバリゼーションなどの農業を取り巻く問題に向き合いながら、持続可能で競争力の高い農業をめざしています。

ファーマーズマーケットの様子。持続可能な農業のあり方は消費者へのアピールにもなる

Maridav / PIXTA(ピクスタ)

日本農業との違いと、ヨーロッパ農業から学べること

ヨーロッパの中でもオランダは日本の九州と同じくらいの国土面積しかなく、他の国と比較して耕地面積が狭いながらも、世界第2位(2019年)の食料輸出額を誇ります。

オランダ農業の強みは、最新のICT(情報通信技術)や環境制御技術などを活用したスマート農業の実践と農地の集約化です。

オランダ農業は施設園芸が主体で、スマート農業を活用しやすい上に、日本よりもはるかに前から農場施設の大規模化や農地の集約化(クラスター化)を進めてきました。


2011年の時点で農家1戸当たりの農地面積は25haに達し、世界でもトップレベルの生産力を実現しています。

さらに、発電機が発生させた排熱を暖房に利用したり、CO2を植物の光合成に利用するなど、CO2削減に有効な技術も農業に応用されています。

農業のスマート化も農地の集約も、現在の日本がめざす方向であり、先行するオランダの限られた種類の農産物を大規模施設で大量生産する農業は大いに参考になります。

オランダ農業のよい部分を取り入れながらも、高付加価値によるブランド化など、日本ならではの戦略をとっていくことが求められるでしょう。

オランダ・マースデイクのレタス温室。オランダ農業の強みは最新のICT活用

Kloeg008 / PIXTA(ピクスタ)

多くの文化や風土の混在するヨーロッパでは、それぞれの土地の特徴を生かした農業経営を大切にしながら、EUとして統一した農業政策を進めています。

ヨーロッパの農業を取り巻く問題への対応は、日本にとって参考になるものも多く、日本独自の農業の特長を守りつつよいものを取り入れる姿勢が大切といえるでしょう。


※お役立ち情報:以下は日本のスマート農業の活用事例です。ご興味のある方はぜひご覧ください。

JAにいがた岩船 スマート農業事例JAとして全国初導入。県作況指数95の中、収量20%増を達成!

JAにいがた岩船
時田様、山田様、近様

■管内耕地状況
水田耕地面積:5,755ha
水稲作付面積:4,798ha

導入の目的

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▷営農指導員の育成期間の短縮化

課題・悩み

▷面積が大きく、砂地が多いことから、肥料がうまく効きづらい土地があり、強風が吹く地帯であるため、稲が綺麗に育たないことや生育が停滞することがある。
▷管内では高齢化が特に進んでおり、若手への指導が急がれている。

成果

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▷地力マップや生育マップにより、追肥のタイミングや追肥量の判断の確実性が上がった。
▷ザルビオのデータやAI分析を活用することで、通常5年ほどの経験が必要とされる営農指導が、3年ほどに短縮。

詳しくはザルビオサイトへ

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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