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ほうれん草の連作障害対策! 収量を保った周年栽培を実現するポイントとは?

ほうれん草の連作障害対策! 収量を保った周年栽培を実現するポイントとは?
出典 : たけちゃん / PIXTA(ピクスタ)

ほうれん草の周年栽培では、できるだけ多くの回数を作付けし、収益増を狙いたいところです。ただし、作付回数を増やしながら品質や収量を維持するには、連作障害への対策が必要です。病害虫の予防や適切な肥培管理、土壌消毒などを行い、品質・収量の安定化を図りましょう。

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ほうれん草は、栽培期間が短く、年に数回以上の作付けが可能です。しかし、同じほ場で作付けを繰り返すと連作障害を起こして品質や収量が低下し、深刻な病害虫被害を引き起こすこともあります。そこで、ほうれん草の収量を保ちながら連作するポイントを紹介します。

年間作付け回数が多く、連作障害の発生しやすいほうれん草

ほうれん草の露地栽培

亀利文 / PIXTA(ピクスタ)

ほうれん草の栽培期間(播種から収穫まで)は、夏期は25~30日、冬期では100日程度と比較的短いのが特徴です。そのため、露地栽培・露地トンネル栽培とハウス栽培を組み合わせると、「春播き」「夏播き」「秋播き」「ハウス栽培」の作型で、年4~8回程度の作付けが可能です。

ほうれん草のトンネル露地栽培

kpw / PIXTA(ピクスタ)

ただし、短い期間で連作を行うと、作付けごとに施肥と栽培を繰り返すことになり、リン酸、カリウムなど特定の養分だけが蓄積したり、反対に微量要素が欠乏したりして土壌の養分バランスが崩れてしまうことがあります。

その結果、生理障害や病害虫の発生によって作物の収量や品質が低下するといった連作障害が発生しやすくなります。

周年栽培で安定した品質・収量を保つためには、適切な土作りによる土壌環境の改善などの対策が必須です。また、連作障害で発生しやすい病害虫について知り、発生した場合でも早期に発見・防除できるように、次の項から注意が必要な病害虫について説明します。

ほうれん草のハウス栽培

akitaso / PIXTA(ピクスタ)

特に注意! 連作により発生しやすくなる病害虫とその症状

連作により発生しやすくなる土壌病害(土壌伝染性病害)と害虫被害について、「症状・発生した場合に生じる被害」および「原因と発生を助長する環境要因(土壌の状態など)」に分けて解説します。

子葉期・幼苗期に注意したい「立枯病」

ほうれん草 立枯病 発病株

ほうれん草 立枯病 発病株
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

病原体はカビ(糸状菌)の一種で、さらに高温・多湿を好む高温性ピシウム属菌や涼しい気候で活発になるリゾクトニア属菌などがありますが、発症した場合の症状はどの種の菌も同じです。

多湿の条件で発生しやすく、発症するとまず、下葉から黄化して萎れます。そして根や茎、胚軸の地際部が褐色の水浸状に変わり、やがて腐敗します。幼い株がかかると立ち消えて欠株となります。

株を枯死させ収量減につながる「根腐病」

立枯れ病と同じく病原体はカビ(糸状菌)の一種で、罹患株の残渣が土壌中に残り、第一次伝染源となります。菌は遊走子を形成して土壌に含まれる水の中を自由に遊泳して伝染するため、23~27℃で雨の多い時期に多発します。

発症すると、まず主根の地際から胚軸部にかけて水浸状になり、やがて黒褐色に変色して細くなると付け根から切れてしまいます。地上部は葉が黄化して倒れ、やがて枯死します。

発芽後10日前後 本葉が展開したほうれん草

ケイ / PIXTA(ピクスタ)

収量や外観品質に大きな影響をおよぼす「萎凋病」

病原体はカビ(糸状菌)の一種で、枯死した罹患株植物の体内で厚膜胞子という器官を形成し、植物の腐敗後も土壌中に十数年もの間生存します。そして、近くに新たな作物の根が伸びてくると、厚膜胞子が発芽して根から侵入し感染します。発病適温は27~28℃で、高温の時期に多発します。

罹患株は下位葉から黄化し、萎凋したのちに落葉します。また、主根や側根の先端部が黒褐色に変色し、生育不良となってやがて枯死します。この症状は、菌体によって導管が塞がれ、菌体の作る萎凋性毒素が体内に回るために起こります。

葉茎が萎凋する原因にもなる「センチュウ類(ネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウなど)」

ネコブセンシュウの被害(レタスの場合)

ネコブセンシュウの被害(レタスの場合)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

センチュウ類は、土壌中に生息する体調1mm弱の非常に小さな生物で、さまざまな種類が存在し、作物に被害をもたらすのは主にネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウの2種類です。ほうれん草では、特にネコブセンチュウの被害に注意が必要です。

ネコブセンチュウが寄生すると、根に大小のこぶが多数発生し、株の地上部は生育が悪くなったり萎れて萎凋したりします。悪化すると枯死に至ることもあります。

土壌内のセンチュウ類の密度が高いと発生しやすく、同じ作物を連作することで増えるので、被害のあったほ場では連作を避けましょう。

ほうれん草の連作障害を回避して周年栽培を実現するポイント

連作障害を回避しながら、周年栽培を実現するためには、どのようなことに注意すればいいのか、ポイントをまとめます。

防除の基本は、病害の発生を抑制する適切な肥培管理

ほうれん草 作期をずらした露地栽培での施肥

田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)

土壌病害が発生してしまうのは、土壌の養分のバランスが崩れることが大きな要因です。これを防ぐためには、作付けのたびに土壌診断を行い、pHや窒素・カリウム・リン酸の濃度、微量要素についても過不足のないように適切な施肥をしましょう。

また、病害の多くは多湿条件を好むため、多湿にならないよう灌水方法を改善したり、畝を高くして排水をよくするなど土壌物理性を改善することも有効です。

高めの畝に仕立てたほうれん草のほ場

亀利文 / PIXTA(ピクスタ)

土壌消毒+深すぎない耕うんで、土壌病害&センチュウ類の対策

土壌消毒

前作で土壌病害やセンチュウ類が発生したほ場では、土壌消毒をするといいでしょう。最も安定した効果を得られ、コスト面でも優れている方法が農薬を用いた土壌消毒です。

施設栽培の場合、土壌消毒の前に湛水処理をすることで、センチュウ類や多くの病原菌を防除できるうえ、その後の土壌消毒剤の効果を高めることが期待できます。

土壌消毒の方法には、そのほかに、太陽光を利用した「太陽熱消毒」や、フスマや米ぬかなどの有機物を土壌に混入し太陽熱で加熱する「土壌還元消毒」などがあります。

また、マリーゴールドやクロタラリアなどのセンチュウ類に対する対抗植物を前作にするなどの耕種的防除と土壌消毒の併用も有効です。

野菜類ハウスの太陽熱消毒

野菜類ハウスの太陽熱消毒
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

耕うん

根圏域を広くするために深度1m近くまで深耕する場合がありますが、土壌消毒をする場合、耕うんの深度も土壌消毒剤の注入も40cm程度を目安にそろえると効果的です。

耕うんの深度より土壌消毒の注入深度が浅いと、それより深く潜むセンチュウ類などを防除しきれないためです。

土壌消毒をする場合、耕うんの深度も土壌消毒剤の注入も40cm程度を目安にそろえる

hamayakko / PIXTA(ピクスタ)

石灰窒素を施肥や土壌消毒に活用する

石灰窒素を施用するだけでも、土壌消毒に有効です。石灰窒素は土に混ぜ込むことで、まず石灰窒素に含まれるカルシウムシアナミドや酸化カルシウム、炭素などの成分が農薬として病害虫や雑草の防除に効果を発揮します。

その後、10日ほどでそれらの成分が抜け、窒素、アルカリ分、炭素などの成分が残り、肥料として働きます。

ただ、窒素過多の状態は連作障害を引き起こすので、土壌診断を行ったうえで適切な分量を施用しましょう。また、石灰窒素施用は気温が低い地域の例であり、他地域では施用後播種までに数日あけたほうがよいでしょう。

石灰窒素を用いた太陽熱消毒「太陽熱・石灰窒素法」も効果を期待できます。この方法は、次の手順で行います。

切りワラを10a当たり1~2t目安に散布し、軽く水を撒きます。そのうえに10a当たり50~100㎏の石灰窒素を散布し、トラクターでワラごと深くすき込みます。

その後、高さ30㎝、幅60~70cmほどの小畦を作り、ビニールで土の表面を被覆したら、20cm程度浸水するまで灌水します。最後にハウスを完全密閉し、20~30日放置します。

石灰窒素の効果と上手な使い方についてはこちらの記事をご覧ください。

抵抗性、耐病性品種の選択も土壌病害の予防に有効!

連作をするのであれば、萎凋病などに抵抗性・耐病性のある品種を選ぶのもよい方法です。連作障害による病害の中でも、萎凋病については、系統によって発病率に差があり、最も発病しにくいのは東洋種と西洋種を組み合わせた系統です。

西洋種のほうれん草 東洋種のほうれん草

ふわぷか / PIXTA(ピクスタ)

萎凋病が発生しやすいほ場では、「ミラージュ」や「ジャスティス」など、萎凋病に強度の耐病性がある品種を選定するのがおすすめです。

株式会社サカタのタネ
「ミラージュ」商品ページ
「ジャスティス」商品ページ

例えば、萎凋病の発生しやすい夏場の作付けを、それらの品種に置き換えてもいいでしょう。ただし、強い耐病性はあるものの、激発ほ場ではやはり土壌消毒を行いましょう。

作型の一部をほかの作物に置き換える輪作体系も有効

連作障害を軽減するため、輪作体系を組むことも有効です。

農研機構東北農業研究センターでは、ほうれん草のハウス栽培について、冬季以外の春期作・夏期作の計4回の作付のうち、春期作をほうれん草以外の作物に割り当てる輪作体系の試験を実施しました。

その結果、春期作に、枝豆・サヤインゲン・ゴボウ・ニンジン・休閑に割り当てた場合に、連作の場合より収量が増加したと報告しています。

出典:農研機構東北農業研究センター「ハウス栽培ホウレンソウの夏期作の生育を改善させる作付体系」

ハウス栽培のほうれん草 夏期作

otamoto17 / PIXTA(ピクスタ)

土壌消毒や施肥設計を確実に行い、耐病性のある品種なども活用することで、ほ場を休ませることなくほうれん草を多数回連作することが可能です。

ただし、頻繁な土壌消毒や施肥は土壌に負担をかけるので、休閑を含めた輪作体系の導入も選択肢に入るのではないでしょうか。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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