中国農業の特徴と課題|「三農問題」解決に向けた取り組みとは?
日本のおよそ26倍の国土に、約14億人が暮らす中国は、世界一の農業生産額を誇る農業超大国です。しかし日本とよく似た農業問題を抱えていることは、意外と知られていません。そんな中国の農業の特徴と問題点、解決に向けた取り組みをレポートします。
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目次
中国は、世界の工場といわれるほどの先進工業国でありながら、現在世界で最も多くの農産物を生産する農業超大国でもあります。
その中国農業の特徴は、国内消費が中心で、巨大な生産量のわりには、産業として海外に輸出する仕組みが未成熟だという点にあります。
実際に今の中国ではどのような農業が営まれているのか、まずはその現状から探ってみましょう。
【中国農業の規模】農業生産額は世界一!農業に従事する人口は約2億人
猫爺/PIXTA(ピクスタ)
中国の農業生産額と食料輸出額
2018年のデータによると、中国における1年間の農業生産額は約112兆円で、2位以下に大差をつけての世界第1位です。日本の9兆円と比較すると、中国農業の規模の大きさがわかるでしょう。
出典:グローバルノート世界の農業生産額 国別ランキング・推移
中国では食糧自給率が100%を超えており、1人当たりの年間食料供給量は480kgと、世界の平均を37%も上回っています。
出典:総務省統計局 世界の統計2020
ところが、世界の農産物・食料品輸出額を見ると、2019年にはアメリカの約15兆円が第1位であるのに対し、中国は約8兆5,000億円で第4位です。
これらのデータから、国内消費が中心で輸出産業としては未成熟であると考えられます。
出典:グローバルノート世界の農産物・食料品 輸出額 国別ランキング・推移
農業に従事する人口は約2億人
労働力の面からみると、日本の農業就業人口が2019年に約168万人だったのに対し、中国では農村部人口が約3億4,000万人で、そのうち農業に従事していると推測されるのは約2億人です。
出典:JETRO中国の就業者数、57年ぶりに減少
出典:農業労働力に関する統計
【中国農業の特徴】小規模分散型農業
中国農業の特徴でまず挙げられるのは、小規模農家が多いことで、農業経営体1戸当たりの耕地面積は、日本の3分の1程度の0.64haしかありません。
極めて小規模な農家の集合体が、世界最大の農業生産額を産み出しているのです。農業経営体当たりの耕地面積の狭さは日本の農業と共通する点です。
前述の農業生産額や農業人口のデータを総合すると、中国では農業人口が多く生産額も巨大ですが、アメリカのような大規模集約型の農業ではなく、日本と同じような小規模分散型の農業が行われていることがわかります。
【中国の主要農産物】主な農業地域と主要農産物
jun/PIXTA(ピクスタ)
現在、中国の総耕地面積は約1億1,900万haで、国土面積9億3,900万haの約12.7%を占めています。歴史的に見ても昔から中国では、長江を境にして北側では小麦を生産し、南側では稲作中心の農業が営まれてきました。
中国全土は大きく4つの農業地帯に分けられます。以下に主要農業地帯と主要農産物をまとめてみましょう。
1. 華北・東北地域:長江以北に広がる畑作地域
冬季にはかなり寒くなる東北地域では、小麦や大豆などを1年に1作で生産しています。より温暖な華北地域では、小麦ととうもろこしの2毛作が中心です。さらに、野菜の一大産地でもあります。
2. 河東・河南地域:長江以南の稲作地域
水に恵まれて温暖な気候のこの地域では、基本的に小麦と水稲の2毛作が中心で、南部にいくほど水稲の2期作が盛んになります。ほかにも茶・生糸・野菜なども栽培されています。
3. 西北地域:中国西部に位置する砂漠や草原が広がる地域
降水量が非常に少なく乾燥した気候のため、小麦ととうもろこしの2毛作を基本にしているものの、どちらか1作しかできない地域も増えています。ほかには牛や羊の放牧も盛んです。
4. 青蔵高原地域:チベット自治区を含む標高4,000m以上の高地
極めて標高が高いため、一般的な農業には向いていません。一部で放牧を中心に畜産が行われているのみです。
中国全土で見ると、米と小麦それぞれ単独でも、穀類として合計しても、生産量は世界一を誇っています。加えて、イモ類・キャベツ・トマト・きゅうりなどの主要野菜も軒並み世界一です。
意外なところでは、りんごやブドウなどの果物も世界一で、オレンジやバナナなども含めて、近年果物の生産量が増加しています。
中国農業が抱える課題「三農問題」とは?
mina/PIXTA(ピクスタ)
中国農業の大きな課題は「農業問題」「農村問題」「農民問題」です。この3つは、「三農問題」と呼ばれ、中国政府にとっても最重要課題になっています。これは具体的にはどのような問題なのでしょうか?
農村の貧困が原因で生じた3つの課題
三農問題の根は深く、1950年の土地改革にまでさかのぼります。この当時に小作農となった人々が、小規模な農地で農業を始めたのがきっかけで、その後の経済発展により労働力が都市部に流出したことから、農村経済が立ち行かなくなりました。
その結果「生産性の低下」と「農村の疲弊」、「農家所得の低迷」という3つの問題が浮き彫りになりました。
生産性の低下を「農業問題」、農村の疲弊を「農村問題」、農家所得の低迷を「農民問題」と呼び、あわせて「三農問題」としています。
農民問題は特に深刻で、都市部と農村部の所得格差が広がったことで、農民による暴動にまで発展しています。
中央政府による三農政策への財政支出
現在中国政府は三農問題を解消するため、毎年15兆円にも及ぶ予算を投入しています。具体的にはインフラ整備や補助金制度の導入、さらに農地集積による生産性の拡大などが国策として行われています。
農家に対しては、土地使用権の強化や農業税の廃止と、食料最低買入価格の設定などを通して、所得を含めた生活の質向上が図られています。
とはいえ、依然として、所得が少なく、農産物の価格変動の影響で打撃を受けやすい小規模農家が多く、三農問題の1つ、農民問題を根本的に解決するには至っていません。
共通の課題も多い日本と中国の農業。今後さらに発展していくためにできること
Sean Pavone/PIXTA(ピクスタ)
ここまで中国農業の現状を見てきましたが、日本の農業が抱える問題との共通点が多いことに驚かされます。日本でも中国と同じように、農地中間管理機構の整備などにより、農地を集積して生産性を高める取り組みが行われています。
日本と中国に共通する取り組みとしては、高付加価値の農産物生産への転換や、さらなる機械化とロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現する「スマート農業」の導入などが挙げられます。いずれにせよ、農業の構造的な改革が求められていることは間違いないでしょう。
世界最大の農業生産国として、中国には世界中に農産物を供給しているイメージがあったのではないでしょうか。しかし、現実には国内での消費が多く輸出産業としては未成熟です。
また、広大な農地を持っていますが、小規模農家が多く農地の集約化が進んでいません。
これらの面では、日本と同じような問題を抱えているといえるでしょう。今後、中国がこうした問題をどのように解決していくのか、日本の農業にも参考にできることがありそうです。
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大澤秀城
福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。