【ネギの連作障害対策】収量・品質を下げずに毎年ネギを栽培する方法
ネギは周年で需要が高く、病害虫も比較的少ないため栽培しやすい作物です。それでも、連作により収量が減少することもあり、毎年栽培するためには連作障害対策が必要です。そこで当記事では、効果の高い連作障害対策と、輪作の成功事例をご紹介します。
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ネギは比較的連作障害に強い作物といわれていますが、ほ場の条件によっては連作障害が発生し、収量が減ることもあります。そこで今回は、土壌を健全に保ち、ネギの収量や品質を下げず安定的に栽培するための注意点について、輪作への具体的な取り組みも含めてご紹介します。
ネギは連作障害に強い?輪作年限の目安
トマト大好き/PIXTA(ピクスタ)
ネギ類は独特の香りで害虫を遠ざけ、根に生息する菌の働きによって病原菌を抑える効果も期待できることから、比較的連作障害に強い作物といわれています。
とはいえ、連作障害が起きないわけではありません。連作を続けると、ネコブセンチュウやサツマイモネコブセンチュウといった害虫が土中に増え、大幅に収量が減ることもあります。
連作障害を避けるための対策として、輪作は有効な手段の1つです。輪作によって栽培間隔を設ける期間を「輪作年限」といい、ネギの輪作年限は一般的に1~2年程度といわれています。
1~2種類の異なる科の野菜類とネギでローテーションを組み、ほ場ごとに毎年順番に作付けする野菜を変えるのが効果的です。ネギ類との輪作に適した作物には、互いの害虫を遠ざけてくれるニンジン・ほうれん草・きゅうりなどがあります。
しかし、ネギの特産地であったり、集約された大規模ほ場であったりする場合は、輪作を行うのは難しいこともあるでしょう。その場合、同じほ場で連作障害をできる限り抑えるため、対策を講じる必要があります。
連続栽培で連作障害を起こさないためにできる5つの対策
川村恵司/PIXTA(ピクスタ)
同じほ場で連続栽培をする場合、無策で連作を続けていると、土中の微生物がその作物を好む種に偏り、特定の病原菌に弱くなったりセンチュウ類が増えたりします。また、土壌の養分も偏るので脆弱化し、次第に収量が落ちてしまいます。
連作しながら健全なほ場を保つには、土壌診断を定期的に実施することが大切です。そのほか、連作障害を抑えるためにできる5つの対策について解説します。
1. 堆肥の増量施用
完熟堆肥などの有機物を増量施用することで、植物寄生性センチュウを食べる糸状菌、細菌、小動物が繁殖するため、センチュウ類の被害軽減が期待できます。
また、堆肥は連作で不足しがちな栄養素、特に肥料では補いにくい微量要素を補い、収量と品質を維持する効果もあります。
2. 太陽熱による土壌消毒
マルチを利用した太陽熱土壌消毒は、前作で土壌病原菌による病害が出たほ場の土壌消毒として広く利用されており、連作障害の抑制も期待できます。ただし、作物にとってよい効果のある菌も減少させてしまうため、あまり頻繁に行わないようにしましょう。
太陽熱土壌消毒は、梅雨が終わる時期から旧盆の頃までの真夏に行います。太陽熱を利用して、日中のマルチ内の温度を60℃近くにすることで、地表から10~20cmの深さまでにある病原菌や害虫の卵、雑草の種子などのほとんどを死滅させます。マルチ内の温度が60℃に達しない春先や、日射量の少ない地域では十分な効果がありません。
まず基肥をよくすき込み、畝立てを行います。基肥として石灰窒素を10a当たり50~100kg施用すると、土壌酸度の矯正とセンチュウ類の防除に効果があります。ただし、石灰窒素が含有する窒素成分量に応じて、ほかの肥料の窒素成分量を減らす必要があります。
畝立てのあとはたっぷり灌水します。水は熱を蓄えるため、土に水分を多く含ませることで温度が上がります。その後、日光を通す透明マルチを畝にぴったりと張り、そのまま放置しましょう。
1ヵ月ほどで消毒完了です。マルチをはがし、耕さずにそのまま播種や植え付けを行います。消毒後に耕してしまうと、消毒されていない深い土中にある菌や種などが混ざり、効果が半減してしまうので注意してください。
3. 農薬による土壌消毒
農薬による土壌消毒は、ほ場の条件を選ばず安定した効果が得られます。連作障害に効果があるとされる主な土壌消毒剤の種類は以下の通りです。
クロルピクリンくん蒸剤:
野菜・花卉・畑作物の土壌病害虫の防除に広く利用されている農薬です。ねぎの場合、個々の農薬によって適用となる病害虫が異なりますので、必ず登録内容を確認してください。
D-D剤:
主に土壌センチュウに効果があります。2021年1月現在、5剤の登録があり、「ねぎ」についてはいずれも、ネコブセンチュウ・ネグサレセンチュウ・コガネムシ類幼虫・ネダニ類での適用があります。
クロルピクリン・D-D剤:
クロルピクリンくん蒸剤とD-D剤の長所を生かすように配合したもので、幅広い病害虫に効果を発揮します。
「ねぎ」については、「ダブルストッパー」がネグサレセンチュウ・ネコブセンチュウ・萎凋病で、「ソイリーン」はネグサレセンチュウ・ネコブセンチュウ・白絹病での適用となっています。
ダゾメット粉粒剤:
微粒剤で、ほ場に散布して混和するだけの使い勝手のよさが特長で、主に土壌病害に効果があります。土壌の水分に反応して効果を発揮するため、散布する土に適度な水分が必要です。
2021年1月現在、3剤の登録があり、「ねぎ」についてはいずれも、黒腐菌核病、紅色根腐病、ネギハモグリバエ、苗立枯病(リゾクトニア菌)、白絹病、小菌核腐敗病、萎凋病、根腐萎凋病、ネコブセンチュウ、一年生雑草での適用となっています。
いずれも劇物で、施用時にガスが発生するので、防毒マスクや保護メガネ、ゴム手袋などの保護具が必要です。各剤のラベルをよく読み、使用方法を厳守しましょう。特にガス抜きは、必要な日数を確実に行わないと、作物に薬害が出ることもあります。
土壌消毒剤は、硫酸化成菌の密度にも影響を及ぼすため、窒素肥料のもちをよくして肥効を高める効果も期待できます。ただし、土壌消毒剤による防除が高い効果を期待できるのは処理2作目までというデータもあるため、対抗植物の作付けなどを組み合わせて行うとよいでしょう。
出典:日本園芸学会 園芸学研究第6巻・1号「ネギの連作障害における土壌消毒剤と対抗植物を組み合わせたサツマイモネコブセンチュウの防除法(鳥取県園芸試験場弓浜砂丘地分場など)」
4. 対抗植物の作付け
小鷹芽衣子 / PIXTA(ピクスタ)
「対抗植物」とは、土中のセンチュウ密度を低下する効果を持つ植物のことです。センチュウ類の耕種的防除として注目されて以降、研究が進み、主に以下の品種が有効性を報告および実用化されています。
・マメ科のヘアリーベッチ、クロタラリア、サイラトロ、落花生
・キク科のステビア、マリーゴールド
・イネ科のギニアグラス、ソルゴー
・ユリ科のアスパラガス
対抗植物はネギの作付の間に栽培し、耕うんの際にすき込みます。対抗植物はいずれも播種適期が長めですが、栽培期間とすき込み時期、すき込み後の分解期間(30~45日)を考え、適した品種を選ぶとよいでしょう。
5. ハウス栽培での連作障害には除塩
ララ/PIXTA(ピクスタ)
ハウス栽培の場合、雨によって土壌の養分が流れ出ることがないため、塩分濃度が上がりEC値(電気伝導率)が高くなりやすく、連作すると徐々に作りにくくなってきます。
年に一度は屋根のビニールを降ろして雨にさらすと、除塩効果が期待できます。また、ソルゴーなどの対抗植物も除塩に効果的とされています。
ハウス栽培の連作障害対策には土質の改善が重要です。土壌診断を行いながら、石灰を投入してpH値を6.5程度に保つなど、適切な施肥設計を心がけましょう。ハウス内という利点を活かした太陽熱消毒も非常に有効です。
事例で見る、ネギの連作障害を抑えるおすすめの輪作体系
udonbar/PIXTA(ピクスタ)
連作障害対策としては、ジャガイモ(馬鈴薯)やトマトなどナス科やブロッコリーなどアブラナ科の野菜類との輪作体系を作ることも選択肢となります。
ネギを専作している農家にとっては、勇気のいる決断かもしれませんが、土壌消毒や堆肥増量施用などを行っても十分な収量を得られない場合には、打開策の1つとして検討してみてはいかがでしょうか。多品目化することで収益の安定化も期待できるでしょう。
以下では、輪作体系導入の成功事例を2つご紹介します。
【広島県】白ネギとブロッコリーの輪作事例
JA広島中央大和グリーンセンターでは、2015年に白ネギを導入し栽培を続けてきました。しかし、管内は水はけの悪い粘土質のほ場が多く、連作障害により病害が発生して、収量の低減が見られました。
そこで、連作障害対策として輪作を検討し、対象の作物にブロッコリーを選択しました。栽培期間が短く、白ネギの出荷がない5~6月の収入を見込めること、管内で盛んな水稲と白ネギとの労力分散ができることが、ブロッコリーを選んだ決め手です。
2019年に2戸で10aの試験栽培をし、ブロッコリーの品種や品質を確認しました。2020年には、4戸で80aに早生と晩生の2品種2万5000株を栽培し、5月下旬~6月下旬に5.3tを出荷し、白ネギの出荷のない時期の収入確保につなげました。
出典:JA広島中央「輪作にブロッコリー/白ネギ連作障害軽減へ」
【青森県】長ネギとながいもの輪作とブランド化
青森県十和田市は、県内で最もネギの作付面積が広く125haに及びます。もともとは特産品であるながいもの連作障害防止の効果を期待し、ながいもの輪作として1983年頃から取り組み始めました。
当時、ながいもの栽培面積は平均して1戸当たり1~2ha規模なのに対し、輪作のネギは10~20aが限界で、輪作体系確立のためにはネギも栽培規模の拡大が必要でした。そこで、ペーパーポット育苗や自走式収穫機、半自動調整器などを導入したり、調整作業を共同で行ったりして、ネギ栽培の効率化・省力化と規模拡大を進めてきました。
ながいもとネギの輪作は、多くの農家で定着し、今やどちらも十和田の主要な作物となっています。
また、JA十和田市農業技術センターでは、2000年から毎年全農家の土壌診断を行い、ながいもやネギに限らず個別の施肥指導を行っています。一定の基準を満たした野菜は「十和田ミネラル野菜」として出荷でき、農家にとっては作りやすく安定収入につながることがモチベーションとなっています。
出典:独立行政法人農畜産業振興機構 野菜情報 2005年5月号「産地紹介 青森県十和田市(ねぎ)」
出典:農林水産省「わがマチ・わがムラ~青森県十和田市」
川村恵司/PIXTA(ピクスタ)
長ネギは、連作障害には比較的強い作物であり、土壌消毒や対抗作物の導入など、いくつかの対策を併用することで連作障害を抑制することが可能です。
しかし、大規模で安定した生産を望む場合は、地域性に合い、かつネギと好相性の作物を見つけ、輪作体系を確立することが選択肢に入ってきます。
輪作体系を地域共同で推進することで省力化・効率化が進み、新たな作物が新たな収益源となるかもしれません。
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