農業簿記検定で経営スキルを身につける! 取得するメリットや受験の流れを紹介
個人や法人を問わず、一般企業のように農業にも専門の農業簿記検定制度があります。農業経営を効率的に行うためには、農業簿記の資格を手に入れることも1つの方法です。ここでは農業簿記検定の概要について解説し、取得方法についても紹介します。
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今後、利益を生む農業をめざすうえで、農家もビジネス的な視野を持ち、知識を身に付ける必要があります。経営を可視化し経営能力を高めるためには、農業簿記の資格を取得するとよいかもしれません。この記事では、農業簿記検定の特徴と取得方法について解説します。
農業経営に簿記が必要な理由
everydayplus / PIXTA(ピクスタ)
近年、法人化する農家も増え、個人農家も規模にかかわらず一事業主として扱われるようになりました。つまりは事業者として会計業務を行い、正確に収支を申告したうえで、適切な税務処理まで行う必要があるということです。
農家にも簿記の知識が求められるようになったとき、農業という分野ではどのように簿記が活用されるのか、具体的な要点をつかんでおきましょう。
決算・確定申告
まず、農業法人の場合は決算、個人農家の場合は確定申告をするときに、1年分の収支報告書や申告書を作成しなければなりません。そのためには1年間にわたって正確に会計処理を継続する必要があります。
補助金や各種支援制度の申請
農業では補助金制度や各種支援制度が多く、これらを申請する場合には、経営状況を詳細に説明するための資料作りが求められます。特に農家のリスクを軽減する収入保険を利用するには、厳格な会計基準が求められます。
経営合理化・事業計画立案
経営合理化や事業計画を立案するうえでも事業主は常に経営状況を把握しておく必要があり、それには正確な会計処理がベースになります。
農業簿記には、商業やサービス業とは異なる会計基準があります。農業に特化した会計基準を理解することは、農業をビジネスとして捉えるためのベースになるでしょう。
農業簿記検定の資格を取得するメリット
mits / PIXTA(ピクスタ)
これからの農家には、ビジネスの視点が求められます。また、取り扱う作物や雇用者数が増加すると、さまざまな情報を処理する必要が生じ、一般企業と同じように、マネジメントという概念が必要になるともいえるでしょう。
毎月の記帳や決算処理はアウトソーシングすることもできます。しかし、事業主もしくは経営に参画するスタッフが、農業簿記検定の資格を持っていれば、経営数値を会計としてだけでなくビジネスの視点で自由に分析することができます。
以下、農業簿記検定の資格取得の具体的なメリットについて解説します。
経営状態を可視化することができる
農業をビジネスという視点で捉えるためには、経営状態がすぐにチェックできるよう「可視化」することが重要です。
そのためには日々の業務管理や帳簿作成をシステム化するのが理想ですが、日本の農業は伝統的に家族経営が多く、家計と事業会計とが明確に区別されないケースも多く見られます。
まずは、個人農家の場合は青色申告、法人農家の場合は毎年正確な決算を行うことが目標となるでしょう。
これに付随する会計業務を継続することで、経営状態が見えるようになり経営計画の立案や見直しが可能になります。
労務管理と連動できる
法人化や大規模化に伴い、人を雇用している農家も多くなりました。その場合には、一般企業と同様の労務管理が必要とされ、会計処理と簿記の知識がますます不可欠になってくるでしょう。
地域農業の活性化
農業簿記検定試験は、「一般社団法人全国農業経営コンサルタント協会」の監修を受けて、「一般財団法人日本ビジネス技能検定協会」が主催しています。
農家が農業簿記の資格を取得すれば、それを自身の農業経営に活用するだけでなく、コンサルタントの立場で地域農業のさまざまな現場でアドバイスし、地域農業の活性化を牽引する存在になることができるでしょう。自身のビジネスモデルをフランチャイズ展開することができるかもしれません。
一般的な簿記と農業簿記の違い
農業簿記とは農業に特化した会計処理であり、商業簿記とは異なった知識が求められます。その中でも重要な4つのポイントについて解説します。農業簿記に特有の処理を理解していきましょう。
農業専用の勘定科目がある
tsukat / PIXTA(ピクスタ)
農業簿記には、商業簿記にはない専用の勘定科目があります。これらは決算・申告時に貸借対照表や損益計算書に記載されるため、農業簿記に基づいた正確な知識が必要です。一例として、農業簿記にだけ使用される勘定科目を以下にいくつか紹介します。
・原材料:肥料、飼料、農薬、動物薬など
・仕掛品:未成木園、育成牛、肥育牛などの育成に要する費用
・農産品:玄米、野菜、果実など生産物の未販売棚卸高)
・固定資産:耕地、作業場、灌水施設、ハウス、大家畜、大植物など
・材料費:種苗費、索畜費など
・諸経費:農業用衣料費、小農具備品費、種付費、水利費、土地改良費など
出典:一般社団法人農業経営支援センター「農業簿記勘定科目」
こうした農業専門の勘定科目は、日々の会計業務の中で仕訳処理に使われます。商業簿記だけの知識では仕訳できない科目が多いので、農業に関する知識と同時に、農業簿記の知識はぜひとも身に付けておきたいところです。
確定申告の書式が異なる
個人経営の農家にも、個人事業主として毎年1回の確定申告が義務付けられています。ただし農業の確定申告では、一般事業とは異なった書式で申告書を作成しなければなりません。
税制面での優遇措置を考えると、確定申告は青色申告で行ったほうが有利です。その場合、複式簿記が必須になり、貸借対照表と損益計算書のほかに、仕訳帳、総勘定元帳、農産物受払帳などの帳簿を作成することになります。
こうした帳簿類はすべて、農業専用の確定申告書式に従って作成しなければなりません。農業専用の勘定科目で記載することになるので、この点においても、やはり農業簿記の知識があるほうが望ましいでしょう。
農家の確定申告についてはこちらの記事もご参照ください。
農家の確定申告!農業の場合、青色申告には何が必要?知っておきたい基本の流れ
どこまでが農業所得?どこまでが経費?新規就農者のための確定申告ガイド
生物についても減価償却を行う
トモヤ / PIXTA(ピクスタ)
一般の簿記では資産や機械、什器備品などの減価償却を行いますが、農業簿記ではこれら以外に「生物」についても減価償却の対象です。
生物とは搾乳牛や果樹など、成熟して農畜産物を生産している動植物です。動植物を減価償却するとは不思議に感じますが、農業会計では必要なことなのです。
また、生物を育成する過程で生じた経費は、年度末に「育成仮勘定」の科目で固定資産として計上します。事業年度中に生産を始めた生物は、育成仮勘定から生物へと勘定科目を切り替えます。農業簿記では、こうした複雑な勘定科目も扱わなければなりません。
棚卸しの方法が異なる
農業では、年度末に行う棚卸しも店舗や一般企業とは異なります。物流では商品在庫の棚卸しで済みますが、農業では生育中の作物や種子などさまざまな資産を棚卸ししなければなりません。棚卸しは大別して以下の4種類に分類されます。
1)農産物
玄米・野菜・果実など、収穫したまま販売せずに在庫にしてある棚卸高です。稲わらや花きなども含まれます。
2)仕掛品
肥料・飼料などのほか、農薬や動物用医薬品など、農畜産物の生産段階でかかる費用が含まれます。農業機械の燃料や、ビニールなどの資材も該当します。
4)貯蔵品
生産や販売に直接関わらないものの棚卸高がすべて含まれます。
こうした棚卸しの仕訳作業も、日々の会計処理の積み重ねと切り離せません。農業簿記の知識が必要なことはいうまでもないでしょう。
農業簿記検定について
C-geo / PIXTA(ピクスタ)
農業簿記検定試験は、一般財団法人日本ビジネス技能検定協会が実施する簿記検定です。試験は7月の第1日曜日と、11月の第4日曜日の年2回実施されます。学歴・年齢・国籍などに関わらず、誰でも受験することが可能です。
試験は1級~3級の3段階に区分され、2級と3級のみ併願できます。問題数は1級が50問、2級と3級は25問です。回答は全問マークシートで行い、電卓の使用も認められています。各級ともに総得点の70%が合格ラインで、1級でも40%前後の合格率のため、各種の簿記検定の中での難易度は高くありません。
受験料は1級が税込み4,400円、2級は2,200円、3級は1,650円です。受験申し込みはWebから行うことができ、合格発表は試験後1~2週間後に郵送で通知されます。
出典:一般社団法人日本ビジネス技能検定協会「農業簿記検定」
農業簿記検定の勉強方法
CORA / PIXTA(ピクスタ)
農業簿記検定では、農業専用の勘定科目についても知識を問われるため、一般的な簿記や会計の知識を有している人も注意して対策を進める必要があります。
一般社団法人日本ビジネス技能検定協会のホームページ内農業簿記検定のページでは、検定試験の詳細と直近2回分の試験問題が公開されています。
このページでも紹介されていますが、受験申込から検定実施まで団体で導入している場合もあります。地域のJAなどで農業簿記検定を導入していないか是非問い合わせてみてください。
検定試験の準備には、公式対策テキストと過去問題集が販売されているので、それらを使って対策を進めるのが一般的です。独学で不安な場合は、通信教育講座を利用するとよいでしょう。
大原出版株式会社「資格の大原」
農業簿記のページはこちら
農業簿記検定の過去問題集の販売ページはこちら
農業簿記の資格を取得しておくことは、日々の会計業務や決算や確定申告に役立つだけではなく、経営を可視化しビジネスの視点で農業を捉えるベースにもなります。興味のある方は、経営基盤の1つとして農業簿記に目を向けてみてはいかがでしょうか。
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大澤秀城
福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。