農家の確定申告!農業の場合、青色申告には何が必要?知っておきたい基本の流れ
農業を営む個人事業主が確定申告を行うなら、租税上のメリットがある青色申告がおすすめです。青色申告では、事前に承認申請書を提出する必要がありますが、最大で65万円の所得控除が受けられるほか、その年の赤字を最大3年間、翌年以降に繰り越せるなどのメリットがあります。
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農家で、かつ、個人事業主であれば、期日までに必ず確定申告を行う必要があります。この記事では、農業を営む個人事業主にとっての租税上のメリットが大きい青色申告について解説します。必要書類や手続きの流れ、書類作成時の注意点などもまとめています。
農業収入の確定申告、どうすればいい?まずは基本を確認
jampan / PIXTA(ピクスタ)
農業で収入を得たら、自分で確定申告を行わなければなりません。就農してから初めての確定申告となると、不安に思う方も多いのではないでしょうか。そこで、ここからは農家の確定申告の具体的な方法や注意点について、実情に即して解説します。
確定申告のやり方に差はある?個人と法人の違い
個人事業主であっても、法人であっても、農業経営者は、一般的な事業者と同様に確定申告を行う義務があります。個人事業主と法人の場合で、必要な書類や手続き、申告する税金の種類、期日などが異なるのは一般事業者と同じです。
個人事業主の場合
個人事業主が納めるのは、主に所得税、消費税、復興特別支援税の3種類です。一方の法人では、法人税、消費税、都道府県民税、市町村民税、法人事業税の5種類を申告する義務があります。
個人事業主の事業所得は、一括して事業主の所得として申告する必要があります。それに対して法人の場合は、事業所得と区別して、役員報酬や社員の給与を算出しなければなりません。
個人で農業を営んでいる人は、確定申告で1年間の収入を申告する義務があります。1月1日から12月31日までの収入と、経費のすべてを帳簿に記録し、翌年の2月16日から3月15日までに、確定申告として提出しなければなりません。
農業法人の場合
一方の農業法人は、確定申告ではなく決算処理を行います。事業年度はそれぞれ自由に設定できますが、設定した事業年度の年度末から2ヶ月後の月末までに決算処理を行い、法人税などを納める必要があります。
ここからは、主に個人事業主として農家を経営している人にとっての、具体的な確定申告のやり方について解説します。
青色申告するためには事前の申請が必要!
個人事業主の確定申告には、「白色申告」と「青色申告」の2種類があります。
白色申告
白色申告は事前に承認申請書を提出する必要がなく、帳簿も単式簿記という簡易的な方法で行える申告方法です。青色申告に比べると記入項目や必要書類が少ないため、作業負担の小さい点がメリットといえるでしょう。
青色申告
一方の青色申告では、正規の簿記の原則に従った複式簿記による帳簿が求められるほか、提出書類の作成には白色申告よりもかなり多くの労力がかかります。
また翌年も青色申告するためには、その年の3月15日までに、青色申告承認申請書を管轄の税務署に提出しなければなりません。
事前の届け出や書類作成の労力がかかるとはいえ、青色申告を行うとさまざまな特典を受けられます。中でも最大のメリットは、特別控除が設けられていることでしょう。
青色申告では複式簿記を作成するなど、詳細な資料をもとに申告を行うと、所得から最大65万円を控除して税額が計算されます。
さらに、その年の赤字を最大3年間損金として計上できたり、家族に支払った給与を経費として計上できたりするなど、白色申告よりも有利な点が多いといえます。
開業から確定申告(青色)までの大まかな流れ
税法上のメリットが多い青色申告を行うためには、どのような手続きが必要なのでしょうか。ここでは、開業から青色申告までの大まかな流れを紹介します。
青色申告は以下の手順で行います。
1.税務署に青色申告承認申請書を提出
まずは翌年の青色申告に向けて、納税地の税務署に青色申告承認申請書を提出します。提出期限は3月15日までで、その年の12月31日までに通知がなければ、申請が認められたことになります。
2.帳簿をもとに必要書類を用意
青色申告にはさまざまな書類が必要です。
特に年間の売上や経費を記した帳簿が重要で、青色申告では複式簿記が義務づけられています。そのほかにも貸借対照表や損益計算書を作成し、確定申告書に添付しなければなりません。
なお複式簿記とは、1度の取引を複数の勘定科目にわけて記録する方法のことです。取引が発生した原因と結果の両方を記録するので、収支や財産の残高を詳細に把握できます。
3.申告
必要書類を用意したら、翌年の2月16日から3月15日までに持ち込み、もしくは郵送で税務署に申告します。
特別控除額について
現在の特別控除額は55万円ですが、「e-Tax(電子申告)」で申告するか、電子帳簿を保存しておくことで、控除額を65万円に増額することが可能です。
また、単式簿記による記帳でも最大10万円の特別控除が受けられます。単式簿記とは、1回の取引を1つの勘定科目として記載する方法です。単式簿記では、複式簿記のように複雑な記帳が必要ないので、就農後間もない農家でも、比較的簡単に申告できるというメリットがあります。
確定申告に必要な書類と帳簿について
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青色申告の手順を確認したところで、ここからは青色申告に必要な書類と帳簿について具体的に解説します。
何を揃える?青色申告の必要書類
青色申告で提出する書類は以下の通りです。
1.所得税青色申告決算書(農業所得用)
農業を営んでいる個人事業主が使用する決算書です。用紙は国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。
全部で4ページあり、1ページ目は損益計算書、4ページ目は貸借対照表になっています。2ページ目には1年間の収入金額や給与賃金の内訳、3ページ目には減価償却費や税理士への支払い報酬などを記入します。
決算書を手書きで作成する場合は、税務署に提出する前にコピーを取り、自分用の控えにしておくと安心です。控えは提出用と一緒に税務署に提出し、収受印をもらいましょう。郵送で送る場合は切手を貼った返信用の封筒を同封してください。
2.確定申告書B
確定申告書にはAとBがあり、Aは会社員、Bは個人事業主やフリーランスとして働いている人が使用する書類です。
源泉徴収票に記載してある内容をもとに、所得金額や控除額などを記入し、そこで算出した額を所得税として納めます。用紙は各市町村の窓口や税務署で配布されているほか、国税庁のウェブサイトからもダウンロード可能です。
3.各種控除の証明書
住宅ローンや医療費、社会保険費、生命保険費などを支払っている場合、控除の該当者であることを証明する書類が必要です。
4.本人確認書類のコピーとマイナンバー
確定申告では、本人確認書類とマイナンバーの提示が求められるので、マイナンバーカードがあると便利です。マイナンバーカードを持っていない場合は、運転免許証やパスポートなどの本人確認書類に加え、マイナンバーが確認できる書類を用意しましょう。
帳簿や領収書は添付書類に含まれる?
領収書や請求書、確定申告のために作成した帳簿は、税務署に提出する必要はありません。
ただし帳簿そのものと、損益計算書や貸借対照表などの決算関係書類、領収書、請求書、預金通帳などの現金預金取引等関係書類は、7年間保存しておくことが法律で定められています。契約書や見積書、納品書などの書類については、最低でも5年間は保管しておいてください。
確定申告を簡単に済ませるためのポイント&注意点
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日々のレシートは、都度処理するのが理想!
何の領収書だったかわからない、必要なレシートが見つからないなど、売上や経費を後日まとめて記帳しようとすると、かえってかなりの労力を費やすことになります。事務仕事に追われて農作業ができなくなっては本末転倒です。
確定申告の負担を減らす一番の方法は、毎日こつこつと記帳することです。確定申告は確かに労力がかかりますが、定期的に記帳しておくのと、1年分をまとめて記帳するのとでは、かかる時間も精神的な負担も大きく違います。
そこでポイントの1つとして、領収書やレシートは日常的に整理・保管しておきましょう。「らくらく青色申告農業版」のような農業用に特化した会計ソフトを使えば、簿記の知識がなくても簡単に確定申告書が作れます。
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令和元年度から実施の「消費税の軽減税率制度」に注意
帳簿を付けたり書類作成したりする際には、「消費税の軽減税率制度」に注意する必要があります。
軽減税率制度は、消費税を10%に増税する一方で、最低限生活に必要なものに対しては従来の税率8%を適用する制度のことです。
軽減税率の対象は、主に飲食料品です。飲食料品には作物も含まれているため、ほぼ全ての農家に関係があります。飼料米、観賞用の花きなどを除いた、食用米、野菜、果樹、食用花などの作物の売り上げについては、軽減税率8%が適用されます。
2019年10月に始まったこの制度により、農家は、日々の売り上げや経費を税率ごとに区分して記帳しなければなりません。これを区分経理と言います。
注意点1. 委託販売手数料(経費)
JAなどへ委託販売している場合、2019年9月までは、委託販売手数料を差し引いた売り上げを課税売上に計上することが認められていました。2019年10月以降は、販売した作物の税率が8%、経費の委託販売手数料は10%となるので、別々に記帳しなければなりません。
注意点2. 売り上げに「飲食料品」以外が含まれる
6次産業化などで、飲食料品と区分されない売り上げがある場合は税率が混在することになるので、売り上げの項目を整理して区分した記帳をする必要があります。
例えば、観光農園を営んでいる場合、フルーツ狩りの料金は飲食料品ではないため10%、お土産用の果実は飲食料品なので8%、併設の農家レストランでの飲食代は飲食料品ではないため10%、そのお土産用のジャムは飲食料品なので8%といった具合になります。
売り上げの区分経理が必要かもしれないと思ったら、早めに区分を整理しておくことをおすすめします。
区分経理の方法としては、取引の内容を明記する摘要欄に「※」や「☆」などの記号を記載し、欄外に軽減税率の対象品目である旨を記載するのが一般的です。
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開業した初年度の確定申告では不安が大きいかもしれません。しかし、青色申告では所得控除が65万円になるなど、個人事業主にとって大きなメリットがあります。
簿記に詳しくなくても、農業専用の会計ソフトなどを活用すれば、確定申告は難しくありません。請求書やレシートをきちんと整理して、こまめに帳簿を付けることで、申告の負担を軽減しましょう。
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日野澤きこ
大学卒業後3年間、小売系専門誌で新聞・雑誌の編集記者を経験。紙媒体における一連の編集業務を学ぶ。その後Webに転身し、フリーでライティング、校正、リライトなどを手掛ける。趣味は観葉植物の栽培。