もち麦栽培のポイントは? 高収益作物として注目!
健康的な食材としてもち麦の需要が急増しています。また、消費者の国産志向を背景に国産もち麦の生産拡大も期待されています。この記事では、もち麦栽培を検討している農家の方向けに、需給状況、新品種、もち麦栽培を検討する際の留意点を解説します。
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大麦の一種であるもち麦の需要が、ここ3年ほどで急増しています。2016年頃からの雑穀ブームをきっかけに、国内需要が大幅に拡大しています。
現状では供給が追い付かずその大部分を輸入に頼っていますが、今後も高い需要が見込まれる作物、また収益性の高い作物として、各地で増産の試みが始まっています。
この記事では、もち麦の導入に関心がある農家の方向けに、需要と国内の生産状況、次々開発されている新品種、もち麦栽培を検討する際のポイントについて紹介していきます。
もち麦とは? 機能性食品として注目
kuro3/PIXTA(ピクスタ)
大麦には米と同じように「うるち性」と「もち性」の品種があり、「もち性」の大麦がもち麦です。
押し麦などのうるち性品種と比べて食物繊維(水溶性食物繊維のβ-グルカン)が豊富であることや、独特のぷちぷち・もちもちとした食感、そのまま米に混ぜて炊ける手軽さなどが特長です。
もち麦の高まる需要
雑穀ブームでもち麦の需要が急増
国内のもち麦の需要は、2016年頃からの雑穀ブームが契機となって急増しました。
もち麦が消費者に健康的な食物の1つとして広く認知されるようになったのは、2016年頃と言われています。テレビ放送などによって、健康への好影響が期待できる水溶性食物繊維を多く含む食品としてもち麦が注目されるようになったのです。
農林水産省の農林水産政策研究所の研究によると、その頃からもち麦を使用した製品の販売額が急増しています。
1,000人当たりのもち麦使用製品の販売額をみてみると、2016年1月にはおよそ100円でしたが、同年の6月にはおよそ400円と約4倍になりました。
さらに2017年1月にはおよそ1,000円にまで伸長し、その後も高水準を保っています。
出典:農林水産省農林水産政策研究所「日本の麦-拡大し続ける市場の徹底分析-(民間流通制度導入後の国内産麦のフードシステムの変容に関する研究(大麦編))」
もち麦の主な仕向け先
家庭消費用のほか、中食や外食メニュー用などに広く採用されています。
家庭用では、ご飯への炊き込み用やシリアルなどに、コンビニエンスストアやスーパーなどの中食ではおにぎりや弁当類に、外食では雑穀ごはんメニューやカレーなどで定番化してきています。
また、栽培地域の学校給食でも食育の一環として採用する例があります。
my room / PIXTA(ピクスタ)
高収益作物として期待されるもち麦
国産のもち麦は非常に少ないものの、品質や消費者の国産志向の面から精麦加工業者や食品メーカーなどの仕向け先は、国産のもち麦の供給を望む傾向にあります。
そのため、うるち性の大麦よりも高い販売単価での取引が期待できます。
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下・農研機構と記載)の「もち性大麦品種標準作業手順書」では、販売収入と交付金収入(注)、メーカーとの直取引などで、10a当たり約20~40%の増収を実現可能とする試算例が紹介されています。
(注)「大麦生産に関する交付金(経営安定対策)」の対象となる場合
出典:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構「もち性大麦品種標準作業手順書」
もち麦の国内における生産状況
adigosts/PIXTA(ピクスタ)
高まるもち麦の需要に対し、供給はどうなっているのでしょうか。
もち麦の国内生産量は伸長傾向
2018年のもち麦の国内需要量は約3.5万tと報告されていますが、その約9割を外国産がまかなっている状況です。
しかし、国内生産量(注)も年々大きく伸長しています。2016年産は約270tだったのに対し、2017年産約1,270t、2018年産約2,400t、2019年産は約8,580tと、3年間で20倍以上になっています。
(注)日本農業新聞掲載記事による。農林水産省の大麦の銘柄別の農産物検査結果のうち、もち性大麦品種の検査量を集計し生産量としています。
出典:日本農業新聞
2019年12月8日「機能性に魅力 実需が国産要望 もち麦1年で3・5培 19年8000トン超 需要伸び品種充実 産地追い風」
2019年4月19日「もち麦生産倍増 19年産 新産地参入相次ぐ 「健康志向」で市場急拡大」
2018年8月28日「もち麦 今年産2000トン迫る 健康志向で参入相次ぐ」
2017年6月11日「もち麦 機能性で注目 市場急拡大 国産わずか、輸入4倍 「定着する商品」産地化を」
増産を後押ししている要素の1つが、栽培しやすい品種の開発や品種改良です。
農研機構や各地の農業試験場などでは、2016年以降、「多収」「耐病性」「食味や機能性の高さ」などをポイントに、もち麦の品種改良に取り組み、北海道から九州まで各産地での導入・普及を支えています。
もち麦の主な産地と増産の取り組み
もち麦はもともと中四国や九州の一部地域で作られていた作物ですが、先に述べたような品種開発や普及が進み、栽培地域が広がりました。
現在の主産地は、九州・関東・東海・北陸で、北海道・東北でも栽培されるようになりました。
主な産地でのもち麦の導入・増産事例を紹介します。
福井県
生産余剰気味だった六条大麦からの一部置き換えとして、2017年に寒冷地向けの新品種「はねうまもち」を導入、2019年には奨励品種に採用しました。
複数のJAが産地を限定して大手精麦メーカーに仕向けています。もち麦生産量は国内最多(2,000t超)を誇ります。
宮城県
精麦白度が高く品質に優れる新品種「ホワイトファイバー」を2016年に県の奨励品種に採用しました。
2019年から一般作付を開始し、初年の2019年産の生産量は764tでした。今後は、県として原種と原原種の生産と一般作付向けの種子供給の体制を整え、作付面積を増やしていく計画です。
千葉県(農業組合法人アグリささもと)
千葉県の農業組合法人アグリささもとは、大規模水田経営を行っていましたが、転作麦の有望品種として「きはだもち」の栽培を2017年より開始し、2018年には10a当たり611㎏/10aの高単収を記録しました。
自社で精麦し、町のふるさと納税の返礼品、地元店舗やJA直売所へ販売していますが、注文に応じきれない状況です。
今後は、精麦加工業者への販路を開拓し、作付面積を拡大していくことを予定しています。
福岡県(有限会社田中農産)
有限会社田中農産は、福岡県築上郡の干拓地にある大規模生産法人で、水稲、野菜のほか、うるち性大麦の生産を行っていました。
需要が高まるもち性大麦の栽培に関心を持ち、2016年に九州が栽培適地のもち性二条大麦の「くすもち二条」の試作を4.3haで実施しました。
もともと、全国麦作共励会・農家の部(注)で入賞するなど、麦作の高い技術を有していたこともあり、試作段階でうるち性大麦をはるかに超える高収量(10a当たり459㎏)を達成しました。
2017年から本格導入、2018年には栽培面積を20haに拡大しました。
(注)全国麦作共励会は、先進的で他の模範となる麦作農家及び集団を表彰し、その業績を広く紹介するもの。一般社団法人全国米麦改良協会、全国農業協同組合中央会の主催により開催され、農林水産省が後援している。
自社で乾燥・調整を行い、全量を県内の精麦加工業者に販売することで、既存のうるち性大麦に比べ、高い収量・高い収益を実現しています。
出典:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構「もち性大麦品種標準作業手順書」
もち麦の主要品種
ykokamoto/PIXTA(ピクスタ)
2016年から2019年までの間に、もち性大麦の品種は5品種から8品種に増え、また、産地品種銘柄の採用も、2016年~2019年の3年間で6県から18道県に拡大しました。
寒冷地でも栽培可能な品種の開発、水溶性食物繊維のβグルカンの含有量や食味、食べやすさなど消費者ニーズに応じた品種開発も進んでいます。
これまで寒冷地では栽培されてこなかったのですが、寒冷地向けの品種開発が進んだことや病害に強い品種の登場などで栽培地域も広がっています。
各地域の代表的な品種を紹介します。
<寒冷地向け>はねうまもち
農研機構 中央農業研究センターが育成し、2019年に品種登録された、北陸から東北向けの新品種です。
北陸地域で主に栽培されている六条大麦「ファイバースノウ」の突然変異で、草姿、出穂・成熟期などが似ていて栽培しやすいのが特徴です。
多収、もちもちして食味が良い、精麦時間が短い、など経営上の利点もあります。
福井県・新潟県をはじめ、北海道や東北各県、山梨、滋賀や広島などでも広く作付されており、作付面積は約1,000ha(2019年)と国内最大規模です。
<寒冷地向け>ホワイトファイバー
長野県農業試験場が育成し、2019年に品種登録された、寒冷地・多雪地向けの新品種です。
早生で、精麦白度が高く、白米や五穀米に混ぜて食べる健康食品として流通しています。β-グルカン含量は精麦後で7%前後です。
宮城県、長野県、石川県などで栽培され、作付面積は361ha(2019年)です。
<関東平坦地向け>もち絹香
栃木県農業試験場が育成し、2020年10月現在品種登録出願中の、関東平坦地向けの新品種です。
炊飯後に変色しにくい、炊飯後の麦特有の香りが少ない、精麦白度が高い、など白米に混ぜて食べるのに向いています。
精麦時間はやや長めですが、重要病害であるオオムギ縞萎縮病の主要なウイルス系統に抵抗性があり、栽培しやすい品種です。
主に栃木県で栽培されており、作付面積は同県内で約100ha(2020年見込み)です。
<関東~東海向け>きはだもち
農研機構 次世代作物開発研究センターが育成した関東から東海地域向けの新品種です。2020年10月現在品種登録出願中です。
β-グルカン含量が精麦後で8%前後と高めで、食味もよいとされています。
また、多収で、重要病害であるオオムギ縞萎縮病の主要なウイルス系統に抵抗性を持つ、穂発芽しにくい、倒伏しにくい、という栽培上の利点を多く持っています。
品種登録出願中ですが、既に千葉県と栃木県で栽培されており、作付面積は約5ha(2019年)です。
<関東以西向け>ダイシモチ
四国農業試験場(現・農研機 構西日本農業研究センター)で育成され、2000年に品種登録された、関東以西向けの品種です。
実った穂は紫色をしており、抗酸化物質のアントシアニンを含み、炊飯後、冷めても固くなりにくいのが特徴です。
栃木県、滋賀県、広島県、徳島県、香川県、佐賀県、熊本県など関東以西の広い地域で栽培され、作付面積は約300haです。
<関東以西向け>キラリモチ
近畿中国四国農業研究センター(現・農研機構 西日本農業研究センター)で育成され、2012年に品種登録された関東以西向けの品種です。温暖地向けですが、北海道での春栽培が可能です。
収量は少なめですが、炊飯後変色しにくく、香り、柔らかさ、食味に優れています。
北海道、茨城県、埼玉県、愛知県、岡山県、広島県、愛媛県、佐賀県などで栽培され、作付面積は約400ha(2019年)です。
<関東以西向け>ワキシーファイバー
作物研究所(現・農研機構 次世代作物開発研究センター)で育成され、2018年に品種登録された、関東以西の温暖地向けの品種です。
β-グルカン含量がほかの品種より特に多いのが特徴です。一般の品種の精麦後のβ-グルカン含量が6%前後であるのに対し、ワキシーファイバーは13%前後と2倍以上です。
総食物繊維量も一般の品種の2倍以上で、粉利用やシリアルに向いています。
愛知県で栽培されており、作付面積は約10ha(2019年)です。
<九州向け>くすもち二条
農研機構 九州沖縄農業研究センターで育成され、2019年に品種登録された九州向けの新品種です。
草丈が約75cmと短いため倒伏しにくい、多収であるという特徴があります。
主に福岡県で栽培されており、福岡県内の作付面積は約250ha(2019年)です。
もち麦栽培を検討する際の留意点
hinooto/PIXTA(ピクスタ)
もち麦は天候に左右されやすいデリケートな作物です。導入にあたっては、地域に合った品種選定、品種に合わせた栽培管理、排水対策の徹底などが重要です。
基本的な栽培管理
もち麦の栽培方法は、うるち性大麦と変わりはありません。
基本的な栽培管理については、各都道府県には大麦の栽培指針があるので、これに従います。
品種選定
前述したように、寒冷地と温暖地、無雪地と多雪地など、地域の気候特性に適した品種があるので、産地に適した品種を選び、播種と収穫の適期を守ります。
播種適期を逃すと減収することが多いので、播種が遅れた場合は、播種量自体を10~20%増やすようにします。
連作を避ける
大麦は連作すると立枯病、オオムギ縞萎縮病などの病害の被害が増幅しやすくなります。また病害だけでなく、種子混入のリスクも発生します。
基本的に連作を避け、水稲や大豆などとの輪作することが推奨されています。水稲と組み合わせた輪作体系は、雑草抑制の観点でも有利です。
土壌管理
大麦の栽培では、酸性土壌やリン酸欠乏による生育不良も問題になります。
土壌酸度が高いと生育不良や発芽障害を起こす場合があるので、播種前に苦土石灰などで酸度を調整します。
リン酸は根の生育や分けつ、結実などに影響します。火山灰土壌などでリン酸が不足する場合は、リン酸質の農業資材を用いて土壌改良を行います。
湿害対策
麦類は乾燥した気候の中央~西アジア原産なので、大麦も湿害を受けやすい作物です。
水田の裏作では、土壌改良資材の投入、サブソイラによる心土破砕、排水路や暗渠の設置などの排水対策を徹底します。
生育中に冬を越すので、雪解け水や雨水がたまらないようにし、収穫期の長雨、刈り遅れにも注意します。
主な病害
大麦の重要病害は、オオムギ縞萎縮病、うどんこ病、赤かび病などです。
オオムギ縞萎縮病、うどんこ病については抵抗性品種の選定と農薬による防除が基本です。
生育後期に雨が多い日本では赤かび病が発生しやすく、赤かび病の病原菌が産生するかび毒(注)が穀粒に蓄積されることが懸念されます。
(注)植物病原菌であるかびや貯蔵穀物などを汚染するかびが産生する化学物質で、人や家畜の健康に悪影響を及ぼすもの
赤かび病の発生が確認されてから防除してもかび毒の産生は防げません。品種に応じた防除適期を逃さずに、予防的な殺菌剤散布を行い、発生を予防します。
情報収集
もち麦に関しては、需要の高まり、全国的に進む品種育成や奨励品種の指定など、農家としては導入検討にあたって前向きな要素が多くあります。
一方、産地形成の過渡期であるからこそ、新品種の情報や栽培指針や栽培マニュアルが、毎年のようにアップデートされていきます。
導入検討にあたってはこまめな情報収集も重要な要素になるでしょう。
国産のもち麦は、消費者の健康意識、国産志向の高まりを背景に、仕向け先から生産拡大を期待されています。
需要がある一方、栽培技術や産地形成、販路開拓の面ではまだまだ伸びしろが大きい作物であると言えそうです。
栽培上の留意点はあるものの、導入地域では試験栽培から短い期間で本格導入に至るケースも多く見られます。地域によりますが、自治体による支援もありますので、新たな収益作物として導入を検討されてはいかがでしょうか。
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柳澤真木子
父の実家が農家で母も生活協同組合を活用していたことから、農業や食料に関心を持ち、 大学卒業後の5年間をJAの広報部門で、以後5年を食品小売会社の広報として働く。 消費者向け農業メディアの企画執筆経験や、JAグループ・農林水産省の広報紙の記事執筆経験がある。 その後、出産・育児を経て、2019年からライターとして活動を開始。 ライフスタイル、ヘアケア、農業など複数ジャンルでの記事執筆を手がけている。