FTE(熔成微量要素複合肥料)とはどんな肥料?微量要素が欠乏・過剰になったら作物はどうなる?
加減の難しい微量要素を上手に補給できる肥料として「FTE(熔成微量要素複合肥料)」が注目されています。この記事では微量要素の基礎知識とFTEの上手な使い方を解説します。
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肥料の三要素である窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)の施肥に加え、微量要素の過不足が作物の生育や色艶に大きな影響を与えることは良く知られています。
しかし、微量要素は過剰害が出やすく使いづらいと思われる方も多いのではないでしょうか。
そんなときに役立つ肥料が「FTE(熔成微量要素複合肥料)」です。今回は、微量要素の基礎知識とFTEの上手な使い方について詳しく解説します。
FTE(熔成微量要素複合肥料)とはどんな肥料?
まちゃー / PIXTA(ピクスタ)
FTE(熔成微量要素複合肥料)の範囲
FTEとは、微量要素複合肥料(注1)のうち「熔成微量要素複合肥料」を指し、く溶性(注2)ホウ素を約7~9%、く溶性マンガンを約17~20%含んでいます。
土壌内の微量要素が欠乏しているときに微量要素を補給する目的で使用する肥料です。
(注1)微量要素複合肥料とは、マンガンとホウ素の両元素を含む肥料を指します。
(注2)クエン酸2%液で溶ける肥料成分のことをく溶性成分といいます。根から出る根酸程度の弱い酸にはすぐに溶けませんが、もう少し強い酸に溶ける成分です。徐々に溶け出すためゆっくり効果が現れるという特徴があります。
従来の水溶性の肥料では微量要素が水とともに流れ出てしまうことが多かったのに対し、FTEでは微量要素を水に溶けにくい「く溶性」に加工しているため、土壌に成分を留めることができます。
また、く溶性成分は作物の生育期間中にゆっくり溶けて徐々に吸収されるため、く溶性のFTEは肥効が緩やかで過剰害が出にくいという特徴があります。
微量要素とは?
FTEについて正しく理解をするために、まずはFTEに含まれる微量要素の特性をみていきましょう。
作物の生育に必要な栄養素のうち、必要量が比較的少ない元素を微量要素といいます。必要量はごく微量でも、生育には不可欠な栄養素です。
代表的な微量要素としては、マンガン、ホウ素、鉄、銅、亜鉛、モリブデンなどがあります。
一方で、作物の生育に必要な栄養素のうち、比較的大量に必要とされる元素を「多量要素」といいます。窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)の3成分のことを指し、「肥料の三要素」とも呼ばれています。
多量要素に次いで、必要量の多い元素を「中量要素」と呼び、カルシウム・マグネシウム・硫黄が該当します。
微量要素が欠乏・過剰になると?
次に、代表的な微量要素の特徴と、各微量要素が欠乏・過剰になった場合に生じる作物の症状を解説します。
マンガン(Mn)
乾電池に使用されることで知られる金属元素です。作物の呼吸酵素やタンパク質を作る酵素の構成要素で、葉緑素やビタミンの合成にも必要な成分です。
また、作物が光合成を行うときに二酸化炭素を固定するためにも必要不可欠な成分です。
<欠乏の場合>
葉は上葉や先端葉から黄色や茶色に変色します。葉脈を残して、しま模様または斑点に黄化します。植物体内の糖が減少し、作物の品質低下につながります。
<過剰の場合>
根が黒く変色し、葉には褐色の斑点が現れます。また鉄欠乏症の発生を助長します。りんごでは、樹皮が荒れ、ひび割れなどが生じる「粗皮病」が発生します。
マンガン過剰症で暗褐色斑点が生じたポインセチア
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ホウ素(B)
ホウ素は非金属元素の微量要素です。作物の細胞壁を構成し、根や新芽の生育の促進や受粉に関わる成分です。
特にアブラナ科の野菜類は、施肥前の土壌に既に含まれるホウ素量よりも多量のホウ素が必要となる場合が多く、微量要素の中でも特に欠乏しやすい傾向があります。
<欠乏の場合>
植物内で再利用されにくい成分で、欠乏すると生長点が萎縮したり枯れたりし、生長自体が停まり、次第に葉の縁の黄化が全体に進んでいきます。
また、組織がもろくなり、茎や果実に亀裂が入る、コルク化する、花や実がつきにくくなるといった症状も現れます。
土壌が乾燥しているときや砂質の土壌で欠乏しやすくなります。大根やカブなど、ホウ素を多く必要とする作物を栽培したほ場では、特に注意が必要です。
<過剰の場合>
葉の色が黄色・茶色に変色します。
ホウ素欠乏症で茎がかさぶた状に木化したブロッコリー
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
鉄(Fe)
光合成に必要な葉緑素の生成を助ける成分です。代謝や呼吸に関わる酵素を構成する成分でもあります。
<欠乏の場合>
葉緑素の生成が阻害されるため葉脈間が黄色や白色になり、根が黄色に変色しやすくなります。若い葉から症状が現れ、全体の生育状況が悪くなります。
<過剰の場合>
根が発育不良になります。またマンガンやリン酸の吸収が阻害されます。
亜鉛(Zn)
酸化還元酵素やタンパク質、デンプンの合成に関わる成分です。また成長ホルモンにも関与しており、新しい葉を作る微量要素です。
生育に必要な亜鉛は土壌中に十分含まれている場合が多いため欠乏症が出ることは比較的少なく、特定の地域に限られるといわれます。
<欠乏の場合>
葉が小さくなり変形します。葉の色は若い葉から黄色っぽくなっていきます。節間は短くなり、枝の伸長が止まるといった症状が現れます。
<過剰の場合>
新葉が黄化する、褐色の斑点が出るなどの症状が現れます。
銅(Cu)
主に作物の酸化酵素の構成成分として呼吸作用に関わる成分で、葉緑素の生成にも必要な微量要素です。炭水化物、タンパク質の代謝にも重要なはたらきを持っています。
<欠乏の場合>
葉が黄色や白くなり変形します。若い葉の先がしおれ、茎葉が軟化します。種子ができない、果皮の壊死といった症状が起こる場合もあります。
<過剰の場合>
根の生育状況が悪くなります。
モリブデン(Mo)
レアメタルの1つで、作物のビタミンの合成に関わる成分です。土壌内の窒素固定菌である根粒菌が活動するための触媒としてのはたらきもあります。
<欠乏の場合>
主に古い葉から黄色の斑点が現れ、変形します。大根などでは細胞が死んで「す」が入り、豆類では根粒菌の着生が少なくなります。
<過剰の場合>
症状は出にくいことが多いです。
FTE(熔成微量要素複合肥料)をうまく活用しよう
viper / PIXTA(ピクスタ)
FTEの使い方
く溶性のFTEは、土中の酸や根酸によって少しずつ溶けて作物に吸収されるため、肥効がゆるやかに持続し、過剰害がでにくい肥料です。
ただし、過剰害がでにくいとはいえ、連用すると土壌に蓄積して過剰になることもあるので注意しましょう。
肥効がゆるやかであるため、作物を定植する前に基肥として土に施す必要があります。
一般的な畑作物で、10a当たり4~6㎏を目安に使用するとよいでしょう。ほ場への散布を終えたあとは、トラクターで土壌にしっかりと混和します。
FTE施用で期待できる効果
FTEを使用すると作物には次のような効果を期待できます。
ジャガイモ(馬鈴薯)…根の生育がよく、葉の色も鮮やかになる。
大根…よく育ちやすくなる、さめ肌予防になる。
ニンジン…よく育ちやすくなり、色も鮮やかになる。
ほうれん草…葉色が良くなる。
とうもろこし…びっしりと隙間なく実が成りやすい。
白菜…心腐れせず、茎色が鮮やかになる。
微量要素は作物の生育に不可欠ですが、過不足の加減が難しい成分です。
FTEは、く溶性で肥効が長く、さまざまな作物に使用できて、微量要素の補給手段として比較的使いやすい肥料です。作物の生育が良くないときや作物の品質アップをめざす際に活用してみてはいかがでしょうか。
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上澤明子
ブドウ・梨生産を営む農家に生まれ、幼少から農業に親しむ。大学卒業後は求人広告代理店、広告制作会社での制作経験を経て、現在フリーランスのコピーライターとして活動中。広告・販促ツールの企画立案からコピーライティング、取材原稿の執筆などを行う。農業専門誌の制作経験があり、6次産業化や農商工連携を推進する、全国の先進農家・農業法人、食品会社の経営者の取材から原稿執筆、校正まで携わったことから農業分野のライティングを得意とする。そのほか、食育、子育て、介護、健康、美容、ファッションなど執筆ジャンルは多岐にわたる。