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ほうれん草の施肥量の基準とは? 設計方法と品質を上げる栽培のコツ

ほうれん草の施肥量の基準とは? 設計方法と品質を上げる栽培のコツ
出典 : 東北の山親父 / PIXTA(ピクスタ)

ほうれん草は種類が多く、毎日の食卓には欠かせない野菜です。しかし、肥料の与え方によっては生育障害や病気が発生しやすくなるため、栽培上、施肥設計が非常に重要です。効果的な施肥方法と、高品質なほうれん草を栽培するための注意点について紹介します。

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ほうれん草は播種から収穫までの期間が短く、年5~6回の作付けを行う周年栽培が一般的です。そのため、水稲用育苗ハウスで、裏作として栽培するケースも多く見られます。

しかし、肥料の与え方が難しい野菜といわれています。この記事では、ほうれん草の施肥設計と、品質基準を高めるための栽培方法について解説します。

ほうれん草栽培に適した土壌

日本の土壌は全般的に、酸性化する傾向が強いといわれています。ほうれん草は、野菜の中でも特に酸性土壌を嫌う特徴があります。

ほうれん草栽培に適した土壌は、pH6.2~7.0程度の微酸性から中性の土壌です。もしもほ場の酸度がこれよりも強いときには、土作りの段階で堆肥や苦土石灰を投入して、適正なpH値になるように調整しなければなりません。

ほうれん草の施肥設計の方法と施肥量の目安

農業 トラクター

hamahiro / PIXTA(ピクスタ)

ほうれん草は作付け周期が短い作物なので、基本的には基肥を主体に施肥設計を行います。施肥量を控えめにして、不足する養分だけ補充することを優先するのがポイントです。

この項では、ほうれん草の施肥設計で注意すべき点について紹介します。

作型別の施肥量目安

minorasu(ミノラス)の画像

出典:農林水産省「主要作物の施肥基準 ほうれんそう」よりminorasu編集部作成

ほうれん草に限らず、主要作物については、都道府県ごとに施肥基準が定められている場合が多く、ほうれん草の作型別の施肥基準も地域によって異なります。

農林水産省のHP「都道府県施肥基準等」のページに、各都道府県の施肥基準や土壌診断基準、栽培指針が集められているので、標準となる施肥設計はこれを参考にするとよいでしょう。

農林水産省「都道府県施肥基準等」のページはこちら

作型による施肥量の違いは、主に、10a当たりの目標収量と生育期間の長短、気温による養分吸収量の違いによります。

一般に、10a当たりの目標収量は、夏播きでは800kg程度、春播き・秋播きが1,500kg程度です。また、生育期間は夏播きで短く、秋播きでは長くなり、養分吸収量は高温期に少なく低温期に多くなる傾向にあります。

これらを考慮して作型別の施肥基準が策定されていると考えてよいでしょう。

ほうれん草の場合、基本的には基肥を主体に設計しますが、生育期間が長くなる秋播きや降雨が多かった場合には、窒素(N)とカリウム(K)の追肥を行うようにします。

後述するように、連作する場合は前作の肥料が残存しやすいため、1作ごとに土壌診断を行い、その結果に応じて標準の施肥基準から適切に減肥することが推奨されています。

堆肥を施用する場合は、堆肥の保有する成分まで考慮した施肥設計を行います。

また、リン酸(P)資材を施用する場合は、酸性土壌を避けるため、硫安(りゅうあん)・過リン酸石灰などの使用は控え、尿素やヨウリンなどの中性またはアルカリ性の資材を使いましょう。

連作するほうれん草は肥料分が残存しやすい

ほうれん草栽培は短い生育期間での連作になるので、土壌中に前作の肥料分が残りやすく、特にハウス栽培では、雨による肥料分の流出が少ないためその傾向が一層強くなります。

窒素過多に気を付ける

ほうれん草は、硝酸態窒素(注)を葉や茎に蓄積しやすいことに注意しましょう。窒素分が過剰になると、病害虫の被害を受けやすくなり、商品としての日持ちも悪くなります。

(注)硝酸態窒素:大気中の窒素は、微生物などによって土壌に取り込まれ、硝酸態窒素に形を変えます。植物は大気中の窒素を直接吸収できないので、この硝酸態窒素を根から吸収することで窒素を取り込み、体内に蓄積します。

「硝酸イオン測定キット」などの名称で簡易測定器が販売されていますので、施肥前に硝酸態窒素を測ることをおすすめします。

土壌中の硝酸態窒素濃度と収量とは相関関係にあり、濃度が100g当たり20mgを超えると収量は減少します。

施肥設計の一例として、硝酸態窒素濃度が100g当たり7mg程度だった場合には、10a当たり3kgの窒素成分施肥を行います。その後、硝酸態窒素濃度を測定してみて、100g当たり20mg以上になっていたら施肥を行わないようにしてください。

塩類集積に気を付ける

ほ場のEC(電気伝導度)(注)が高すぎる場合や、前作の肥料の残効が大きい場合には、基肥を減らして追肥を調整することで、肥料焼けなどの生育障害を避けることが重要です。

(注)EC(電気伝導度):ECはElectrical Conductivity の略。土壌中には、作物の栄養分となる物質が塩の形(酸と塩基の化合物)で存在しています。肥料でいうと硫酸アンモニウムや硝酸アンモニウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウムなどです。

EC値が高いということは、土壌中の塩類濃度が高いことを示し、あまり高いと塩類集積と呼ばれる現象が起こっている可能性があります。

EC値が、1.0mS/cmを超えると塩類濃度障害の疑いがあり、1.5mS/cmを超えると発芽障害や生育障害が出やすくなります。

前作に続いて次の作付けをする場合には、「簡易土壌診断」を行ってEC値を確認します。その結果をもとに次作の施肥は、EC値0.5mS/cmを基準に考えます。この値よりも小さければ施肥量を増やし、大きいときには減肥を行います。

2作目以降の作付けでは必ず土壌診断を行って、測定したEC値に合わせて施肥計画を立てるようにしましょう。

特に窒素の残留量が過剰になりやすいため、EC値を確認したうえで、標準量の半量以内の施肥に抑えるとよいでしょう。

養分の過不足で発生する主な生理障害

繊細な施肥が重要なほうれん草栽培で、肥料バランスが崩れるとどのような問題が起きるのでしょうか?

肥料分の不足で起きやすい症状

窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)の三大栄養素が不足した場合、まず窒素(N)不足では葉が全体的に黄色くなり、生育不良の症状がはっきりと現れます。リン酸(P)が不足しても生育が抑制され、悪化すると下葉から徐々に枯死してしまいます。

カリウム(K)が不足した場合は、葉による光合成ができなくなり、葉脈以外が黄色や白色に変化するクロロシス(白化、黄白化)が発生しやすくなります。同時に根腐れを起こすこともあります。

肥料分の過多で起きやすい症状

一方で肥料が過剰になると起きる生理障害もあります。

亜硝酸ガス障害
葉脈に白斑が生じる亜硝酸ガス障害を起こしやすくなります。原因は多肥による土壌中の亜硝酸濃度の上昇です。

急激な温度上昇にともなって起きやすいので、ハウス栽培の場合は換気を強めます。
露地栽培の場合、作付け前なら石灰を多めに施して予防しますが、栽培中は窒素と反応してアンモニアガスが発生する可能性があり、おすすめできません。


ホウ素過剰
ホウ素が過剰になると、葉の先端が白化したり、クロロシスが発生したりします。これはホウ素施肥量の過多が原因となっているので、通常は土壌pHを高めるなどの対策を行います。

施肥方法から見る、品質を上げるほうれん草栽培のコツ

ほうれん草 収穫

KY / PIXTA(ピクスタ)

最後に、施肥方法によってほうれん草の品質を高める方法を紹介します。

硝酸の含有量を低下させるポイントは「カルシウム濃度」

ほ場の硝酸態窒素濃度が高くなると収量が低下するだけでなく、日持ちしなくなるため、相対的に商品価値が低下します。高品質なほうれん草を出荷するためには、硝酸の含有量を減らすように管理します。

土壌中の窒素成分が多いほど、葉に含まれる硝酸は増える傾向にあります。対策としては、土壌中の窒素とカリウムを減らしてカルシウムを増やして、葉の部分に含まれる硝酸の量を抑えます。

緩効性窒素肥料の全層施用でシュウ酸含有率が低下

ほうれん草はほかの野菜に比べて、「えぐみ」の原因となるシュウ酸が多く含まれています。

ほうれん草はゆでて食べるのが主流ですが、これは、水溶性のシュウ酸がゆでることによって流出するためです。シュウ酸は「えぐみ」のほか、尿路結石の原因になり得るため、過剰な摂取を控えたほうがよいと言われています。

このシュウ酸含有量を減らすためには、窒素をアンモニア態としてほうれん草に吸収させることが効果的です。

農研機構(注)の研究によれば、露地栽培では、緩効性の窒素肥料を全層施肥することにより、含有量を減らせることが確認されました。

(注)国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構

EC値が高くなるとミネラル含量は下がる

生育障害の原因になる高いEC値は、ほうれん草の品質低下にもつながります。EC値が高くなりすぎると、カルシウム・マグネシウムなどのミネラル分の吸収が抑制されてしまいます。

ミネラル分は野菜の食味と栄養価を高めることから、品質のよいほうれん草を栽培するためには、適切な施肥によって十分なミネラル分の量を確保することが重要です。

短い周期で連作を行うことが多いほうれん草栽培では、施肥の方法や量を総合的に考慮した施肥設計が重要です。高品質なほうれん草を出荷できるかどうかは、適切な肥料の与え方にかかっているともいえます。

これまで土壌診断を行っていなかった農家の方も、ぜひ作付け前の土壌診断を行い、施肥設計を見直してみてはいかがでしょうか。

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大澤秀城

大澤秀城

福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。

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