【ほうれん草のべと病】原因と防除方法、抵抗性品種のレースを解説
ほうれん草は周年栽培が可能で需要も高い野菜ですが、べと病を始めとした病害が多い作物でもあります。この記事では、ほうれん草のべと病について、特徴と防除方法とあわせ、抵抗性品種のレース表記についてもわかりやすく説明します。
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ほうれん草は発芽適温・生育適温ともに15~20℃で、冷涼な気候を好みます。寒さに強い一方、暑さには弱く、生育不良や病害の発生が多くなる傾向があります。
今回は、ほうれん草の病害の中でも重要病害の1つとされる「べと病」に焦点をあて、病害の特徴や防除方法、抵抗性品種のレース表記について説明します。
べと病とは?
「べと病」はさまざまな作物に見られる病害で、症状は作物によって異なります。
ほうれん草がかかるべと病は「ホウレンソウベト病」とも呼ばれます。主な原因や症状、防除方法は以下の通りです。
ほうれん草べと病の発生原因&主な症状
ほうれん草べと病 発病葉
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
べと病の発生原因
べと病の病原菌は、カビの一種である糸状菌で、学名は「Peronospora farinosa f.sp. spinaciae(ペロノスポラ・ファリノーサ・分化型・スピナシアエ)」です。
べと病は、盛夏と厳寒期にはあまり発生しません。その間、耐久性のある卵胞子という形、または、菌糸の形で越夏・越冬しています。一次伝染源は、種子伝染と土壌伝染と考えられています。
胞子の形成適温である7~15℃の時期になると、湿度の高い状態で、卵胞子あるいは菌糸から胞子が発芽します。この胞子が風に運ばれて健全な葉に付着し、葉の組織に侵入してべと病が発生します。
最適感染温度は8~18℃と比較的低く、春と秋、特に秋播き栽培の生育後期に多く発生し収穫に影響します。
べと病の症状
べと病の発生初期は、下位葉の表面に境界の不鮮明な黄白色の小さな斑点が現れます。進行すると葉の全体に黄化が広がり枯れてしまいます。
葉に黄化が見られる病害は多くありますが、べと病は、病斑のある葉の裏に灰色で粉状のカビ(胞子)が生じること、枯れた葉がべとべとになることが特徴です。
べと病の防除方法
ほうれん草べと病 分生胞子
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
べと病の感染拡大は、胞子が風に運ばれることによって起こります。そのため感染拡大のスピードが早く発生後の防除は困難になります。農薬による化学的防除とあわせ、耕種的防除を適切に行いましょう。
べと病に有効な農薬
べと病防除の基本は、農薬の予防的散布です。
レーバスフロアブル、ライメイフロアブル、アリエッティ水和剤、コサイド3000などの農薬を生育初期から定期的に散布します。薬剤抵抗性の観点から、同一系統の農薬を続けて使わないことも重要です。
一度べと病が発生したほ場では、作付け時に農薬の予防散布を行います。作付け時の予防剤としてユニフォーム粒剤(播種前)、リドミル粒剤2(播種時)などがあります。
※農薬を使用する前にラベルの記載内容をよく確認し、使用方法を守って正しく使用してください。
べと病の耕種的防除
タカ/PIXTA(ピクスタ)
抵抗性の品種を選ぶ・消毒済種子を用いる
まずはべと病に強い抵抗性品種を選びましょう。種子伝染防止のため消毒済種子やネーキッド種子(注)の利用も効果的です。
(注)ほうれん草の固い殻を取り除き裸にして発芽しやすくした種子。裸にした種子を保護するため殺菌剤でコーティングされている。
多肥と密植を避ける
窒素過多や密植栽培は、葉が軟弱になるため、べと病の発生自体や、発生した場合の感染拡大を助長します。施肥量、畝間や株間を適切に管理しましょう。
排水管理・湿度管理
べと病の病原菌は多湿を好むので、ほ場の水はけをよくし、ハウスの場合は換気などによる湿度管理の徹底も大切です。
被害残渣の処理
べと病の発生を認めたら、病葉と周辺の葉、または株ごと抜き取り、ほ場から離れた場所で焼却するか、土中に深く埋めて処分します。その後、農薬の散布を行います。
KY/PIXTA(ピクスタ)
【参考】べと病の抵抗性品種とレースについて
前述したように、ほうれん草のべと病を防ぐためには抵抗性品種を用いることが重要です。抵抗性品種の選定にあたって重要な情報が「レース表記」です。
実際に「新しいレースがでたらしい」「今度の新品種はレースXXに抵抗性がある」などとやりとりすることも多いのではないでしょうか。
ここでは、基本的なレース表記の仕組みを説明しますので、抵抗性品種を選定する際の参考にしてください。
「レース」表記とは?
ほうれん草べと病の病原菌には、病原性(注)が異なる病菌(注)が多種類あります。
(注)病原性:病原菌が宿主植物に病害を起す性質、能力
(注)病菌:病害の「病原菌」について、病原性の異なる菌を「病菌」と記載します。
抵抗性品種と一言で言っても、多種類ある病菌のうちどの病菌に対して抵抗性を持つかは、品種によって違います。いくつかの病菌に対して抵抗性を持っていても、別の病菌には抵抗性がないことがあります。
病菌に対する抵抗性は、品種の遺伝的特性によって得られるので、各品種がどのような抵抗性を持っているのかわかるように、抵抗性を持つレースに番号をつけ、品種ごとにどのレースを持っているかを表示しています。
抵抗性のレース表記は、以前は種苗業者ごとに異なっていましたが、現在は国際的な統一が図られ、種苗業者はこれに従い品種ごとに保有するレースを表示しています。
なお、ほうれん草べと病のレースは2018年4月現在レース1~17まで報告されています。
出典:国際種子連盟(ISF)ホームページ Disease resistance>USE OF DIFFERENTIAL HOSTS>Spinach Downy mildew
「レース」が次々増える理由
べと病の病原菌は変質しやすく、既に抵抗性を持つ品種を罹病させる、新たな病菌が次々発生します。
例えば「レースX抵抗性品種」を罹病させる新たな病菌が発生した場合、その病菌を「レースY」とし、その病菌に対する抵抗性を示す品種を「レースY抵抗性品種」と表示します。
既存の品種でも新しい病菌に対して抵抗性を持つものもあり、レース表記が増える場合もあります。
つまり、さきほどの「レースY抵抗性」を持つ品種を罹病させるさらに新しいべと病菌が発生し、それを「レースZ」とした場合、古い品種である「レースX抵抗性品種」が、新しいレースZに対して抵抗性を持っているというケースもあります。その場合は「べと病レースX,Z抵抗性品種」となるわけです。
レース番号やレースの種類数は大きければよい?
レース番号は病原性反応の違いを示しているので、番号が大きければより新しい病菌に対する抵抗性を持つことを表しています。(決して抵抗性の強さを表すわけではありません。)
また、レース表示の種類が多ければ、より多くの病菌に抵抗性があると言えます。
しかし、レース番号やレース表示の種類数が大きければよいというわけではありません。あくまで、ほうれん草を栽培しようとする、そのほ場に発生した病菌に対しての抵抗性がなければ意味がありません。
自分のほ場で過去に発生したべと病のレースや、作期作型を考えあわせ、総合的に品種を選定しましょう。
自分のほ場で新しいレースが?
抵抗性を持つ品種の栽培時にべと病の発生を認めた場合、新しいレースの発生が疑われます。特にレース1~8の抵抗性を持つ品種が罹病した場合は、農業試験場などにレース検定を依頼し指導を受ける必要があります。
KY/PIXTA(ピクスタ)
ほうれん草のべと病は、発生すると感染スピードが早く、発生後の防除は困難になります。また、抵抗性品種のレース分化が早く、品種選定だけで予防することも難しいといえるでしょう。
抵抗性品種の選定、農薬の予防的散布、耕種的防除を総合的に行って収量アップをめざしてください。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。